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善光 優斗

午前5時半。

善光 優斗

閉めたカーテンの隙間から朝日が差し込んで部屋を照らす。

善光 優斗

「…ん!…う〜ん」

善光 優斗

今日は5月6日。

善光 優斗

暖かくなってきたとはいえ、やっぱりまだ朝は寒い。

善光 優斗

起きようとは思うのだが、なかなか布団が僕を離してくれない。

おにーちゃん!!

善光 優斗

タッタッタと、部屋の外から廊下を駆ける音が聞こえた。

善光 優斗

僕から9つ歳の離れた6歳の妹の声だ。

善光 優斗

4月から新品の赤いランドセルを背負って、小学校に通っている。

朝だよっ!学校‼︎今日から学校‼︎

善光 優斗

ガチャッ!とドアを開けて、妹は僕の部屋に飛び込んで来た。

とりゃっ!!

善光 優斗

部屋に飛び込んで来るなり、布団を勢いよく引っぺがすと、寝ている僕に向かってダイブ。

善光 優斗

「うっ…、お、おはよう…優衣。」

善光 優斗

キャッキャと笑いながら優衣は僕に抱きついてきた。本当に可愛い妹だ。

優衣

今日から学校だよ!!お兄ちゃん今日から高校生!!

善光 優斗

優衣はハンガーに掛けられた新品のブレザーを指差しながら言った。

善光 優斗

そう、今日から僕の高校生活が始まるんだ。

善光 優斗

朝、通学路を歩くと一昔前の少女漫画の様に自己紹介したくなるのは日本人だからだろうか。

善光 優斗

まぁ、もしかしたら僕だけかも知れないけど。

善光 優斗

僕の名前は、善光優斗。

善光 優斗

血液型はA型。誕生日は4月25日。

善光 優斗

どこにでもいる、平凡で普通の高校生。

善光 優斗

今日は初めての高校登校日だ。

善光 優斗

…え?今日は5月6日じゃないか?何言ってんだ。だって?

善光 優斗

違うんだよ、これにはちょっとした事情があるんだ。

善光 優斗

話は少し過去に遡って、確か3月31日の事。

善光 優斗

春休み最終日。

善光 優斗

昼頃に、僕はお母さんから頼まれて買い物に行ったんだ。

善光 優斗

その帰り道の事だった。

善光 優斗

僕が道を歩いていると、歩道橋の階段の真ん中でおばあさんが座り込んでいた。

善光 優斗

おばあさんの傍には、おばあさんと同じくらい大きな荷物。

善光 優斗

おそらく、歩道橋を渡ろうと思ったが、荷物が重く、さらには長い階段もあいまって、辛くて休んでいるんだろう。

善光 優斗

僕は今、片手なら空いている。

善光 優斗

僕はおばあさんを助けようと思い、歩道橋の階段を少し駆け足で登った。

善光 優斗

「あのぉ、大丈夫ですか?もし良かったらぁあああああっ!」

善光 優斗

僕の足は何か踏ん付けて空回り、後ろに倒れる。

善光 優斗

目の前に広がるのは、雲一つない綺麗な青空。

善光 優斗

そこに宙を舞う、黄色いバナナの皮。

善光 優斗

僕は脚を滑らせて、階段から転がり落ちた。

善光 優斗

年齢にそぐわないほど素早く階段を駆け下り、大丈夫かと僕の顔を覗き込むおばあさん。

おばあさん

大丈夫かい!?アンタぁ!!

善光 優斗

「だっ、大丈夫…じゃないかもです…。」

善光 優斗

全身の痛みに耐えながら、何とか返事した。

善光 優斗

その後の事はあんまり覚えてない。

善光 優斗

そして、僕が目を覚ました時、最初に目に入ったのは病院の天井だった。

善光 優斗

…とまぁ、それから一か月は学校を休んでたんだ。

善光 優斗

ゴールデンウィークが終わって、そして今日が待ちにまった登校日だ。

善光 優斗

午前8時40分。

善光 優斗

僕と担任の先生、常安先生と2人で静かな廊下を歩いていた。

善光 優斗

この学校では8時半からHRが行われるらしい。

善光 優斗

静かな廊下で、僕と先生の足音が響く。

常安先生

着いたぞ。

善光 優斗

先生が足を止めたので、僕も止まった。

善光 優斗

【1-A】僕はA組か。

常安先生

俺が先に入るから、後ろについてこい。自己紹介してもらうから。

善光 優斗

先生の言葉に僕は頷くと先生は教室の扉をガラガラと開けた。

常安先生

おはよー。

善光 優斗

先生は気怠げに挨拶をすると、目線で僕に来るように言った。

善光 優斗

周りの目線に冷や汗をかきながら、僕は黒板の前に立った。

常安先生

ほれ、自己紹介。

善光 優斗

先生にチョークを渡され、僕は少し呼吸を整えると、黒板に名前を書く。

善光 優斗

「善光優斗です。よろしくお願いします。」

善光 優斗

僕が自己紹介を終えると、パチパチと軽く拍手があった。

常安先生

お、シンプルだな。シンプルイズザベストだ。

常安先生

…まぁ、移動教室の事とか周りも教えてやれよ。

常安先生

さ、授業だ授業だ。

常安先生

善光の席は一番後ろの、窓側から二列目だ。

善光 優斗

先生が指差した席に向かうと、僕の両隣が目に入る。

善光 優斗

僕の右側の奴は、爆睡していた。

善光 優斗

セミロングほどの髪の毛をくくっているが、体格的に男だろうな。

善光 優斗

窓側の方は…

善光 優斗

窓側の方の奴は、つまらなさそうに爪をいじっていた。

善光 優斗

僕がよろしくと声をかけても、チラリと見て終わった。なんだか、近寄りがたい。

善光 優斗

ただ顔は、カッコよかったと思う。アイドルが全員同じ顔に見れる僕でも、カッコいいと思うほど、カッコよかった。

常安先生

えー、じゃあ授業するぞ。

常安先生

教科書の…

善光 優斗

先生がカリカリと黒板に文字を書いていく。

善光 優斗

よかった。一応休みの間に予習しておいたから、何とか着いていけそうだ。

常安先生

えー、じゃあこの問題を…

善光 優斗

先生が僕の方を見た。え、ひょっとして僕だろうか?

常安先生

銭場。

善光 優斗

先生が目線を僕から隣に動かした。

善光 優斗

先生の目線の先には爆睡してる奴。銭場って言う名前らしい。

常安先生

銭場〜!

善光 優斗

隣の奴は先生の声でビクって起きた。

銭場 守

っつー、あー、はぁい、その問題ねぇ…。

善光 優斗

しどろもどろになりながら彼はキョロキョロ視線を動かす。

善光 優斗

僕はノートに大きく答えを書くと、さりげなく彼に見えるようにした。

銭場 守

!?っあ、13っす。

常安先生

おけおけ、じゃあ続きは…。

善光 優斗

良かった。ちゃんとあっていたようだ。

善光 優斗

僕が授業の続きを書こうとすると、隣からトントンと軽く肩を叩かれた。

銭場 守

(さっきはサンキュ!)

善光 優斗

彼は小声でそういうと、ようやくノートを取り始めた。

常安先生

えー、じゃあここまで。じゃ。

善光 優斗

そういうと、チャイムが鳴り終わると同時に先生は教室を出て行った。

善光 優斗

次は、英語か…教室は…

銭場 守

英語は教室移動無いぞ。

善光 優斗

声の方を見ると、さっきの爆睡していた奴がいた。

善光 優斗

「そうなんだ、ありがとう。」

善光 優斗

えっでも何で彼は、僕が教室探してるってわかったんだ?

銭場 守

めっちゃキョロキョロしてたから、教室移動の事かなーって、思ったんだけど、あってた?

善光 優斗

「あってたよ、すごいね。」

銭場 守

へへっ、さっきのお礼。

銭場 守

俺は、銭場守。お前は?

善光 優斗

僕は善光優斗。今日が初登校。

銭場 守

あ〜、ずっと来てなかった奴か。

銭場 守

なんかあったん?

善光 優斗

「うん、実は…」

善光 優斗

僕は入学前の話をすると、銭場君はゲラゲラ笑った。

銭場 守

ハッハッハ!

銭場 守

ドンマイだったな!けど、バナナの皮って、マジで滑るんだ!へぇ〜!

善光 優斗

それから銭場君と他愛のない会話をした。

善光 優斗

銭場君はリアクションが大きくて、話しやすかった。

善光 優斗

…銭場君と、友達になれるといいなぁ…。

善光 優斗

夜ご飯を食べて、お風呂に入って、

善光 優斗

机に向かって勉強をする。

善光 優斗

中学生ぐらいからだろうか、勉強を習慣にするようにしたのは。

善光 優斗

最初は憂鬱だったけど、今では反対に勉強しないと、落ち着かない。

善光 優斗

「…っと、よし。」

善光 優斗

区切りがいいところまで終わると、ぐーっと体を伸ばす。

善光 優斗

今日は初めての登校日だったけど、無事に終わって良かった。

善光 優斗

…銭場君…だっただろうか。

善光 優斗

彼と仲良くなれたらいいなぁ…。

善光 優斗

一緒に喋ってて楽しかったし。

善光 優斗

あと、せめてもう一人仲良くなれると助かるんだけどなぁ。

善光 優斗

ん…まぁ、まだまだこれからだし、明日からも頑張ろ!

銭場 守

善光〜プリント見てくり〜。

善光 優斗

「はーい。」

銭場 守

あり〜カンシャカンシャ。

善光 優斗

「はーい。」

銭場 守

善光〜ノート見せて〜。

善光 優斗

「ほい。」

銭場 守

あり〜。

善光 優斗

「うぃ。」

銭場 守

善光〜昼飯くれ〜。

善光 優斗

「ぁーい。」

銭場 守

うめぇうめぇ。

善光 優斗

「なによりで。」

銭場 守

いーつも、すまないねぇ。

善光 優斗

「それは言わない約束でしょ。」

善光 優斗

僕が登校してから一週間、銭場君と仲良くなった。

善光 優斗

銭場君は母子家庭らしく、学校が終わったら毎日アルバイトしているらしい。

善光 優斗

まぁ、お金は全部自分の懐に行くみたいだが。

善光 優斗

だから授業中は、いつも疲労で爆睡しているらしい。

善光 優斗

お昼も昼代を浮かす為だと言って食べない。

善光 優斗

せっかくだからと、銭場君の分のお弁当も作って持って行ったらとても喜んでくれた。

銭場 守

善光偉いな、毎日自分で昼メシ作ってて。

善光 優斗

「そんな事ないよ。」

善光 優斗

「それだったら、銭場君の方が偉いよ。毎日働いてるんだから。」

銭場 守

そうか?けど俺仕事適当だからな。

銭場 守

今俺の仕事アレなんよ、カニの中にビニールの紐入れる仕事。

善光 優斗

「あれ、手作業で入れてたの…。」

銭場 守

まじまじ。

常安先生

善光、ちょっといいか?

善光 優斗

銭場君とお昼を食べながら喋っていると、先生が話しかけてきた。

常安先生

善光、お前が休みの間に委員会決まったんだよ。すまんな。

常安先生

今日の放課後、図書室に行ってくれないか?

常安先生

お前図書委員だから、それの説明もあると思うわ。

善光 優斗

「あっ、はい。わかりました。」

常安先生

まぁ、金満も図書委員だから、金満頼むわ〜。

善光 優斗

金満?

善光 優斗

先生が呼びかけた方を見ると、そこには、あのイケメンがいた。またつまらなそうに爪をいじっている。

金満 潤

……

常安先生

……まぁ、なんか、こう、とりあえず今日の放課後図書室な。

常安先生

よろしく〜。

善光 優斗

先生はそういうと教室を出て行った。

銭場 守

善光大変だな。

善光 優斗

「ん?あぁ、まぁ放課後面倒だよね。」

銭場 守

ちげぇよ、ちょっと耳貸せ。

善光 優斗

銭場君はゴニョゴニョと小声で僕に話す。

銭場 守

(お前、金満だぞ?)

善光 優斗

(えっ、何、金満って人ヤバいの?)

銭場 守

(ヤバいっていうか、金満財閥の御曹司!めっちゃ金持ちで、めっちゃ態度でけぇの!)

善光 優斗

金満財閥…!

善光 優斗

金満財閥といえば、世界トップクラスの大金持ち。

善光 優斗

あらゆる事業に大抵金満財閥が関わっている。金満の名前は人生で何度も聞く名前だ…。

善光 優斗

「はーっ、すごいねぇ。」

銭場 守

すごいねぇって、お前…まぁ、頑張って。

善光 優斗

銭場君は僕に何故か哀れむような目を向けると敬礼をした。

善光 優斗

放課後

善光 優斗

僕は金満君と2人で、図書室の受付をしていた。

善光 優斗

といっても放課後の図書室は人が少なく、ほとんど仕事が無い。

金満 潤

……

善光 優斗

受付で僕の隣に座る金満君は、何やら難しそうな本を読んでいる。

善光 優斗

…せっかくだから、教室でも隣どうしだし、なんか喋った方がいいかなぁ。

善光 優斗

「ねぇ、金満君。何の本読んでるの?」

金満 潤

……

善光 優斗

……

金満 潤

…ハァ。

善光 優斗

…あんま、聞かれたくなかったのかな。

金満 潤

なぁ、それを聞いてお前に何か得でもあるのか?

金満 潤

わざわざ俺の邪魔をしてまで、お前に説明しないと駄目か?

金満 潤

いちいちくだらない事で話しかけるな。

善光 優斗

……

善光 優斗

…なんだこいつ。

善光 優斗

なんだこいつ!?

善光 優斗

あーっ、そうですかそうですか!

善光 優斗

わるかったなぁ!!じゃあもう二度と、テメェに話しかけねぇよ!

善光 優斗

なんて。

善光 優斗

喉まで出かかった言葉を何とか飲み込んだ。

善光 優斗

「じゃ、邪魔しちゃったね…ごめん。」

善光 優斗

銭場君のあの目の理由がわかった。

善光 優斗

こいつ…クソウゼェ…!

銭場 守

ほらな、言っただろ。

善光 優斗

次の日、僕は昨日あった事を銭場君に話した。

銭場 守

あいつ俺が話しかけたときもさぁ。

銭場 守

チッ

銭場 守

って、舌打ちしてきやがったからな!

銭場 守

なんなんあいつ!?

銭場 守

あの全人類を見下したような目つきはよぉ!

銭場 守

お前ほんと…災難だな。

善光 優斗

「代わろうか?」

銭場 守

絶対無理!あいつのあの目つきヤベェだろ?

銭場 守

絶対5、6人はぶち殺したような目してんじゃん。

善光 優斗

「んまぁ、ちょっと怖いよね。」

銭場 守

ちょっとどころじゃねぇだろあれは…。

善光 優斗

「別に目つきとかは、気にならないんだよなぁ。」

善光 優斗

「あの態度は結構イラってしたけど。」

善光 優斗

「いや確かに、集中して読んでる最中に話しかけた僕も悪いけどさぁ…。」

銭場 守

まぁ普通そんな態度を取るなって話だよな。

銭場 守

気使って話しかけてんだから。

善光 優斗

「けどもう今度からは話かけないよ。」

善光 優斗

「腹立つし。」

銭場 守

それが一番いいだろ。次いつ行くんだ?

