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切っ先が光る。

高々と掲げた鎌の切っ先が光る。

???

どうせもう──

???

や……!

へたりこんで震える男の真上で、獲物の大鎌を持ちあげる。

???

死んでるんだから──

???

止めてくれ……!

恐怖に満ちた顔をわなわなと震わせる。

数秒に変わり果てる男を想像するだけで、胸が高鳴る。

???

私が殺害したって──

???

止めてくれぇ!!

???

俺は、何も……!

男は泣きわめきながら、みっともなく後ずさる。

痙攣するように震える男の喉に、

???

いいでしょう?

鎌を一息で振り下ろす。

びたびたっ

思っていたよりは小さい血しぶきが飛び、男の声は止んだ。

……さぁ、お楽しみは、これからだ。

校門には、明日咲へのお供え物が捧げられていた。

肌寒い朝の時間帯、シルクで覆われた献花台に、同学年の女子を中心に、学校の生徒たちが集まる。

彼女たちは、持ってきた飲み物や花束を丁寧に置いていた。

それらに取り囲まれるように、台の中央には、クラスメイトの──

いや、クラスメイトだった、『明日咲美以奈(あすざきみいな)』の写真立てが飾られている。

堀野満

…………

彼女たちの邪魔にならないよう、少し離れた学校の塀に背中を預けて、堀野満(ほりのみつる)は佇んでいた。

学校でもよく一緒に居るところを見かけた、明日咲の友人達が、今日も手を合わせて泣いている。

女子生徒1

美以奈……

女子生徒2

天国に行っても、私達ずっと一緒だからね……

親友だった一番近くの女子生徒は、ここから辛うじて聞こえる程度の小さな声をあげながら、肩を震わせてすすり泣いていた。

男子生徒1

放課後、トラックが来たところに、自分から飛び出したんだって……

男子生徒2

馬鹿言うなよ! 明日咲が自殺なんてする訳無いだろ!

