何か謎を解明する方法はないだろうか
高校生の頭で必死に考える
今はどうするべきか
何が最適解か
追うべきか
待つべきか
どちらかを選択しなければ……
俺は決断した
秋斗
一弥
一弥
秋斗
それから行動するまでは 大して時間もかからなかった
足のしびれに悶絶して 3分ほど遅れを取ってしまったが
俺たちは一枝さんを追いかけた
……
昔の家は大きい
二人で暫く探していたが まったく見つからなかった
仕方がなく手分けして 家中を見て歩く
居間、台所、部屋、トイレ……
もう一度戻って 俺たちがいた客間も見た
それでも見つからない
俺はあまりに見つからないので 風呂場などを確認していた
古風だが綺麗に掃除されている
ああ、レモン石鹸がある
じいちゃん家にも これあったなあ……
くだらないことを考えていた
その時
一弥
秋斗
秋斗
一弥
秋斗
一弥
一弥
秋斗
それにしても
どうりで家のなかを探していても 見つからないわけだ
時間は15時ほどで 天気は少しだけ曇っている
洗濯物の取り込みは 考えてみれば当たり前だった
何故か思い至らなかった 自分を恥じる
そうやって うつむき加減に歩いていたら
一弥
秋斗
急に立ち止まった 先輩の背中にぶつかった
鼻が硬い背中に直撃して 地味に痛かった
一弥先輩の恐い顔が 上から威圧する
一弥
秋斗
秋斗
一弥
呆れたようにため息をつき 先輩は前を向いた
一弥
俺たちは庭に降りられる廊下に立って 見下ろすように庭を見た
庭は少し荒れており 草木が若干伸びすぎている
庭の奥には倉庫があって 庭道具や先代が持っていた 農具などが雑多にあるらしい
それ以外は目立って何もない
秋斗
一枝
一枝さんが見つかったという 報告を受けた通り
一枝さんは 庭で洗濯物を取り込んでいた
表情はうつろで やはり様子がおかしかった
呼びかけても返事はなく ただ、衣服を取り込んでいる
そう思ったが よく見て見ると衣服の端っこを 触ったら離したり
裏返してまた干したり 取り込んだものを振るって見つめたり
……動作が異常だった
俺は先輩に話しかける
秋斗
一弥
一弥
秋斗
一弥
秋斗
一枝
意味のない動作を繰り返し 意味のない数字を呟く
悲しいが これは何かの病なのではないか
そう思った
しかし 引っかかるのは一時的ということ
ここ1年 こんな様子が続いているらしいが
スパンは長く 症状自体は短いのだ
一体、これは……
「38」
秋斗
一弥
一枝
一枝さんが、ついに呟いた
「38」とである
一弥
秋斗
計画通り 俺は遠慮なく聞いた
秋斗
一枝
秋斗
一枝
一弥
秋斗
一弥
一弥
一弥
秋斗
秋斗
「38」
「38」を「さんじ はち」で 「惨事は血」「惨事 鉢」 「惨事8」
「38」を繰り返すということから 実は「さんじゅうはち」から始まって いたのではなくて「じゅうはちさん」 という人物名と聞き違えていたとか
色々な想像がつく
だけど この耳で実際に聞いてみると これはやはり「38」という数字だ
そう考えると 気になっていることがある
俺がずっと気になっているのは 何の単位なのかということ
「38」という数字なのだから 必ず単位を表す言葉がつくはず
その後が知りたい
俺は質問内容を決めて尋ねた
秋斗
秋斗
一枝
秋斗
一枝
一枝
一枝
一弥
一弥
秋斗
一枝
秋斗
一弥
一弥
秋斗
一枝
秋斗
一枝
一枝
一枝
一枝
一枝
一枝
俺たちは後ろを振り返った
そこには
秋斗
一弥
一弥
冷たい顔をした若い女
和服を着た厳しそうなおじいさん
おかっぱ頭の小さな女の子
スーツを着た弱々しい男
農作業着の中年女
坊主の男の子
ひげを蓄えた中年男
腰の曲がったおばあさん
学生帽を被ったメガネの男
腹巻きをしている太った男
スカートを履いている少女
疲れた顔をしている男
銃剣のついた装備を持って 表情もなく佇んでいる男が数名……
俺たちは 死人によって取り囲まれていた
数えられない
だが、38人居たとしても 不思議ではないほどの数である
とにかく パニックになっていた
秋斗