善光 優斗

「あぁ、交互に来て欲しいって。」

善光 優斗

「当番→休み→当番休み、みたいな。」

善光 優斗

「だから今日は休みで、明日の放課後また行くよ。」

銭場 守

休みか、よかったな。俺は今日もバイトだわ〜。

善光 優斗

「毎日頑張るねぇ〜。」

銭場 守

ほんともぉ、ダルいわ。

銭場 守

俺も楽して金稼ぎてぇなぁ。

銭場 守

好きな事で食っていきたい。

善光 優斗

「もうなるしかないじゃんチューバに。」

銭場 守

なるわ俺。
動画王になるよ。

善光 優斗

「応援してる。なんかやらかした時こう言うよ。」

善光 優斗

「彼はいつかやると思ってましたって。」

銭場 守

おう、頼むわ。

銭場 守

まず手始めに。

銭場 守

今流行りの私人逮捕系目指すわ。

善光 優斗

「いいじゃん、最後は自分が捕まるっていう感動モノだね。」

銭場 守

そうそう。

善光 優斗

そんなしょーもない話をして、今日も一日が終わった。

善光 優斗

次の日の放課後

善光 優斗

僕はまた金満君と受付をしていた。

善光 優斗

今日の天気は雨で、いつも人が少ない図書室が、さらに人がいなかった。

善光 優斗

最後の一人が出て行って、今図書室にいるのは、受付の僕らだけになった。

金満 潤

……

善光 優斗

金満君はまた難しそうな本を読んでいた。

善光 優斗

僕ももう気にせずに、好きな本でも読もう。

善光 優斗

本を選びに席を立ったその時だった。

金満 潤

なぁ

善光 優斗

何と金満君が話しかけてきたのだ。

善光 優斗

「ん?どうしたの?」

善光 優斗

金満君は読んでいた本をバタンと閉じると、僕の目を見ていった。

金満 潤

お前はアイツにずいぶんと献身的だな。

金満 潤

そこまでして、一人になるのが怖いのか?

善光 優斗

…アイツ?

善光 優斗

…銭場君のことか?

善光 優斗

「んー、銭場君の事かな?」

金満 潤

言わないとわからないのか?

金満 潤

それとも自覚が無い馬鹿なのか?

善光 優斗

…一言余計なんだよなぁ。

善光 優斗

「ははは…。」

金満 潤

質問に答えろ。

金満 潤

それとも覚えてないか?お粗末な脳みそだな。

善光 優斗

……

善光 優斗

「…覚えてるよ。」

善光 優斗

「"一人になるのが怖いのか?"だったよね?」

善光 優斗

「ん…まぁ、一人よりは、何人か友達いた方がいいんじゃないかなぁ。」

金満 潤

ふーん、そうかそうか。

善光 優斗

僕の答えを聞いた金満君は馬鹿にしたようにニヤニヤと笑った。

金満 潤

ったくお前らは、群れてないと本当に何も出来ないんだなぁ!

善光 優斗

…はぃ?

金満 潤

お前らは群れてないと本当に何も出来ない弱者だ。

金満 潤

自分の意見も、意思も思考も誇りも、自己も何も無い。

金満 潤

周りの顔を見て媚びへつらって生きる。どうしようもない連中だ。

金満 潤

本当に哀れで泣けてくるなぁ!

善光 優斗

…どうしたんだコイツ。急にめっちゃ語り始めたぞ。

金満 潤

お前は気づいていないのか?

金満 潤

お前はあの貧乏人に利用されてるんだよ!

善光 優斗

……

金満 潤

あの怠惰で自堕落でどうしようもない貧乏人に同情して!

金満 潤

飯を恵んでやったり、課題やら何やら色々面倒見てやってるだろ?

金満 潤

あれをアイツが、本当に感謝していると思うのか?

金満 潤

いいやっ!してないな!

金満 潤

お前の事なんて、都合のいい便利な奴程度にしか思って無い!

善光 優斗

……

金満 潤

あーあ、本当に哀れだな。

金満 潤

お前らの友愛だの友情だの、ぜーんぶもっろいもっろい安っぽいしょーもないゴミみたいな友情。

金満 潤

なぁ?教えてくれ?

金満 潤

何でそんな都合良く利用されてるのに、友達面出来るんだ?

金満 潤

何でそんな安っぽい青春友情ごっこ出来るんだ?なぁ、教えてくれよ!

善光 優斗

…金満君はゲラゲラ笑いながらそう言った。

金満 潤

アイツの友達なんだろ?

金満 潤

なぁおい、答えてくれよ。

金満 潤

それとも…。

金満 潤

俺から聞くまで、都合良く利用されてるって気がつかなかったのかぁ?

金満 潤

だとしたらおめでたい脳みそだなぁ!羨ましい、大層幸せで惨めな人生送って来たんだろうなぁ!

善光 優斗

…長いんだよなぁ話が。

善光 優斗

僕は金満君がゲラゲラ笑ってるのを無視して、本を取りに立ち上がった。

金満 潤

なぁなぁ早く答えてくれ!

善光 優斗

金満君の話をガン無視しつつ、僕は適当に本を一冊取ると、また受付に戻り、本を読み始めた。

金満 潤

善光 優斗

すると、金満君の不快な笑いはピタリとやんだ。

金満 潤

…おい、質問に答えろ。

善光 優斗

本から目を離さなくてもわかる。

善光 優斗

金満君はおそらく僕をあの目で睨みつけてるだろう。

金満 潤

…おい、お前、この俺に対して喧嘩売ってるのか?

善光 優斗

僕は本から目を外す事なく言った。

善光 優斗

「…ねぇ、それを聞いて何か金満君に得でもあるの?」

金満 潤

…なっ!

善光 優斗

「わざわざ僕の邪魔してまで、金満君に話さないとダメな感じ?」

善光 優斗

「いちいちそんなくだらない事で、話しかけないでもらえる?」

金満 潤

…お前…!

善光 優斗

「別に?金満君のマネしただけだよ?」

金満 潤

……!

善光 優斗

…あっ

善光 優斗

金満君は僕の読んでいた本を奪い取って放り投げた。

金満 潤

…いいから質問に答えろよ。

金満 潤

それとも何か、もう一度、この俺が、説明してやろうか…?

善光 優斗

……

善光 優斗

「…何で利用されてるのに、友達面出来るんだ?って質問だよね?」

善光 優斗

「僕個人の答えとしては、友達ってそういうもんだから。」

金満 潤

……はぁ?

善光 優斗

「だって、僕だって利用してるし。」

善光 優斗

「別に僕は同じクラスで仲良い人が一人か二人いたら誰でも良かったんだよ。」

善光 優斗

「銭場君にしたのは、彼が最初に話しかけて来たのと、弁当と課題見せてりゃ友達になれたから楽だったんだよ。」

善光 優斗

…まぁ、僕が作ったお弁当美味しいって言ってくれたのもあるけど。

善光 優斗

「じゃあ何で友達作るのかって話になるけどさぁ。」

善光 優斗

「友達いたら便利じゃん。」

善光 優斗

「学校生活送ってたら、友達いないと不便な時、結構あるでしょ?」

善光 優斗

「二人でペア作ってくれだとか。」

善光 優斗

「ノートや物の貸し借り。」

善光 優斗

「今適当にありそうな2つ軽く上げたけど、探したら名前は無いけどもっとたくさんあると思うよ。」

善光 優斗

「それに、ボッチがダメだとは言わないけどさ、やっぱり浮きたくないじゃん。」

善光 優斗

「クラスメイトから名字さん付けで呼ばれたり、変な気とか使われたら嫌だし。」

善光 優斗

「銭場君も僕の事利用してると思うよ。僕も銭場君の事利用してるし。」

善光 優斗

「だからね、友達がいたら便利なの。銭場君がいたら助かるの。」

善光 優斗

「っていうか、たぶん僕らみたいな人いっぱいいると思うよ。」

善光 優斗

「学校って言わば小さな社会みたいなもんでしょ?そこで孤立はキツいよ。」

善光 優斗

「たとえ面倒でも適度に合わせておいた方が、メリットも多いんだよ。」

金満 潤

……

善光 優斗

「安っぽい青春友情ごっこ?だったっけ?」

善光 優斗

「そうだけどそれが何?」

善光 優斗

「たぶん高校時代の友達なんて、大人になったら疎遠になるんじゃない?」

善光 優斗

「これからの人生まだまだ長いんだし、環境とか生活が変われば人間関係とかも変わるでしょ。」

善光 優斗

「あとさぁ、これは僕のえっぐい偏見なんだけどさぁ。」

善光 優斗

「学生時代にちゃんと青春送れなかった奴ってさぁ、やっぱりちょっと変なんだよ。」

善光 優斗

「僕も人の事は言えないけど、青春送れなかった奴って」

善光 優斗

「人との距離感バグってたり、冗談、お世辞、皮肉が通じなかったり。」

善光 優斗

「空気読めなかったり、人の話聞かなかったり、周囲に合わせようとしなかったり。」

善光 優斗

「そのくせ自分は正しいと思い込むから、面倒極まりないんだよね。」

善光 優斗

「鏡見たらわかると思うんだけどさ。」

金満 潤

……

善光 優斗

「周りに媚びへつらってる?だっけ?」

善光 優斗

「それ金満君の周りの人が大人で、気を使ってくれてた。の間違いじゃなくて?」

善光 優斗

金満君はプルプルと手を振るわせている。かなり怒っているようだ。

善光 優斗

…言ってやった言ってやった言ってやった!

金満 潤

……

善光 優斗

「もう僕に用無いよね。」

善光 優斗

僕は金満君が投げた本を拾うと、また席に戻って読み始めた。

善光 優斗

何だか言い過ぎたかも知れない。

善光 優斗

まぁでもいいや。こんだけ言やぁもう向こうも話しかけてこないだろう。

善光 優斗

僕は気分良く本を読み始めた。

金満 潤

…チッ

善光 優斗

すると突然、右足首に激痛が走った!

善光 優斗

「いっ…ちょ、ちょっと金満君何で蹴るの!?」

金満 潤

……フンッ!

善光 優斗

金満君はそっぽ向いて不貞腐れていた。

善光 優斗

こっ、こいつ…!子供か!!

善光 優斗

次の日

善光 優斗

「はいこれ!今日のお昼!」

銭場 守

おぉ!さんきゅさんきゅ!

善光 優斗

僕はいつものように、銭場君にお昼を渡していた。

銭場 守

うまうま。

善光 優斗

銭場君は僕の作ったお弁当を美味しそうに食べてくれるから、作った側としてもとても嬉しい。

善光 優斗

僕も食べようと、自分のお弁当に箸を付けようとしたその時だった。

善光 優斗

僕の後ろからひょいっと手が伸びて、玉子焼きを取られた。

善光 優斗

「あっ!」

善光 優斗

僕が後ろを振り返ると、もぐもぐと金満君が口を動かしていた。

善光 優斗

金満君の喉仏がゆっくりと上下する。

金満 潤

お前…図書室であれだけ熱心に料理本読んでるわりに、対して上手くないんだな。

善光 優斗

ふーん、と言いながら金満君が僕の事を見下ろしていた。

銭場 守

うぉ!金満!

金満 潤

……

善光 優斗

金満君が銭場君をジッと見る。まるで品定めするみたいな、けど冷たい目で。

銭場 守

なっ、え?何?

金満 潤

…お前、こいつに利用されてるぞ?

銭場 守

は?

善光 優斗

……は?

善光 優斗

そう言って金満は、僕の事を指差しやがった。

金満 潤

聞こえなかったのか?

金満 潤

もう一度言ってやるよ。

金満 潤

貧乏人、お前はこいつに利用されてるんだよ。

銭場 守

んえぇ?何言ってんの?

善光 優斗

「そうだよ金満君、何言って…。」

金満 潤

お前に話してない。

善光 優斗

僕が止めるより先に、金満君が僕を睨みながらそう言った。

金満 潤

よく聞け貧乏人、この善光優斗という奴はな。

金満 潤

別に一人にならなければ誰でも良いらしいぞ。

金満 潤

一人が嫌だから、お前に寄生しているだけだと。

金満 潤

一番馬鹿で利用しやすいからってなぁ。

善光 優斗

金満君がまたイヤな笑みを浮かべて言った。

善光 優斗

けどちょっと待って…!

善光 優斗

「僕馬鹿とは言ってないよ!」

金満 潤

あぁ?

善光 優斗

そこ間違えてもらっちゃ困る。変な誤解を招いたら面倒だ。

銭場 守

馬鹿"とは"言ってないのね。とは。

善光 優斗

……

善光 優斗

……

善光 優斗

「いや、違うんだよ銭場君!」

善光 優斗

「ご、誤解だって!」

銭場 守

あっ、あーふーん。

善光 優斗

「利用とかそんなんじゃなくて。」

善光 優斗

「僕遅れてこのクラス来たけど、友達出来るから不安だったから!」

善光 優斗

「だから、友達出来て良かった的な!」

銭場 守

ほーん、なるほどねぇ。

金満 潤

おい、言ってた話しが違うじゃないか善光優斗。

金満 潤

もう一度俺から言ってやろうか?

善光 優斗

「余計な事言うな!」

銭場 守

余計な事。ほーん。

善光 優斗

いやっ、だからその、違うくて。

銭場 守

俺ショックだよ。

善光 優斗

…銭場君。

銭場 守

まぁけど何となくそんな気はしてた。

善光 優斗

……

銭場 守

善光、平日の夜しか会ってくれないもんなぁ。

銭場 守

結婚したいって言ってもはぐらかすし。

銭場 守

土日に電話したらめっちゃ怒ってくるし。

銭場 守

ひょっとして、既婚者…?

善光 優斗

違うよ。

善光 優斗

愛してるのは銭場君だけ。

善光 優斗

ちょっと仕事が…だからごめんね、なかなか時間とってあげれなくて…。

銭場 守

嘘よ…私知ってるわ!アナタ奥さんいるでしょ!

善光 優斗

違う、違うんだよ!

銭場 守

やめて!触らないで!

善光 優斗

違うんだって!

金満 潤

……

善光 優斗

僕達が茶番を繰り広げていると、金満君が無言で机をダンッと蹴った。

銭場 守

すみませんでした。

善光 優斗

「すみませんでした。」

金満 潤

……

銭場 守

…えー、まぁ別に利用でも何でもいいよ。

銭場 守

善光おもろいし。

銭場 守

楽しけりゃそれでいいわ。

善光 優斗

…銭場君!

金満 潤

……チッ。

銭場 守

金満、用はそれだけか?

銭場 守

ねぇなら飯再開するわ。

善光 優斗

そう言って再び箸を動かそうとした銭場君の目の前に。

銭場 守

おぉ…マジか。

善光 優斗

ドサッと分厚い札束が置かれた。

金満 潤

そうかそうか。

金満 潤

素晴らしい友情だな。思わず涙が出そうだ。

金満 潤

ならお前、500万やるから善光と友達をやめろ。

善光 優斗

…金満君は何がしたいんだ?昨日僕がボロクソ言ったの根に持ってんのか?

銭場 守

あのなぁ、やめろよ!

銭場 守

友情を金で試すとかそういうの!

銭場 守

たかがこんなはした金で、やめるわけないだろ!!

善光 優斗

銭場君…!

金満 潤

じゃあ返せ。

銭場 守

いや…んまけど…。

善光 優斗

銭場君…?

銭場 守

別に貰うわけじゃねぇよ?

銭場 守

とりあえず…しばらく俺の鞄の中入れといていい?

金満 潤

あぁ、善光を切るんだな。

善光 優斗

「銭場君!」

銭場 守

切らねぇよ!?切らねぇけど!

銭場 守

お金は貰っちゃダメ?

善光 優斗

「返しなさい銭場君。」

金満 潤

やるよ貧乏人、友情なんか捨てちまえ。

銭場 守

いや、んー、やっぱお金…。

善光 優斗

「税金かかるよ。」

銭場 守

え…?

