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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

『ライトフロンに戻る』

その、たった一言が言えない。

アイザック

(だって俺は───テヘルとは違う。それも、考えて分かってた)

アイザック

(…つもりだった。)

テヘルも、何も言えずただアイザックを見ている。

アイザック

(きっとそれを言うには、俺は殺しをやりすぎた。)

アイザック

(闇雲に殺しをして、自分の真実を見つけて…それでいいと思ったのに)

アイザック

(…いや、今更悔いたって遅い。結局俺はバカだった)

アイザック

…俺は、どうなりますか

 

 

言っていいのかな?

アイザック

(…ああ、やっぱり。)

アイザック

(テヘルを一人になんか…させたくないなぁ)

 

…君は…とりあえず牢かな

 

そこでの生活次第で処置を決めようと思ってる。

 

君についてまだよく分かっていない部分が多くあるからだ

アイザック

…そっか

アイザック

(…あんなに殺しても、死刑にならないかもしれないんだ)

アイザック

…ごめんね

アイザック

俺行くよ、テヘル。

アイザック

(…それから、アメリアたちにも。ごめん。)

アイザック

(…正直、この国の治安がこれほどに悪かったことを…良かったと思ってしまう。)

アイザック

(…まだ、死にたくないから。)

アイザックはテヘルに背を向け、再び王宮内部へと足を進める

テヘル

…っアイク!

ドッと振動を受け、振り返る

同時にテヘルは、ためらうような顔をする。

アイザック

(─────…言って、くれないのか)

アイザック

(…いや…言えないんだ。お前は、そういう人間だよね。)

アイザックはテヘルの肩に頭を埋め、テヘルを包み込む。

どれだけ待ってもテヘルの手は、背に触れない。

アイザック

(…あーあ……落ち着くなぁ)

アイザック

(でも叶うなら…テヘルからこうしてほしかった)

テヘル

っ俺たちみたいなやつが…自分の大切だけ大切にしていいのか分からない

アイザック

…うん、そうだね

テヘル

俺はこれから俺にできることをするし、ライトフロンに戻ったってそこにずっといるわけじゃない。

テヘル

でも…俺は…俺の本音を、言っていいなら

テヘル

テヘル

…っ待ってる、って、言いたい…から

テヘル

やり直そう、ちゃんと。できるだけ…歪になんないように。

アイザック

…っ!

テヘルの声は震えていて、自然にアイザックの瞳も潤む

その言葉にはいつもの説得力も、確実性もない。

テヘルの本音で、ほとんど、弱音だった。

アイザック

(…なんだ)

アイザック

(もう、絶対言ってくれないと思った)

アイザック

(俺だけがずっと、テヘルを探して追いかけるんだと思った)

アイザック

うん、俺、頑張るから

アイザック

…待ってて。どこへ行ったって、俺がお前を見つけるから。

そこで初めて、テヘルはアイザックをぎゅ、と抱きしめた。

そして2人は、別々の道を歩いてゆく─────。

メラ

(なんでなんでなんでなんで)

メラ

(なんでメラは死ねないの?なんで?なんでメラだけ)

メラ

(死にたい死にたい死にたい!!!)

 

…メラ

メラ

いや!!!!

 

 

一度落ち着け。このままおかしな動きばかりすると死に近づくだけだぞ

メラ

いいから早く殺してよ!!!!!!

 

 

君はまだ子供だ。精神の未熟さは配慮される

メラ

そんなの要らない!!!!

 

………はぁ。こんなもの、渡すつもりはなかったのだけど

コト。

メラの目の前に置かれたのはアメリアの銃だった。

メラ

 

…彼女は最期に使うたった一つの弾丸以外を、抜いていた

 

その理由を、考えたか?

メラ

…っ

考えないようにしていたこと

しかしメラだって、考えればそんなこと簡単に分かった

そう、アメリアが故意に抜いた弾丸の意味とは────

 

アメリアは君に生きていてほしいんじゃないのか?

メラ

(アメリア様、メラがその銃で死のうとすること見越したの──?)

メラ

…っでも、そんなの…!

