善光 優斗
青い空。白い雲。きらきら光る水面。どうしてこんなに綺麗な景色なのに、僕は絶望しているのか。
体育教師
えー、今日から授業は水泳です。今日はね、クロールの練習を主に、していこうと思います。
善光 優斗
答えは簡単。体育があるから。
善光 優斗
最近では、古典の授業が必要かどうかで論争があるようだが、僕個人としては古典よりも、もっといらないものがあるだろうと思う。
善光 優斗
例えば体育とか。
体育教師
欠席者いるかー?
クラスメイト
いませんー!
体育教師
ん〜、ん?金満は?善光、金満どうした?
善光 優斗
何で僕に聞くんだよ。やだなぁ、セットみたいな扱いで。
善光 優斗
「…金満君お手洗い行きました。」
体育教師
ッチ…。アイツ休み時間の間に行っとけよ。
絵馬 海龍
先生、ちゃいます。金満君はぁ、善光君の裸見て興奮しちゃって、トイレに抜きに行きました。
体育教師
そうか、もう腹立つし欠点にしたるわ。
善光 優斗
それがいいと思う。
体育教師
じゃあもう時間も限られてるんで、体操始めます。体操終わったら、シャワー浴びて練習開始!
善光 優斗
先生の号令で、僕らは体操しやすいように距離を取る。プールサイドは、熱くなっていて、足の裏がウェルダンに焼けそうだ。
体育教師
体操開始!
善光 優斗
体育委員の生徒が数名出てきて、僕らの手本の体操をする。僕らはそれをマネして体操を行う。
善光 優斗
両手を上げて空を仰ぐと、トンビが気持ち良さそうに飛んでいた。
善光 優斗
いいなぁ、鳥は自由で。対して僕はどうだ。泳ぎたくねぇのに、泳がさせられるんだから。鳥が羨ましい。
善光 優斗
と、思っていると、別の方向からもう一匹トンビがやってきて、気持ち良さそうに飛んでいたトンビと喧嘩し始めた。
善光 優斗
……鳥には鳥の辛さもあるよなぁ。ごめんよ、自由で羨ましいなんて思って。
善光 優斗
そんな事をぼんやり考えながら体を動かしていると、あっという間に体操が終わった。
体育教師
順番に、シャワー浴びていけー。
善光 優斗
僕らはゾロゾロと歩いて適当に列を作り、シャワーを浴びていく。またそのシャワーがありえないぐらいに冷たい。修行僧か?僕らは。
善光 優斗
極寒のシャワーを何とか耐え抜き、僕らは飛び込み台の前でまた整列した。
体育教師
じゃあまず最初にタイム測る。今後は、この測ったタイムよりも、なるべく速く泳げるように練習します。
善光 優斗
やめようって、タイムを測るなんて。僕の運動オンチをこれ以上可視化しないでよ。悲しくなるから。
体育教師
じゃあお前ら、適当にペア組めー。片方が測定。片方が記録。
善光 優斗
ペア…だと?やばいあのクソ金が…
善光 優斗
いや、アイツは今いない。
善光 優斗
「銭場君!!」
銭場 守
うぉっ!びっくりした。
善光 優斗
「一緒にやろう。」
銭場 守
おっ、いいぜ。どっちから先にやる?
善光 優斗
「…僕から、いくよ。」
銭場 守
何お前覚悟決めた顔してんの。戦地にでも行くんか。
善光 優斗
「似たようなモノ…かな…。」
善光 優斗
僕は後ろを振り返らずに軽く手を振った。…さよならは、言わないゼ。
銭場 守
…アイツ何かっこつけてんだ?
善光 優斗
ピッ、ピッ、と笛が鳴って、どんどんと前の奴が泳いで行き、僕の番が徐々に近づいてくる。
善光 優斗
ドックン…ドックン…
善光 優斗
僕の鼓動もいつもより大きくなっているのがわかる。
体育教師
壁まで泳げたらとっとと上がるっー!次っー!
善光 優斗
…いよいよ僕の番がやってきた。
善光 優斗
僕はゆっくりプールに浸かると、両手を伸ばし、手のひらに重ねた。けのびの構えだ。少しでも水の抵抗を減らし、楽に、素早く、美しく泳ぐ為の、けのびポーズ。
笛
ピッ!
善光 優斗
来たっ!
善光 優斗
僕は笛が鳴るのと同時に、どぶんと潜ると、思いっきり壁を蹴った。
善光 優斗
はずだった。
善光 優斗
んんっ??
善光 優斗
僕の足はぬるんと滑って、壁を蹴れなかった。
善光 優斗
やっ、やばい!!
善光 優斗
僕は慌ててもがいた。やばい、出遅れた。速く泳がないと!!
善光 優斗
必死に手足を無我夢中で動かして、前に進む。時折上を向いて呼吸も忘れない。
プールサイド
銭場 守
善光あれ大丈夫か?溺れてんのか?どっちだ?
絵馬 海龍
アッハッハー!!おい木生!あれ撮っといてや!!絶対バズるわ!!
木生 葉
今おれスマホ持ってたら、いろんな意味でヤバすぎんだろ。持ってるワケねぇだろ。考えて喋れやボケ。
木生 葉
けどそれはともかく、あれは大草原不可避。
水中
善光 優斗
……遠くで絵馬君と、木生君の笑い声が聞こえる。ひょっとして、僕の事応援してくれてるのかな。
善光 優斗
いいや、んなワケねぇや。たぶん笑われてんだろうな。カスどもがよぉ。やっぱ僕のマブは、銭場君だけです。
善光 優斗
なんて、ふざけてる余裕が無くなってきた…。
善光 優斗
やばい…最初に飛ばしすぎた。体力が…。
善光 優斗
その時、僕の右足に電撃が走った。
善光 優斗
うっ…!
