それは、ふと思ったことだった。
私
私
仮装した人が溢れ返り、ハロウィンで賑わっている東京を
まるでこっちまで楽しくなる程に 熱気を伝えるテレビを見て、
そう零した。
仮装したらさ、
いつもの自分とは少し違う自分に
なれるんじゃないかって思えるよね。
仮装したら誰かなんて分からないし
もしかしたら、本当の自分をさらけ 出せるかもしれない。
私
私
私
マジックショーの人が持っている ような仮面をつけて
真っ赤なドレスを着ただけの仮装に、
少し恥ずかしくなる。
私
結局私は、どこへ行っても
周りに馴染むことはできないんだ。
嫌になって俯いた。
私
私
しっかりしろ、と自分を励まし
俯いた顔を勢いよく上げた。
私
黄金の光に包まれた街。
明らかに東京の景色ではない。
ビルだらけの街は、洋風の建物が 建ち並び
黄金の街灯の光に照らされた街に、 姿を変えていた。
私
さっきよりも人が少ないし、
あれだけ騒々しかった声も、 もう聞こえない。
私
私
男の子
声のした方に顔を向けると
仮面をつけて
大人っぽいタキシードに身を包んだ
私と同じくらいの歳の、男の子がいた
男の子
私
男の子
男の子
男の子
私
私
私
男の子
男の子
男の子
男の子
男の子
私
私
周りの人達からは、楽しそうな笑い声が時折聞こえて来る。
男の子
男の子
男の子
男の子
私
男の子
男の子
男の子
男の子
男の子は困ったように笑った。
設置されていたスピーカーから、
陽気な音楽が聞こえて来る。
男の子
男の子
男の子
男の子
私
男の子
男の子
男の子
男の子は、寂しそうに笑う。
まるで、ずっと誰かと笑い合って みたかったかのように。
私
私
男の子が差し出してくれた手に、 自分の手を重ねた。
陽気な音楽に合わせて、男の子と踊る
ダンスなんて踊ったこともないのに
何故か足は軽やかにステップを踏んだ
私
この世界では、きっと
とても素晴らしい時を過ごせる のだろう。
この世界の人は、自分への劣等感も
元の世界の、自分の周りの環境も 全部忘れて
みんな自分の好きなように生きている
私
この世界でなら、違う自分に なれる気がする。
このまま、ずっとここで
踊り明かすのも、
いいのかもしれない。
私の記憶は
いつまでも明けない夜の空に
少しずつ、少しずつ、溶けていった。
コメント
15件
「オススメのインディーズテラー」 で名前が挙がっていたので、初見に来ました。 少女は元の世界に戻らずに、その街に居続ける、暮らすことを決めたんですね。 記憶がなくなっていくことで、少女の嫌なことは全て忘れられる。 最初は、少年と少女が2人で元の世界への戻って結ばれるというベタな話かと思っていましたが、最後見事に裏切られました。 カサミネさんの他の作品も少しずつ読んでいこうと思います。
唐突なんだけど、カサミネちゃんフォロワー100人おめでとう🎊🎉
自分に自信がない、そういう人達が集まる黄金の世界。 一見楽しそうな、ふわふわしたような気持ちになるけれど、それも偽り。記憶を失って、元に戻れなくなった。本当の世界の方が楽しいかもしれない、だけどこの世界にいた方が楽しいかもしれない、 幻想的な設定と雰囲気に惹き込まれました。世界観、好きです