メラ

そんな、わけ…っ

メラ

やだ、やだ…っ

 

…それだけだ

そして新王は去っていく

メラ

(…っ、どうし、よう、メラ怖いよ、無理だよアメリア様がいなきゃ…っ)

そこで頭を過ったのは、サミュエルのことだった。

メラ

(…アイツがメラに、聞いたこと…)

「メラは…もし、今からでもまたアメリアに生きててほしいって言われたらどうする?」

メラ

メラ

(…ああ、そっか)

メラ

(メラにあんなこと尋ねて、自分は生きる気だなんて言うなんて)

メラ

(それは───)

メラ

(…メラが生き続けて、またサミュエルと巡り会う…)

メラ

(そんな未来がアイツにはきっと、見えてたんだ)

メラ

(結局メラは…アメリア様の言ってくれたことを、裏切れないって)

メラ

(結局アメリア様はメラに死を選ばせてくれないって)

メラ

(…分かってたのかな)

メラは涙を拭う

そうしてアメリアのいない世界で、初めて…生きる決心をした。

メラ

…っああ、でも……

メラ

アメリア様のお酒の相手くらい…出来るようになりたかったなぁ……。

サミュエル

ウソ、でしょ…っ

ゲホゲホとサミュエルは咽せ返り、涙さえ浮かべる

サミュエル

生きる。俺は、生きる。何も、苦しくなんて───!

しかし脳内に響くのは警鐘と、咎めるような声だった。

ドロリと血液が地に垂れ、サミュエルの口から溢れ出る

サミュエル

(気持ち悪い…っ!!!)

血が…人が、食べられなかった。

実はこれは人生で初めてのことではない。

オーウェンの死後も、食べられなくなった時期があった

しかし、そうして野垂れ死ぬことなど誰も望まないと立ち直ったとき、食事をできるようになった。

サミュエル

(でも、コレは…違う……!)

サミュエル

(あの人なら、牢に入ろうとした)

サミュエル

いや、あの人は…今の俺を、どう思う?

サミュエル

分からない…分からない!

サミュエルの手が震え、血まみれの手で頭をぐしゃぐしゃ掻きむしる

サミュエル

(死にたくない死にたくない)

サミュエル

(…だけど)

バン!!!!!

サミュエル

…っ?

そこで大きな爆発音が聞こえ、サミュエルは吸い寄せられるようにそちらへ向かう。

サミュエル

…はっ?

ミュール

そこにあったのは、壊れたミュールの姿だった

サミュエル

…っ!

サミュエルは戦慄した

このまま死ぬ自分が、浮かんだからである

サミュエル

(おかしい。おかしいよこんなの)

キンと耳鳴りがする

視界が鈍り、辺りの全てが奇妙に見える。

人間が、文字通り違う種族の人間だと、理解してしまう。

サミュエル

こわい。こわい。こわい!!

サミュエル

気持ち悪い!!!!

サミュエル

(あんなの…食べられるわけない!)

サミュエル

(今は何でもいい!血じゃなくていいから何か食べれば───)

サミュエルはよろよろと空から堕ちる

…そして

サミュエル

…ちがう

サミュエル

(喉が、気持ち悪いんだ)

サミュエル

(…何も……)

サミュエル

(もう何も…要らない。)

そして彼は二度と、食事をすることはなかった。

ステイシー

…国が、すごいことに…なっている

"悪者"は次々に消え、国は格段に良くなっている

しかし

ステイシー

…っライアンが悪かったわけじゃ───

彼の心には、ライアンの最期がこびりついて離れない。

ステイシー

(…ぁあ、最低な呪いだよ)

トン、と身体から力が抜け、寝転ぶ

ステイシー

(俺に"新しい平和な国"は…酷だ)

ステイシー

(だが俺はその新しい国を…ちゃんと見届けるのが義務だとさえ思える)

ステイシー

(誰にも知られず、国の隅で生き───)

目を閉じたステイシーを、誰かがトントンと叩く

テヘル

…ステイシー

ステイシー

!お前!

