それは、ある曇った一日だった。
朝の通勤ラッシュ時、 電車を待つ人々の群れ。
鳴り響くアナウンス、 肌に触れる冷たい風。
何気ない風景、 しかしアタシにとっては 特別な日だった。
それは長い入院生活から 一時的な学校生活の復帰が 許可されたのだ。
それなのに、“あんなこと”に 巻き込まれるなんて...
茜
さみぃ...
茜
早く電車来いよ...
茜
...ん?あれは...
アタシの目に飛び込んできたのは 黄色の点字ブロックを 超えて立っていた少女の姿だった。
茜
おい...何やって...
周囲の人々は、その少女の姿が 見えていないのか携帯に 目を向けていた。
茜
まさか...
と、その時 快速電車を知らせる アナウンスが鳴った。
それから間もなく 快速電車の姿が見えた。
茜
この...ッ‼︎
アタシは脇目も振らず 少女へ向かって走り 彼女の腕を掴んで ホーム側に引き寄せた。
茜
馬鹿かお前ッ‼︎何やってんだッ‼︎
遊
...えっ?
それがアタシと遊の出会いだった。
茜
はぁ...はぁ...
遊
何で...何で私を助けたの?
遊
トラウマになりたくなかったから?
遊
周りから称賛されたかったから?
茜
ちげーよ...
遊
じゃあ何でッ‼︎あともう少しで死ねたのにッ‼︎
遊
ふざけんなよッ‼︎お前のせいだッ‼︎お前のせいだお前のせいだお前のせいだぁぁッッ‼︎‼︎
茜
落ち着けよッ‼︎アタシはただ...
茜
茜
死ぬなら別の場所で死ねって言ってんだよッ‼︎
遊
...は?
遊
何...言ってんの...?
茜
アタシは貴重な学校生活を邪魔されたくねーんだよ‼︎
茜
なのにお前が人身事故を起こそうとしたから、アタシは止めたんだ‼︎
茜
アタシはなぁ...長い間病院で入院していて、ようやく今日から学校に通えるようになったんだよ‼︎
茜
だから...1分1秒も無駄にできねーんだ...
茜
だからお前はアタシに迷惑かけんな
茜
死にたいならアタシに迷惑がかからないところで死ね
茜
じゃあな
思っていた感情を吐き出し その場を去ろうとした時 その少女はアタシを呼び止めた。
茜
あ?何だよ
遊
わ、私のこと...可哀想と思って止めたんじゃないの...?
茜
...はあ?何で初対面の死にそうなヤツに可哀想って思わなきゃいけねーんだよ
遊
じゃあさ...死ぬのは悪いことだと思う?
茜
そんなん考えたことねーよ、本人次第だろ
遊
そ、そっか...
茜
もういいか?
遊
う、うん...
茜
じゃあ気を付けて帰れよ
そしてアタシはその場を 後にしようとした。
遊
あ、や...やっぱり待って‼︎
と再び呼び止められた。
茜
あ?何だよ
遊
あ、あのさ...初対面で言うのは間違ってるかもしれないけどさ...
遊
遊
と、友達にならない...?
茜
...は?友達?
茜
悪りぃけどアタシは急いでるかr
遊
じゃあ私は死ぬ‼︎
茜
はあ?
遊
選んで‼︎私と友達になるかどうか‼︎
茜
...だるっ
茜
(...まあ、目の前で死なれてもアタシの登校が遅くなるだけだしな)
茜
はい、友達な分かった分かった
茜
それじゃ
遊
まだ待って‼︎
茜
何だよ‼︎
遊
私と...“約束”してくれない?ずっと友達でいるって...
茜
何言ってんだお前
遊
“約束”が守られてる間、私は絶対に死なない...どう?
茜
付き合いきれねーな
遊
...いいの?遺書にあなたのことについて書くよ?
茜
なっ...
遊
ね?“約束”してくれる?
茜
...分かったよ
遊
あ、でもそうすると私にメリットがない‼︎
遊
じゃあ、“私の言うこと何でも聞いて”よ‼︎
茜
...は?
遊
あ、そんな酷いことは言わないよ‼︎
遊
例えば○○に行こう‼︎とか○○しよう‼︎とか友達としてできるようなことだけだから‼︎
遊
それでどう?
茜
...アタシのメリットは?
遊
え?分からないの?
遊
“約束”が守られてる限り、私が死なないことと遺書にあなたのことが書かれないことだよ?
遊
私のメリットが1つの代わりに、2つもメリットがあるじゃん
茜
(急に腹立つ態度になったな)
遊
で、どうかな?
茜
...分かったよ
遊
決まりだね‼︎
遊
そういえば、私の名前は風祭 遊‼︎あなたは?
茜
蛇ヶ崎 茜...
遊
制服同じ...だよね?私は1年A組なんだ‼︎
茜
げっ...
遊
もしかして...あなたもA組だったり?
茜
ああ...残念ながらな...
遊
じゃあ転入生...扱いなのかな?
遊
何はともあれ、これからよろしくね‼︎
こうした奇妙な“約束”が 遊との出会いだった。
瑠流
そんなことが...
瑠流
じゃあ2人が友達なのは“約束”した上でのものなの?
茜
まあ、そういうことだな
瑠流
でも2人は普段、仲良さそうに話したりしてるじゃん‼︎...それも嘘なの?
茜
ああ、そうだな
瑠流
そんな...
茜
アタシは自分の学校生活を、遊は友達がいるっていう自分を守るためにあの日“約束”をしたんだ
瑠流
じゃあさ...さっき話してたプレゼントとかいうのは何なの?
茜
それも聞いてたのか
瑠流
いや、そのフレーズが聞こえた程度だけど...
茜
なら、それもついでに話すか
茜
プレゼントっていうのは...
茜
茜
“約束”が最後まで守れたら、お互いに贈り物をしようっていう提案だ