テラーノベルの小説コンテスト第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

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見知らぬ本屋と12冊の呪われた絵本

第5話 - 幕間　【１】

2024年12月01日

#ミステリー

#心理戦

#デスゲーム

#推理

#第4回テノコン

日比野響

某　スタンドバー

一宮

悪いが、聞きたいことが沢山あるんだ。

一宮

酒はほどほどに頼む。

すでに３杯目のビールを飲み干した八橋に向かって、ため息をひとつ。

八橋

君のせいで私の野望は潰えたの。

八橋

やけ酒くらいさせてよ。

八橋

話すべきことは話すからさ。

バーに入っておきながら、まるで付き合わないというわけにもいかない。

カウンターの向こうにいるマスターに向かって注文。

一宮

山崎のロックで。

八橋

あ、私の奢りだからって、そんな高価なお酒を。

八橋

マスター、私のところにも山崎、ロックでちょうだい。

一体なにを張り合っているのか。

静かに置かれたウイスキーのグラスを傾ける。

一宮

まず、単刀直入に聞きたい。

一宮

俺達の持ってる絵本ってなんだ？

八橋

あ、そんなところから聞く？

八橋

まぁ、いいわ。
簡単に話してあげる。

八橋

私達が持ってる絵本は、俗に【呪いの絵本】って呼ばれてる。

八橋

御伽話やら童話やらと、統一性のないタイトルばかりなんだけど、作者の名前は共通で【十三形　芳士(とみがた　ほうじ)】になってるわ。

八橋

名前くらいは聞いたことあるでしょ？

一宮

……確か、30歳くらいの若さで非業の死を遂げた、天才芸術家だよな？

八橋

そう。
絵本は全部で12冊あって、どれも十三形の晩年の作品と言われている。

八橋

あくまでも噂だけど、死の一ヶ月くらい前から、死の間際まで描き続けていたみたいね。

八橋

尾ヒレもついているだろうけど、飲まず食わず、そして一睡もせずに、取り憑かれたように絵本を描いていたとか。

一宮

それがどういうわけだが【呪いの絵本】になった。

八橋

そう。
正直、どうしてそうなったのか、詳しいことは誰も知らない。

八橋

もしかすると、私より詳しい人間がいるかもしれないけど、そういうものだと思ってもらっておいたほうが、色々と考えなくていいから楽かも。

八橋

絵本が意思を持ったのは、十三形の怨念か執念が宿ったのかもしれないし、実は全く別の原因でそうなったのか。

八橋

この辺りのことは、絵本に聞いても分からない――というか、当の本人達も知らないみたい。

八橋

まぁ、私達が【なぜ人類が誕生したのか】という問いに答えられないのと同じ。

八橋

そういうものだと認識するしかないわ。

一宮

……ちなみに、絵本ってのは基本的に高値で取り引きされてるんだろ？

一宮

でも、俺は桃太郎を数百円で買ったんだ。

八橋

それは多分、持ち主をロストしてしまった絵本だったからよ。

八橋

絵本の持ち主は当然ながら人間。

八橋

勝負をして命を落とすこともあるけど、普通に病気や不慮の事故で死んだりもするわ。

八橋

そのような形で主人を失ってしまった絵本は、それを手にするに相応しい人間の手に、偶然を装って渡る。

八橋

つまり、絵本に私達は選ばれたからこそ、絵本の持ち主なの。

八橋

さっきから、絵本は高値で取り引きされてるって言ってるけど、それを手に入れたところで、私達と同じ能力を持てる人間ばかりじゃない。

八橋

それどころか、絵本を手に入れた途端、体調を崩して倒れたり、事故で亡くなったりする人もいるみたいね。

八橋

結果的に絵本はロストし、相応しい人間の手に渡る。

八橋

絵本を手にしたら死んでしまうかもしれない――そんな噂があってもなお、金を幾ら出してでも欲しがる人間がいる。

八橋

きっと、みんな自分が絵本を手にすることは相応しいと思って疑わないんでしょうね。

一宮

絵本は全部で12冊か……。

一宮

所有者が相手を殺してしまった場合、その相手が持っていた絵本は――。

八橋

その所有者に渡ることになる。

一宮

ってことは、いずれ誰かが12冊を１人で所有することもあり得るよな。

八橋

難しいとは思うけどね。

八橋はウイスキーのグラスを傾けると、苦虫を潰したような表情を浮かべる。

八橋

あー、やっぱりビールのほうがいいわ。

どうやらウイスキーは得意ではないらしい。

一宮

もし、誰かが12冊全てを手に入れたらどうなるんだ？

一宮

対峙する相手もいなくなるし、それ以上の争いは起きなくなるのか？

八橋

それは私にも分からないわ。

一宮

とにかく、他の絵本を持っている人間に会ってみたい。

一宮

誰かれ構わず勝負になるわけじゃないだろうし、話をしてくれる人間だっているはずだ。

一宮

問題は――どうやって、残りの所有者を探すかだな。

ウイスキーのグラス片手に一宮が呟いた時のことだった。

？？？？

それについては心配いらない。

？？？？

絵本は、共に引き合わされる運命にあるのだから。

ふと、後ろを振り返ると、長身の女性が立っていた。

七星

失礼。

七星

私は七星(ななつぼし)という。

七星

説明は不要かと思うが――私もまた君達と同様に所有者【ホルダー】だ。

七星

……探す手間が省けたな。

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