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おぞましい咀嚼音が聞こえなくなってから、体感的には1分後。

満は意を決して、恐る恐る目を開ける。

すでに女性は『食事』を終えていた。

躊躇いがちに目線を下げると……不良達の霊は、全員首から上が食い千切られてしまっていた。

他にも身体のあちこちが無残に食い荒らされてしまっている。

出血こそないものの、首だけで済んでいる死体の方がまだマシな有様だった。

???

ふぅ……やっぱり男は不味いわね

???

これ以上は食べ切れないわ

やや不満げな顔で、女性は作業服の胸ポケットに右手を差し込む。

取り出したのは、3枚の古風な御札。やや縦に長いことを除けば、一般的なイメージと変わりない。

女性はその御札を右手に持ち、左手で転がっていた不良達の生首をかき集める。

???

えーっと、確かこれがこの身体で……

???

この首がこっち……で、合ってるわよね?

???

まあどれも同じクズだし、間違ってても良いわよね

まるでパズルか何かのように、首と胴体を組み換え、頭を悩ませていた。

堀野満

(な……なんなんだ、この人は……?)

???

うん、これで良いわね

女性は正しい組み合わせで首と胴体を繋げると、そこにテープか何かのように、御札を貼り付ける。

ジュウウゥゥゥ……

その途端、御札から煙が立ち上る。肉の焼ける音を立てて、みるみる内に皮膚と同化し、体内へ吸収されていく。

肉体の再生に呼応するかのように、霊体の不良達はそれぞれの身体へと、重なるように戻っていく。

堀野満

(何が……起こっているんだ……?)

一度死んだ人間が蘇っていく。目の前の出来事が到底信じられず、ただただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

明日咲が足の震えを抑えて、恐る恐る女性に近付き、話しかける。

明日咲美以奈

あ、アンタ……何を……?

???

殺害して、魂の一部を喰らって、生き返らせたのよ

大鎌を持って立ち上がった女性は、満と明日咲の方を見て、こともなげにそう話す。

???

肉体の蘇生に伴って、魂は元の身体に戻っていったけど

???

魂は欠けてしまったから、寿命はもってあと20年ってところね

???

ま、馬鹿の余命には相応しいでしょう?

蘇生を終えた不良達を見下ろしながら、女性は妖しく微笑む。

美しさと恐ろしさが複雑に絡み合ったその顔は、一瞥しただけで心の底から引き寄せられるような、しかし不気味な魅力に溢れていた。

堀野満

な、なんなんですか、あなたは……

???

ああ、申し遅れたわ。私はこういう者よ

ピッ!

女性はどこかから名刺を取り出し、満の元に投げ飛ばしてきた。明日咲がそばに寄ってくる。

【非道霊専門殺害協会 会長 京極光利】

明日咲美以奈

ひ……非道霊、専門……

堀野満

さ……殺害……!?

京極光利

ええ。非道いことしてる霊達を除霊の名目で殺害して

京極光利

殺人欲求を満たす異常者達の集いよ♪

女の子のなりきりごっこのような妙な仕草で格好つけつつ、女性──京極光利(きょうごくひかり)は軽やかな声を上げる。

堀野満

そんな恐ろしい人達が、協会作るほど居るんですか……?

京極光利

安心して、今は私一人だから♪

明日咲美以奈

出来る訳ないじゃない……

彼女のふざけた物言いで気が緩んだのか、明日咲は呆れ返っていた。

京極光利

さて……あなたはどう可愛がってあげようかしら?

桐生紅音

ひぃっ……!

腰砕けで地面にへたり込んだままだった桐生に、京極が向き直る。

ブンブン!

桐生は持っていたサバイバルナイフを闇雲に振り回すが、京極は気にせず近付いていく。

桐生紅音

来るな、来るなぁ!!

京極光利

大丈夫よ、あなたみたいな可愛い子は喰らったりしないわ

京極光利

ただ……ちょっとしつけは必要ね?

ピッ──

京極はまた懐からお札を取り出し、先程の名刺のように投げた。

お札は宙を飛び、桐生のナイフを持っている右手に張り付く。

桐生紅音

ひぃぃぃぃっ!!

