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ラズロが仲間に加わり__

暗い中行動するのは危ないので とある貴族の屋敷で一夜を過ごすことにした

そこはかつてジルが育った「旧ルヴァン家の別邸」

屋敷は荒れ果てており、家名のプレートすら剥がされていた

朝霧が残る森の中

サフィルはひとり、泉のほとりに佇んでいた

水面に映る自分の姿がどこか違って見える

髪に混ざるのは、石灰のような灰

指先の節が、ひどく硬く感じられる

サフィル

...まだ少し、石に戻っている気がする

それは夜ごと密かに進行していた異変

自分の肉体が作られし像としての姿に戻ろうとしている

そんな予感があった

サフィル

(私が崩れる前に、ミレイユの記憶を全て集めなければ)

ジル

隠してたんだな

声がして 振り返るとジルが立っていた

からかうような笑みの奥に、ほんの少し哀しみが滲んでいる

ジル

なに、俺は盗賊だからな

ジル

隠してるもんにはつい気がついちまう

サフィル

...君には悪いが、ミレイユにはまだ言わないでくれ

ジル

...わかってるさ

ジルは背中を向けて肩をすくめた

ジル

まったく、みんな秘密だらけだ

ジル

あの魔術師も、騎士殿も、俺も、そして...

その時だった

森の向こうから、鋭い槌音が響いてきた

ゴン...ゴン...

と岩を穿つような重く力強い音

ミレイユ達が駆けつけると

そこには廃村の外れにひとり

石材を削っている男がいた

褐色の肌に、削岩用の革手袋

筋肉質の逞しい体に似合わず

彼の手つきは非常に繊細で

大理石の塊から、まるで人の表情を削りだすように__静かに彫り込んでいた

サフィルが思わず足を止める

サフィル

...この手つき

サフィル

どこか懐かしい

男は彼らに気がついていたが、しばらく黙ったまま彫刻を続けた

そして、一区切りついたところで、無言のままこちらに顔を向けた

エルネスト

...彼が動いていると聞いていたが、まさか本当に

ミレイユ

あなたは...?

ミレイユが尋ねると、男は低く短く名を名乗った

エルネスト

エルネスト・グラヴァール

エルネスト

石像職人の末裔だ

ラズロの表情がわずかに動く

ラズロ

グラヴァール...

ラズロ

あの"神像の系譜"を継ぐ?

エルネスト

...ああ

エルネスト

お前が、術の側の者か

エルネスト

俺はあの像...

エルネスト

サフィルを彫った者の
血を引く

その言葉に、一同が息を呑む

ミレイユ

つまり...

ミレイユ

あなたが、サフィルの"創造"に関係している?

エルネスト

俺の祖父の代の話だ

エルネスト

だが...その技と呪いは、代々受け継がれている

彼はサフィルをまっすぐに見た

エルネスト

お前が動いているというだけで、俺の家は異端者として追われた

エルネスト

だが俺は__

エルネスト

完成しなかった像が生きた意味を、この目で見たいと思ってる

サフィルも目を逸らさずに答えた

サフィル

私は、確かに未完成だ

サフィル

記憶も、心も...体も

サフィル

でも彼女に触れて、私は自分という存在になれた

サフィル

君の家が生んだこの身体は、私の誇りだ

その言葉にエルネストの顔がわずかに動く

寡黙だった彫像職人の瞳に 一瞬熱が宿った

エルネスト

...ならば、今一度彫り直そう

エルネスト

崩れていくその体が
完全な存在になるように

ミレイユが目を丸くする

ミレイユ

できるんですか⁉︎

エルネストは静かに頷いた

エルネスト

可能かどうかではない

エルネスト

俺が、そうするべきだと感じただけだ

その言葉は理屈ではなく 石と向き合ってきた男の直感だった

旅の途中

緑に包まれた村の外れにある古い石造りの礼拝堂に、一行は滞在していた

そこでエルネストは、サフィルの身体に刻まれた亀裂の修復に取り掛かっていた

エルネスト

...また、砕けかけてる

淡くひび割れた左腕を 静かになぞる職人の指

サフィルは黙ってそれを見下ろしていた

サフィル

手先の細かな動きが...

