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波の音が、静かに続いている。
さっきまで踊っていたその子は、 私の方をじっと見ていた。
夕焼けの光が海に反射して、 砂浜が赤く染っている。
風が吹くたびに、その子の長い黒髪がふわりと揺れた。
雨季
腰の辺りまで届くくらいの、真っ黒な髪。
海風に揺れるたび、絹みたいに光る。
その子は不思議そうに首を傾げた。
声はさっき歌っていた時と同じだった。
柔らかくて、少し高くて、どこか楽しそうな声。
私は一瞬、言葉が出なかった。
人と話すのが苦手なのは、こういう時に1番困る。
何を言えばいいのか、頭の中が一気に白くなる。
雨季
その子は、私が黙っているのを見て、 少しだけ目を細めた。
砂浜を歩いて、私の方へ近づいてくる。
足音はほとんど聞こえない。
波が寄せては返す音が、 それを全部飲み込んでしまうから。
距離が近づくにつれて、 その子の姿がはっきりと見えてきた。
小柄な体。
細い肩。
そして、水色と白のセーラー服。
見たことの無い制服だった。
彼女は私の目の前まで来ると、じっと私の顔を見上げた。
雨季
思ったより身長差がある。
私は元々背の高い方だけど、この子は更に小さい。
彼女が言った。
雨季
否定しようとしたけど、出来なかった。
だって本当に見ていたから。
踊っている姿も。
歌っている姿も。
全部。
私は視線を少し逸らした。
雨季
小さく答える。
雨季
我ながら苦しい言い訳だった。
その子は一瞬キョトンとして、それからふっと笑った。
雨季
雨季
図星だった。
私は口を閉じた。
すると彼女はくるりと回って、海の方を見た。
スカートがふわっと広がる。
さっき踊ってたときと同じ動き。
彼女は言った。
雨季
女の子なのに、そう言っていた。
でも、不思議と似合っていた。
雨季
私は小さく頷く。
雨季
振り返る。
黒い瞳が、私を真っ直ぐ見ていた。
期待しているような目。
私は少し迷った。
でも。
嘘をつくのは、もっと苦手だった。
雨季
そういうと、彼女は一瞬だけ驚いた顔をした。
雨季
彼女は砂浜にしゃがみ込んだ。
指で砂をつつく。
少しだけ照れたみたいに笑った。
私は何も言わなかった。
ただ、波を見ていた。
夕焼けの海は、少しだけ暗くなり始めている。
波の白さが、さっきより強く見えた。
しばらく沈黙が続く。
でも、不思議と気まずくなかった。
人と一緒にいて、こんな静かな時間が流れる事なんて、 今まであんまりなかったから。
私は驚いて彼女を見た。
雨季
雨季
彼女は笑った。
雨季
言い返せなかった。
確かにそうかもしれない。
今日一日、ずっと緊張してた。
彼女が聞く。
私は小さく頷いた。
雨季
興味深そうな顔。
雨季
そう聞かれて、私は少し考えた。
そして
雨季
彼女は、少しだけ笑った。
そして、海を見た。
風が吹く。
髪が揺れる。
私はそれを聞いて、何となく納得した。
今日一日を思い出す。
質問の嵐。
好奇心の視線。
悪気は無い。
でも
疲れる。
私は一瞬躊躇った。
でも
雨季
雨季
私は、砂に漢字で書きながら言った。
すると、彼女の目が少し丸くなる。
雨季
彼女は笑った。
そして、胸に手を当てた。
一拍置いて。
雨季
思わず声が出た。
彼女は楽しそうに笑った。
雨季
指を一本立てる。
雨季
雨季
少しだけ近づいてくる。
顔が近い。
黒い瞳が私を覗き込む。
心臓が、一瞬だけ跳ねた。
私は思わず目を逸らした。
雨季
彼女は楽しそうに言った。
空はもう、だいぶ暗くなっている。
街灯が一つずつ灯り始めていた。
彼女が言う。
雨季
海を指さす。
くるっと回る。
スカートが揺れる。
長い髪が風に流れる。
そう言って、彼女は砂浜を走っていった。
夕焼けの向こうへ。
海の音の中へ。
私はその背中を、しばらく見ていた。
名前も知らない。
学校も知らない。
でも
何故か思った。
雨季
波が静かに寄せてくる。
空はもう夜に近い色になっていた。
私はゆっくりと歩き出す。
胸の奥に、小さな違和感が残っていた。
多分それは、今日の疲れとは少し違うものだった。
あの子がどう思っているかは知らない。
でも
私の心には、もう残っていた。
あの、黒い髪の子が。