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ライブまであと1週間。 哲汰はついに、学校にも来れなくなった。
「最後の追い込み」とメッセージには 書いてあったけど、 咲のスマホは静かだった。通知は来ない。
放課後の教室、咲はひとりで 机に突っ伏していた。 教科書は開いたまま、何も頭に入ってこない。
そんな帰り道――
昇降口へ向かう階段の踊り場で、 見覚えのある男が立っていた。
数週間前、何気なく言葉を 交わしただけの同級生。
ちょっと軽くて、けれど妙に距離の詰め方が 上手い男だった。
男子生徒
咲
男子生徒
咲は迷った。けれど、哲汰とも話せてない今、 誰かと話したい気持ちがあったのかもしれない。
咲
夜。待ち合わせの場所は、公園の奥のベンチ。
男は笑いながら、コンビニで買った ジュースを渡してくれた。 最初は他愛のない話だった。学校のこと、 最近の流行り、くだらない噂話。
けれど――
男子生徒
咲
男子生徒
咲の胸に、不意に冷たい不安が走った。 男の目が、笑っていないことに気づいた。
男子生徒
手首を掴まれた。 引き寄せられそうになって――
咲
咲は震える声で言った。 でも男の手は離れない。
男子生徒
逃げなきゃ。そう思った瞬間、 咲は力いっぱい手を振り払って走った。
靴が脱げかけても、後ろの呼びかけを無視して、必死に暗い公園を抜けた。
――胸が苦しい。足がもつれる。涙が滲む。
ようやく明かりのある道に出た時、 咲の心の中に浮かんだのは――哲汰の顔だった。
咲
その夜、咲は布団の中で ひとり声を殺して泣いた。
怖くて、悲しくて、情けなくて。 でもそれ以上に、 哲汰に「会いたい」と願っていた。