武永
はぁ?

武永
これで再現VTR終わりかよ――。

黙って一緒にテレビを観ていた武永が、素っ頓狂な声を上げた。
神崎
そうみたいですね。

武永
あー、ちっと整理してみるか。

スタジオ内では、どうやらこれから討議が行われるらしい。
ただ、再現VTRを見た限り、誰が犯人なのかは明白ではあった。
武永
というか、お前はどう思う?

神崎
状況的に考えて、けんたが犯人でしょうね。

武永
あぁ、嫁に浮気されて、それの腹いせにやった――って感じだな。

武永
あー、神崎。お前煙草持ってないか?

武永
何かを考えるにしても、あれが無いとよ。

神崎
あ、煙草だったら、さっき確認した物資の中に混じってましたよ。

ここに閉じ込められてはいるが、食糧に充分過ぎるほどにある。
それどころか嗜好品まで揃っていることに、神崎はすでに気づいていた。
武永
――なんだよ、そう言うことは早く言えよ。

武永
おぉ、煙草はもちろん、ご丁寧にライターまであるじゃねぇか。

武永
しかも――。

武永は嬉しそうに漏らしつつ、何かを神崎の方へと放り投げてきた。
武永
酒まであるときたもんだ。

神崎
遠慮しときますよ。

神崎
タケさんの前で携帯トイレ使うの嫌ですから。

神崎
利尿作用があるものはできるだけ避けたいです。

武永
なんだよ、つれねぇなぁ。

武永
こんな訳の分からん状況なんだから、せめて酒と煙草でもねぇとやってらんねぇよ。

武永はそう言うと、缶ビールのプルタブを開け、一気に飲み干した。
神崎
それでタケさん、ちょっと事件を整理しませんか?

武永
あ?

武永
あぁ、神崎――お前がまとめてみてくれよ。

窓は嵌め殺しというやつで開かないが、窓際に行ったのは、せめてもの気遣いであろう。
すなわち、この狭い部屋が煙草臭くなるということを宣言しているようなものだった。
神崎
まず登場人物。

神崎
みさと。

神崎
彼女が結果的に殺害されてしまいます。

神崎
そして、けんた。

神崎
彼がみさとの殺害を計画していたことは間違いないでしょう。

神崎
最後に、ひやま。

神崎
みさとの浮気相手。

武永
状況から見るに、どう考えたって旦那が犯人だろうよ。

武永
こんな簡単な事件が、なんで未解決事件なんだろうなぁ?

神崎
……それは分かりませんけど。

武永
そうかぁ。

何を期待していたのか分からないが、そう呟く武永は、どこか寂しそうだった。
神崎
ただねタケさん。

神崎
そう考えると犯人が分からなくなるんです。

武永
どういうことだ?

神崎
この番組の趣旨ですよ。

神崎
この番組は過去に起きた未解決殺人事件がクイズとして出題されて、その犯人がパネラー中に潜んでいる……というものですよね?

武永
あぁ、そうみたいだ。

神崎
そう考えると、犯人は最初から半分に絞られる。

神崎
登場人物の中で唯一の女性はみさとだけ。

神崎
そのみさとが殺害されるのだから、残る登場人物は全て男性です。

武永
あー、となるとパネラーに潜んでる犯人も男ってことになるな。

神崎
えぇ。

神崎
その男性陣ですが……。

神崎
橘は高校生、長谷川は公務員、数藤は学者、そして九十九は職業不詳です。

武永
再現VTRの話の流れだと、みさとの旦那は自動車の整備員だ。

武永
まず、真っ先に高校生の橘が除外されるな。

神崎
くわえて、学者である数藤も除外していい。

神崎
もちろん、その前に自動車整備の仕事をしていた可能性もありますが、学者なんてものは誰でも簡単になれるものではありません。

武永
まぁ、その道をずっと極めてこその学者だろうな。

神崎
となると、現状で公務員の長谷川か、職業不詳の九十九のいずれかが犯人ということになる。

神崎
ただ、どうも引っかかるんですよね……この考え方だと決定打がないんです。

武永
犯人は絞り込めても、決定的な一打がないよな。

神崎
それに、再現VTRの最後。

神崎
なぜ、現場にパーティー用のクラッカーなんて残されていたのでしょう?

武永
ん、そこはあんまり気にしなくてもいいんじゃないか?

神崎
それに、その日に限ってなぜ……旦那はみさとの帰る時間を知りたがったのか。

武永
そりゃ、殺すためだろ?

神崎
いや、なんだか――。

その時、ふっと……あまりにも突然ではあったが、ある答えが神崎の頭に浮かんだ。
神崎
あ、そうか。

神崎
そう考えれば、犯人はあの人しかいないじゃないか。

武永
な、なんだよ。

武永
犯人が分かったのか?

缶ビールの空き缶を灰皿代わりにして、もう何本目か分からなくなったタバコに火を点ける武永。
神崎
えぇ、分かりましたよ。

神崎
多分、犯人は――。