善光 優斗

「贈与税とか、かかるんじゃない?」

金満 潤

黙ってればバレない。問題無い。

善光 優斗

「けどバレたら後々面倒だよね?」

善光 優斗

「追加で金かかったりするし。」

金満 潤

バレなければいいだけだ。

善光 優斗

「僕の事切ったら僕がチクるからね。」

銭場 守

善光テメェ。

善光 優斗

「銭場君、僕ら友達だろ?ずっと一緒だよぉ。」

善光 優斗

「金満君、500万返すよ。」

善光 優斗

「僕らの友情を引き裂こうとする者は何人たりとも許さないよ。」

銭場 守

善光お前ホントいい性格してるよな。

金満 潤

本当に本当にいらないのか?貧乏人。

銭場 守

…返すよぉ。

善光 優斗

銭場君は血の涙を流しながら金満君にお金を返した。

銭場 守

…うっ、うう…うう。

善光 優斗

金満君は返されたお金を、眉間にシワを寄せて見ている。

金満 潤

…そうか、善光お前必死だなぁ。

金満 潤

そこまでして一人になりたく無いのか。

銭場 守

そうだよ、善光俺の事ラブだからな。

善光 優斗

「そうだよ愛してるよ。」

金満 潤

はっ、よく言う。

金満 潤

お前が好きなのは都合のいい便利な"友達という関係"だろ?

善光 優斗

「…なんでそんな酷い事言うの?」

銭場 守

否定しねぇんだな。

金満 潤

だがそうかそうか…。

善光 優斗

金満君は今度は僕の方を品定めし始めた。

善光 優斗

ニヤニヤと目を細めながら、上から下まで僕を眺める。

金満 潤

善光優斗。

善光 優斗

「なっ、何?」

金満 潤

友達という関係なら誰でもいいんだよなぁ?

金満 潤

俺がその関係になってやる。

善光 優斗

「えっ?」

金満 潤

その代わり、その貧乏人を切れ。

銭場 守

……え。

善光 優斗

……おっ。

金満 潤

お前の事を使ってやるよ。

金満 潤

だからそいつを切れ。

善光 優斗

「…金満君。」

金満 潤

俺と組んだ方がお前にとってもメリットが多いだろう。

金満 潤

俺は金満の人間だ。

金満 潤

俺の後ろを付いて歩ける。それがどれだけ素晴らしいことか、わからんほどお前は愚かじゃないだろ。

善光 優斗

……

金満 潤

俺と組むならその貧乏人は不要だろ?

金満 潤

俺の方が全てにおいて、そいつを上回っている。

金満 潤

お前だって、こんな奴よりも俺のような優秀な人間に尽くしたいだろ?

金満 潤

いいぜ…許可してやるよ。俺の後ろにつく事を。

善光 優斗

…あらぁ金満君。

善光 優斗

「金満君、僕と友達なりたいの?」

金満 潤

…あぁ?

金満 潤

違うな。お前からなりたいって俺に懇願するんだ。

金満 潤

友達という都合のいい関係にな!

善光 優斗

金満君の発言を聞いて、僕も銭場君もニヤニヤが止まらない。

銭場 守

金満君素直になりなさいって。

銭場 守

善光と仲良くなりたいんだろ?ツンデレしちゃって。

金満 潤

あ?殺すぞ。

善光 優斗

「まぁまぁまぁ。」

善光 優斗

「金満君、僕と友達になってください。」

金満 潤

……それが人にものを頼む態度か。

金満 潤

土下座しろ。

善光 優斗

…え。

銭場 守

金満、ちなみに俺とは友達にならねぇの?

銭場 守

土下座した分だけ金くれたりする?

金満 潤

貧乏人口を開くな、ぶち殺すぞ。

金満 潤

さぁ善光優斗早くしろ。

金満 潤

そこの貧乏人を切れ。

金満 潤

そして俺に「友達になってください」って、懇願しろ。

銭場 守

金満君お金ください。

金満 潤

次喋ったら本当に殺るからな。

金満 潤

さぁ!早く!善光優斗!!

善光 優斗

「じゃあいいです。」

金満 潤

…はぁ?

善光 優斗

金満君は信じられないという顔をしていた。

善光 優斗

むしろ、何であの態度でこいつはいけると思ったんだ?

金満 潤

お前…本当に愚かだな。

金満 潤

…その頭は飾りか?明らかにそいつよりも、俺の方がいいだろ。

善光 優斗

「性格がちょっと…。」

金満 潤

あぁ?お前が求めているのは都合のいい友達だろ?

金満 潤

誰でもいいと言っただろう。

金満 潤

俺も都合のいい友達とやらが欲しくなったんだ。

金満 潤

いたら便利そうだからな。

金満 潤

だからお前を使ってやると言ってるんだ!

金満 潤

なぜ俺を選ばない!!

善光 優斗

金満君は怒りに震えながら、早口で口調を荒げながら言った。

善光 優斗

「ん〜、まぁ確かにそうだけどさぁ。」

善光 優斗

「けど限度ってもんがあるじゃん。」

善光 優斗

「金満君一言余計だし、言い方キツいし、見下してくるし、一緒にいたくないよ。」

金満 潤

俺だって見下したくないが、お前らが能無しだから見下してしまうんだ。だからお前らが悪い。

善光 優斗

「んんっ!そっかぁ…。」

善光 優斗

「けどなぁ…。」

善光 優斗

「別に銭場君で足りてるから、銭場君切ってまで金満君と仲良くするメリットないんだよなぁ。」

銭場 守

ん?善光?

金満 潤

あ?

善光 優斗

「たとえば、銭場君とも友達。金満君とも友達だと助かるんだよ。」

善光 優斗

「もし銭場君が風邪引いた時とか、
ちょっと距離出来た時とか金満君に乗り換えれるし。」

善光 優斗

「保険みたいな?友達2人いたらさ、代えが出来て何かと安心だし。」

銭場 守

……

善光 優斗

「転ばぬ先の杖、的な。」

銭場 守

善光お前、赤い血流れてるよな?

銭場 守

怖いんだけど、善光の闇を見てしまったんだけど。

金満 潤

……

善光 優斗

「金満君、セカンドパートナーじゃダメ?」

金満 潤

……

善光 優斗

金満君は無言で僕を睨みつけていた。

銭場 守

善光、お前そういう事を本人の前で言うなよ。

銭場 守

俺も金満もショックだわ。もう涙が止まりませんわ。

善光 優斗

銭場君がそう言った時だった。

善光 優斗

金満君がヨヨヨと泣く銭場君の腹を蹴飛ばした!

銭場 守

ぐふぅっ!

金満 潤

…俺とお前を一緒にするな!!

善光 優斗

「銭場君!」

善光 優斗

「…ちょっと金満君何やって…。」

善光 優斗

僕が言えたのはここまでだった。

善光 優斗

「うぐっ!」

善光 優斗

金満君が僕の腹も蹴っ飛ばした。

善光 優斗

ガシャガシャと机や椅子を倒しながら、吹っ飛んだ。

金満 潤

…….フンッ!

善光 優斗

銭場君と僕は2人並んでひっくり返っていた。

善光 優斗

蹴られたお腹も痛いが、その後机や椅子に全身をぶつけてそっちも痛かった。

善光 優斗

クラスメイトが何事かと僕らを見ていた。

銭場 守

ってーな…。

善光 優斗

銭場君は埃を払いながら立ち上がると、僕に向かって手を伸ばす。

銭場 守

大丈夫か?

善光 優斗

「あ、うん。ありがとう。」

善光 優斗

銭場君の手を掴んで立ち上がると、僕も体に付いた埃を払った。

銭場 守

はぁ…これ戻さねぇとな…。

善光 優斗

「うん…そだね。」

善光 優斗

僕と銭場君はしぶしぶ倒した机や椅子をもとに戻した。

善光 優斗

チラリと金満君を見ると、眉間にシワを寄せて僕の方を睨んでいる。

善光 優斗

僕は慌てて目を逸らすと、机と椅子を戻す作業に集中した。

善光 優斗

金満君に蹴られてから次の日

善光 優斗

今日は金曜日というのに、僕の気分は憂鬱だった。

善光 優斗

「はぁ…。」

銭場 守

お前何回目だよ、ため息すんの。

善光 優斗

「え…5〜6回?」

銭場 守

たぶんもっとしてるぞ。

銭場 守

正確な数は俺も知んねぇけどよ。

善光 優斗

「だって今日委員会だもん。」

善光 優斗

「やだよ金満君と2人っきりなんて。」

善光 優斗

「地獄のように気まずいじゃん。」

銭場 守

もう無視しとけよアイツ。

善光 優斗

「けど今日めっちゃこっちの事見てたよ。怖いよ。」

銭場 守

…んまぁ、殺られるかもなぁ。

善光 優斗

「2人きりになったら、マジで殺されるかもしれない。」

銭場 守

そん時は俺も善光の代わり見つけるわ。

善光 優斗

「だからゴメンってば。」

善光 優斗

「そんな悲しい事言わないでよ。」

銭場 守

それ昨日のお前に言えよ、バーカ。

善光 優斗

「ホントにゴメンって。あれはちょっと噛んだんだよ。」

銭場 守

もっとマシな言い訳あっただろ。

善光 優斗

「えへへ。」

銭場 守

ったく、まぁ向こうから何かされても適当にあしらっとけよ。

銭場 守

そしたら向こうもそのうち飽きるって。

善光 優斗

「んまぁ、そうするしか無いよね。」

善光 優斗

「今回は僕にも非があるし…。」

銭場 守

まぁ頑張れよ。俺も愚痴くらいなら聞くしよ。

善光 優斗

「うん、ありがとね。銭場君。」

銭場 守

気にすんなよ、俺たち友達だろ?

善光 優斗

せっ、銭場君…!!

銭場 守

違うか、善光にとって、"都合の良い友達"だからな!!

善光 優斗

「だからゴメンってば!」

善光 優斗

いよいよ、やだなやだなと思っていた放課後がやって来た。

善光 優斗

金満君も僕も無言で受付の席に座る。

金満 潤

……

善光 優斗

……

善光 優斗

座ってから数分だが、このたった数分が数十分に感じるほど、僕にとって嫌な時間だった。

善光 優斗

…ダメだ、耐えられない。

善光 優斗

「…あっ、返された本戻さないと〜。」

善光 優斗

そそくさと僕は席を外すと、返却された本を抱えて本棚に向かった。

善光 優斗

ええと、この本は…後ろの棚か。

善光 優斗

そう思って振り返った時だった。

金満 潤

なぁ

善光 優斗

「うぉっ!!」

善光 優斗

後ろに金満君が立っていた。

善光 優斗

「あえっ、え、どうしたの?」

金満 潤

金満グループはな、金融や不動産、食品やサービス業、ITなど幅広く取り扱っている企業なんだ。

善光 優斗

「おっ…そ、そうなんだ。」

善光 優斗

なっ、何だ急に。

金満 潤

生活インフラはほぼ金満グループが支えていると言っても過言では無いぞ。

金満 潤

それに金満グループは…

善光 優斗

なんだなんだ?!

善光 優斗

急に金満君が語り始めたぞ。

金満 潤

さらにはグループ独自の…

善光 優斗

僕がポカンとする中、金満君は機嫌良さそうにベラベラ一方的に喋っている。

善光 優斗

…これ、何かしらレスポンスした方がいいよなぁ。

善光 優斗

「へぇ〜金満君すごいね。」

金満 潤

あぁ!俺もいくつか仕事を…

善光 優斗

僕が適当に褒めると、金満君は鼻息を荒くしてもっと勢いよく喋り出した。

善光 優斗

僕は肯定botとなりながら、金満君の話を聞いていた。

善光 優斗

僕は学習したんだ。金満君に下手な事言ったら、また蹴飛ばされるだろう。だからここは、適当にあしらうのが吉だ。

善光 優斗

今の金満君はアレだ。オタクが関心のある話題の時だけ、早口でめっちゃ喋るアレだ。

金満 潤

俺も幼少の頃から…

善光 優斗

「金満君すごいね、いっぱい努力したんだね。」

金満 潤

あぁ、だが周りの連中は…

善光 優斗

「金満君何でも出来るんだね、すごいね。」

善光 優斗

僕が相槌を打つと、金満君は嬉しそうに目を細めた。

善光 優斗

けど、いつまで続くんだろうか、この話…。

金満 潤

でな、俺はすぐに…

善光 優斗

まぁ15分程度でおわるでしょ。

善光 優斗

そう思ってた。

善光 優斗

だがそれは甘い考えだった。

善光 優斗

15分後

金満 潤

いくつもの言語を俺は…

善光 優斗

「すごいね!僕には到底出来ないよ!」

善光 優斗

30分後

金満 潤

その他にもいくつもの特許を…

善光 優斗

「金満君すごいねぇ、ちなみに本の片付け手伝ってくれたりは…うんうん、話は聞いてるよ、聞いてるんだけど。」

善光 優斗

1時間半後

金満 潤

アイツよりも俺の方が…

善光 優斗

「うんうんそだねそだね。僕もそう思うよ。」

善光 優斗

2時間後

金満 潤

この話はお前にとっても…

善光 優斗

金満君は止まらない。

善光 優斗

もうずっと一方的に喋り続けていた。

善光 優斗

もう時刻は午後6時。そろそろ帰る時間だ。

金満 潤

だからアイツとは…

善光 優斗

「金満君、そろそろ時間が…。」

善光 優斗

金満君は袖をめくると、高そうな腕時計をチラリと確認した。

金満 潤

……ちなみにこの時計は…

善光 優斗

「あっ、あー!ごめん金満君、そろそろ終わりだし、帰ろう。」

金満 潤

……あぁ。

善光 優斗

僕が帰ろうと促すと、金満君は少し目を伏せた。

善光 優斗

そしてスタスタと歩くと荷物を持って、そのまま図書室を出て行った。

善光 優斗

…僕も帰りの準備をしよう。

善光 優斗

僕は本棚から受付に行くと、貸し出し管理に使うパソコンをシャットダウンした。

善光 優斗

それから忘れ物が無いかを確認して、図書室の鍵を手に取った。

善光 優斗

図書室の電気を切って、図書室を出た。あとは鍵をかけて職員室に返すだけだ。

善光 優斗

僕が鍵をかけた後、側に人影があった事に気がついた。

善光 優斗

「わっ…金満君か。」

金満 潤

……

善光 優斗

金満君がいた場所は、ちょうど図書室からは見えない位置になっていた。

善光 優斗

だから気が付かなかったのか。

善光 優斗

しかし、何かあったのかな。

善光 優斗

いつもなら金満君はすぐに帰るはずだ。

善光 優斗

ひょっと忘れ物でもしたのかな?

善光 優斗

「金満君どしたの?忘れ物?」

金満 潤

……

善光 優斗

金満君は静かに首を横に振った。

金満 潤

……

善光 優斗

……

善光 優斗

……じゃあ他に何か用があるんだろうか?

善光 優斗

……え、僕に用か…?

金満 潤

……

善光 優斗

「……金満君、もしかして僕に用かな?」

金満 潤

……

善光 優斗

金満君は無表情でしばらく考える仕草をしていた。

金満 潤

……

善光 優斗

しばらく考えると、金満君が、僕の事をじっと見つめていた。

金満 潤

……

善光 優斗

え、一体なんなんだろう。

善光 優斗

用があるなら言うよね…?

善光 優斗

……

善光 優斗

「…今日は、金満君の話をいっぱい聞けて楽しかったよ。」

善光 優斗

「また明日…じゃないか。ふふ、また月曜日。」

善光 優斗

またねと僕は手を軽く振って、金満君と別れた。

善光 優斗

しかし、本当に何で金満君はいたんだろうか。

善光 優斗

…僕を待っててくれたとか?

