桃
桃
放課後の生徒会室
一人俺は書類を整理していた
別にこれぐらいなら 俺一人でできる作業だ
だから、まろたちには 先に帰ってもらった
何度も心配され止められかけたが なんとか押し切った
現にもう終わりが見えてきた
桃
桃
作業自体は30分程度で済んだ
やはり俺の見立て通り 一人でなんなく できる作業だった
そのことに安堵しながら 生徒会室を片付ける
そして戸締りを終え、 生徒会室を後にした
ガラガラガラ
桃
廊下の窓から入ってきた 西陽が俺の目を差す
その眩しさに目を細める
ふと、窓から運動場を 見下ろしてみた
運動部の生徒たちが 活動しているのが よく見えた
しかし、そんな情景とは 相まって校舎内は 静まり返っている
特に生徒会室がある辺りは 近くに部室として 使われている部屋がない
だから放課後はいつにも増して ガランとしているのだ
生徒会に入ったのは、 推しの情報を得るため
それは紛れもない事実だ
きっとこんなことが 周りに知られれば、 不純な動機だと怒られるだろう
それでも、生徒会長としての 仕事は真っ当しているつもりだ
この学校のために できる限りのことはしてきた
まろたちに心配されるぐらいは 無理もしてきた
桃
本当に、眩しいな…
俺にはあんな青春似合わない
ただひたすら資料と 睨めっこする生活が 俺の当たり前なんだ
彼らが光とするなら 俺は陰だ
ただこの学校と生徒のために 尽力する、それが俺の使命だ
〜♪
桃
どこからか聞こえてきた 歌のようなもの
軽音楽部の部室は 隣の校舎のはず…
だから何かの部活では ないはずだ
それに、なんだかその歌声に 引き寄せられる気がした
桃
桃
この辺りは備品置き場として 使われている
だから屋上くらいしか 生徒が自由に使える場所はない
そう思い、俺は屋上へと続く 階段へと足を向けた
近づけば近づくほど はっきりと聞こえてくる 力強くも優しい歌声
この声の正体、分かった気がする
邪魔するのは悪い気がしたが、 俺は思いに勢いよく 扉を開けた──
赤
桃
この聞いてるだけで 勇気のもらえる歌声
そしてそれを支える ギターの音色
そう、いつも画面越しに 恋焦がれていたりうら
現実見ろ、なんて 周りの人は俺に言った
俺だって分かってた
いつまでも二次元の相手に 本気になったって 報われないって
でも、転生したおかげで 実際に会うことができた
今でも夢みたいで いつか冷めてしまうん じゃないかって思う
だからこそ覚めないうちに 楽しむんだ
赤
赤
桃
赤
曲が終わった瞬間 勢いよく拍手する
りうらが目をまん丸にして 振り返る
赤
桃
赤
赤
桃
桃
桃
赤
さっきまでの 凛々しい表情とは 打って変わって
いつもと変わらない あどけない雰囲気の りうら
やっぱり推しと 話してるんだって思うと 緊張して声が震えそうになる
それでも、ただの先輩の フリをしてなんでもない ように振る舞う
桃
赤
桃
桃
赤
顔が赤く見えるのは 夕日のせい?
それとも照れているから?
もしくはどっちも?
なんて疑問は胸にしまった
赤
桃
赤
桃
赤
赤
桃
桃
赤
赤
かわいいなぁ
無邪気で弟っぽくて、 本当に、、、
桃
赤
桃
そう、なんでもない
そういうことに しておきたいんだ
俺の恋心はずっと 閉まっておくんだ
前世の頃からもし会えても 告白はしないって決めてたんだ
今、近くにいられるだけで 幸せなんだ
それ以上は望まない
これ以上の幸せを望む なんて傲慢だ
桃
赤
そう言いながらギターで 軽くリズムを弾くりうら
桃
赤
赤
桃
りうらは嬉しそうにギターを しっかりと構え直す
また真剣な表情に戻り ドキッとする
そしてアイコンタクトを 取り、歌い始めた
🐤と🍣
俺らの声と、ギターが合わさって 一つの音楽となっていく
不協和音になることなく 綺麗に合わさっている
その事実に胸が熱くなる
赤
りうらが優しく 俺に笑いかける
桃
そして俺も 笑顔を浮かべる
そんな俺たちを風が撫でる
ふんわりと優しい風に 包まれてずっとこのままで いたいと願ってしまう
幸せは有限だ
当たり前だと思っていた 幸せは一瞬にして 消え去ってしまう
りうらと今は 友達かもしれない
でもそれがいつまでも 続くなんて確証はない
…それでもこれからも この当たり前が 続くことを願う
俺の恋が叶わなくたって、 一緒にいられるならそれでいい
遠くからでも見守っていられれば それ以上の幸せはない
赤
赤
曲が終わり、 りうらに話しかけられる
桃
桃
赤
そうやって褒められたら 変に謙遜したりしないのも りうららしい
ゲームの中でも 褒めても照れたりしなかった
あぁ、なんかやだな
目の前のりうらと 前世の記憶の中のりうらを 重ねてるみたいで
赤
桃
確かに声の相性は 良かったと思う
…こういうのがゲームとの 違い、なのかな
俺のことをプレイヤー、 としてじゃなくて
ないこ、という一人の 人間として見てくれてる
それがこの世界が ゲームじゃなくて 現実なんだって 証拠な気がする
赤
桃
夕日より、 夕日を見つめるりうらに 見惚れてしまう
もちろん夕焼け空も 忘れられないぐらい 綺麗だ
真っ赤でなんの澱みもない その瞳が遠くを見据えている
それだけ、なはずなのに 目が離せない
赤
赤
桃
赤
桃
夕日のせいなんかに できないほど 顔が熱くて堪らない
りうらを見ていることが バレたことも、 それを揶揄われたことも 全部が恥ずかしい
時間が経つにつれ、 さらに顔に熱が 集まっていく
どうにか平常心を 保とうとするけど どうも上手くいかない
赤
赤
桃
深呼吸を繰り返し、 少し落ち着いた
なんだか情けない…
赤
桃
やだな、、、
楽しい時間が終わってしまう…
終わりが来るってわかってた
でも、二人きりになること なんて滅多にないから
だからもっと一緒にいたい
…俺にはそんなこと言う 勇気なんてない
だってりうらを 困らせたくないんだ
桃
赤
二人で荷物をまとめる
りうらがギターケースを 肩にかけたと共に 俺たちは歩き出した
話しながら歩いていれば 気がつけば校門に着いていた
俺たちの家は逆方向だから ここでお別れだ
赤
赤
桃
桃
赤
赤
桃
赤
桃
りうらが少し早足で 過ぎ去っていく
俺は、それをただ見つめている
あの小さくも頼もしい 後ろ姿と、
リュックの紐をただ 強く握りしめることしか できない俺
夕日に照らされ、より一層 燃えているように見える赤髪
俺にはそれがどんな 宝石よりも輝いて見えた
桃
俺は小さく呟いて、 帰路についた
コメント
4件