ただ、精神的に大きなショックを受けたのか、いまだに意識は戻っていないとのこと。
中嶋の死を目の当たりにしてしまったがゆえに、ショックを受けたのだろうか。
尾崎
――お医者様の話だと、今は意識の回復を待つしかないみたいっす。

尾崎
身体的な外傷はほとんどなく、また脳波などの異常もなし。

尾崎
単純に意識を失っているだけとのこと。

だからこそ、こうして意識が戻っていない今でも、病室に入れている。
――このようなことは、ハラスメントにならないのだろうか、なんて考えなくてはならない辺り、嫌な時代になったものだ。
倉科
尾崎、お前――この事件、どう考えてる?

尾崎
詳しいことは分からねぇっすが、縁が絶対的に怪しいっす。

尾崎
怪しすぎるほどに。

倉科
あぁ、露骨なくらいにな。

倉科
しかも、被害者は、お上の連中からすれば、目の上のたんこぶの中嶋だ。

尾崎
――まさか、お上が中嶋を?

倉科
そこまで行くと陰謀論ってやつになるな。

倉科
ただ、中嶋はお上の連中にとって扱いが面倒な対象だったことは間違いない。

尾崎
でも、そんな真似ができるんすか?

倉科
尾崎、お前が思ってるほど、警察って組織は綺麗じゃないんだよ。

倉科
ほら、どっかの馬鹿が、いきり倒して女子高生を殺した事件あっただろ?

尾崎
あぁ、あの胸糞悪い事件っすね?

尾崎
なんでも、警察関係者が被疑者と不倫関係にあったとか。

倉科
あぁ、あの事件で関与していた刑事は、依願退職で逃走。被疑者の裁判にすら出てこなかった。

倉科
本来なら問題視されるべき部分なんだがな。

尾崎
もしかすると、その後ろ盾があったから、犯行にエスカレートしたんじゃないか……って話があるくらいっすからね。

倉科
しかも、被疑者と不倫関係にあった事由について、どう決着をつけようとしているか知ってるか?

尾崎
いえ、知らねぇっす。

倉科
被疑者はヤクの売人をやっていてな、その情報を引き出すために、不倫関係になった。

倉科
いわば、潜入捜査だった――なんて、とんでもない理由を着地点にしようとしているらしい。

尾崎
――クソっすね。

尾崎
純粋に、人として。

尾崎
同じ刑事として、本当に軽蔑するっす。

倉科
隠蔽と保身――それが、警察の本質だよ。

倉科
違法捜査をしてみたり、違法摘発をしてみたり。

倉科
人間だから間違いや過ちはあるんだ。

倉科
でも、間違いをそのまま有耶無耶にすることは許されない。

倉科
もちろん、全てがそうじゃない。

倉科
ただ、一部が腐ってるだけで、全体も腐っているように見られるんだよ。

尾崎
そもそも、お上の連中が中嶋を殺して、その罪を縁になすりつけようとしている――なんて発想が出てきては、いけないと思うっす。

倉科
あぁ、俺もそう思う。

縁
う、うーん。

尾崎
縁、目が覚めたっすか?

尾崎
尾崎っす。

縁は一度、改めて眠るように呼吸を潜めたが、しかしゆっくりと目を開けた。
倉科
よう、山本。

倉科
気分はどうだ?

中嶋の事件の全貌、それを知っているのは、おそらく縁だけ。
縁
最悪――です。