善光 優斗

いや、まさかね。

金満 潤

……

金満 潤

……善光優斗。

金満 潤

アイツ、俺の事が好きなのかもしれない。

善光 優斗

土日が終わって、月曜日。

善光 優斗

教室に着くと、またいつもと同じ日常が始まった。

銭場 守

善光きゅ〜ん、おはよ〜!

善光 優斗

「銭場君おはよ。はいコレ。」

善光 優斗

僕は鞄から課題のプリントを取り出し、銭場君に渡した。

銭場 守

あざす!!

善光 優斗

銭場君は僕からプリントを受け取ると、すぐさま自分のプリントに書き写した。

善光 優斗

僕は席に座ると、チラリと金満君を見た。

金満 潤

……

善光 優斗

相変わらず、つまらなさそうにスマホをいじっている。

善光 優斗

一応、挨拶しとくか。

善光 優斗

「金満君、おはよう。」

金満 潤

…あぁ。

善光 優斗

おっ、今返事してくれたんだろうか。

善光 優斗

少しそっけないが、まぁいいか。

善光 優斗

僕もHRが始まるまで、スマホでも触ってよう。

善光 優斗

今日も一日、平穏で平和な一日を過ごせるといいな。

善光 優斗

昼休み

善光 優斗

僕はいつも銭場君と机を向かい合わせにして、お昼ご飯を食べていた。

善光 優斗

「……。」

銭場 守

……

善光 優斗

しかし、なぜだか今日はもう一人、椅子を持って来て参戦している。

金満 潤

……

銭場 守

(え、お前コイツ誘ったの?)

善光 優斗

(知らない!わかんない!)

銭場 守

(えぇ、じゃあ何でコイツいんだよ。)

善光 優斗

(さぁ…)

善光 優斗

僕も銭場君もお互いアイコンタクトで語り合った。

善光 優斗

友達だからこそ出来る技だ。

銭場 守

(はいはい、友達ね…。)

善光 優斗

(そこは読まなくて良いんだよ!)

銭場 守

善光、腹減ったわ。

善光 優斗

「あぁ、ゴメンゴメン。」

善光 優斗

僕は銭場君にお弁当を渡すと、銭場君は嬉しそうに受け取ってくれた。

銭場 守

さんきゅさんきゅ!

善光 優斗

銭場君にお弁当を渡した後、金満君の方を見ると、金満君は何か僕に訴えかける様な目をしていた。

善光 優斗

「……?金満君、お昼食べないの?」

金満 潤

……

金満 潤

…俺のは?

善光 優斗

……ん?

金満 潤

俺の飯は?

善光 優斗

ん?ひょっとしてこれ僕に言ってんのか?!

善光 優斗

「えっ、あー、ゴメン作って来てない。」

金満 潤

あ?

善光 優斗

いや何でキレられなきゃダメなんだよ。

銭場 守

金満オメェ金持ってんだから、自分で持ってこいよ。

善光 優斗

銭場君がモキュモキュ食いながら僕の気持ちを代弁してくれた。

善光 優斗

その瞬間…。

銭場 守

っ!痛っー!

善光 優斗

またもや金満君が銭場君を蹴った。

善光 優斗

銭場君は涙目になりながら足の脛を摩っている。

金満 潤

何でコイツには用意してやるのに俺のは無いんだ!

銭場 守

……

善光 優斗

……

善光 優斗

僕も銭場君も絶句した。

善光 優斗

開いた口が塞がらなかった。

善光 優斗

もうどこからつっこんだらいいのかわからない。

善光 優斗

言いたい事が多すぎて、逆に何も言えなくなった。

善光 優斗

「あ…そっか、ごめんね。」

善光 優斗

「次から金満君の分も持って来るよ。今日は僕の分で我慢してね。」

金満 潤

フンッ

善光 優斗

僕のお弁当を差し出しても、金満君はムッとした顔のままだ。

金満 潤

おい、なんだこのダイエット中のOLみたいな弁当は。

善光 優斗

「ごっ、ごめん…僕少食だから…。」

金満 潤

ったく…

善光 優斗

ぶつぶつ文句を言いながらも、何やかんや金満君は箸を動かした。しかし…

金満 潤

おい。

善光 優斗

「えっ、何?」

金満 潤

お前ちゃんと測ってないだろ。

善光 優斗

「あっ、うん。目分量かなぁ。」

金満 潤

人に食べさせる気あるのか?だいたいこれも……

善光 優斗

なーんでコイツは貰ってる側なのにこんなにケチ付けられるんだ?

金満 潤

この玉子焼きも塩分が…

善光 優斗

コイツは美味しいの一言も言えんのか?!ずっと文句しか言わねぇな!

善光 優斗

姑かコイツは。

銭場 守

俺は美味いと思うけどな。

善光 優斗

「銭場君…!!」

金満 潤

黙れ貧乏舌。

金満 潤

はぁー、ったく、いいなお前らは。

金満 潤

この程度で満足出来るんだからな。

善光 優斗

んじゃもう食うなよ。

金満 潤

善光、今日この俺が言った事、ちゃんと活かすんだぞ。

金満 潤

わざわざこの俺が、お前の為に言ってやったんだ。感謝しろよ。

善光 優斗

そう言うと金満君は椅子を持って、自分の席に帰って行った。

銭場 守

あいつ文句言う割には、ちゃんと全部食うんだな。

善光 優斗

「ん…まぁ、その点は嬉しいな。」

銭場 守

善光、お前厄介な奴に目をつけられたなぁ。

善光 優斗

「いやもう、金満君が何考えてるかさっぱりだよ。」

銭場 守

金持ち様は何考えてるかわかんねぇよな。

善光 優斗

「ホントそれ。まぁそのうち飽きるでしょ。」

銭場 守

なぁ、俺常々思うんだけどさぁ

銭場 守

性格が悪いから金持ちなのか、金持ちだから性格が悪くなるのかどっちなんだろうな。

善光 優斗

「んー、まぁ…。」

善光 優斗

「僕の独断と偏見と嫉妬になるけど…」

善光 優斗

「両方なんじゃ無い?たぶん。」

善光 優斗

あれから毎日、僕は金満君にお弁当を作った。

善光 優斗

毎日作ってやってんのに、金満の奴は嫁いびりのように文句を言う。

善光 優斗

あとそれから、金満君と一緒に行動することが増えた。

善光 優斗

お昼以外にも、教室移動の時も一緒に着いてくる。

善光 優斗

……まぁ気を使って話しかけても見下したような言い方多いから腹立つんだけど。

善光 優斗

だけどまぁ彼なりのコミュニケーションの取り方なのかも知れない。

善光 優斗

僕も少し金満君の扱いに慣れて来た。

善光 優斗

金満君とは適当に褒めときゃ良いから、扱いが楽だ。

善光 優斗

あとは金満君の話をありがたそうに聞く。それだけで金満君は嬉しそうだ。

善光 優斗

……まぁけど、金満君にとっては僕と関わる事なんて、暇つぶしみたいなものだろうな。

善光 優斗

金満君と"良い関係"が作れそうで良かった良かった。

善光 優斗

今日もいつも通りの一日だと思っていた。

銭場 守

いてっ。

善光 優斗

授業中に、銭場君が紙で指を切ったのだ。

善光 優斗

「大丈夫?」

銭場 守

大丈夫大丈夫、こんくらい舐めときゃ治んだろ。

善光 優斗

「やめときなよ。バッチィよ。」

銭場 守

それちょっと俺に対して失礼じゃね?

善光 優斗

「絆創膏あるよ。指出して。」

銭場 守

あんがと。

善光 優斗

差し出された銭場君の指先に、絆創膏を貼ってあげた。

銭場 守

さんきゅ。

善光 優斗

僕と銭場君が、授業を再開しようと前を向いた時だった。

善光 優斗

ベリッ…

善光 優斗

小さくそんな音が聞こえた。

金満 潤

なぁ

善光 優斗

金満君が僕に話しかけてきた。

善光 優斗

「どうしたの?金満君。」

善光 優斗

授業中だから、小声で返事したんだ。

金満 潤

血、出た。

善光 優斗

絆創膏か、そう思って金満君の差し出された指を見た時。

善光 優斗

僕は思わず、叫んでしまった。

善光 優斗

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

善光 優斗

金満君の差し出された手は血だらけで、指先から今も血がポタポタと床を赤く染めていた。

善光 優斗

僕の叫び声を聞いて、クラス中が僕らに注目する。

善光 優斗

そして、悲鳴が上がった。

銭場 守

うっわ!!!何だよお前これ!!

常安先生

何だ、何やって…。

善光 優斗

先生も言葉を失った。

善光 優斗

そりゃそうだ。

善光 優斗

何で金満君はこんなに血だらけなんだ。

善光 優斗

何で金満君はこんなになるまで、何もしなかったんだ。

善光 優斗

何でこんなになるまで誰も気が付かなかった。

善光 優斗

何で金満君は…

善光 優斗

こんな状況で、笑ってられるんだよ……。

金満 潤

善光、早く。絆創膏。

金満 潤

ん。

善光 優斗

そう言って、金満君は僕に血だらけの手を出す。

善光 優斗

僕は怖かった。何となくわかりかけていた彼が、得体の知れないナニカになった。

常安先生

お前それ絆創膏どころじゃねぇだろ。

常安先生

…爪剥がれてんじゃねぇか。

金満 潤

あぁ、剥がれた。

常安先生

今すぐ病院行くぞ。今連絡を…

金満 潤

不要だ。

常安先生

えっ。

金満 潤

不要だ。この程度。

常安先生

お前何言ってんだ!!大丈夫なわけねぇだろ!!!

金満 潤

五月蝿い。

常安先生

え……。

金満 潤

この俺が要らないと言ったんだ。

金満 潤

お前の返事は、はい。わかりました。で、いいんだよ。

金満 潤

善光、保健室に行くぞ。

善光 優斗

そう言って金満君は、血だらけの手で僕の腕を掴むとスタスタ歩いた。

善光 優斗

「……ぁ。」

善光 優斗

僕は気が動転して、金満君に引っ張られて、ただ着いて歩くしかできなかった。

善光 優斗

僕と金満君は保健室に着いた。

善光 優斗

鍵がかかっていなかったので、中に入ると誰もいない。

善光 優斗

金満君はそんな事気にせずに、僕の腕を引っ張って、奥に行くとベットに腰掛ける。

善光 優斗

「……金満君、手…」

金満 潤

あぁ、早く絆創膏を貼れ。

善光 優斗

「っ…!絆創膏じゃ無理だよ!!保健室の先生、探してくるから…。」

金満 潤

……チッ

金満 潤

消毒液とガーゼ、持ってこい。

善光 優斗

「えっ…….あっ、うん。」

善光 優斗

僕は保健室の中を探して、消毒液とガーゼを見つけると、金満君の元へ行った。

善光 優斗

「持って来たよ。」

金満 潤

指先を消毒して、ガーゼで巻いて止血しろ。

善光 優斗

「えっ……。」

金満 潤

俺のこの手が見えないのか?この手で処置しろと?

善光 優斗

「わ、わかった…。」

善光 優斗

僕は金満君の指示に従って、金満君の手を治療した。

金満 潤

そうだ、それで良い。

善光 優斗

金満君は痛くないのだろうか。目を細めて嬉しそうにしている。

善光 優斗

「ねぇ、金満君。」

金満 潤

なんだ?

善光 優斗

「手、どうしたの…?」

金満 潤

見たらわかるだろ。爪が剥がれた。

善光 優斗

「っ…!そうじゃなくって!何でそんなふうになってるの?!」

金満 潤

爪が剥がれたから血だらけになった。これで満足か?

善光 優斗

「いや違…」

善光 優斗

もう何も言えなかった。

善光 優斗

金満君は僕の質問をちゃんとわかっている。

善光 優斗

わかった上で、はぐらかしてる。

金満 潤

……

善光 優斗

……

善光 優斗

「……金満君、手、血だらけだね…。」

金満 潤

あぁ、爪が剥がれたからな。

善光 優斗

「ちょっと待っててね。」

善光 優斗

僕は保健室に備えられた水道で、ポケットに入れていたハンカチを濡らした。

善光 優斗

ギュっと固く絞って、水気を切ると、また金満君の隣に座った。

善光 優斗

「手、かして。」

金満 潤

ん。

善光 優斗

金満君の血で汚れた手を、僕はさっきのハンカチで優しく拭き取った。

善光 優斗

処置した指先に触れないように、慎重に…丁寧に…。

金満 潤

……

金満 潤

………優斗。

善光 優斗

「えっ?」

善光 優斗

金満君の左手が、僕の肩を掴んだ。

善光 優斗

その時だった。

保健室の先生

あっ!いたいた!

善光 優斗

保健室の先生が、慌てた様子で入って来た。

保健室の先生

ごめんね、遅くなっちゃって。

保健室の先生

救急車もうすぐ来るから。

金満 潤

チッ

保健室の先生

それまでに、応急処置を…ってあら?

保健室の先生

出来てるわね!ありがとう!!

保健室の先生

君がやってくれたの?

善光 優斗

「あっ、はい…すみません勝手に使っちゃって…。」

保健室の先生

いいのいいの!それだけの怪我してるんだから。

保健室の先生

あとはこっちでやっておくわ。

保健室の先生

授業中にありがとね。

善光 優斗

「はい、よろしくお願いします。」

善光 優斗

そうだ。そういえば授業中だったなぁ。

善光 優斗

「じゃあね、金満君。」

金満 潤

……あぁ。

善光 優斗

僕はそう言うと、保健室を出た。

善光 優斗

……金満君、下の名前知ってたんだ。

善光 優斗

あの時、僕に何を言いかけたんだろうか。

善光 優斗

…まぁ何か用があるなら、そのうちまた言ってくるか。

善光 優斗

そう思いながら、僕は教室に向かった。

善光 優斗

教室に戻ると、丁度授業が終わった。

善光 優斗

授業はどうやら自習になったようだ。黒板にそう書かれていた。

善光 優斗

教室に戻って来た僕の周りに、わらわらとクラスメイトが集まって来た。

クラスメイト1

なぁ、善光。金満大丈夫だったか?

善光 優斗

「うん、一応応急処置して、この後病院行くんだって。」

クラスメイト2

何でアイツあんな事になってたんだ?

善光 優斗

「さぁ…僕もわかんなくて。」

クラスメイト3

最近金満と善光、仲良いもんね。

善光 優斗

「う〜ん、別に仲良いってわけじゃ…。」

クラスメイト4

アンタよくあんな奴と仲良くなれるね。

クラスメイト4

アイツ顔はいいけど、性格終わってるじゃん!

クラスメイト1

確かになぁ〜、なんつーか、オレらの事見下してるって露骨にわかんじゃん。

クラスメイト2

まぁ、話しかけても基本無視か舌打ちだからな。ハハッ。

善光 優斗

「あ〜、まぁ、そうなんだ。」

クラスメイト1

…善光、何かあったらいつでも言えよ。オレらも出来る範囲でなら助けるからさ。

クラスメイト3

…そうだよ。脅されてるとか、大丈夫…?

クラスメイト4

いいように使われてない?!あたしがガツンと言ってやろうか?

クラスメイト2

一緒にいたくない時とか、オレらんとこ来たらいいからな。

善光 優斗

「あっ!いや!全然そんなんじゃ無いんだ!!」

善光 優斗

「大丈夫だよ。心配かけてごめん。」

クラスメイト1

そうか?ならすまん。

クラスメイト1

けどまた何かあったら言えよな!