男子生徒1

でも、昨日は一日、どこか様子がおかしかったって……

遠巻きに様子を見ていた男子達が、遠慮がちに事故について話し合っている。

そんな彼らの様子を見ながら、満は遠慮がちに口を開く。

堀野満

……やっぱり、皆おかしいと思ってるよ

堀野満

ただの事故死なんかじゃない

献花台から目を離し……視線を反対方向に向けて、

堀野満

ねえ、教えてよ

堀野満

僕に出来る事なら、なんでもするから……

堀野満

明日咲さん

明日咲美以奈

…………

塀の上に腰掛ける、半透明の彼女に、堀野はそう告げた。

明日咲美以奈

…………

明日咲はなんの反応も示さない。だが、間違いなく聞こえているはずだ。

ついさっき自分が話しかけた時には、明日咲は驚くような表情を見せていたからだ。

ただただうつむいて座り込む明日咲の身体からは、錆びた鎖のようなものが何本か伸びている。

それは歩道橋のそば……昨夜、明日咲の死体が見つかった場所へと繋がっている。

先程から何人もの生徒が通りがかっているものの、全員一顧だにせず通り抜けてしまう。

その異様な状況は、満が今まで何度も見てきた、地縛霊の特徴と同じだった。

明日咲美以奈

…………

堀野満

明日咲さん……

無言を貫く明日咲に、満は何度も話しかける。

やがて根負けしたのか、彼女はわずかに顔をこちらに向けて、突き放すような物言いで話し始めた。

明日咲美以奈

……止めなさいよ堀野

明日咲美以奈

そんなに堂々と話しかけんじゃないわよ

明日咲美以奈

また白い目で見られるわよ

堀野満

もう慣れっこだよ

明日咲美以奈

そんなんだからホラ野だのホラー野だの言われるんじゃない

堀野満

慣れっこだってば

何度も付けられてきた胸の内の傷を、満は乾いた笑いで誤魔化す。

虚空を向いて笑う彼に対し、周囲の生徒が何人か怪訝な視線を投げかけるが、これももう慣れっこだ。

作り笑いを終えた満は、真摯な表情で、改めて明日咲に話しかける。

堀野満

明日咲さん……

堀野満

僕に何か出来る事があったら言ってよ

明日咲美以奈

……アンタみたいなグズに頼む用事なんてないわよ

トゲのある冷たい声。

生前の彼女と話したことはほとんどないが、余り人の良い性格ではないことは人づてに知っている。

それでも、満は明日咲に向かって話し続ける。

堀野満

確かに僕は駄目な男だよ

堀野満

でも、今の明日咲さんと話が出来るのは僕だけだ

堀野満

明日咲さんがいまだ成仏出来ないのは、この世に未練があるからでしょ?

堀野満

それはきっと……この事故に関係する事だと思う

明日咲美以奈

…………

明日咲は再び口を閉ざす。ただしその様子は、先程までとどこか雰囲気が変わっているように見えた。

堀野満

除霊とかお祓いとか、そういう知識は何もないけど……

堀野満

僕は明日咲さんがいつまでもここで悲しんでいるのは嫌なんだよ

堀野満

どうか……未練があるのなら教えて欲しい。お願いだ

満は明日咲に向かって頭を下げる。

異能の目を持つ自分が、精一杯彼女のためにできることをしてやりたくて、ただひたすらに頼み込んだ。

始業の時間が近付き、生徒の姿も少なくなってきた頃、明日咲の声が頭の上から届く。

明日咲美以奈

……楡木(にれぎ)よ

堀野満

え……?

ただしその声は、さっきより更に鋭く冷たく、忌々しいほどの嫌悪感に満ちていた。

頭を上げると、ほんの少しだけ和らいでいるように見えた明日咲の顔が、再び険しくなっているのが見えた。

腕組みをしている彼女の手が細かく震えている。それがどういう感情によるものなのかは、おおよそ予想はついていた。

堀野満

楡木って……数学の楡木先生?

満が明日咲に聞き返すと、彼女は無言で頷く。

楡木は堀野達の高校の数学教師。 だが自分たちの学年の担当はしておらず、満にも明日咲にも、表向き接点と言えるものはほとんどない。

堀野満

楡木先生がどうしたの?

明日咲美以奈

……アタシを殺したのは楡木よ

明日咲美以奈

アタシに代わって、楡木に復讐してくれる?

堀野満

…………!

明日咲が冷静な口調で言葉を紡いだ。堀野はハッとした表情を浮かべる。

無心を務めているように見えるが、その瞳からはかすかに怒りがにじみ出ているように見えた。

手の震えは、はっきりと二の腕を締め上げる動きに変わっている。

堀野満

そ、そんな……本当なの……?

明日咲美以奈

本当よ! 顔は見てないけど、やったのはアイツで間違いない……!

満が困惑した様子を見せると、未否は激高する。

明日咲美以奈

アタシは楡木の悪事を暴こうとして、殺されたのよ!

明日咲美以奈

楡木だけは絶対許さない……!

明日咲美以奈

アイツが生きてるままじゃ、アタシは成仏なんて出来ないの!

今まで冷静を保っていた明日咲が、堰を切ったように恨み節を吐き続ける。

顔は真っ赤に怒張する一方、目尻には薄っすらと涙が浮かんでいた。

美以奈の豹変を目の当たりにした満は、困惑するように首を振る。

堀野満

あ……明日咲さん……

堀野満

どうしてそこまで……楡木先生と、一体何があったの……?

満がそう尋ねると、美以奈は塀から飛び降り、彼と向き合う形で歩道の上に立つ。

明日咲美以奈

協力してくれるなら、今日の夜、学校に来て

明日咲美以奈

その時に全部話してあげるわ

明日咲美以奈

楡木も多分、夜中に学校に来るはずだから、校舎で待ち伏せて……

明日咲は満の目をまっすぐ見据えて話し続ける。

瞳には黒い衝動が宿り、怒りで震わせる身体からは、復讐への執着心がありありと浮き出ている。

明日咲の決意を引き受けるように、満は彼女の言葉を繋いだ。

堀野満

……分かったよ、明日咲さん

堀野満

僕が楡木先生を……殺してみせる

明日咲美以奈

っ……!