サフィル

最近鈍くなってきた

ラズロ

無理もない

ラズロ

感情が戻れば、魂の力も膨らむ

ラズロ

その器としての身体が、圧力に耐えきれなくなってきているんだろう

そう言ったのはラズロだった

彼は本を閉じ、立ち上がって二人に近づく

ラズロ

本来、石像に魂を入れる術は固定が前提

ラズロ

でも今のサフィルは進化し続けている

ラズロ

...もはや、ただの像じゃない

ミレイユ

...じゃあ、どうするんですか

ミレイユが不安げに声を出すと

ラズロは静かに彼女を見つめた

ラズロ

この先、彼を保てるかどうかは彫り直しにかかっている

ラズロ

つまり、職人であるエルネストの手に

エルネストの手が、ほんの少し震えた

エルネスト

俺の家は、始祖ルシアンの一族

エルネスト

魂を宿す器を彫った...神の器職人の末裔

彼は淡々と語り始めた

エルネスト

その血には、ひとつの呪いがある

エルネスト

器を掘る者は、器に心を奪われる

ミレイユ

...心を?

エルネスト

刻むたびに、引きずられるんだ

エルネスト

その魂が背負った想いに

エルネスト

その器が抱いた痛みに

エルネスト

俺の父も、祖父も、
それで...壊れていった

石槌を握る手が、苦しげに握り締められる

エルネスト

俺は絶対に同じにならないように、感情を切り離してきた

エルネスト

像に同情せず、寄り添わず、ただ彫るだけの職人として生きてきた

ミレイユ

...でも、あなたはサフィルに心を寄せている

ミレイユが小さく言った

エルネストは否定しなかった

ただ、ほんの少し視線を落としながら 低く呟いた

エルネスト

...もう、線は越えている

エルネスト

今さら、彫らずにいることもできない

そう言って彼は静かに石槌を持ち上げ ひとつ、サフィルの肩に軽く打った

カン...

という音が、礼拝堂に響く

それは修復ではなく、再構築の合図

エルネスト

俺にできる限りのことをする

エルネスト

...器としてじゃない

エルネスト

彼を守るために

その瞬間__

礼拝堂の扉が乱暴に叩かれた

王国の使者

王国よりの使者だ!

王国の使者

お前達に通達がある!

サフィルが顔を上げ、ミレイユが立ち上がる

ミレイユ

...見つかった

ジルが舌打ちをする

ジル

遅かれ早かれ、こうなるとは思ってたさ

扉の隙間から覗いたのは、王都の軍服

金と紅を纏った騎士が、冷たい目を向けてきた

王国の使者

石の魂と神の器に関する動きが報告された

王国の使者

王宮は、関係者を王都へ召集すると通達している

セリルが、鋭く声を放った

セリル

これは...もう

セリル

隠しきれないということか

ラズロが静かに ミレイユの背に手を添える

ラズロ

神の器に選ばれた少女、ミレイユ

ラズロ

そして、魂を持つ像サフィル

ラズロ

それを知った王国は、ただの旅人として君たちを扱わないだろう

それはすなわち

王宮がこの存在を国の資源として管理しようとする兆し

ミレイユが強く拳を握った

ミレイユ

...行かなくちゃ、いけないんですね

ミレイユ

でも、私たちの意志で

扉の外では、使者が待っている

彼らの旅は、静かな森から ついに世界の目の前へ

そしてエルネストの手は、まだ温かい石の体をそっと支えていた

エルネスト

...砕ける前に、強くしてやる

エルネスト

たとえ、俺の心が欠けても

星の記憶と七つの影

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