善光 優斗

「あっ、ありがと…!」

善光 優斗

僕は教室の入り口から自分の席に向かった。

銭場 守

善光乙〜。

善光 優斗

「…銭場君。」

銭場 守

何だ?あのウンコ死んだか?

善光 優斗

「いや生きてるよ。って、このクラス金満君の事、地獄のように好感度低いな。」

銭場 守

そりゃあ、お前も普段一緒に過ごしてたらわかるだろ。

銭場 守

ここに書くの面倒だから書いて無いだけで、普段ヤッッッッバイだろアイツ。

銭場 守

俺らのこと虫ケラとしか思ってねーと、あんなん出来んわ。

銭場 守

道徳の授業とか、アイツ寝てたんか?ってくらい、終わってんだろ。

善光 優斗

「あ〜、まぁ確かに。」

銭場 守

何でアイツあんな血だらけになってたんだよ。

善光 優斗

「あぁ、爪が剥がれたからだよ。」

銭場 守

いやまぁそうなんだけどそうなんだけど!

銭場 守

何で爪剥がれてんだって話だろ。授業中に。

善光 優斗

「わかんない。答えてくれなかった。」

銭場 守

えぇ…。

善光 優斗

「いやぁホント不思議だねぇ。」

銭場 守

……

銭場 守

……アイツ、わざと自分でやったんじゃねぇの。

善光 優斗

「…まさか。爪を剥がされるって相当痛いんだよ。それを全部…声上げずにって…。絶対無理だよ。」

銭場 守

けど、アイツ善光にずいぶんご執心だっただろ。

善光 優斗

……

銭場 守

善光の気を引きたくてやったとか。

銭場 守

金満ってそっち系だったんかなぁ。

善光 優斗

「……大丈夫だよ。一番は銭場君だよ。愛してるよ。んちゅ。」

銭場 守

善光きゅん…。

善光 優斗

「ところでさ、僕思ったんだけど、陰キャに優しい陽キャっていたんだね!!」

善光 優斗

「僕さっき感動したよ!ひょっとしたら僕も、金満君のおかげで陽キャになれるかも!!」

銭場 守

善光…。

銭場 守

お前俺の事、陰キャだと思ってたのかよ。ぶっ飛ばすぞテメェ。

金満 潤

はぁ…、はぁ…!

薄暗い部屋の中で、金満潤は独り自分を慰めていた。

静かな部屋で、熱のこもった彼の声が響いた。

金満 潤

っ…あーっっ!

彼の手にはすっかり硬くなってしまった自身のそれと、それを包み込むように善光優斗のハンカチが握られていた。

金満 潤

…優斗。

彼の名前を呟くと、今まで感じた事のないほどの、幸福感、高揚感があった。

金満 潤

…優斗。

金満 潤

優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗!

金満 潤

あぁ…優斗…。

金満潤はギュと自身を握る手を強める。

思い出すのは彼との思い出。

金満 潤

優斗…優斗…!

金満 潤

仕方ない…仕方ない奴なんだ。

金満 潤

しょうがない奴だ。

金満 潤

だから、だから俺から…!

金満 潤

アイツを手に入れないといけないんだ。

ハンカチの中に、自身の欲を吐き出した。

金満 潤

あぁ優斗…。

金満潤は想像する。

これを彼の中に出すのを。

彼が自分にだけ見せる姿を。

善光優斗が、自分のモノになることを。

金満 潤

優斗優斗…!

夜はまだ長い。

善光 優斗

次の日、金満君は学校を休んだ。

善光 優斗

昨日、あんな事があったんだ。そりゃ休むか。

銭場 守

おっ、金満休みか。どおりで空気が澄んでるわけだ。

善光 優斗

「うん…。」

銭場 守

どうしたんだよ善光。もしかしてもしかして!金満いなくて寂しくてきな?

善光 優斗

「うん…僕寂しいよ。」

銭場 守

まっ、マジか…。

善光 優斗

「僕さ、金満君のイかれた思想が好きだったんだ。」

善光 優斗

「あと、普段どんな生活送って来たらそんな言葉思いつくんだよってくらいのエッッッッッぐい発言とか。」

善光 優斗

「それが聞けないなんて、僕寂しいよ。ヤバい奴を安全圏から見るのが面白かったのに!」

銭場 守

善光…

銭場 守

その気持ちは、正直ちょっとわかるわ。

善光 優斗

そんな雑談をしていると、先生が教室にやって来た。

常安先生

へい〜おはよ〜さん。

常安先生

今日の休みは…金満っと。

善光 優斗

先生が気怠げに朝の会を始める。

善光 優斗

僕は隣の金満君の席を見た。

善光 優斗

ほんのちょっと、ほんのちょっとだけ寂しかった。

善光 優斗

昼休み

善光 優斗

僕は銭場君と2人でお昼ご飯を食べていた。

善光 優斗

今日は口うるさい姑がいないから、いつもよりご飯が美味しい。

銭場 守

ムシャムシャガツガツ…。

善光 優斗

銭場君は金満君の分のご飯も食べていた。もう無我夢中に。

善光 優斗

「美味しい?」

銭場 守

めっちゃ美味い!

銭場 守

ディ・モルートベネ!!

善光 優斗

「Grazie!」

善光 優斗

僕と銭場君がご飯を食べていると、先生がやって来た。

常安先生

飯中すまんな。

常安先生

ちょっといいか?

銭場 守

ええ、はいほーっふふよ。

善光 優斗

「銭場君、そんな無理して喋らなくていいよ。飲み込みなよ。」

常安先生

悪いな、善光に用だ。

善光 優斗

ん?何の用だろうか?

常安先生

今日さ、金満にプリント持ってってやってくんねぇか?

常安先生

お前さん、金満と仲良いだろ。

善光 優斗

「いやぁ、仲…まぁ良いんですかねぇ…。」

銭場 守

アイツ善光の事ラブなんですよ。

善光 優斗

「やめてよ。」

常安先生

あぁそうなんだ。

常安先生

まぁ、何でもいいんだよ。金満が善光にハンカチ返さねぇととか何とか言うんだよ。

常安先生

だから、善光に持って来させろって。

銭場 守

んなもん次登校した時じゃダメなんですか?

常安先生

次の登校月曜だろ?月曜までにこのプリント提出して欲しいんだよ。

常安先生

あと出来る事なら先生金満の家行きたく無い。

善光 優斗

「先生も金満君嫌いなんですか?」

常安先生

違うぞ。先生は金満個人が嫌いなんじゃなくて金持ちが嫌いなんだ。

銭場 守

先生奇遇っすね。俺もです!

常安先生

アイツの住んでるとこめっちゃデケェ上に、一人で住んでるんだとよ。

常安先生

ご両親は、海外にいるらしいんだわ。

善光 優斗

「先生それだけで嫌いなんですか?」

常安先生

先生ね、始業時間よりも早く出勤して、定時過ぎたらサビ残して、きったねぇ家に帰るんだよ。

常安先生

ほんで、やっすい缶チューハイ凹ましながら飲んで、頭空っぽにしてテレビ見て。

常安先生

明日もお前らの相手しなきゃなんねぇのかって、泣きながら寝るんだよ。

常安先生

先生可哀想だろ。

常安先生

それなのに、金持ちはよぉ、いいよなぁ!

常安先生

きっと朝優雅に出勤してよぉ!業務もホワイトで、定時で帰るのが当たり前なんだろうなぁ!

常安先生

結婚していく同年代見て、吐きたくなるぐらいダメージとか受けた事ねぇんだろうなぁ!チクショウ!!

銭場 守

先生…わかりますわかります。

銭場 守

俺も金持ち嫌いです。

銭場 守

あと昔貧乏だった金持ちも嫌いです。

銭場 守

アイツら、今の自分がいるのは、貧乏だったから、貧乏で良かったー。とかキッショい事言いやがるんですよ!

銭場 守

なら全財産俺にくれよ!って思いません?!

銭場 守

アイツらが、自分の子供にも貧乏生活させたら、俺アイツらの事認めますよ。本物だって。

常安先生

いや、それはあんま無いかなぁ…。

銭場 守

えっ?

常安先生

だって、ちゃんと努力した上での結果だろ?別に良くね?

銭場 守

……あ?

銭場 守

じゃあ先生も別に教師にならなかったら良かったんじゃないですか?

銭場 守

今教員職がブラックだって、めっちゃくちゃ言われてるじゃないですか?

常安先生

は?先生の頃はそう言うの無かったから。お前らみたいにスマホ持ってて当たり前の時代じゃねぇから。

銭場 守

そうかも知れませんけど、それなら転職すればいいじゃないですか。

銭場 守

大卒なんですし、選択肢もいっぱいあったでしょ。

常安先生

はぁ…わかってねぇな。転職するにも年齢とかあるんだよ。

銭場 守

だいたいそこまでブラックなら、勤務して2、3年以内で気づきそうじゃないですか?

銭場 守

年齢理由にしてますけど、シンプルに面倒なだけっしょ?

常安先生

…先生言っとくけど、公務員だからな。安定してっから。

銭場 守

先生そういえば何で教師なったんですか?

銭場 守

公務員だったら何でも良かったからですか?

銭場 守

公務員って聞いたら、教師しか思い浮かばなかったんですか?

常安先生

銭場テメェはっ倒すぞ。

常安先生

先生怒らせたらどうなるか…思い知らせてやるよ。

常安先生

次のテスト楽しみにしとけ?

常安先生

エゲツないの用意してやるからな!

善光 優斗

「すみません、まだレスバしますか?」

常安先生

あ〜すまん。話がそれたな。悪い悪い。

常安先生

善光頼む。行ってくれ。

常安先生

先生をなるべく早めに家に帰らせてあげてくれ。

銭場 守

家に帰ってもすっことないでしょ。趣味もねぇ独身だし。

常安先生

おーし、銭場ぁ。次80点以上無かったら欠点にしてやんよ。

善光 優斗

「先生?」

常安先生

すまん。銭場ちょっと黙ってろ。

銭場 守

独身貴族。

常安先生

あ"?

善光 優斗

「先生!!」

常安先生

んんっ!

常安先生

あー、すまん。

常安先生

善光どうだ行けそうか?

善光 優斗

「特に予定は無いんで大丈夫なんですけど…僕、金満君の家わからないです。」

常安先生

大丈夫大丈夫、スマホ出して。

善光 優斗

僕は先生に言われて、スマホを差し出した。

常安先生

位置情報送るわ。

善光 優斗

そういうと、先生から金満君の住所が送られた。

善光 優斗

「学校の最寄りの駅から…二駅で…そこから歩いて10分くらいですね。」

常安先生

そうそう、これお小遣い。

善光 優斗

そう言って先生は、僕に交通費を渡してくれた。

銭場 守

先生俺のは?

常安先生

銭場のも後で渡すわ。放課後職員室に来てくれ。…楽しみにしとけよ。

銭場 守

うっし!やった!!

常安先生

じゃあ善光これ。悪いな、よろしく頼むわ。成績上げとくな。

常安先生

じゃあ。

善光 優斗

先生は僕に金満君宛のプリントを渡すと、教室を出て行った。

銭場 守

おかね!おかね!チャリんチャリんチャリーん!!!

善光 優斗

いやあの言い方、絶対何かあるだろ。

善光 優斗

そう思ったが、嬉しそうな銭場君にそんな酷い事言えなかった。

善光 優斗

放課後

善光 優斗

鬼のように課題を出されて泣いている銭場君を尻目に、僕は学校を出て金満君の家に向かった。

善光 優斗

「金満君の家…ひょっとしてこれか?」

善光 優斗

冷や汗をダラダラ流しながら、目の前の金満君の家を見る。

善光 優斗

…一人で暮らすのに、こんなデカい必要あるのか?ショッピングモールぐらいあるだろ。

善光 優斗

僕はうろちょろしながら玄関を探す。

善光 優斗

15分くらい探し回って、やっと門を見つけた。

善光 優斗

…ここから入っていいのかなぁ。

善光 優斗

門を見渡すと、インターホンがあった。

善光 優斗

これ、本当に金満君の家だよなぁ。

善光 優斗

ドキドキしながら僕はインターホンを押した。

善光 優斗

……

善光 優斗

しばらくすると、インターホン越しにガチャっと音が聞こえた。

善光 優斗

「あっ、あの金満君…」

金満 潤

何をしている。早く入れ。

善光 優斗

僕が言い終わるよりも先に、金満君が素早く言い終わると、ガチャっと切れた。

善光 優斗

「えぇ…」

善光 優斗

僕はおそるおそる門を開けた。

善光 優斗

門を開けて入ると、勝手に扉が閉まった。

善光 優斗

…もしこれがゲームの世界なら、何かに追いかけられたり、脱出したり、ホラゲーみたいになりそうだな。

善光 優斗

僕は金満君のだだっ広い庭をキョロキョロしながら歩いていく。

善光 優斗

しばらく歩くと、やっと玄関に着いた。

善光 優斗

僕が玄関の扉を開けようとする前に、また勝手に扉が開いた。

金満 潤

……

善光 優斗

「わっ、金満君…。」

善光 優斗

扉の先には金満君が腕を組んで待っていた。

金満 潤

いつまでそこに突っ立っているんだ。

善光 優斗

「あっ、あぁごめん。」

善光 優斗

慌てて中に入ると、金満君がスタスタ奥に行き始めた。

善光 優斗

「まっ、待って金満君!」

善光 優斗

僕の言葉に金満君は振り返る。

金満 潤

何だ?

善光 優斗

「え、えと今日はプリントを…」

金満 潤

わかっている。早く中に入れ。

善光 優斗

そう言って、金満君はまたスタスタ歩き出した。

善光 優斗

「おっ、お邪魔します…。」

善光 優斗

金満君の後ろを着いて歩いてしばらくたった。

善光 優斗

金満君の家は広すぎて迷子になりそうだ。

金満 潤

ここだ。

善光 優斗

どうやら目的の部屋に着いたようだ。

善光 優斗

金満君が部屋の扉の前に立つと、扉が勝手に開いた。

善光 優斗

すごいなぁ、この家ひょっとして全部自動ドアなのかな。

善光 優斗

金満君が入った後、僕も続けて中に入った。

善光 優斗

「うわぁ!すごいねぇ!」

善光 優斗

部屋の中はたくさんのトロフィーや賞状が置かれていた。

善光 優斗

綺麗に置かれている物から、乱雑に置かれている物まで、数多くあった。

善光 優斗

近寄ってトロフィーをじっくり見る。

善光 優斗

剣術、馬術、ピアノ、茶道…the金持ちって感じだなぁ…。

金満 潤

どれも幼い頃に取ったものだ。

金満 潤

まぁ暇つぶしにはなったな。簡単に出来るから飽きてやめたんだ。

善光 優斗

「へぇ…金満君すごいね…!」

善光 優斗

他にも絵画、数学、弓道、言語…法律…えっ、金満君法律覚えた上であんなイかれた発言出来んのか?!