見つめ返してそう告げると、明日咲は驚いたような表情を見せて、目をそらす。

明日咲美以奈

……そこまでしなくて良いわよ

明日咲美以奈

殺して欲しいのは本当だけど、そんな事したらアンタの人生だって終わっちゃうじゃない

明日咲美以奈

アンタはただ、アイツの悪事を暴いてくれるだけで良いから……

堀野満

……分かった

先生

堀野! 何してるんだ、門閉めるぞ!

校門の方から、先生に声をかけられる。

堀野満

じゃあ明日咲さん、また放課後

明日咲美以奈

……うん

満はきびすを返して、校門へと足早に歩いていく。

門をくぐる直前、横目に見た明日咲は……ほんの少しだけ、寂しそうにしていた。

???

……アイツね……

放課後、一旦帰宅した満は、家族の目を盗んで、夜に自宅を出る。

学校前の歩道までやってきた所で……

──ギャハハハ……!

日没後の静寂にふさわしくない、低俗な騒ぎ声が聞こえてくる。

???

いやぁ~、タダで飲み食い出来て良かったよな♪

不良1

死んでくれてホント助かったぜ♪

不良2

ぎゃははは!

献花台の前に、4人の不良が集まり、下卑た声をあげながらたむろしていた。

地べたや車止めに座り、献花台に備えられたお菓子や飲み物を好き勝手に食い散らかしている。

周囲にはお菓子の袋やペットボトルの他、彼らが持ってきたであろうタバコやその他のゴミも散乱していた。

4人からやや離れた所で、明日咲がこちらに背を向けて彼らを見ている。

表情は分からないが、身体全体が、今朝のようにわなわなと震えているのが見て取れた。

堀野満

(アイツ等……明日咲さんのお供え物なのに……!)

義憤に駆られた満は、明日咲の脇を通り、彼らに向かって声を張り上げる。

堀野満

おい! 何してるんだ、そんなとこで!

???

あぁ? ……んだ、テメェか

明日咲美以奈

な、何してんのよ……!

4人が一斉にこちらを向いた。後ろから明日咲の心配そうな声が届く。

気だるそうに彼らは立ち上がり、睨みを利かせてこちらに歩いてきた。

不良1

は? 誰お前?

???

ホラ野だよ、この前アタシがタコったぼっち野郎だ

満の真ん前に、赤髪の女子生徒が躍り出る。

桐生紅音(きりゅうあかね)……4人の中で唯一の女子だが、腕っぷしと凶暴さから、リーダー格になっている。

不良2

ああ、あの霊が視えるとかキメェこと抜かしてたって奴ね

桐生紅音

テメェもしかして、明日咲に惚れてたのか?

桐生紅音

告白して振られて、それで逆ギレして殺したとかじゃねえだろうなぁ?

不良3

明日咲を幽霊にすりゃ、独り占め出来るモンなぁ! ははっ!

虫を弄ぶ子供のように、不良達は堀野に嘲りの声をぶつける。

堀野満

ち、違う!

堀野満

お前達が、明日咲さんへのお供え物を荒らしてるのが許せないだけだ!

明日咲美以奈

堀野……

恐怖を抑えこみ、満は毅然とした態度で不良達に言い放つ。

桐生紅音

テメェ……この前たっぷりヤキ入れてやったってのに、まだ分かってねえみてぇだな

桐生が鋭い目つきで、満の左手の辺りをにらみつける。

くわえていたタバコをペッと吐き出す。

堀野満

っ……!

満は桐生の迫力に息を呑む。

まるで刃物を突きつけられたような感覚に陥り、反射的に左手の甲を右手で隠した。

右の手のひらにいびつな感触が──根性焼きの痕が触れる。

スチャッ──

桐生紅音

これ以上つっかかんだったら、コイツでテメェも幽霊にしてやるぞ?

