そこは既に、濃い霧で満ちていた
少し先すらもよく見えない 悪い視界に
一瞬、足を止める
死ぬつもりだった
毎日を生きることに疲れた ただそれだけの理由だった
天音(アマト)
両親は幼い頃に亡くなり 弟もまた、先日事故で旅立った
だから、と言うべきか
天音は敢えて 山の奥の廃村を死に場所に選んだ
孤独だったから 孤独のまま逝きたい
人に触れれば 揺らいでしまう気がした
天音(アマト)
呟いたその言葉は 自身の肉体へと向けたものか
それとも、 その人生に向けたものか
何十年も前に切り倒されただろう 苔むした丸太に
そっと腰を下ろした
耳をすませば、 静寂の中に 微かな木々の音がする
それを聞きながら
消える気配の無い霧の冷たさを なんとなく感じていた時だった
天音(アマト)
視界が、ぐらつく
天音(アマト)
まだ睡眠薬なんて 飲んでいない筈なのに
天音(アマト)
天音(アマト)
???
天音(アマト)
???
天音(アマト)
???
天音(アマト)
まだガンガンとうるさい頭痛
しかしそれよりも
先程までの濃い霧は跡形も無く 代わりに目の前に広がっている
古い造りの家々と
自分に声を掛けていたと思われる 目の前の少年に
天音は困惑した
その少年は、透き通るような 色違いの瞳で
白く艶やかな着物を身に纏い
肩まで伸びた金に近い色の髪を 儚げに風に揺らしていた
天音(アマト)
???
天音(アマト)
???
???
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
えっ、という声が喉から出たが ヒジリはもう一度頷く
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
天音(アマト)
自己紹介なんて何年ぶりだろうか
名字も言った方が良いか考えたが
ヒジリが言わなかったので 伝えないことにした
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
天音(アマト)
死ぬために なんて言えるわけもない
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
クモツは供物、という事か
天音(アマト)
贄...なのではないか
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
人柱じゃないか、なんて 言える筈無かった
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
その口から飛び出てきたのは 聞いた事も無い洗脳だった
鳥肌が立つような嫌悪感に襲われ 無意識にポケットに手を入れる
手がスマホに触れた
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
検索しようとしたが 圏外、という表示に邪魔された
天音(アマト)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
慌てたように首を振るヒジリに 疑問の視線を向けると
ヒジリは視線を受け止め、 きっと、と話し出した
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
哀しげな色、というべきか
切なげな瞳にその色を滲ませて ヒジリは僕に問い掛けた
まっすぐな視線を 受け止められなくて
スっと逸らす
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
自分が死ぬ...神様の供物になると 分かっていても尚
『ソラに行きたい』 と言ったヒジリに対して
『死にたいから』なんて 言えるわけが無い
聖(ヒジリ)
改めて村に目を向けると 見た事の無い服装の村人達が 遠巻きにこちらを見ていた
その大多数は農業を行っている
天音(アマト)
天音(アマト)
天音(アマト)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
平和だと思う、と ヒジリは言った
その表情が 今まで見た中で1番寂しそうで
出しかけた言葉が 喉に詰まるような感じがした
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
天音(アマト)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
どこか腑に落ちたように ヒジリは柔らかく目を閉じる
長い睫毛が冷たい風に吹かれ 微かに揺れた気がした
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聞いてはいけない感覚はあった
だけど 何故だか無性に知りたくなって
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
嘆くでもなく 淡々と話すヒジリに
胸を締め付けられるような そんな感覚に陥った