金満 潤

どれもこの俺からしてみれば、遊び程度だな。

金満 潤

まっっったく、自慢にならない。つまらないものだな。

善光 優斗

んじゃアンタ何でここに連れて来たんだよ。明らか自慢だろ。

善光 優斗

「そんな事ないよ!どれもすっごいよ!!」

善光 優斗

本音を言わなかった僕を褒めて欲しい。下手な事言ったらぶっ飛ばされるからなぁ。

善光 優斗

「僕もね、小学生の時に習字で賞状は貰ったことあるけど、ここまではないなぁ。」

金満 潤

…ふーん。

善光 優斗

金満君は少しムッとしながら返事をすると部屋の奥に行った。

善光 優斗

慌てて着いていくと、金満君が床に乱雑に置かれた賞状やトロフィーをガサゴソしている。

金満 潤

あったあった。

善光 優斗

金満君に渡されたのは、しわくちゃになった紙…いや賞状か。

金満 潤

そのくらいだったら、俺だって持っている。

善光 優斗

「そうなんだ。やっぱり金満君すごいね!」

善光 優斗

金満君は他にもトロフィーや賞状を両手にいっぱい抱えると、僕にぐいぐい押し付けて来た。

金満 潤

その類いなら俺も持っている。お前よりも持ってる。

善光 優斗

「おっ、おー、流石だね、金満君…。」

金満 潤

その賞はな…

善光 優斗

そこからまた金満君は長ったらしい自慢話を始めた。

金満 潤

これをやった時俺は…

善光 優斗

……

善光 優斗

……

善光 優斗

…金満君の話を聞き続けてしばらくたった。

善光 優斗

もう僕は肯定ヘドバンしすぎて、首が痛い。

金満 潤

この程度なら教わらなくても…

善光 優斗

「あっ、あー、金満君、話遮っちゃってごめんね。」

金満 潤

……あ?なんだ?

善光 優斗

「今何時くらいかな。」

金満 潤

6時。

善光 優斗

6時?!僕そんな長い時間聞いてたのか!?

金満 潤

で、俺はこれもすぐに…

善光 優斗

「ごめんごめん金満君!長居しちゃった!そろそろ帰るよ。」

金満 潤

……

善光 優斗

僕はプリントを渡そうとバックを開けようとした。

善光 優斗

するとその僕の手を金満君が掴んだ。

金満 潤

こっち。

善光 優斗

「えっ?」

金満 潤

こっちだ。

善光 優斗

プリントを渡す前に金満君が僕の腕を引っ張った。

善光 優斗

金満君に引っ張られて長い廊下を歩いて、着いたここは…

善光 優斗

厨房…いや、一応家だから台所…?

善光 優斗

台所をぐるっと見渡すと、いろんな調理器具が揃っている。

善光 優斗

どれもピカピカで新品のようだ。

金満 潤

何か作れ。

善光 優斗

「えっ?」

金満 潤

腹が減った。何か作れ。

善光 優斗

…え、今から?

善光 優斗

「あっ、あの金満君!僕そろそろ帰らないと…」

金満 潤

早く!!!

善光 優斗

ビクリと僕は体を震わせた。

善光 優斗

そ、そんな怒鳴んなくても…。

善光 優斗

「わ、わかったよ…。」

善光 優斗

……家に、連絡入れとかないとなぁ。

善光 優斗

僕はお母さんに連絡を入れると、手を洗って、料理に取り掛かった。

善光 優斗

「ねぇ金満君、冷蔵庫開けていい?」

金満 潤

いちいち聞くなそんな事。

善光 優斗

…開けていいのね。

善光 優斗

冷蔵庫を開けると、さまざまな食材が用意されている。

善光 優斗

すごいなぁ、本当にレストランみたいだ。

善光 優斗

「金満君も料理とかするの?」

金満 潤

するかそんなもの。

金満 潤

AIにさせている。

善光 優斗

AI…人工知能か!?

善光 優斗

すごいな本当に…もう次元が違いすぎる。

金満 潤

口はいい、手を動かせ手を。

善光 優斗

「あ、あぁごめんね。」

善光 優斗

冷蔵庫からいくつか食材を取り出すと、調理を再開した。

善光 優斗

……

金満 潤

……

善光 優斗

静かな空間で、包丁のトントンという音が響く。

金満 潤

ハァ…

善光 優斗

気がつくと金満君が僕の隣に並んでいた。

金満 潤

貸せ。

善光 優斗

そう言うや否や金満君は僕から食材を奪うと、別の包丁で素早く切り始めた。

善光 優斗

トトトトンッと素早いリズムで切られていく食材。

善光 優斗

「金満君料理しないって…。」

金満 潤

こんなの別に誰でも出来るだろ。

善光 優斗

コイツほんっと腹立つなぁ…。

善光 優斗

「…すごいね、金満君。」

善光 優斗

金満君は何も言わないが、少し目を細めた。

金満 潤

作るのは、ハンバーグか。いかにも庶民だな。

善光 優斗

「はは…ごめん、何作ったらいいかわかんなくて…思い浮かんだのがハンバーグで…。」

金満 潤

まぁ何でもいい。

金満 潤

それよりも、ハンバーグ作るならこっちを使え。

金満 潤

つなぎには…

善光 優斗

次々に金満君は僕に指示を出す。

善光 優斗

慌てて僕は食材を用意したり、調理法を変えた。

善光 優斗

そしてやっとの思いで料理が完成した。

善光 優斗

自分で作るよりも、どっと疲労感がすごい。

金満 潤

待ちくたびれたぞ。

善光 優斗

金満君を見ると、金満君の近くには…

善光 優斗

「あっ!レストランで見るやつだ!!配膳ロボ!」

善光 優斗

個人の家でこれ持ってる人いるんだ…!

金満 潤

早く乗せろ。移動するぞ。

善光 優斗

僕は配膳ロボに完成した料理を乗せると、金満君の後ろを追った。

善光 優斗

次の部屋への移動は早かった。

善光 優斗

ここは…ダイニングだろうか。

善光 優斗

だとしても、こんなにデカいテーブル必要か?50人くらい一度に食事出来そうだ。

金満 潤

何をしている早く座れ。

善光 優斗

金満君は顎で僕に座れと促した。向かいに座れって事だろうな。

善光 優斗

僕が椅子に座ると、配膳ロボが料理を持って来てくれた。

善光 優斗

僕は料理と食器を受け取ると、配膳ロボは去っていった。

金満 潤

……

善光 優斗

金満君はもう食べ始めていた。

善光 優斗

「いただきます。」

金満 潤

……

善光 優斗

あれだけ喋っていたのに、急に静かになった。

善光 優斗

普段なら僕のお弁当に文句言うくせに、今日は言わないんだな。

善光 優斗

何か喋った方がいいんだろうか…。

善光 優斗

けどもしかしたら集中して食べてるのかも知れない。

善光 優斗

特に喋りたい事も無いし、僕も静かに食べよう。

金満 潤

……

金満 潤

…早く俺好みの味を覚えろ。

善光 優斗

「えっ、あ、うん。」

金満 潤

これからも作るんだからな。半端な物作ったらただじゃおかない。

善光 優斗

もしかして、これから作る弁当もこんだけこだわれって言ってるのか?!

善光 優斗

「ん…まぁ、善処します。」

金満 潤

はぁ…ったく…。

善光 優斗

ははは…。

金満 潤

……

善光 優斗

「…金満君、美味しい?」

金満 潤

……まぁ、悪くない。

善光 優斗

「ふふ、なら良かった。」

善光 優斗

「ごちそうさまでした。」

金満 潤

……

善光 優斗

「僕が作るのよりも、美味しかったよ。」

善光 優斗

「金満君が手伝ってくれたおかげだね。ありがとう。」

金満 潤

……当たり前だ。この俺が手伝ったんだから。

善光 優斗

「ふふ、ありがと。」

善光 優斗

僕と金満君は夕飯を食べ終わった。

善光 優斗

金満君の方を見ると、綺麗に完食されていた。良かった良かった。

善光 優斗

「お皿、洗って来るね。」

善光 優斗

僕が席を立って、洗いに行こうとすると再び金満君に腕を掴まれた。

善光 優斗

なぜに彼は待ってくれの一言が言えないのか。

金満 潤

そんなの放っておけ。

善光 優斗

「えっ、でも…。」

善光 優斗

金満君洗い物してくれるのかなぁ。

金満 潤

AIがする。そこに置いておけ。

善光 優斗

やっぱ自分ではしないんだ。

善光 優斗

「あっ、そうなんだ。じゃあ任せるね。」

善光 優斗

「じゃあそろそろ…」

金満 潤

風呂だ。

善光 優斗

「え?」

金満 潤

風呂に入るぞ。

善光 優斗

「いや、金満君さすがにお風呂まで入っちゃうと、時間が…って今何時?!」

金満 潤

8時半。

善光 優斗

はちじはん?!!

善光 優斗

「ごめん!そろそろ帰らないと、バス無くなっちゃうから!」

金満 潤

別に、帰る必要ないだろ。

善光 優斗

泊まっていけって事か…?

金満 潤

着替えは用意しておく。早く来い。

善光 優斗

「あ、あぁうん。」

善光 優斗

なし崩し的に僕は金満君に連れて行かれた。

善光 優斗

….今日泊まるって、連絡いれなきゃなぁ…。

善光 優斗

一人で暮らしているのに、こんな広い必要あるのかって、くらい広いお風呂場。

善光 優斗

金満君の家に来てから、僕は驚きっぱなしだ。

善光 優斗

もう僕ら庶民とは次元が違いすぎる。

善光 優斗

「すごいね、お風呂屋さん出来そう…。」

金満 潤

もうすでにいくつも持っている。

善光 優斗

「あぁ、そうなんだ。」

善光 優斗

「ところで金満君、指はもう大丈夫なの?」

金満 潤

あぁ。

善光 優斗

そう言って金満君は、僕に指を見せた。

善光 優斗

見せられた爪は、まるで剥がれたのが無かったかの用に、綺麗に戻っていた。

善光 優斗

たった一日で?この状態に?

善光 優斗

こんな事、あり得るのか…?

金満 潤

まだ見たいのか?まだ見続けるなら料金を払って貰いたいんだが。

善光 優斗

「あっ、あー、ごめんね。」

善光 優斗

あんまり、気にしない事にしよう…。

善光 優斗

「先に体、洗ってくるね。」

金満 潤

あぁ。

善光 優斗

僕が体を洗いに行こうとすると、金満君も着いてくる。金満君も体は先に洗う派かぁ。

善光 優斗

「すごいね、シャンプーとかみんな高そう。」

金満 潤

それは金満グループが研究し開発した独自ブランドだ。一人一人の髪質に…

善光 優斗

「へぇ〜。」

善光 優斗

金満君の話を聞きながら、僕は頭を洗った。

金満 潤

保湿力が他社と比べ…

善光 優斗

頭が終わって次は体だ。

善光 優斗

お風呂に入って僕は気持ち良くなる。金満君はありがたい演説をして気持ち良くなる。Win-Winかな。

金満 潤

年齢によって肌質は変わるんだ。だから…

善光 優斗

僕が全身洗い終わっても、まーだコイツは喋っていた。

善光 優斗

「金満君、僕先に浸かってるね。」

金満 潤

ん?……あぁ。

金満 潤

………。

善光 優斗

……

善光 優斗

「…良かったら頭洗おうか。」

金満 潤

……

善光 優斗

金満君はコクリと頷いた。

善光 優斗

金満君可愛いところあるね。一人っ子かな?

金満 潤

早くしろ。

善光 優斗

「あぁ、ごめんね。」

善光 優斗

「お湯かけまーす。目、閉じて下さーい。」

善光 優斗

金満君が目を閉じた。

善光 優斗

ほんっと黙ってりゃ顔は良いのになぁ。

善光 優斗

金満君の目元にお湯がかからないように、シャワーで髪を濡らすと、シャンプーを泡立てて早速洗い始めた。

善光 優斗

「お痒いところは、ございませんかー?」

金満 潤

…無い。

善光 優斗

「かしこまりましたー。」

善光 優斗

目を閉じている金満君を見ると、ちょっとしたイタズラ心が沸いてくる。

善光 優斗

ニャンコしよ、ニャンコ。

善光 優斗

シャンプーで泡だった髪を猫の耳の形にする。

善光 優斗

すると、まぁなんということでしょう。

善光 優斗

匠の力によって、あの凶悪な金満君に愛らしさが加えられ、日常に温もりが出来ました。

善光 優斗

「くっ、ふふふ…。」

金満 潤

おい、何をしている。

善光 優斗

笑ってる場合じゃなかった。

善光 優斗

鏡越しに金満君がジロリと冷たい目でこちらを見ていた。

善光 優斗

「…はーい、流しまーす。」

金満 潤

……ったく。

善光 優斗

シャンプーを落としながら僕は思った。

善光 優斗

今この持ってるシャワーを、鼻に向かってやったら金満君びっくりするかなぁ。

善光 優斗

……やめておこう。ぶっ殺されるわ。

善光 優斗

シャンプーを終えて、トリートメントも終わって、次は体か。

善光 優斗

「金満君、背中流すよ。」

金満 潤

あぁ。

善光 優斗

体を洗い終わった金満君は僕に背を向けた。

善光 優斗

僕はタオルでボディソープを泡立てると、金満君の背中を擦る。

善光 優斗

「大丈夫?痛くない。」

金満 潤

問題ない。

善光 優斗

「わかった。」

善光 優斗

普段は制服姿でしか見た事ないから気が付かなかったけど、金満君筋肉すごいなぁ。

善光 優斗

僕は金満の背中に文字を書いた。

善光 優斗

"スンドゥブ"

金満 潤

それがどうした?食いたいのか?

善光 優斗

「わかったんだ、すご!」

金満 潤

その程度、この俺がわからないとでも。

善光 優斗

「ええと、じゃあ次は…」

善光 優斗

"レトリーバー"

金満 潤

犬畜生。

善光 優斗

いやあってるけど言い方。

金満 潤

…フン、こんなの目をつぶっていても出来るぞ。

善光 優斗

背中越しだがら、変わんないでしょ。

善光 優斗

「じゃあ次は…」

善光 優斗

"せんば"

金満 潤

……っ!

善光 優斗

次の瞬間、金満は振り返るや否や、僕の鼻に向かってシャワーをかけて来た!

善光 優斗

「うがっ!ゴホッ!!あ"あ"!!」

善光 優斗

「鼻が…痛い…。」

金満 潤

…次その名前出しやがったら、濃硫酸の風呂に入れるからな…。

善光 優斗

「ごっ、ゴメンゴメンゴメン!」

金満 潤

チッ

善光 優斗

……あったかいはずのお風呂が、急に寒くなった。

善光 優斗

「…お背中流しまーす。」

金満 潤

……

善光 優斗

金満君の背中を流し終えると、僕はそそくさとお風呂に浸かった。

善光 優斗

「ふぅ〜気持ちぃ〜。」

善光 優斗

僕の隣に金満君が浸かる。

善光 優斗

「気持ちい時ってさ、つい声出ちゃうよね。」

金満 潤

ふーん、そうなんだな。

善光 優斗

金満君がニヤニヤとしながら僕を見る。

善光 優斗

何だコイツ…貧弱そうな体とでも言いたそうだなぁ。

善光 優斗

けど、意外だなぁ。

善光 優斗

金満君とこんなお泊まりする関係になるなんて思わなかった。

善光 優斗

まぁ中学の頃から友達いないし、ひょっとしたらこれが普通なのか?

金満 潤

この風呂にはな、我がブランドの入浴剤が…

善光 優斗

そういえば、何で金満君は僕にこんな事してくれるんだろうか。

金満 潤

トロミがあるだろ?これが肌に密着して…

善光 優斗

たぶん金満君、一人でも平気!みたいな感じだけど、やっぱり誰かと喋りたいんだろうなぁ。

善光 優斗

じゃなきゃこんな、隙あらば自分語り出来ないでしょ。

善光 優斗

「すごいねぇ、金満君は毎日このお風呂に入ってるの?いいなぁ。」

金満 潤

普段はシャワーですませる。

金満 潤

…だがお前がどうしてもっていうなら…

善光 優斗

「シャワーなんだ。」

善光 優斗

「じゃあ今日お風呂にしてくれたのってひょっとして僕のため?」

金満 潤

……

善光 優斗

「だとしたら嬉しいなぁ。僕金満君と仲良くなれて嬉しいよ。」

善光 優斗

僕が笑うと、金満君が顔面にお湯をぶっかけてきた!

