九十九
今回の報酬は……なんだよ、これ。

九十九
シャンパンか?

茜
え、それってドンペリって奴じゃないの?

茜
高い奴だよ。

九十九
高かろうが安かろうが、この状況で酒はいらないだろうよ。

凛
あの、凛の素直な感想言っていい?

凛
――この部屋にこの人数は流石に狭い。

眠夢
1人用の楽屋に5人……ですからね。

九十九
文句言うんじゃねぇよ。

九十九
数藤のおっさんがいないだけマシだろ?

それに乗らなかった数藤は真っ先に自分の楽屋へと帰ってしまった。
長谷川
にしても、良く良く考えたら、このやり方は間違いないかもしれない。

長谷川
万が一、俺達の中にあちら側の人間……黒幕が混じっているのだとすれば、これほど効率的な自衛手段はない。

九十九
ほら、良くミステリなんかでよ、どう考えたってみんなと一緒にいればいいのに、勝手に部屋に帰って殺される馬鹿がいるだろ?

九十九
ミステリのお約束としては、数藤のおっさんが次の犠牲者ってことになるが、残念ながら今回はそうじゃねぇ。

眠夢
だから、こうしていっそのことみんなで一緒にいることにしたわけですね。

九十九
あぁ、たまたまだけど、昨日この女が俺の楽屋に閉じ込められてよ。

九十九
その件についてRYUREIは何も言わなかったし、楽屋にさえいれば、どこにいても構わないんじゃないかって思ってな。

凛
2人で楽屋にいたとか……なにしてたの?

凛
やらしー。

九十九
そう言う発想が出てくる時点で、お前の頭の中がそう言うことで一杯ってことだ。

九十九
俺にも女を選ぶ権利はある。

九十九
抱く女くらい選ばせろ。

茜
おい、これで2発だからな。

茜
全部終わったら、あんたを2発殴る。

九十九と茜のやり取りは、どんよりと落ち込んでしまった空気を和ますためだった。
柚木
あの……私。

九十九
こうして俺達が集まっていれば、黒幕とやらも下手に手出しはできない。

長谷川
それに、この時間を使ってみんなと今後の相談をすることもできるしな。

九十九
あぁ、ちなみに楽屋にあるもんは適当に飲み食いしてもらっていい。

九十九
このシャンパンも飲んでいいからな。

眠夢
じゃあ、水をもらいます。

茜
私は……振り逃げバーを。

振り逃げバーとは、バットを模したチョコバーのことである。
長谷川
俺も水をもらおうか。

九十九
いや、体格的にあんたは食えよ。

九十九
遠慮すんな。

長谷川
いや、俺少食なんだよ。

茜
え、それ本当なの?

茜
信じられないんだけど。

長谷川
余計なお世話だよ。

凛
凛は……普通にカップラーメンもらう。

柚木
…………。

九十九
あんたも遠慮すんな。

九十九
別に過去に何してようとも、俺達に害が及ぶわけじゃねぇ。

柚木
そ、それじゃ……私はこれを。

そう言って、柚木が手に取ったのはシャンパンだった。
柚木
私、普段からお酒が好きで、良く飲むんです。

柚木
酔っている時は嫌なことを忘れられるから。

九十九
好きにすればいい。

柚木は慣れた手つきでシャンパンを開けると、それをそのままラッパ飲みした。
グラスらしいグラスもないわけだが、彼女の印象とは異なる豪快な飲み方だった。
柚木
ふう……。

ヤケクソのごとくシャンパンをあおると、テーブルの上にビンを置く柚木。
九十九
どうだ?

九十九
ちっとは落ち着いたか?

柚木
……はい。

小さく柚木が咳き込んだと思ったら、口元に手を当てる。
口元をおさえた手の指と指の間から、真っ赤なものが流れ出す。
柚木
……そ、そんな。

柚木
これ……九十九さんのシャンパンでしょ?

柚木
どう……して。

その場に崩れ落ちた柚木は、とうとう大量の血を吐き出した。
茜
ちょっと、どうなってんの!

まな板の上ではねる魚のごとく、細かく痙攣をしたのち、柚木は急に動きを止めた。
天井を見上げた柚木の目は、瞬く間に混濁していった。
凛
う、嘘……。

眠夢
死んだ……の?

眠夢
ちょっと……待って。

眠夢
このシャンパン、九十九さんに用意されたものでしょ?

凛
下手をすれば、他の人が飲んでた可能性もあるよね。

長谷川
そんな不確かな手段で、彼女は降板させられたってことか?

九十九
多分そうだな。

九十九
ただ、これは……この女を確実に狙ったんだろうよ。

茜
でも、それってどうやって?

茜
他の人が飲んでたかもしれないし。

茜
大体、ここあんたの楽屋なんだから、あんたが飲んでたかもしれないんだよ。

九十九
いいや、俺が飲むことはなかったんだよ。

九十九は動かなくなった柚木を見下ろしつつ、こう続けた。
九十九
この女は狙って殺されたんだよ。

九十九
くそ、やってくれるじゃねぇか――。