テヘル

…生きてたんだ

ステイシー

……、ああ

テヘルのその疲れた顔に、何も憎まれ口は叩けない。

テヘル

お前…こんなことで何してんの

ステイシー

さあな

ステイシー

別に死のうなんて考えちゃいねえよ

ステイシー

"誰かのせいで"死ぬなんて…ごめんだ

ステイシー

あの世でいじられたりしたら溜まったもんじゃねえし

テヘル

…そうか

ステイシー

なんだよ

テヘル

お前、行く宛あんの?

ステイシー

あるわけねーだろ

テヘル

なら…一緒にライトフロンに行かねえか?

ステイシー

……は?

テヘル

別にお前と仲良くやってこうって気じゃねえよ

テヘル

でも…見捨てて死なれたら後味悪いじゃん

テヘル

つっても、助けになんて…あんまりなってやれねえかもだけど

ステイシー

乗っかるつもりなんて、なかった

だが、テヘルはステイシーに対して何も他意を含まなかった

それは救おうでも救われようでも、世への罪滅ぼしでもなく────。

ステイシー

…話し相手にくらいなってやるよ

テヘル

…はは、ありがとな

テヘル

でも今はいいや、それは。

ステイシー

ステイシー

(コイツも相当───。)

テヘル

行くぞ

テヘル

…もう……誰も死なずに、幸せな世の中にできるように

ステイシー

ステイシー

そーだな

それきり2人は話すことなく、ライトフロンへ向かう────。

クロエ

…新しい王国、だって。

クロエ

僕は結局…なんのために国を作ったんだろうね

クロエ

ただの腹いせだったのか?

オーロラ

違う。

オーロラ

私のような人間を、たくさん救ったわよ

クロエ

…それならいいけれど

クロエ

肩身が、狭いなぁ

王宮を見上げ、クロエはフッと自虐的に笑う

クロエ

僕は何もできなかったんじゃないかなって

クロエ

時々すごく…不安になるよ

クロエ

アッシャーは殺すべき人間だった。

クロエ

だけど…僕は、何も、

そこに、王宮から出てきたのは噂の新王。

 

 

その姿は…サンラシファー王、クロエか

クロエ

…そうだ

クロエ

(王は王宮周りを彷徨いていて声をかけてくるって)

クロエ

(本当の話だったのか)

クロエ

(なんでもすごく人格者で、自分を持っている───)

 

…そうか

クロエ

?何も言うことはないのか?

クロエ

僕を…捕えたりしないのか

 

悪いがその余裕はない

 

そもそもお前は先導者であり、実行者ではないだろう

 

お前が殺した人間の数はと聞かれると捻り出す必要があるほどだ

クロエ

そこまで把握して…。

クロエ

いや、先導者も十分に良くないだろ

 

まあな。情状酌量だ。

 

お前の環境、王から受けた数々のこと…それらは配慮される

 

それは当然、実行者であるサンラシファーの民も同じことだ。

クロエ

(…あぁ、この王は、どこまでも)

 

これからは…明るい道で、民を先導する手助けをしてくれ。

クロエの瞳が潤む

クロエ

…オーロラ……僕は、

クロエ

僕は………生きていっていいのか?本当に、

オーロラ

…馬鹿ね

オーロラ

貴方がどの道を選んでも…私は貴方について行くの

オーロラ

貴方だけを、愛しているのだから。

クロエ

…っ

クロエ

生きるよ、僕。

クロエ

(どこまでも…僕を刺激する)

クロエ

(僕なんかに、情けをかけてくれるのか)

クロエ

(…あの時、アッシャーを死ぬほど恨んだあの日…)

クロエ

(命を棄てなくて、良かった。)

クロエ

(僕がどれほどの罪悪感や劣等感を抱こうと、彼は──きっと)

クロエ

(きっとこの目に、幸せな国を…見せてくれる。)

そして新王はそのクロエの予想通り、犯罪率を激減させ、国の基盤を作る──。

シャーズドウム王国は改められ、新王・ロイ・アレクサンダー・ホワイトの名にちなみ

ホワイトクローバーと名付けられた。

以降、この国の均衡は保たれ続ける。

長く永く、永遠に───。

【後日談・完】

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