善光 優斗

「うぐっ!に、2回目ぇ!」

金満 潤

調子に乗るな。上がるぞ。

善光 優斗

どうやらちょっと怒らせちゃったかな。

善光 優斗

「ごめんって、ちょっと待って!」

善光 優斗

僕は慌てて金満君の後を追った。

善光 優斗

お風呂から上がるとバスローブが用意されていた。

善光 優斗

金満君はもうすでに着ている。

善光 優斗

めちゃくちゃ似合ってるなぁ…。

善光 優斗

何だか僕が着るとダボダボしてダサいんだよなぁ。

善光 優斗

「金満君、下着って…」

金満 潤

そんなもの不要だ。

善光 優斗

まっ、マジか…。

善光 優斗

金満君の親、海外に住んでるって言ってたし、海外スタイルなのかな。

善光 優斗

海外ノーパンが普通なのか、わからないけど。

善光 優斗

何だか下がスースーして落ち着かない。

金満 潤

モタモタするな。早く行くぞ。

善光 優斗

金満君は、またさっさと先を歩き始める。

善光 優斗

なーんでこんなにせっかちなんだろうか。

善光 優斗

高級ホテルのような廊下を歩く。たくさんの扉があるけど、こんなに部屋必要か…?

金満 潤

気になるか?何の部屋か?

善光 優斗

キョロキョロしてた僕に気がついたんだろうな。

善光 優斗

「うん、いっぱい部屋あるね。」

金満 潤

もう今日はいい。また見せてやる。

善光 優斗

それってつまり、また来て良いって事か?

善光 優斗

「ほんと?嬉しいよ、ありがとう。」

金満 潤

……別に。

善光 優斗

ふと金満君が急に足を止めた。

金満 潤

ここだ。

善光 優斗

金満君はまたまた僕の腕を掴むと、部屋の中に引っ張った。

善光 優斗

ここは、寝室か。

善光 優斗

中には大きくてふっかふかなベッドが置いてある。

善光 優斗

「えっ!今日僕ここで寝ていいの?!」

金満 潤

あぁ。

善光 優斗

ベッドに腰掛けると、めっちゃくちゃふっかふかだ。寝たら沈んでいきそうだ。

善光 優斗

しかも、この部屋いい匂いがする。

善光 優斗

甘くて何だかふわふわする香りだ。

善光 優斗

「ありがとう金満君、こんな良い部屋用意してくれて。良い夢見れそうだよ。」

金満 潤

良い夢…ね…。

善光 優斗

するとパチッと音がして、部屋の電気が消えた。

善光 優斗

「あっ、金満君消してくれたの?ありがと。じゃあもう寝るね。」

善光 優斗

「おやすみ。」

金満 潤

いいぜ…見せてやるよ。良い夢を。

善光 優斗

え…?

善光 優斗

すると突然、真っ暗な部屋の中で、僕の唇に何かが当たった。

善光 優斗

「んぐっ!うっ!」

善光 優斗

違う…物じゃない、キスされてる…!

善光 優斗

僕は金満君に、キスされている。

善光 優斗

「んんっ!っつ!んー!!」

善光 優斗

僕の口の隙間から、金満君の舌が入ってくる。

善光 優斗

ねっとりとした金満君の舌が、僕の舌に絡みついてくる。

善光 優斗

「んー!んふっ!んんー!!」

善光 優斗

金満君の唾液が僕の口の中にどんどん入ってくる。

善光 優斗

力いっぱい離れようとしても、金満君はびくともしない。

善光 優斗

溢れた唾液が、僕の頬を伝って行くのがわかる。ぞわぞわとして気持ちが悪い。

善光 優斗

「んっ!んー!んー!」

善光 優斗

金満君の手が、片方だけ肩から動いた。

善光 優斗

そしてその片方の手が、今度はバスローブの間に入れられて、僕の素肌を優しく這う。

善光 優斗

その優しい手つきが、逆に気持ち悪かった。

善光 優斗

「んんん!んー!っん!」

善光 優斗

僕は泣きながら抵抗した。だがこの暗闇の中じゃ、僕の涙は見えて無いか。

善光 優斗

初めての感覚に僕は震えが止まらなかった。

善光 優斗

やめて、やめてよ金満君。

善光 優斗

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!

善光 優斗

僕はもう無我夢中で手を振り回した。

善光 優斗

すると金満君はキスをやめて、僕から少し離れる。

善光 優斗

「か、か…」

善光 優斗

一度離れた金満君が、また僕に近づいてくる気配がした。

善光 優斗

「帰る!!」

善光 優斗

逃げないと、早くここから!!

善光 優斗

記憶を頼りに、恐怖で絡まりそうな足を何とか動かして、部屋の扉の前にたった。

善光 優斗

「開けてっ!!開けてってば!!開けてよ!!」

善光 優斗

何で…何で開かないんだよっ!!

善光 優斗

「嫌だ…!誰か…!誰か…!!」

善光 優斗

怖い…怖い怖い。

善光 優斗

恐怖で声が掠れていく。

善光 優斗

喉が急に細くなったみたいに、息が…上手く出来ない。

善光 優斗

「や、やだ…やめて…!お願い…!」

善光 優斗

僕はその場にうずくまった。

善光 優斗

なんで…なんで男の僕がこんな目にあわなきゃなんないんだよ…!

金満 潤

優斗。

善光 優斗

「ひっ…やめて…お願い…。」

金満 潤

優斗、こっち。

善光 優斗

すっかり力が出なくなった僕を、金満君は軽々持ち上げた。

善光 優斗

そしてまたあのベッドの上に優しく下す。

善光 優斗

包み込むような気持ちの良いベッドは、今じゃ僕にまとわりつくようで、気持ちが悪かった。

善光 優斗

「やっ…!あ……。」

善光 優斗

もう声も出なくなった。出るのは涙だけだ。

金満 潤

優斗。

善光 優斗

金満君は僕を後ろから抱きしめた。

善光 優斗

そして、僕の足に金満君の足が絡みつく。

金満 潤

優斗、大丈夫。全部俺に任せれば良いんだ。

金満 潤

大丈夫、怖くない。怖くない。

善光 優斗

「あ…あ…。」

金満 潤

なぁ優斗。優斗って、俺の事好きなんだろ?

金満 潤

俺すぐにわかった。

金満 潤

俺を見る目も、俺を呼ぶ声も、俺と話す声も、全部、全部、他の奴とは違う。

金満 潤

優斗を見てて思ったんだ。

金満 潤

優斗、俺以外と喋るとつまんなそうだった。

金満 潤

適当に合わせているだけだった。

金満 潤

けど俺は違うだろ。

金満 潤

優斗、俺の話聞く時、嬉しそうだった!

金満 潤

また聞きたいって!

金満 潤

楽しいって!

金満 潤

すごいって!

金満 潤

優斗には、俺の話を聞かせる価値があるって思ったんだ!

金満 潤

優斗も嬉しかっただろ?!俺と喋れて!

金満 潤

それにそれに!

金満 潤

優斗毎日俺のために弁当作って来てくれただろ?!

金満 潤

そんなに俺に…俺のために…!

金満 潤

優斗、優斗、なぁ優斗…!

金満 潤

お前なら俺の側にいていい…!

金満 潤

これからは、ここに、二人で暮らすんだ。

金満 潤

優斗も嬉しいだろ?

金満 潤

料理はゆっくりで良い。また教えてやるから、覚えていこうな。

金満 潤

学校はもう不要だろ?俺がどうにかしておく。何も心配は要らない。

金満 潤

家族の方にも、俺が話をつけておく。

金満 潤

優斗は何も心配しなくていい。大丈夫。全部俺に任せてばいいんだ。

善光 優斗

金満君は、さらに僕を抱きしめる力を強めた。

善光 優斗

「……ぁ。」

金満 潤

優斗、大丈夫。全部俺に委ねればいいんだ。

善光 優斗

同じ男同士だからわかる。

善光 優斗

金満君は、僕をそういう目で見ている。

善光 優斗

僕の腰にあたる硬いソレが、僕に向けられたものだと、嫌でもわかる。

金満 潤

これからは、ずっと一緒だ。ゆうと。

善光 優斗

金満君の手が、僕のソレに触れそうになった。

善光 優斗

「やめろっ!!」

善光 優斗

僕は金満君の手を引っ叩くと、体を起こして金満君と距離を取る。

善光 優斗

今までに出した事の無いほど、大きな声が出た。

善光 優斗

僕は近くにあった枕を抱きしめた。

善光 優斗

もしもの時は、これを投げて、その隙に…!

金満 潤

優斗…?

善光 優斗

「…やめて、これ以上、来ないで。」

金満 潤

優斗、大丈夫だよ?優しくするから。な?だから、こっち来て。

善光 優斗

「来るなって言ってるだろ!!!」

金満 潤

なっ…!うっ、うぅぅ…。

善光 優斗

僕はベッドから降りると、また扉の近くに向かう。

善光 優斗

また扉を開けるためでは無い。部屋の電気を着けるためだ。

善光 優斗

これか?

善光 優斗

スイッチらしきものに触れると、パチっと音がして明かりが着いた。

善光 優斗

明かりが着くと、金満君も僕もバスローブがめっちゃくちゃはだけている。

善光 優斗

「わっ、わぁ!」

善光 優斗

慌てて僕はバスローブを着直した。

金満 潤

なん…っで…どうして…。

善光 優斗

金満君を見ると、はだけたバスローブも気にせずにぼろぼろ涙を流していた。

金満 潤

なんで…なんで…?!

善光 優斗

「金満君ごめん…。」

金満 潤

なんでっ!なんでなんだよ!!なんで!!

善光 優斗

「思わせぶりな行動をしたならごめん。僕にそんなつもりは…。」

金満 潤

やめろ…それ以上は…!

善光 優斗

「僕は金満君の気持ちに応えられない。ごめん。」

金満 潤

黙れっっって、言ってるだろうがっ!!!

善光 優斗

「うぐっっ!!」

善光 優斗

金満君は僕の元へ突進すると、力強く、僕の首を絞めてきた。

善光 優斗

「あがっっ!かはっ!」

金満 潤

ふーっ!ふーっ!

金満 潤

お前まで俺を否定するのか…?

金満 潤

お前まで、俺のもとからいなくなるのか…?

金満 潤

お前までっ!約束を破るのか?!!

金満 潤

なぁ!何度俺は我慢すれば良いんだ?!!

金満 潤

どうすれば、お前らは認めてくれるんだ!!!

善光 優斗

や、やばい…意識が…

金満 潤

どうすれば…

金満 潤

どうすれば…側にいてくれるんだ…?

善光 優斗

金満君の手の力がゆっくりと弱まっていく。

善光 優斗

「かはっ!はぁ!はぁ!はぁ…!」

金満 潤

なぁ、優斗。

金満 潤

優斗の欲しい物は?

金満 潤

したい事は?

金満 潤

叶えたい事は?

金満 潤

なぁ?俺、何でも出来るから。だから…

善光 優斗

「…ごめん。」

金満 潤

優斗料理好きだろ?また教えてやる。

金満 潤

俺の話も好きだろ?もっといっぱい喋るから。

善光 優斗

僕は静かに首を横に振る。

金満 潤

…っ、俺もっと頑張るから…!だから、側にいて!一緒にいて!

金満 潤

…っう…っう…何でもするから…。

金満 潤

…俺から…離れないで…。

善光 優斗

僕よりも大きく頼もしく見えた背中は、今はずっと、子供ように小さく見えた。

善光 優斗

金満君は、うずくまって、震えながら、怯えるように泣いている。

善光 優斗

僕のさっきまでの恐怖心は、みるみる萎んでいった。

善光 優斗

どうしてだろう。あんな事されたのに…。

善光 優斗

今では金満君が可哀想で、どうにかしてあげたかった。

善光 優斗

「金満君…。」

善光 優斗

僕は金満君の丸まった背中を、そっと撫でた。

金満 潤

…っ!

善光 優斗

金満君はすぐさま起き上がると、僕にしがみつく。

善光 優斗

抱きしめるとかそんなんじゃなくて、縋り付くみたいに、僕を掴んだ。

善光 優斗

僕はそんな金満君を優しく撫でる。

善光 優斗

泣いた妹を慰めるように、優しく、優しく。

金満 潤

…今なら、今だったら許してやる。

金満 潤

俺の側にいて?俺と一緒にいて?

善光 優斗

こんな時まで強きだなぁ。

善光 優斗

「ふふ…」

金満 潤

優斗?

善光 優斗

「僕なんかじゃ、金満君の隣は恐れ多いよ。」

金満 潤

っ!大丈夫だ!!俺の隣に相応しい様に教育してやる!!

善光 優斗

「うーん、でもなぁ、世間対とかなぁ…。」

金満 潤

有象無象の言う事なんて気にするな!逆らう奴は全員殺せばいい!!

善光 優斗

「けど金満君、わがままだからなぁ…。」

金満 潤

いつ俺がそんな事言った!!わがままなのは、お前らの方だ!!

善光 優斗

マジか、金満君。

善光 優斗

「くっ…ふふふ、ははは!」

金満 潤

優斗は俺と一緒にいなきゃダメなんだ!!

善光 優斗

「あははっ!そうなんだ!!あっはは!!」

金満 潤

優斗!俺は真剣なんだぞ!!

善光 優斗

「くふ…ふぅ、そうだよね、ゴメンゴメン。」

善光 優斗

「金満君、ごめんね。どんなに頼まれても、どんな見返りがあっても、僕と君はそういう関係には慣れない。」

金満 潤

っいやだ!!嫌だ!!!

善光 優斗

「でもね、金満君。」

善光 優斗

「そういう関係じゃなくても、僕は金満君の側にいるから。」

金満 潤

優斗?

善光 優斗

「だって僕達、"友達"でしょ?」

善光 優斗

「金満君が望む限り、僕は金満君の側にいるよ。」

善光 優斗

「僕も都合良く金満君を使うから、金満君も、僕を都合良く使っても良いんだよ。」

善光 優斗

「金満君が僕を望むなら、僕はいるよ。金満君が僕に飽きたなら、僕は潔く去るよ。」

善光 優斗

「だから金満君、大丈夫だよ。」

善光 優斗

「何があっても、金満君が僕を望むなら、僕は金満君の側にいるからね。」

金満 潤

……うん。

善光 優斗

僕はバスローブの袖で、金満君の涙を拭った。

善光 優斗

「…眠たくなってきちゃった。」

善光 優斗

「金満君、一緒に寝よっか。」

金満 潤

…いいのか!?

善光 優斗

「寝るだけだよ、何もしないよ。」

善光 優斗

「ほら金満君ベッドベッド。」

善光 優斗

僕は金満君を立たせて、ベッドに向かった。

善光 優斗

「金満君隣おいで。」

善光 優斗

毛布をまくってトントンと隣を叩くと、金満君が隣に入って来た。

善光 優斗

「ギュってして寝よ。金満君、ほらむぎゅー!」

善光 優斗

僕が抱きしめると、金満君をムギュって抱きしめ返して来た。

金満 潤

優斗ホントに一緒にいてくれる?どっか行ったりしない?

善光 優斗

「大丈夫。何があっても側にいるから。」

善光 優斗

金満君の背中をポンポンと叩くと、僕を抱きしめる力が少し強くなった。

善光 優斗

あっ!

善光 優斗

「金満君ゴメン、ちょっと離して。」

金満 潤

嘘つきっ!!離れないって言った!!!

