紬
蜥蜴哭し、泣き叫ぶ少年を見て、ギルルはその手を握った。
二人は固く手を握り合ったまま、涙を流し続けた。
その時、天から声が響いた。
「私はあなた方二人を引き裂こうとしているわけではありません」
それは、今まで聞いたこともないような美しい女性の声だった。
「私の力では、あの石像を完全に破壊することはできません。しかし……」
「それなら大丈夫です!」
少年は涙を拭って言った。
「僕一人だけ残ればいいんです!そうすれば島は救われます!!」
ギルルは何も言わず、そっと少年を抱き締めてくれた。
少年の心の中にあった暗い気持ちが晴れていくようであった。
やがて、決心がついた。
少年は石像に手をかけ、破壊しようとしたその時―――。
突然、空から雷が落ちてきて、石像は粉々になった。
少年の手の中には、1枚の紙切れだけ残った。それは手紙だった。
少年に宛てた母の手紙だ。母は、少年のことを愛していたのだ。
姉からも手紙が来た。内容は同じだったが、封筒の色は違っていた。
姉もやはり、少年を愛していたのだ。
最後に、父からのメッセージが届いた。
少年は父に対して素直になれなかった自分を恥じたが、父はそんな息子を受け入れてくれていた。
少年の目からは涙が流れ落ちた。
同時に、少年は自分の中にあった黒い塊が溶け出て行くような気がした。
心の底では、少年はこの島での生活を楽しんでいたのかもしれない。
あるいは、少年はまだ子供なだけで、本当は現実から逃げたいと願っているだけだったのだろうか? 少年自身にも分からないことだった。
ただ分かるのは、自分はもう大人になったということだ。
自分の意志で決めることが出来るようになった。
少年は手紙を破り捨てると、ポケットの中へとしまい込んだ。
こうして、少年は新しい一歩を踏み出したのである。
(了)
ある所に一人の青年がいた。
彼はごく普通の人間で、どこにでも居そうな顔をしている。
しかし、彼を取り巻く環境は普通ではなかった。
彼はいわゆる異世界
