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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

向日葵畑を見ると、決まって子供の頃を思い出す。

陽介

はあっ、はあっ…

息を切らしながら向日葵畑を駆ける記憶。

陽介

はあっ、はあっ、はあっ…

そんな自分の背中に伸びる、小さな手。

陽介

!!

タッチ!

陽介

あー、またつかまっちゃったー。

よーすけ、足おそすぎーっ!

陽介

そんなことねーよっ!

陽介

おまえより、はえーし!

えー?じゃあ、今度はよーすけがおにね!

陽介

いいよ!すぐつかまえるから!

ぜったいつかまんないよーっだ!

陽介

はあ??

にっげろ〜!

陽介

まったく…

陽介

いーち、にーい、さーん…

茜とは幼い頃から仲が良かった。

彼女の親は向日葵畑をもっていて、俺たちはよく夕暮れまでそこで遊んでいた。

夕日に照らされる向日葵を見て、綺麗だねなんて言い合ったっけ。

陽介

タッチ!!

はあ、はあ、よーすけ、ホント足おそいね…

どんだけ時間かけてんのよ…

陽介

う、うるさいなあっ!

あかね、もうつかれちゃった。

陽介

むぅ…じゃあ、ちょっと休もう。

茜は顔に大きな火傷の痕があった。

小学校では気味が悪いとクラスメイトから避けられていた。

だが、そんな中でも茜は前向きだった。

常に笑顔で明るかった。

俺は、そんな太陽の様な笑顔が好きだった。

だから…

陽介

あかねちゃん。

なーに?

陽介

これ…

ゆびわ?かわいい!

陽介

お花で作ったんだよ。

陽介

あの…

陽介

おとなになったら…

陽介

ぼくと、けっこんしてください!

えーっ!

陽介

だめ…?

うーん…

まあ、よーすけなら…(小声)

いいよ!

陽介

やった!!

陽介

じゃ、チューしよ!チュー!

よーすけのヘンタイ!!

チューはまだ!

陽介

えー?じゃあ、いつならいいの?

…こころのじゅんびができたら。

陽介

うーん、それっていつ?

わかんない。いつか。

陽介

ええーー?

こういうのは女の子にあわせるんだよ!

男はがまんして!

陽介

しょうがないな…

陽介

じゃあ、手ぇつなぐのは?

…いいよ。

陽介

やった!じゃ、手ぇつなご!

子供の婚約は非常に軽いもので、大体が大人になるにつれて忘れられる。

実際、このかわいい婚約も高校生になる頃には一つの黒歴史になっていた。

だが、高校生になってもなお茜のことは好きだった。

俺たちは奇跡的に高校どころかクラスも一緒になった。

陽介

田中陽介です。

ザワザワ…

JK1

めっちゃイケメンじゃん!

JK1

あんたの彼氏にいいんじゃない?

JK2

ちょっとやめてよー///

斎藤茜です。よろしくお願いします。

JK1

ヒソヒソ…(あの子顔やばくね?)

JK2

ヒソヒソ…(こわ)

男子

ヒソヒソ…(でも割と可愛い?)

陽介

…いいね。あんた人気者だよ。

陽介

俺はあんな奴らに構っている暇は無い。

陽介

あいつらと一緒にいるより、

陽介

(お前といる方が…)

なに?

陽介

いや、何でも…

陽介

…っていうか、お前も男子の間で結構評判良いんだぞ?

ふーん。そうなんだ。

まあ、私はあいつらには興味無いんだけどね。

陽介

良かった…

ん?

陽介

ああいや!何でもない!

茜は顔が良いのもあり、男子からかなりモテた。

それもあってか、女子からの風当たりは強かった。

JK1

何であんたなんかがモテるのよ!

JK2

醜い傷を負ったオ・ブ・ス・ちゃん、のくせに!

知らないよ。

別に男に興味ないし。

自分達がモテないからって、努力もせずに私のせいにしないでよ!

JK1

はあ〜??

JK2

こいつちょームカつくんですけどぉ〜

JK1

そーだ!明日こいつがビッチだってデマ流してやろーw

…は?ちょっと

JK2

名案w良かったね〜これで嫌いな男たちが寄り付かなくて済むよ〜。

JK1

ヤりたいだけの男が集まってくるかもだけどw

ちょっとどういうこt

ドカッ!

…っ!

JK2

ギャハハ!じゃーねー可愛いアカネチャン!

JK1

明日を楽しみにしててね〜w

茜へのいじめはエスカレートしていく一方だった。

以前の元気な茜の姿は消えつつあった。

…そして、ついに茜は学校に来なくなった。

先生

田中君。

陽介

はい?

先生

プリント、斎藤さんに届けてくれる?

陽介

わかりました。

先生

…田中君、斎藤さんと仲良かったでしょ。

先生

ちょっと話を聞いてきてくれないかな。

先生

私にはあまり話してくれないの。

陽介

…わかりました。

今日はあいにくの雨だ。

それにも関わらず、1人の少女が向日葵畑を見つめていた。

陽介

茜!

