今日も…
今日も雨が降っている。
傘と、濡れないように艶掛かったパンプス
周りに溶け込むような黒のスーツ
慌ただしく行き交う人の流れの中で
落としてきた物はいくつあるんだろう
生きる為に仕方なく受け入れたルールと
考える暇すら与えてくれない時間。
私
(私、いつから雨が嫌いになったんだろう…
そんな疑問さえ遠い記憶の中に封じ込められていたのだと思う…
親戚
うっうっ…
親戚
惜しい人を亡くしたねぇ
私
…。
お母さん
この度はご参列ありがとございます…
お母さん
ほら、あなたも頭を下げなさい…
私
…。
私
ねぇえ?お父さんは?
お母さん
…。
その頃の私はまだ「死」という概念がなくて
私
ねぇ?なんで目を開けないの?
ただひたすらに冷たく固くなった父を
ただの無機物としか思えなかった。
親戚
あの子、なんで泣かないのかしら…
親戚
ほら、まだ小さいからよ。
私
…。
泣くべきなの?
私
ねぇ、お母さん。
お母さん
なぁに?
私
死ぬって悲しい事なの?
母はそんな無頓着な私に苛立っていたと思う。
私
どうして「傘」を持つの?
私
こんなに気持ちいい雨じゃない
お母さん
濡れたら風邪引くでしょ!
私
どうして学校に行かなきゃいけないの?
私
勉強なんてつまらないじゃない。
お母さん
勉強は社会で生きて行くためには必要な事なのよ。
私
どうして喧嘩しちゃいけないの?
私
だってムカつくじゃない。
お母さん
悪い事をしたなら謝るのが普通でしょ。その子も嫌な思いをするじゃない。
私
どうして蟻を潰しちゃいけないの?
私
プチプチしてて面白いじゃない。
お母さん
生き物みんな必死で生きてるのよ。楽しいからって殺されちゃったら嫌でしょ?
小さい頃にあった本音は
幾度となく"違うもの"だと教えられ
元の絵が分からなくなるほど
塗りつぶされていった…
私
あ…。
私
…雨…。
生暖かく濁った水滴が肌を伝い
気持ち悪さすら感じる。
こんなのが気持ちいいと思っていただなんて…
もはやその気持ちに触れることなどなく、
絵の具が剥がれないように
今日も黒いキャンパスに傘を差す。
ざぁざぁ…
ざぁざぁ…
憂鬱な雨音が私の眠りを起こしにきた…
…つづく