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暗い静かな夜道を歩く
少し冷えた秋の夜風が頬を掠めていく
だが今の俺にとっては、心地のよいものだった
歩いている間、彼は何も言わなかった
でも手は繋がれたまま
相変わらず彼の意図がつかめないが、不思議と嫌ではなかった
しばらくすると、見慣れた光景が
rt
そこは、最寄り駅までの道のりにある小さな公園だった
遊具がぽつぽつとあるだけだが、日中は子どもたちの賑やかな声が聞こえてくる
そんな此処は、子どもたちにとって数少ない遊び場であり、そして…
──俺の、こころの拠り所
なにか悩んだり、答えに行き詰まった時に、良く此処のベンチに座っては、広がる景色をぼーっと眺める
特に何かする訳ではないが、この場所にはなにかと支えられている
そんな場所に誰かと来るのは初めてで、なんだか居た堪れない気持ちになる
ky
隣りに立つ彼は、黙ったまま動かない
…疲れたのだろうか
rt
今度は自分が彼の手を引いてベンチに誘導し、ゆっくり腰掛けた
ky
rt
落ち着かない
いつもと変わらない光景
だけど、今日はやけに虫の音が大きく聞こえる気がする
rt
ぽつりとひとりごつ
ky
それを聞いた彼が、ゆっくりと口を開く
ky
ky
そう言うやいなや、彼はぐいっと俺の手を持ち上げた
そして、何故か袖を捲られた
ky
ky
ぽつりと呟く
rt
咄嗟に手を引っ込めてしまった
彼の言う『これ』の正体が、一瞬にして理解できてしまったから
rt
血の気が引いていく
暗がりのなか、街灯の光だけを頼りに恐る恐る彼の表情を伺うが、影がかかって見えなかった
ky
そう問いかける彼の声は静かだが、かすかな苛立ちを含んでいるのが分かった
rt
焦りを誤魔化すように服の袖をぎゅっと掴む
rt
rt
理由にもならない言葉を並べる
rt
ky
被せるように返ってくる
間を与えようとしない
これ以上心配をかけさせたくない
彼の負担になりたくない
ただでさえ、助けてもらったのに
rt
だから俺は、笑顔をつくった
rt
彼に気づかれないように
rt
さっきのことなどまるで気にしていないかのように
上手いこと誤魔化せば、きっと忘れてくれる
rt
rt
冗談めかして笑う
そうでも言っていないと、俺が絶えられないから
ky
rt
早くこの話題に幕を下ろしたくて
彼にこれ以上踏み込んでほしくなくて
rt
ぎゅっと拳を握りしめる
…何が『大丈夫』だ
大丈夫じゃないことくらい、自分でも分かっているのに
ky
彼も負けじと食い下がる
あぁ、だめだ、これ以上は…
rt
小さく
拒んだ
ky
明らかに彼の声のトーンが落ちる
まずい、なにか言わなくては…
rt
ky
rt
そう、これは本音
rt
間違ってはない
だけど、本当は
rt
…いや
自分でも、見たくないのだ
何もできなかったことが、全部”これ”に残っている
抵抗もできなかった自分なんて、弱いと思われるに決まっている
──それに
もしまた彼に見られたら…
rt
ky
rt
驚いて目を見開く
ky
強くはっきりとした声
彼は立ち上がり、俺の前にひざまずく
さっきよりも近くて
ky
強いはずなのに、どこか押し殺した響き
ky
ぽつり、呟く
その言葉には、悔しさが滲んでいた
rt
そうだ、もう終わったことだ
切り替えなくてはいけない
あの瞬間が無かったことになるわけじゃないから
ky
ぐっと手首を掴まれる
rt
強くはない
…はずなのに
ky
rt
低く通る声
視線が絡み合う
ky
的を射抜くかのような瞳
それらは、拒むことさえも忘れさせるほど真っ直ぐで
ky
彼の奥に、ほんの僅かに震えるものに気づいた瞬間
rt
逃げることができなくなった
ky
俺にはできないと分かっているくせに
ゆっくりと袖が捲られる
露わになる手首
その光景を、ただ見つめることしかできなかった
rt
───赤い、手の跡
それは、あの男の指の形に沿うように生々しく、くっきりと残っていた
ky
数秒の沈黙の後
彼は不意に立ち上がり、どこかへ行ってしまった
目で追う勇気も出ず、俯いた
遠ざかっていく足音とは裏腹に、静けさはどんどん増していく
rt
呟いた声すらも大きく聞こえる
なんとなくそんな気はしていたが、いざこうなってみると、虚しくなってくる
大柄な男
rt
あの時の嫌な温かさが蘇り、パーカーの裾をぎゅっと掴む
rt
目の前が歪む
rt
深呼吸を一つする
rt
震えるのを堪えながら呟く
寒いからなのか、はたまた…
rt
見せなければ…彼はまだ隣に居てくれただろうか
今更後悔しても、もう遅いっていうのに
rt
そんなことを思ってしまう自分は、傲慢なのだろうか
涙が一粒こぼれ落ち、手の甲を濡らす
その時、足元にふっと長い影ができた
rt
顔を上げると
ky
そこには、帰ったはずの彼が立っていた
To be continued...