…陽介。

陽介

これ、プリント。

…ありがと。

陽介

こんな雨の中何やってんだ?

…ちょっとね。

私、引っ越すんだ。

陽介

…え?

別の町に引っ越す訳じゃないんだけどね。

家を変えるの。

お金が無くなってきちゃったみたいでさ。

家も、土地も、全部売っちゃうんだって。

だから、向日葵畑も無くなっちゃう。

陽介

そんな…どうにかならないのか?

どうにかって…どうにもならないよ。

全部燃えちゃうんだ…。

燃えるなんて、皮肉だよね。

茜は顔の火傷の痕を撫でながら言った。

…私、辛い時はいつもここに来てた。

向日葵って、太陽の方を向いて咲くでしょ?

だから私も、向日葵みたいに前を向こうって、強く生きようって、自分を励ましてた。

雨の音がうるさく響いている。

…でも、もう無くなっちゃう…。

変な噂も広められちゃったし、私これからどうすればいいの?

何を心の支えにして生きていけばいいの…?

陽介

茜…。

陽介

…作るよ。

…え?

陽介

作るよ、向日葵畑。

作るって…どうやって?

陽介

わかんない。

陽介

わかんないから…これから勉強して、大人になったらデカイ向日葵畑を作る!

意味、わかんないよ…。

なんでそんなことするの?

将来の夢とか、あるんじゃないの…?

陽介

好きだから。

…!!

陽介

お前が、茜が好きだから…あの時からずっと。

陽介

明るいお前が好きだから…。

陽介

お前には、ずっと笑っていてほしい、幸せでいてほしい。…それが、俺の夢だ。

…!!!

陽介

だから、どうかそれまで待っていてくれ。

陽介

心の支えが無いなんて言わないでくれ。俺がいるから…。

…なにそれ、バッカじゃないの…。

そんなの、言われなくても、言われなくても…

ほんっと、あんたってやつは…

…もうっ!気ぃ狂わせないでよっ!!

…いくらでも待つわよ。しょうがないから。

陽介

茜、こっち向いて…

!!!!!

甘い接吻。

初めて感じた女の子の唇の感触は、驚くほど柔らかく、その衝撃は今でも忘れられない。

…ヘンタイ。

そういうのは心の準備が出来てからって言ったでしょっ。

陽介

あれ、覚えてたんだ。

覚えてるに決まってるでしょ!

陽介

じゃあ、何で俺を突き飛ばさなかったの?

!!そ、それは…

陽介

抵抗しないってことは…

う、うるさい!!

あんたいつからそんなキャラになったのよ!

陽介

ごめんごめん。ちょっと悪戯してみたくなっちゃった。

〜〜っ///もうっ!!!

いつの間にか雨は止んでいて。

向日葵に付いた雫が、雲の隙間から出てきた太陽の光に照らされてキラキラと輝いている。

ほのかに香る雨の匂いと、太陽の温かさを感じた。

???

何してるのー?

明るい声に振り返ると、女性…俺の妻が立っていた。

陽介

ああ、子供の頃を思い出していたんだ。

???

そっか、懐かしいね。

彼女は弾けるような笑みを浮かべた。…今となっては愛おしい、かつて醜かった大きな火傷の痕を、まるで気にしていないかのようだ。

???

まさかこんなになるとはねぇ…

そう言って彼女が見つめる先は、巨大な向日葵畑。風に靡いて美しく揺れている。

陽介

ああ。俺もこんなに上手くいくとは思ってなかったよ…茜。

私、冗談だと思ってたんだよ?向日葵畑のこと。

陽介

…でも、待っててくれた。

うん。あの時の陽介はすごく頼もしく見えた。どんなに辛くても、頑張ろうって、思えた。

ひなた

ママー!パパー!

娘のひなたが走りよってきた。

俺はそのまま抱きかかえた。

私、幸せだよ。こんなに可愛い娘も産まれて。

そう言って太陽のように笑う姿は、子供の頃の茜そのものだった。

ひなた

みてー!きれー!

ひなたが指さした方を見る。

どこか懐かしい景色。

向日葵畑が夕日に照らされて黄金色に輝いていた。

綺麗だね…。

子供の頃は漠然と綺麗だと思っていたけど、大人になってから見るとなんか…くるものがあるね。

陽介

語彙力皆無だけど…なんか分かるかも。

夢、叶ったね。

私を笑顔に、幸せにするって夢。

陽介

…まだだよ。

え?

陽介

俺の夢は、茜を「ずっと」幸せにすることだから。

陽介

今はひなたもいるし…

陽介

…夢、増えちゃったな。

永遠に続いていく夢に思いを馳せる。

そんな俺たちを見守るように、夕日が、向日葵の光が、俺たちを優しく包み込んだ。

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