テラーノベル
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Mr.ブラックの声は いつもよりも、少しだけ低く
その言葉には 揺るぎない決意が籠っていた
足音が廊下に響く度に
張り詰めた空気が ほんの少しだけ緩むのを
誰もが、感じていた
階段を降りれば 地上の柔らかな光は届かない
冷たく、無機質な壁に囲まれた 地下の空間へと、足を進める
呼吸は少しだけ浅くなり
体を包む空気は ひんやりと湿り気を帯びていた
辿り着いたのは 学校の地下にある、会議室
壁一面を覆う 大きなモニターが静かに待ち受け
広々とした円卓が 中心に鎮座している
端には簡易的なキッチンもあり
清掃が行き届いた床や棚は 薄暗い地下空間に清潔感を与えていた
埃一つ落ちていないその場所は
まるで
ここに来るべき者たちを 静かに迎え入れているようだった
皆、静かに席に着く
空気は重く 言葉を探す誰の顔にも
決意と不安が滲んでいた
「今、何を話すべきか」 「どんな声で、 どんな言葉を紡げばいいのか」
全員が胸の中で その問いと、格闘していた
俺は、勇気を出して口を開く
言葉が、喉に詰まりながらも 俺は言葉を続ける
重く、沈んだ空気に 時計の針の音だけが、静かに響いていた
そう言って、最後に扉の前で 1度だけ振り返った
教室の空気は 見慣れた風景のはずなのに
どこか、張り詰めて見えた
僕は思った
皆、いつもよりも “静か過ぎる”と
視線を避けるように俯く Mr.ブルー
手遊びをして誤魔化す Mr.銀さん
皆、どこかしら“違和感”があった
僕には、それが
「いつも通り」を 無理矢理演じているように見えた
だからこそ
教室から出た後も すぐには歩き出さなかった
足音を殺して 気配を消して────…
そっと、壁に背をつける
────ただの気のせいなら それでいい
……でも そうじゃなかったら…………
小さな声
だけど、はっきりと聞こえた
────それは Mr.銀さんの声だった
間を置かず
他の生徒たちも 同じ夢を見たと語り出した
ボソッと、小さく呟く
そして、 教室から足早に遠ざかるように──
僕は、屋上に向かった
柔らかな風が シャツの袖をふわり、と揺らす
朝の9時──── 空はすっかり明るく 遠くの街並みも、はっきりと見える時間帯 けれど、青空の下で感じるのは どこか遠い“痛み”だった
ぽつり、と呟く 口調は軽い でも、その目は閉じられ 廊下で聞いた言葉を反芻していた
『……すまない先生が 死ぬ夢だったんだ』
その言葉が 胸の奥に刺さったままだった
僕は、ゆっくりと 肩から滑らせるようにして 背中に装着されたエリトラの翼を広げた
金属と布の織り交ざる音が シャラン、と静かに響く 朝の光に 翼の縁が一瞬 白銀のように煌めいた
打ち上げ花火を取り出し 手の中でそっと握る 音もなく、風が通り抜ける 教室のあの静けさ、あの声たち 廊下越しに耳にした 生徒たちの「無理矢理な日常」 ────それらが 胸の奥で鈍く残響していた
空気は澄んでるはずなのに どこか、重たい 深く、深く息を吸う 心が少し、軋んだ
この言葉は 誰に向けたものでもない ────ただ、風に溶けていった 瞬間、地面を思いっきり蹴り上げる
花火が爆ぜる 火花を散らしながら パシュン、という音と共に 体は一気に空へと引き上げられた
エリトラの翼が風を捕え ぐん、と加速した
空を切る音が 耳元で低く唸った ひゅぅ、と鳴る音が まるで何かを告げるように 背後から追いかけてくる
飛び立ったその背中は 迷いを置き去りにしていった
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すまない先生……