母さん
母さん
リビングでゲームをしている俺を見つめながら
手招きをする母。
俺
俺は母の方を向くのも面倒くさくて
ゲーム画面を見ながら返答をした
いいとこなのに邪魔すんなよ
くそババア
って、 心の中でだが少しイラつき
ゲーム機にぶつける様にボタンを連打する
母さん
母さん
顔は見ていないが、
声で伝わるような寂しく弱々しい声で
俺を呼びかける
俺
それでも俺は顔を見るのがなんだか怖くて
画面に目を移したまま、ゲームに没頭する
母さん
母さん
母さん
先程より強く、怒っている声だ。
俺の脳裏には剣幕な顔をした母が過ぎる
母さん
俺
母さん
母さん
気が付くと母は俺の目の前に立ち、
手には俺のゲーム機を持っている
俺の手はヒリヒリと痛み、 少し赤みを帯びている
俺
俺
いってーな
まじうぜぇ、ふざけんじゃねえぞ
母さん
母さん
母さん
母さん
うっせーな、こっちは手が痛えんだけど
まじふざけんなよ
うざいうざいうざいうざいうざいうざい…
死ね
俺
俺
俺
俺
溜まりに溜まった母への怒りが 爆発したように
俺の口からは自分自身もびっくりする程
暴言が放たれる
俺
俺
俺はそう言って部屋を出た
母の顔は怖くて見れなかった。
俺は自分の部屋にある
必要最低限の物をバックに詰め込み
窓から家を出た。
母さん、傷付いたよな
絶望したよな
俺を嫌いになったよな
色んな思いが渦を巻く。
何度後悔しても、もう遅い
言葉は取り消すことは出来やしない
俺
夜風の冷たくひんやりとした風が
頬に痺れる
俺
手にはまだひりひりとした痛みが残っていた
朝、俺は結局行く場も無く
ホームレス達が暮らす公園で一夜を過ごした
敷いたダンボールは冷たく、
そして起きる時には腰へ激痛が走るほど
俺
俺
俺は持ってきたバックの中を手探りで
スマホを見つけ出し、電源を入れた
メールや電話が何通も入っている
俺
着信履歴は母で埋まる程、 着信が来ていた
母の笑顔が脳裏に過ぎり、
胸がきゅっと少し痛くて
涙が溢れてしまいそうだ
それをぐっと堪えて、身支度を済ませ
俺は公園を後にした
インターネットで探した 近場のネットカフェや漫画喫茶、ホテル に全て行き尽くしたが
どこも未成年者はお断りらしく
追い出されてしまった
俺はもう行く場を完全に無くしてしまった
途方に暮れ、足取りも重く
涙がどっと溢れて来た
母は俺の事を思って言ってくれたはずなのに
それは分かっていたはずなのに
俺は座り込み、丸くなってじっとしていると
電話が鳴った。
俺
急いで涙を拭い、 電話に出た
医師
医師
医師
医師
医師
医師
重い空気が電話越しでも伝わる。
俺
医師
医師
そう言って、医師からの電話は切れた。
俺はまだ状況を理解出来ず
数秒間、呆然と立ち尽くした
溜まった涙を拭い、俺は駆け出した
俺
俺が着いた頃には母は息を引き取っていた
少しまだ温かい母の手をぎゅっと握り
もう一度涙を流した
1度流れた涙はまた1粒…2粒と止まらず
病院のシーツにまた1つとシミを作っていく
淡い景色の中
母がまた俺に笑いかけてくれた様な気がした。
母が空へ旅立ってから、
俺は叔父と叔母の家に引き取られた。
2人は俺を受け入れて、優しく接してくれる。
そして母は旅立つ直前まで
俺を探してくれていたそうだ。
弱く、脆い体で
俺をただひたすら探す為に
走り回っていてくれたそうだ。
こんなにも愛してくれていたのに
俺は母に迷惑ばかりかけていた
なんて情けない息子なんだろう。
なんて馬鹿な息子なんだろう。
最期にも立ち会えず、許しも貰えず
最低な息子だ。
そんな俺から伝えたいことがあります。
母親の笑顔は1番素敵です。
そんなお母さんの笑顔を守り続けてください。
そして最期まで一緒にいてあげてください。