プールサイド
善光 優斗
「あ"!!」
絵馬 海龍
アッハッハー!
木生 葉
ゲラゲラ!!
銭場 守
お前らそんなに笑ったんなよ。俺逆に悲しくなったわ。まさか善光あそこまで運動オンチだとは、思わんかった。
銭場 守
ん?あれ今善光の声聞こえなかったか?
絵馬 海龍
聞こえた?
木生 葉
さぁ?
銭場 守
んー?あれ?!あいつマジで溺れてね!?先生!!善光ヤバい!!
体育教師
っ!足つったか?
体育教師
善光!落ち着け!今行く!!
金満 潤
どけ。
水中
善光 優斗
(ガッ!ガッポ……!)
善光 優斗
や、やばい…水飲み過ぎた…。
善光 優斗
朦朧としながら水面を見た。
善光 優斗
……きれいだな。
善光 優斗
こんな状況なのに、なんとなく、そのきらきらに触りたくって、僕は手を伸ばした。
ザッパァァーー!!
善光 優斗
「ゴッホ、がほ、ゴッホゴッホ…がは…」
金満 潤
優斗!大丈夫か?
善光 優斗
はぁはぁと呼吸を整える。そっか、金満君が助けてくれたんだ。
善光 優斗
「あ…ありがとう、金満君。」
金満 潤
っんん!!
善光 優斗
金満君は、何をどう思ったのかわからないが、またキスしてきやがった。
善光 優斗
んん…。
善光 優斗
ぐったりしている体を何とか動かして、僕は金満君を軽く叩いた。
善光 優斗
ゆっくりと僕と金満君の唇が離れる。
金満 潤
優斗、大丈夫か?
善光 優斗
「…………うん。」
体育教師
おーいお前らー!とりあえず上上がれー!
善光 優斗
僕はその後、水泳を続ける事はなく、見学となった。
善光 優斗
念の為、水泳の授業が終わるまで、保健室で休んでおけとのこと。
善光 優斗
あぁ、だから嫌いなんだ体育は。
善光 優斗
古典はいいじゃないか、あけぼのってりゃいいんだから。
善光 優斗
って、違う違う。それよりも…
善光 優斗
「金満君、助けてくれてありがとう!」
金満 潤
気にするな。夫婦は支え合うものだろう。
善光 優斗
「うん。僕ら夫婦じゃないけどね。」
金満 潤
まぁまぁ、照れるな優斗。
善光 優斗
ほんと尊敬する、このポジティブシンキング。
善光 優斗
「そういえば金満君、いつの間に授業参加してたの?」
金満 潤
あぁ、腹立つが、銭ゲバの声を聞いてトイレから飛んで来たんだ。それまでずっとオ○ニーしてた。もちろん優斗で抜いたぞ。
善光 優斗
「へぇー、そうなんだ。なら銭場君にも感謝だね。」
善光 優斗
後半めっちゃ要らない情報だなぁ。
金満 潤
フンッ…銭ゲバなんかに感謝しなくていい!
そもそも、優斗が学校なんて通わずに俺の家に居てくれれば、こんな事起きないし、もし億が一でも何かがあっても俺がすぐ側で守れたんだ!
そもそも、優斗が学校なんて通わずに俺の家に居てくれれば、こんな事起きないし、もし億が一でも何かがあっても俺がすぐ側で守れたんだ!
善光 優斗
「ふふっ、けど何か起こってもまた金満君助けてくれるでしょ?頼りにしてるよ、金満君。」
金満 潤
……っ!!……うん。
善光 優斗
僕がそう言うと、金満君は耳まで真っ赤にして目を逸らした。
金満 潤
……。
金満 潤
優斗、二人っきり…だね。
善光 優斗
「やめてよ。保健室の先生いるでしょ。」
金満 潤
職員室に用があるからって、出かけたぞ。
善光 優斗
「ほんとにやめてよぉ。」
金満 潤
優斗、二人っきり…だね。
善光 優斗
「やめて、怖いって。何もしないよ。」
金満 潤
"ナニ"も、な…。
善光 優斗
「ホントに怖い。助けてくれてありがとう。もう授業戻って。ホント大丈夫だから。」
金満 潤
人工呼吸、してやろうか。
善光 優斗
「トドメを刺さないで。死んじゃうから。」
金満 潤
優斗〜、下半身に水が溜まってるんじゃないか?どれ、抜いてあげよう。
善光 優斗
「だいじょーぶ、だいじょーぶです。勘弁してください。」
金満 潤
俺の精子は、高濃度の栄養素になっているんだ。それを坐薬として優斗の中に注入してやろう。きっと優斗、元気になるぞ〜。
善光 優斗
「金満君だけだよ、元気になるの。それ僕の生気を奪ってるんだよ。今もだけど。」
金満 潤
優斗、せっかくこの俺が提案してるのに、イヤイヤだってで否定ばかり。じゃあ優斗は一体何して欲しいんだ。
善光 優斗
「帰ってほしい。」
金満 潤
優斗、気を使うな。俺と優斗の仲だろ?優斗が元気になるまで、俺は側にいるよ。
善光 優斗
……金満君。
善光 優斗
僕の隣に座る金満君が、僕の手をそっと握った。
金満 潤
……優斗。
金満 潤
……優斗、今日俺、安全日だよ。
善光 優斗
「今すぐ授業に戻れっ!!引っ叩くぞ!!!」
金満 潤
ピィィィィギャアァァァァァァァ!!!