一弥
一弥
一弥
秋斗
一弥
一弥
秋斗
秋斗
一弥
一弥
秋斗
一弥
一弥
一弥
一弥
秋斗
一弥先輩は近くにいた 男の幽霊に殴りかかった
しかし 渾身のパンチは空を切りからぶった
何度殴ったり蹴ったりしても 透けてしまって当たらない
一弥
秋斗
一弥
秋斗
秋斗
秋斗
一弥
秋斗
一枝
秋斗
秋斗
一枝
秋斗
一弥
一枝
一弥
目線を辿ってみると 笑いかける白髪の老人がいた
あれが、10年前に亡くなった 一弥さんのお爺さんであり 一枝さんの伴侶なのだろうか
一枝さんが呟く
一枝
一弥
一枝
一枝
一弥
一弥
秋斗
一弥
一弥
孫からの罵倒に 老人の霊は首を振った
まるで 「それは誤解だ」とでも言うように
老人は一枝さんの方を向いて 自身の左胸を叩いた
そこで優しく笑いかけると 後ろを向いて歩き出した
一枝は叫ぶ
一枝
一枝
一枝
一枝
一枝
一弥
秋斗
老人の霊はまた向き直って 首を振った
そして 一枝さんの方へと歩き出して 目の前で立ち止まった
一枝
一枝
老人の霊は 一枝さんを優しく抱いた
だが、触れられないようで 体はすり抜ける
それでも 一枝さんはもう戻らない夫の温かさを 感じ取っていた
大粒の涙を流して たしかに存在した夫の透明な姿を いつまでも離さなかった
やがて 38人の幽霊たちの身体は 粒子となって流れ星の如く空へと昇る
きらきらと輝く彼らは 空だけではなく俺たちを照らした
命の星はやがて尽きてしまった
もう、辺りは 一枝さんの泣き声だけが包んでいた
俺は
俺はもう一度、空を見上げた
……
秋斗
一弥
一弥
秋斗
先輩は相変わらず 何のためらいもなくドアを開いた
一枝
一枝
ドアの向こうには 満面の笑みを湛えた一枝さんがいた
笑っていると 太陽のように明るい
「これ」とぞんざいに フルーツが入ったバスケットを置いて 小さな椅子にどっかと座る
俺はその様子を見て 苦笑いをしてから座った
一枝さんは喜んでくれた
一枝
一枝
一弥
秋斗
一枝
一枝
一弥
秋斗
秋斗
一枝
一弥
一弥
一弥
一枝
一枝
あの騒動のあと 俺たちは座敷に戻った
3人でどういうわけか 話しているうちに全てがわかった
2年前ほどから 夫の幽霊が現れるようになって
一枝さんは ここ1年の間に親族の幽霊までも 見えるようになった
そして 一枝さんの夫は会う度に 自分の左胸を手で叩く
これは 一枝さんの心臓に異常があることを 一枝さん自身に教えてくれていた
そして 一枝さんもそれを理解した
だが 10年も伴侶がおらず、寂しい日々を過ごしているうちに 夫の元へ旅立ちたいと考えるようになる
つまり 分かっていて病原を治さなかった
さらに分かったことがあり 一枝さんは夫の霊と交信している間は 「38」とここ1年で無意識に言っていることが周りの反応で分かった
「38」が何なのか分からなかったが 思いつきで親族の霊を数えてみると なんと「38人」だった
……という話をしてくれたため では、無意識に「38」と呟いたあと 数字の正体が分からないと言ったのは 嘘なのかと問い詰めると白状した
そして今回 俺たちの介入と説得によって 何とか手術を受けてもらい入院する
これが 「38」を巡る真相だった
一弥
秋斗
一弥
一弥
秋斗
秋斗
一弥
一枝
一弥
一枝
一枝
一枝
一弥
一弥
一枝
秋斗
一枝
一枝
一弥
秋斗
秋斗
一弥
秋斗
秋斗
一弥
一枝
話は終わりを迎えていたが 一つだけ気になってしまった
秋斗
一弥
俺はそれを聞いてみる
秋斗
秋斗
一弥
一弥
先輩は 一枝さんの方を向いた
なぜか しばらく黙っている
言いにくそうだった
しかし 決心したように口を開く
一枝
一弥
秋斗
一枝
一弥
秋斗
一弥
一弥
秋斗
一弥
一弥
一枝
一弥
秋斗
一枝
秋斗
一弥
一弥
一弥
秋斗
一弥
一枝
一弥
秋斗
秋斗
一枝
一弥
一弥
「38」
幸せを運ぶのか、不幸を運ぶのか
それはよく分からない
しかし 38名の命の星々は
確かな命のバトンを 力強く運んでくれたのだ
Happy end