桐生が懐からサバイバルナイフを取り出す。切っ先が月明かりで淡く輝く。

堀野満

くっ……!

不良1

このホラ吹き野郎が!

不良2

イキってんじゃねぇぞこの野郎!

桐生の後ろの不良たち3人が、下劣な笑い声と侮蔑の言葉で、場を汚すようにはしゃぎ立てる。

キラッ──

その横で、桐生のサバイバルナイフと同じ光がきらめいたかと思うと、3人の頭だけが横にズレた。

ズバァッ!!

一瞬遅れて、肉を裂く音が闇夜に響いた。

後ろの不良達は、ニヤついたまま頭部がヒュッと落下していく。

それから遅れて、3人の身体も崩れ落ちる。

首の切断面から、意外と綺麗な血液を噴き出させながら。

桐生紅音

は……?

桐生はサバイバルナイフを構えたまま、間の抜けた声をあげて、後ろを向いた。

崩れ落ちる不良達の向こうから、自分たちと同年代……いや、少し上くらいの女性が見えた。

妖艶な見た目に似合わず、着ているのはところどころシミが残る、年季の入った作業服。

その作業服と、美しい紫の髪と、白い肌の全てが、不良達が首から噴き出させた血液で、赤黒く汚れていた。

???

……あら、あなたは中々可愛いわね♪

振り返った桐生の顔を見て、女性は柔らかく微笑む。その拍子に頬から血が滴った。

桐生紅音

ひっ──ひぃぃぃぃ!!

桐生が全身をこわばらせて、甲高い悲鳴を上げた。

堀野満

うぁぁぁぁ……!!

明日咲美以奈

な、何よアイツ……!

満と明日咲も恐れおののく。

躊躇いなく3人もの命を奪った彼女の雰囲気が、身体中に冷たい波として押し寄せてくる。

桐生は数歩後ずさったあと、腰が抜けたのかその場にへたり込む。

中身が残っていたペットボトルを手で押しつぶし、ブシャアと汚らしく飛び散った。

???

うるさいわね

???

殺害した程度で、そんなに騒がないでちょうだい

恐怖する自分たちを前に、女性は平然とした態度で、顔の血を拭う。それからすっとしゃがみ込んだ。

その時満は気付く。歩道上に無残に転がる、首を切断された不良達3人の死体……

そのすぐそばで、首がまだ繋がっている3人の不良が倒れ込んでいる。

一様に、明日咲のように半透明の身体で、混濁したような虚ろな表情を浮かべ、ピクピクと震えていた。

堀野満

(ゆ……幽霊になってる……)

明日咲美以奈

堀野!! 早く逃げなさい!

明日咲美以奈

でないとアンタも──

???

大丈夫よ、その子には手出さないから

カチャリ……

持っていた大鎌を地面に置きつつ、女性はこちらに視線は向けずに言い放った。

明日咲美以奈

え……!?

堀野満

(こ、この人も、視える人なのか……!?)

恐怖と驚愕、それに困惑も一緒になって、満の背筋を這い上がる。

自分以外に霊感を持っている人と出会ったのは初めてだった。

不良1

う、ぅぅぅ……!!

不良2

ああああ……!!

不良3

ぐ……がぁ……!!

不良達……の霊は、言葉にならない呻きを上げて苦しんでいる。

???

騒ぐなって言ってるじゃない。貴方達の声も聞こえてるのよ

女性はふん、と鼻息を鳴らして、一番近くにいた不良の髪を掴む。

そのまま、不良の額の辺りを、自分の口元に寄せたかと思うと──。

ガブッ!!

大口を開けて、生え際の辺りから齧りついた。

『あぁぁぁあああああ!!』

野太い絶叫が響いた。もう耐えきれず、満は耳に手を当て、目を固く閉じる。

ゴリ──ガリゴリ──!!

──!! ────!!

まぶたの裏の暗闇の中、貪る音と絶叫が両手を貫き、満の神経を掻き鳴らす。

絶叫が別の男の、また別の男の物に代わり……やがて完全に聞こえなくなるまで、固く塞ぎ続けた。

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