善光 優斗

「ゴメンゴメン、電気消して来るから。」

金満 潤

あぁ…。

金満 潤

おい、電気消せ。

善光 優斗

金満君がそう言うと、電気がスッと消えた。

善光 優斗

「音声対応してるんだ…。」

金満 潤

あぁ。

善光 優斗

「じゃああのスイッチは?」

金満 潤

ムードのためだ。

善光 優斗

ムードとか気にするタイプなんだ…。

善光 優斗

「なんか金満君が可愛く見えてきたよ。」

金満 潤

!!好きになったか?!

善光 優斗

「いやそう言うベクトルで好きじゃなくて…。」

金満 潤

じゃ、じゃあ嫌いなのか…?

善光 優斗

「嫌いじゃないよ、友達として好きだよ。」

金満 潤

!!好きなんだな!!

善光 優斗

「好きだけど、種類が違うよ。友達として、好き。恋愛対象じゃない。」

金満 潤

???好きなんだな!!!

善光 優斗

「なーんで伝わらないかなぁ?違うってば。」

金満 潤

優斗〜♪

善光 優斗

僕よりデカいくせに、スリスリと甘えてきた。これがギャップ萌えかぁ?

善光 優斗

「はい、じゃあもう寝るよ。おやすみ金満君。」

金満 潤

エッチは?

善光 優斗

「エッチしないよ。」

金満 潤

何で?エッチッチしよ?

善光 優斗

「可愛く言ってもしないよ?はい、もう寝ます。おやすみなさーい。」

金満 潤

エッチッチ!!

善光 優斗

「しないって言ってるでしょーが!!!」

金満 潤

イヤーーーッ!!!

善光 優斗

「寝ろっっっーーー!!!」

善光 優斗

こうしてしばらく、金満君と僕の攻防戦は続いた。

善光 優斗

「金満君ちんちん触んないで。」

金満 潤

ちんちん。

善光 優斗

「やーめーて、触らない。」

金満 潤

ちんちん!

善光 優斗

「また引っ叩くよ!いいの?!」

金満 潤

おう、好きなだけ叩け。その代わり、俺も好きなだけ中に出すからな。

善光 優斗

「精神年齢ジェットコースターなの?急に普通に喋んないでよ。」

金満 潤

優斗、エッチしよ。

善光 優斗

「もう無限ループじゃん。ほら寝るよ。」

金満 潤

ちんちん。

善光 優斗

「だから触るなって言ってるだろっーー!!!」

善光 優斗

次の日

善光 優斗

僕はゆっくりと目を開けた。

善光 優斗

体を起こそうにも、隣の奴がガッチリと僕を抱きしめていて起きれそうにない。

善光 優斗

「…金満君、起きて。」

金満 潤

ん…んん。

善光 優斗

「金満君、起きてってば。」

金満 潤

ん…俺はゴムアレルギーで…

善光 優斗

何の夢見てるんだコイツぁ。

善光 優斗

「金満君!!」

善光 優斗

大きな声で起こしてみると、金満君は体をビクって揺らして、起き上がった。

善光 優斗

「金満君、おはよう。」

金満 潤

あぁ、おはよう。

善光 優斗

ナチュラルに金満君は僕にちゅってすると、デカい体でもたれかかってきた。

善光 優斗

「金満君重…。どいてってば。」

金満 潤

童貞?だからどうした?その童貞に優斗気持ちよくさせられるんだぞ。

善光 優斗

「引っ叩くよ!!!いい加減にしろ!!」

金満 潤

うっ…ふっふっ、うぇ〜ん!

善光 優斗

「?!金満君ゴメンね、言い過ぎたね。ゴメンゴメンよしよし。」

金満 潤

ゆ、ゆゆ優斗が…!俺悪くないのに…!

善光 優斗

「金満君ゴメンね、僕プンプンしすぎたね。ゴメンね。」

金満 潤

ふ、ふ、ふ、ふぇ〜ん!

善光 優斗

「金満君ほら、朝ごはん食べよ!朝ごはん!」

金満 潤

ふっ、ふっ、ふっ、うん…。

善光 優斗

「僕作るよ。ほら金満君も一緒に行こ!」

善光 優斗

僕は金満君を何とか泣き止ませると、昨日の厨房まで案内してもらった。

善光 優斗

ん…あれ?

善光 優斗

金満君三つ子じゃねぇよな?アイツあれでも高校生だよな?

善光 優斗

何でか無意識に、子供扱いしちゃった…。

善光 優斗

金満君と一緒に朝食を食べた後、僕は帰る事にした。

善光 優斗

「金満君離して、もう僕帰るよ。」

金満 潤

イヤァーーーー!!

善光 優斗

「金満君もう高校生でしょ。いい歳こいた大人がそんな事しないで。」

金満 潤

ヤ!ヤ!ヤダァ!!

善光 優斗

もう帰りたいのにどうしよう。このデカいくせに、ちっちゃいフリする奴。

善光 優斗

ちいきもか?

金満 潤

うっ、うう…優斗俺から離れないって…言った…!

善光 優斗

「それは、何というか心の距離的な問題じゃん。物理的な問題じゃなくて。」

金満 潤

俺の事、好きって言った!!

善光 優斗

「友達としてね。何度も言うけど。」

金満 潤

愛してるって言った!!

善光 優斗

「言ってないよ?!それは初耳だよ?!」

金満 潤

うっうぐ…えっぐ…。

善光 優斗

「金満君離して、玄関でプロレスする趣味無いから。」

金満 潤

じゃあベッドの上でプロレスしよ!

善光 優斗

「場所の問題じゃ無いからね?」

善光 優斗

ってか、何でベッドなんだよ。せめてもうちょっと下心隠して欲しい。

善光 優斗

金満君が僕に唾液まみれのちゅーしようとしてくるのを、僕は必死によける。

金満 潤

ちゅー!ちゅー!

善光 優斗

「しーなーい!!」

金満 潤

ちゅー!!!

善光 優斗

「あっち行けーー!!!」

善光 優斗

僕と金満君の玄関プロレスは、昼まで続いた。

金満 潤

……なぁ、優斗。もう一度考えてみろ。俺は金満家の人間だぞ?お前もその一人になれるんだ。これほど喜ばしい事ないだろ?

善光 優斗

「はいはいそうだね。もう帰らせて。」

金満 潤

お前の家はここだろぉ?

善光 優斗

「違うよぉ?」

善光 優斗

「金満君別に永遠の別れじゃないんだから。また月曜日学校で会お。」

金満 潤

優斗、別に家族と会うなって言ってる訳じゃないんだ。定期的に合わせてやるから。もう一緒に住も?

善光 優斗

「金満君無意識だと思うけど、モラハラ発言どうにかしたら?」

善光 優斗

「家族に合わせてやるって、何だよ。何で家族と会うのに許可がいるんだよ。」

金満 潤

俺の事好きなんだろ?じゃあ俺の事優先するのが当然だろ。これから俺の飯は優斗が準備するんだよ。

善光 優斗

「自分でやれ、そんなもん。三つ子じゃねぇんだから。」

金満 潤

優斗、専業主夫だろ。働かざるもの食うべからずだ。

善光 優斗

「なーんで僕金満君と結婚するの決まってるんだよ。なーんで僕の人生金満君に決められないといけないの?」

金満 潤

俺に間違いは無い。全部俺の言う通りにすればいいんだ。

善光 優斗

「そーいうのが嫌だっつってんだろ!!」

金満 潤

ここに住むのぉっ!!!

善光 優斗

「帰る!!!」

善光 優斗

そして、辺りはすっかり暗くなって夜になった。

善光 優斗

「金満君、もうやめよ。一生のお願い。帰らせて。」

金満 潤

優斗、もう暗いから危険だ。変な奴に絡まれたらどうする?

善光 優斗

「金満君がそれ言う?」

金満 潤

よせよ、照れるだろ。

善光 優斗

「褒めてないよ。」

金満 潤

優斗わかった。とりあえず、今日は泊まって帰ればいい。明日も日曜で休みだろ?明日の事は明日考えよう。

善光 優斗

「それどうせ明日も何やかんや理由つけて引き延ばすんでしょ?帰るよ。」

金満 潤

ピィィィィィィギャァァァァァッッッッ!!!!

善光 優斗

駄目だ、埒が明かない。

善光 優斗

コイツすーぐ、ぐずるから会話になんねぇな。卑怯だぞ。

金満 潤

ゆうと、じゅんじゅん寂しんぼ。いっちょいっちょ。いるの!

善光 優斗

「赤ちゃんじゃん。あれ!おっきな赤ちゃんがいるぞ〜!」

金満 潤

ゆうゆ!ゆうゆ!

金満 潤

俺は優斗の羊水をビシャビシャに浴びて産まれて来たんだぞ〜。

善光 優斗

「帰るね。」

金満 潤

キィィィィィヤァァァァァァッッッッ!!!

善光 優斗

これもう永遠に続くな。ひょっとして金満君これが狙いか?

金満 潤

ゆうとしゃん!じゅんくんなでなでちて!

善光 優斗

そもそも金満君、こんな奴だったっけ?

金満 潤

優斗ごらん?これが中に入るんだ。

善光 優斗

多重人格か、これは?

金満 潤

喉が渇いたなぁ…おや?こんなところにどすけべなミルクがあるなぁ…。

金満 潤

……

金満 潤

優斗、無視はやめてくれ。一番効くから。

善光 優斗

……

善光 優斗

「…わかった金満君、こうしよう。」

善光 優斗

「そこの駅まで送ってくれる?」

金満 潤

やだっ!優斗ここに住むの!

善光 優斗

「出来る彼氏って、彼女の事送ってあげるらしいよ。」

金満 潤

優斗、じゃあ完璧な俺はここに住まわせてやる。

善光 優斗

「どうしよう、僕金満君に送って貰ったら好きになっちゃうかも。」

善光 優斗

「ちなみに初回のデートって、早く切り上げる方が良いらしいね。」

善光 優斗

「あんまり長いと飽きちゃうんだって。」

善光 優斗

「物足りないくらいだと、また会いたいって思うらしいよ。」

善光 優斗

「今ここで帰ったら…」

善光 優斗

「僕の頭の中、金満君でいっぱいになっちゃうかも…。」

金満 潤

優斗来なさい。夜道は危ない。俺が送ってやろう。

善光 優斗

「ありがとう!金満君!!」

善光 優斗

僕は金満君と喋りながら、静かな夜の道を歩く。

善光 優斗

冷たい夜風が僕の頬を撫でて気持ち良い。

金満 潤

……着いたな。

善光 優斗

寂しそうに金満君が言った。

善光 優斗

「うん、送ってくれてありがとう。金満君。」

金満 潤

……なぁ、俺の事好きになったか?

善光 優斗

「うん、ちょっとだけね。」

金満 潤

…そうか、なら良かった。

善光 優斗

「…じゃあね、金満君。」

善光 優斗

金満君に手を振って、改札を通ろうとすると、また金満君に腕を掴まれた。

金満 潤

……っ!

善光 優斗

何も言わず、金満君は僕を抱きしめる。

金満 潤

……行かないでくれ…。

善光 優斗

今にも夜風に攫われそうなくらい、小さな小さな声が聞こえた。

善光 優斗

「…ごめんね、言い方が良く無かったね。」

善光 優斗

「またね、金満君。次会うの、楽しみにしてるね。」

金満 潤

……っ優斗!!

善光 優斗

周りの目なんて気にせずに、勢いよく、金満君はまた僕にキスをした。

善光 優斗

僕はすぐさま金満君の股間を膝で蹴り上げる。

金満 潤

うぐっ!!うぅ…。

善光 優斗

膝を曲げて、ガクガク振るわせる金満君。ごめんね、同じ男同士だから、痛みはよくわかるよ。

善光 優斗

「金満君!」

金満 潤

ゆっ、優斗…。

善光 優斗

金満君が目を涙でうるうるさせて、こっちを見た。今にも泣き出しそうだ。しかし、どっちの涙だろうか。

善光 優斗

まぁ、いいや。

善光 優斗

「僕ね、金満君の泣いた顔も可愛くて好きだよ。けどね、金満君の自身満々のあの顔はカッコよくて好きだよ。」

善光 優斗

「金満君、笑って。」

金満 潤

うん…!えへへ…。

善光 優斗

金満君は照れながらも、にへ〜と笑った。初めて見る可愛い顔だ。

善光 優斗

「ありがとう。じゃあもう僕行くね。また月曜!」

善光 優斗

僕は金満君が復活する前に、駆け足で改札を通って行った。

金満 潤

優斗!!

善光 優斗

後ろで金満君が僕を呼んだ。

善光 優斗

僕は足を止めずに振り返って手を振った。

金満 潤

また月曜!絶対!絶対だからな!カッコいいとこ見せるからなっー!!

善光 優斗

…ふふ、楽しみにしてるよ。金満君。

善光 優斗

波瀾万丈の土曜日を終え、疲労困憊で寝て終わった日曜日も過ぎ。

善光 優斗

また月曜日がやって来た。

善光 優斗

僕が教室に入ると、何だかクラスがざわついている。

善光 優斗

何だ何だと思ってよく見ると、クラスメイトの視線は一点に集中していた。

善光 優斗

その視線の先には…

銭場 守

なぁ、金満。

金満 潤

あ?

銭場 守

なぁ、何でお前…

銭場 守

金髪なの…?

善光 優斗

そこには、サラサラのマッシュヘアをなびかせた。

善光 優斗

金髪の金満君がいた。

金満 潤

!優斗!!

善光 優斗

僕に気がついた金満君が、ダッシュで僕の真ん前に来た。

金満 潤

優斗!

善光 優斗

金満君がめちゃくちゃ近い距離で鼻息を荒くしている、もうちょっと離れて欲しい。

善光 優斗

「か、金満君おはよ…。金髪にしたんだ。」

金満 潤

あぁ!朝起きたらこうなってたんだ!!

善光 優斗

えっ、そんな事ある?え、じゃあ地毛なの!?

金満 潤

優斗!カッコいいか?

善光 優斗

「お、おん。カッコいいよ!」

善光 優斗

金満君の圧に押されて思わず言うと、金満君は満面の笑みだ。

金満 潤

そうかぁ…!!

善光 優斗

金満君はそう呟くと、思いっきり、僕を抱きしめた。

善光 優斗

「まっ、待って金満君!!場所を選んで!!」

クラスメイト3

えっ、二人ってそういう仲なの?

クラスメイト2

あー、だから距離感が…

善光 優斗

「いや…みんな…違…」

善光 優斗

僕が誤解を解こうとした瞬間。

善光 優斗

「んぐ!!」

善光 優斗

このバカは、キスしやがった…。

善光 優斗

……

クラスメイト1

……

クラスメイト4

……

銭場 守

…マジか。

善光 優斗

ゆっくりと口を離されるが、もう僕もクラスメイトもキャパオーバーだ。

善光 優斗

静かで無言の空気が流れた。

金満 潤

……

金満 潤

……俺と、善光優斗は付き合っている。以上!!

クラスメイト1

……

クラスメイト2

……

クラスメイト4

……

銭場 守

……

全員

「「「「えぇーーー!!!」」」」

善光 優斗

またクラス中がざわめき始める。内容は勿論、僕らの事だ!

善光 優斗

「えっ、ちょま、え…」

善光 優斗

「ちっ、違うんだよぉーーーーーーーーー!!!!!!!」

善光 優斗

僕は学校中に響くんじゃないかってくらい、絶叫した。

善光 優斗

待ってよ、付き合ってないよ。こんなのやめてよ。

金満 潤

優斗、俺はお前を手に入れるなら手段は選ばないからな。

金満 潤

まずは周りから、そしてゆくゆくは…フッフッフ…。

善光 優斗

何黒幕気取ってんだよ、もう…。

善光 優斗

「愛が重いよ、金満君。」

愛が重いよ、金満君。

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