ベリベリベリ……!

桐生は半狂乱になりながら、左手でお札を無理矢理剥がす。

桐生紅音

て、テメェ! 何しやがったぁ!

京極光利

あら、無理に触るとそっちの手もくっついちゃうわよ?

京極が心配するように告げる。言葉の意味を理解した途端、堀野の心が再び恐怖に染まる。

ドロッ……

桐生の右手は──ソフトキャンディのように溶けて、お札とナイフと一体化してしまっている。

剥がそうとして持っていった左手も、形を崩してくっつき始めていた。

桐生紅音

ぎっ──ぎやあああぁぁぁぁ!!

惨状を理解した桐生は、絶叫しながらゴロゴロと歩道上をもがき回る。

京極光利

そんなに怖がらないで。私の下僕になるなら──

ダダダッ!

京極光利

あっ……!

京極が追いすがろうとした直後、桐生は勢い良く立ち上がり、一目散に逃げ出す。

京極光利

あぁもう……今ならまだ間に合うのに

堀野満

(貴方の方が、よっぽど非道い女じゃないか……)

転がっている不良達を近くの駐車場へ運び出してから、満達は荒らされた献花台を片付ける。

京極光利

……私はあなたに会いに来たのよ、ホラ野満君

散乱したゴミを拾い集めながら、京極はそう切り出した。

堀野満

あの……ホラ野じゃなくて堀野です

京極光利

知ってるわよ、視えるけど信じて貰えないせいでそんなあだ名になったんでしょ?

京極光利

こっちはとっくに調べが付いてるんだから

堀野満

そ、そうですか……

京極光利

私の協会に入れば霊だけじゃなく人間の殺害方法も学べるわ

京極光利

あなたをいじめてる屑共も皆殺しに出来るわよ♪

京極光利

入会しない? 非道霊専門殺害協会に!

堀野満

お、お断りします……

満面の笑顔を向ける京極の誘いを、堀野は遠慮がちに断る。

京極光利

つれないわね、それならあなたはどう?

京極光利

私ならあなたの鎖も断ち切って自由にしてあげられるわよ♪

明日咲美以奈

結構です

今度はその笑顔を明日咲に向けるが、バッサリと切り捨てられた。

明日咲美以奈

それより……アンタは幽霊が専門みたいだけど……

堀野満

…………!

お供え物を整えていた満は、思わず手を止める。

明日咲の方に視線を向けると、彼女は今朝見せたのと同じ、冷静さの端に怒りをにじませた表情を浮かべていた。

明日咲美以奈

人間は……殺してくれないの?

堀野満

あ……明日咲さん……!

満は息を呑む。こんな女性に復讐を依頼するなんて、どうかしている。

京極の方はと言えば……一瞬だけ目を丸くしたものの、

京極光利

……非道さによるわ。まずは話を聞かせて頂戴

すぐに、先程見せた恐怖と美貌が入り混じった笑顔を浮かべる。

献花台を片付けてから、明日咲はぽつりぽつりと、自らの死の真実を語り始めた。

一昨日の夜、明日咲は課題を学校に置き忘れていたことに気付き、悩んだ末に学校に取りに行った。

無論、当に下校時刻は過ぎているため、閉まっている門を乗り越え、密かに向かったという。

その時……1階の女子トイレに明かりが点いているのを見付けた。

センサー式だから消し忘れはありえない。不審に思って中を覗いてみたところ──。

明日咲美以奈

……楡木の奴が、小型のカメラをトイレに仕込んでいたのよ

堀野満

それってまさか、盗撮……!?

京極光利

…………

明日咲美以奈

……すぐに逃げたから、顔は見られてないと思った

明日咲美以奈

けど、翌日登校してすぐに呼び出されて、その場で脅迫されたわ

明日咲美以奈

誰かに話したら、お前の盗撮画像をネットに流すって……

明日咲は歯をギリギリと食いしばり、目を細める。

その怒りが溢れ出すような目つきは、もはや殺意そのものと言っても過言ではなかった。

堀野満

そ、それで……どうしたの?

