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君と夏

7 - 第3章 1話 偽ヒロインと嘘

2024年08月16日

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(私はどうしようもない嘘つきだ)

だけど、この嘘で親もクラスメイトも喜んでくれる。求めてくれる。笑ってくれるから

私はヒロインを偽り続ける

これで良いんだ。これで

雨が降りそうな曇り空をぼんやりと見つめる

(ちょっと罪悪感がする…)

私は今日、部活をサボった

特に理由はない。強いていうなら買い出しが少し苦手だからだろうか

皆と同じ空間に居るだけでも疲れるんだよなぁ…

(誰かと二人っきりなんて、正直なところ嫌ね)

こんな本音を皆が知ったら驚くに違いない

(私は数え切れない程、嘘をつき続けている)

周りが望むなら、底なしに明るい、誰もが夢見る元気なヒロインだって演じきる

勿論、心ではこんな姿望んではいない

(静かに、ただ流れに身を任せて生きたいな…)

ぼんやりと人生でついてきた数え切れない嘘を試しに数えてみる

(…嘘をつき始めたのはいつからだっけ)

ふと思い出してみる

記憶が確かなら、幼稚園生くらいから私は嘘を言うようになったはずだ

くだらない、だけど幼い私には大事な嘘

嘘つきになる前の幼稚園生であった私の隣にいつも居てくれる友達はいなかった

話す子が全くいない訳じゃなかった

けれど、友達とは呼べなくて満足できなかった

ねぇ、ママ!

ママ

葵?どうしたの?

話しかけちゃった…ママに話せることなんて無いのに…どうしよう…

あ、あのね今日…ゆ、柚葉ちゃんと遊んだの!

本当は、一人で遊んでたけど…

ママ

あら、そうなの?良かったわね〜

ママ、いつもよりも笑ってる…?嘘でも楽しいことを言えばママはもっと笑ってくれるかな…

それが嘘つきな私の始まりだった

些細なことだったけれど、あの時の私にはママが笑ってくれることが嬉しくて堪らなかった

(本当に、心から嬉しかったのよ)

(あの時は…)

ぐるぐると考えていたら、いつの間にか自分の家に着いていた

ただいまー

ママ

おかえり

ママ

今日は早いのね?

先生用事ができたらしくて、私達は帰宅になったの

ママ

そうだったのね

ママ

もうちょっとしたら、ご飯作るから待っててね

はーい

また、嘘をついちゃったな…

(バレなきゃ良いよね)

あの日を境に私は嘘をつくようになった。バレてたかもしれないけれど、必死に嘘をついた

(しょうがないよね)

ママの言葉、皆の言葉。私はどんどん嘘に飲み込まれていってしまったから

ねぇママ、皆に好いてもらうにはどうしたら良いの?

ママ

そーねぇ…

ママ

皆に優しくなる事かしら?

じゃあ、モテるにはどうすれば良いの?

ママ

うーん…

ママ

明るい子だったら結構モテると思うわよ

なるほど…

吉田

葵ちゃん聞いて!

どうしたの?

吉田

友達が、茸の山と筍の里だったら筍が良いっていうの

吉田

私は茸派なのに!

この争いは避けられないね

吉田

葵ちゃんは!

吉田

裏切り者ー!

大丈夫。茸も好きだから

吉田

なら許す

許されたり

吉田

話したら、ちょっと元気になった!

なら、良かったよ

吉田

葵ちゃんって悩みとか無くて元気そうだよね!

そ、そうかな?

吉田

そうだよ!羨ましい〜

先生

ほとんどの成績が5で大変素晴らしいです

出来ることはたくさん、頑張りましたから

先生

先生も天知さんの頑張り、ちゃんと見てましたよ

ありがとうございます

先生

天知さんは私が見てきた子供達の中で一番優秀な子よ

先生

これからも無理せず頑張ってくださいね

はい。頑張ります

周りの言葉を聞いて、ヒロインを作っていった

(今の私を作っていった)

嘘で笑って

嘘で友達作って

嘘で人気者になって

(嘘で幸せになることができた。だけど)

嘘の為に嫌なことやって

嘘の為に自分殺して

嘘の為に努力して

(嘘で自分を傷つけた)

皆が見ている私は偽物

心は痛くて、ずっと悲鳴をあげていた

(違う。これは私なんかじゃない)

(やりたいことじゃない)

私が叫び続けていた

叫んだ分、抑え込んだ。本音を殺した。周りは本当の私なんて望んでないって

(嘘なんて本当はつきたくないけど)

求められたいなら、そうなるように偽るしかないんだ

(もう、どうしようもないのよ)

……だけど、本当は偽物じゃない自分を受け入れてくれる人が欲しい

(親友が欲しい)

こんな、偽ヒロインじゃなくて、天知葵を

(愛して欲しい)

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作者のゆゆです。読んでくださりありがとうございます。茸と筍のくだりはノベル版には無いオリジナル要素です。という訳で、今回の豆知識はキャラの派閥についてです。紅→茸。朔→筍。葵→筍。藤花→抹茶味ならどっちでも良い。です。藤花は母の影響で、抹茶好きです。ちなみに作者は茸です。

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