ラズロが仲間に加わり__
暗い中行動するのは危ないので とある貴族の屋敷で一夜を過ごすことにした
そこはかつてジルが育った「旧ルヴァン家の別邸」
屋敷は荒れ果てており、家名のプレートすら剥がされていた
朝霧が残る森の中
サフィルはひとり、泉のほとりに佇んでいた
水面に映る自分の姿がどこか違って見える
髪に混ざるのは、石灰のような灰
指先の節が、ひどく硬く感じられる
サフィル
それは夜ごと密かに進行していた異変
自分の肉体が作られし像としての姿に戻ろうとしている
そんな予感があった
サフィル
ジル
声がして 振り返るとジルが立っていた
からかうような笑みの奥に、ほんの少し哀しみが滲んでいる
ジル
ジル
サフィル
ジル
ジルは背中を向けて肩をすくめた
ジル
ジル
その時だった
森の向こうから、鋭い槌音が響いてきた
ゴン...ゴン...
と岩を穿つような重く力強い音
ミレイユ達が駆けつけると
そこには廃村の外れにひとり
石材を削っている男がいた
褐色の肌に、削岩用の革手袋
筋肉質の逞しい体に似合わず
彼の手つきは非常に繊細で
大理石の塊から、まるで人の表情を削りだすように__静かに彫り込んでいた
サフィルが思わず足を止める
サフィル
サフィル
男は彼らに気がついていたが、しばらく黙ったまま彫刻を続けた
そして、一区切りついたところで、無言のままこちらに顔を向けた
エルネスト
ミレイユ
ミレイユが尋ねると、男は低く短く名を名乗った
エルネスト
エルネスト
ラズロの表情がわずかに動く
ラズロ
ラズロ
エルネスト
エルネスト
エルネスト
エルネスト
血を引く
その言葉に、一同が息を呑む
ミレイユ
ミレイユ
エルネスト
エルネスト
彼はサフィルをまっすぐに見た
エルネスト
エルネスト
エルネスト
サフィルも目を逸らさずに答えた
サフィル
サフィル
サフィル
サフィル
その言葉にエルネストの顔がわずかに動く
寡黙だった彫像職人の瞳に 一瞬熱が宿った
エルネスト
エルネスト
完全な存在になるように
ミレイユが目を丸くする
ミレイユ
エルネストは静かに頷いた
エルネスト
エルネスト
その言葉は理屈ではなく 石と向き合ってきた男の直感だった
旅の途中
緑に包まれた村の外れにある古い石造りの礼拝堂に、一行は滞在していた
そこでエルネストは、サフィルの身体に刻まれた亀裂の修復に取り掛かっていた
エルネスト
淡くひび割れた左腕を 静かになぞる職人の指
サフィルは黙ってそれを見下ろしていた
サフィル
サフィル
ラズロ
ラズロ
ラズロ
そう言ったのはラズロだった
彼は本を閉じ、立ち上がって二人に近づく
ラズロ
ラズロ
ラズロ
ミレイユ
ミレイユが不安げに声を出すと
ラズロは静かに彼女を見つめた
ラズロ
ラズロ
エルネストの手が、ほんの少し震えた
エルネスト
エルネスト
彼は淡々と語り始めた
エルネスト
エルネスト
ミレイユ
エルネスト
エルネスト
エルネスト
エルネスト
それで...壊れていった
石槌を握る手が、苦しげに握り締められる
エルネスト
エルネスト
ミレイユ
ミレイユが小さく言った
エルネストは否定しなかった
ただ、ほんの少し視線を落としながら 低く呟いた
エルネスト
エルネスト
そう言って彼は静かに石槌を持ち上げ ひとつ、サフィルの肩に軽く打った
カン...
という音が、礼拝堂に響く
それは修復ではなく、再構築の合図
エルネスト
エルネスト
エルネスト
その瞬間__
礼拝堂の扉が乱暴に叩かれた
王国の使者
王国の使者
サフィルが顔を上げ、ミレイユが立ち上がる
ミレイユ
ジルが舌打ちをする
ジル
扉の隙間から覗いたのは、王都の軍服
金と紅を纏った騎士が、冷たい目を向けてきた
王国の使者
王国の使者
セリルが、鋭く声を放った
セリル
セリル
ラズロが静かに ミレイユの背に手を添える
ラズロ
ラズロ
ラズロ
それはすなわち
王宮がこの存在を国の資源として管理しようとする兆し
ミレイユが強く拳を握った
ミレイユ
ミレイユ
扉の外では、使者が待っている
彼らの旅は、静かな森から ついに世界の目の前へ
そしてエルネストの手は、まだ温かい石の体をそっと支えていた
エルネスト
エルネスト