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
言葉を切り、ヒジリは初めて 苦しげな表情を浮かべ
“僕の家系と対になる家系” そう言った
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
苦々しく発せられたそれは 僕の胸を抉るには十分だった
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
ヒジリは答えない
溶けて消えてしまいそうな 淡い微笑みを浮かべたまま
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
天音(アマト)
思わず聞き返せば ヒジリはコクンと頷いた
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
救いたい、と思った
触れるだけで消えてしまいそうな そんな空気を纏った彼を
そして出来ることならば
守りたい、とさえも
天音(アマト)
天音(アマト)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
どこからか霧が出始めて
ヒジリが より脆い存在に見えてしまう
天音(アマト)
聖(ヒジリ)
だんだんと濃くなる霧は やがて2人を包み
ここに来た時と同様な眠気が 少しずつ襲ってくる
ふわり、と
視界の中で 美しい金に近い色がなびいた
天音(アマト)
音も無く
唇にそっと 柔らかなものが触れる
それは微かなしょっぱさと
淡い熱さと切なさを含んでいた
一瞬だったのか それとも長かったのか
唇が離れた後 眠気に抗いながら
確かに、聖の声を聞いた
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
トンっと胸を押され
危ない、と思う前に 僕は地面に倒れ込んでいた
天音、と 彼の名前を呼ぶ
霧が晴れたそこに もうその姿は無いと知りながら
聖(ヒジリ)
彼が違う世界から来た、と もっと早くに気付いていたなら
こんな風には思わなかった
どこか壁を隔てて接せられる事に 慣れすぎていて
ヒトの温もりが嬉しくて
天音と一緒に生きたいと思った
だけど
知らない道具、見たことの無い服
たったそれだけで 天音がこの世界の人ではないと
気付いてしまったから
自身の雫で濡れた唇に手を置けば
天音の温もりがまだ残っていて
「なんで逃げないんだよ」 天音の言葉が聞こえた気がした
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
たとえ逃げたとしても 自分にはどこにも居場所は無い
聖(ヒジリ)
聖(ヒジリ)
もしも、と呟く
聖(ヒジリ)
天音(アマト)
ピチョン、と音を立てて
冷たい雨が身体を打つ
天音(アマト)
出ていた霧は いつの間にか晴れていた
天音(アマト)
もう全てどうでもいいと そう思って死にに来た筈なのに
胸につかえて取れないような この渦はなんなのだろう
天音(アマト)
どこで死のうかと 苔むした丸太から立ち上がる
微かな目眩と頭痛を覚えつつ
ぬかるんだ地面に 足を取られぬよう歩みを進める
やがて、 河の跡と思われる場所に出た
植物が巻き付いてはいたが そこには1つの石碑があった
天音(アマト)
表面に付いた苔と蔓植物を そっと手で拭い
石碑の表面を読む
そこには、何人もの名前が 一面に彫られている
天音(アマト)
初めて来た筈なのに
知っている名があった
重い拳で殴られたような衝撃が
全身に響いて
まるで自分の声ではないような 酷く掠れ、震えた声が
息とともに音となって漏れた
天音(アマト)
クモツだと言いながら
ソラに行きたいと言った彼
外の世界を見たいと言って
僕を“優しすぎる”と言った人
断片的な記憶が一気に溢れ出す
冷たい雨とは対照的に
天音(アマト)
頬を 熱い雫が濡らし、落ちていった
嗚咽を漏らさぬよう ギュッと唇を噛めば
戻って来る前に唇に触れた ヒジリの温もりが蘇る
その温もりを、消したくなくて
血が滲んだ唇から そっと歯を離した
天音(アマト)
天音(アマト)
我慢する事が出来なくなって 胸につかえていた渦が
声になり、 無人の廃村へと吸い込まれていく
天音(アマト)
涙と、雨と、滲んだ紅が 苔の生えた地面に落ち、消える
なぜ 死にたいと願った自分が生を得て
願いも、未来もあった筈の聖が 死を受け止めたのか
冷たい石碑を強く掴めば 言いたい事が溢れ出す気がした
天音(アマト)
天音(アマト)
天音(アマト)
天音(アマト)
天音(アマト)
もしも、と心で
誰に対してでもなく、問う
天音(アマト)
コメント
10件
せ、切ない😭😭😭 結局ヒジリは死んでしまったのか…ソラに旅立てたのでしょうか… キスからのお墓を発見するシーンはグッと来ました。優しすぎる天音が全部1人で背負い込んで自棄にならないことを祈ります… 参加してくださりありがとうございます‼
(´;ω;`)ふえぇぇ (´;ω;`)あゆみさん天才すぎません???