明日咲美以奈

もちろん蹴ったわよ。アタシはそんな脅しに屈するような奴じゃない

明日咲美以奈

全部ぶちまけてやるって啖呵切ってやったわ

汚物を見るような目で吐き捨てる。プライバシーを晒される恐怖より、そんな行為に手を染めていた楡木への怒りが勝ったのだ。

明日咲美以奈

……けど、トイレで見た時から、行動に移しておけば良かったわ

明日咲美以奈

その日は授業をサボって、女子トイレとか更衣室とか、怪しい場所を徹底的に探したけれど……

明日咲美以奈

放課後になっても証拠は何も見つからなかった

明日咲美以奈

きっと一昨日の内に、あの男が全部回収してしまったのよ

明日咲美以奈

先生たちにも打ち明けたけど、証拠がないせいで取り合ってもらえなかった……

堀野満

そんな……

明日咲美以奈

とにかく警察に相談だけでもしておこうと思って、学校を飛び出した

明日咲美以奈

校門を出たところで、突き飛ばされたって訳

明日咲美以奈

アタシが余計な事を言う前に、アタシを、始末した、のよ……

明日咲の声に突如涙の音色が混じり、体が痙攣するように震える。

満は何を言って良いかわからず、ただ無言でその場に立ち尽くした。

京極光利

……それで、自分の仇を討って欲しいという訳ね

話を聞き終えた京極は、自信ありげな様子で口を開く。

明日咲美以奈

ええ……アタシは最低限、楡木の悪事だけでも止められれば良かった

明日咲美以奈

でも……アンタが罪を被ってくれるんだったら……

うつむいていた明日咲が顔を上げる。

もうそこには涙はない。焼き付くほどの憎しみ、そしてそれ以上の決意を湛えて、京極を見据えている。

明日咲美以奈

アタシを殺したアイツを、地獄より辛い目に遭わせて、殺して

京極光利

……承ったわ

チャキッ……

大鎌を構えて、京極は彼女に答えた。

明日咲美以奈

アイツはまたカメラを仕掛けに、学校に忍び込むはずよ

明日咲美以奈

一昨日アタシが忍び込んだのもちょうど今ぐらいの時間……楡木がいないか見てきて

京極光利

分かったわ♪

シュタッ!

京極は軽やかに門扉を乗り越え、悠然とした態度で校内へと歩いていく。満はその後を追う。

京極光利

じゃあ早速殺害してくるから、待っててちょうだい♪

堀野満

あ、ま、待って下さい、僕も行きます

満は慌てて門扉に手をかけ、身体を持ち上げる。

明日咲美以奈

ちょっと、堀野! もうアンタが行く必要ないでしょ!

明日咲から焦った声で呼び止められた。満は反対側に降りてから、門扉越しに彼女と話す。

堀野満

あ、あんな人放っておいたら、何しでかすか分からないよ!

堀野満

僕もついて行かないと……!

明日咲美以奈

そしたらアンタだって危ないじゃない!

明日咲美以奈

ただでさえ楡木は危険な男なのに……!

堀野満

……僕だって、明日咲さんの仇を取ってあげたいんだ

満は身体中に気を張って、真摯な態度で明日咲にそう話す。

堀野満

明日咲さんの力になるって……約束したでしょ?

明日咲美以奈

…………!

明日咲に分かってもらうため、満は言葉を選び、彼女に対して一つずつ丁寧に説明した。

すると、明日咲は目を丸くさせる。

鉄柵の向こうの、少し冷たそうなツリ目気味の瞳が、どこか愛くるしさを伴うような形で、満を見つめてきた。

すぐに目を伏せて、ほんのりとした小さな声で、

明日咲美以奈

……ちゃんと、帰ってきてよね

明日咲美以奈

アンタが居なかったら、アタシは……一人なんだから

堀野満

……うん、分かってるよ。ちゃんと、戻ってくる

不安がる美以奈に対し、満は安心させるように微笑んだ。

満はきびすを返し、大分先に行っていた京極を小走りで追いかける。

明日咲美以奈

……ちょっとは格好いいところ、あるじゃない……

かすかに届いた彼女の声は、聞こえなかったことにしておいた。

非道霊専門殺害協会

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