その家は、町の外れにひっそりと佇んでいた
築50年を超える木造住宅で、見た目は古びていたものの・・
柱や梁には職人の手仕事が感じられる重厚さがあり、どこか懐かしさを感じさせる佇まいだった
新婚の"中村翔太"と"中村奈々子"の夫婦は、その家を格安で手に入れた
翔太が仕事の都合で地方に転勤となり、二人で新しい生活を始めるための拠点としては申し分ない物件だった
古いとはいえ、リフォーム済みで内装も綺麗に整えられており、二人ともすぐに気に入った
何よりも、賃貸では手が届かない広さが魅力だった
引っ越しを終えたその夜、奈々子がふと不安そうな顔をした
中村奈々子
シーン…
中村奈々子
中村奈々子
以前住んでいた所は、夜でも公共交通機関や車両の音が聞こえてくるのは当たり前で・・
その環境に慣れていた者にとって、この静けさは不安を覚えるのだった
中村翔太
中村翔太
翔太は笑って肩をすくめながら言った
中村奈々子
奈々子も笑顔を返して頷くも、心のどこかに拭えない違和感が残っていた
十 二 す ㇾ 十 テ
その夜、夫婦は引っ越しの疲れもあり、布団に入るとすぐに眠りに落ちた
家中が静寂に包まれる中、奈々子は夢うつつの状態で目を覚ました
中村奈々子
十二 す ㇾ 十 テ
…ぎ
ぎし……ぎし…
床が軋む音がした
初めは風のせいだと思ったが・・
ぎし……ぎし……ぎし……
音は次第に規則的になり、まるで人が歩いているかのようだった
中村奈々子
中村翔太
奈々子は隣で寝息を立てる夫に声をかけたが、反応は無い
中村奈々子
中村奈々子
そう自分に言い聞かせ、再び目を閉じようとしたとき
ただいま
確かに聞こえた。女性の声
奈々子は布団の中で凍りついた
はっきりと聞こえた「ただいま」
中村翔太
だが、翔太は以前ぐっすりと眠ったまま
中村奈々子
奈々子は震える手で枕元のスマートフォンを手に取り、時計を確認した
AM 2:04
中村奈々子
中村奈々子
起き上がる勇気はなく、そのまま布団を頭まで引っ張り上げて何とか眠りにつこうとした
翌朝、奈々子は朝食の席で昨夜の出来事を翔太に話した
カチャッ サッ カッ
中村翔太
中村翔太
中村翔太
翔太は笑いながら、特に気にする様子も無かった
中村奈々子
中村奈々子
しかし、その夜も奇妙な音が奈々子を眠りから引き剥がした
今度は「ぎしぎし」という足音だけではない
壁の奥から響く微かな「嗚咽」のような音が聞こえたのだ
中村奈々子
奈々子は意を決して布団を跳ね除け、真っ暗な廊下に出た
チッ
震える手で電気のスイッチを押し・・
音の出どころを探しながら慎重に足を進めると・・
それがリビングの方から聞こえてくることに気づいた
中村奈々子
リビングに足を踏み入れ、部屋の中央にある古びた箪笥に目が留まる
引っ越しの際、前の住人が残していったものだと聞いていたが・・
開けるのを忘れていた
中村奈々子
ギィィィイイ
鼓動が高鳴る中、奈々子は箪笥に近づき、ゆっくりと扉を開けた
カッ!!
中村奈々子
その瞬間、部屋の電気が点滅した
中は…
空だった
中村奈々子
肩をすくめた奈々子は安堵の息を吹いた
が、その直後、耳元で囁くような声がした
ここ、私の家なのに
中村奈々子
奈々子は悲鳴を上げ、翔太のいる寝室へ駆け込んだ
翌日、翔太も箪笥や家中を調べてみたが、特に異常は見つからなかった
それでも、奈々子の恐怖心を和らげるため、町の不動産屋に電話をかけるも…
この家で死亡事例など"事件性"があったことは一度も無いそうで・・
たいして情報は得られなかった
中村翔太
中村翔太
翔太は不機嫌そうに電話を切った
中村奈々子
奈々子は血の気が引いた
その夜、奈々子はリビングの箪笥の前でひとり震えていた
中村翔太
翔太は"これ以上無駄な話に付き合えない"といった様子で・・
寝室に籠もってしまった
奈々子は何度も箪笥を調べたが、扉の中にはやはり何もない
中村奈々子
それでも、耳元で囁くような「ここ、私の家」という声が忘れられない
暫くして、リビングを後にしようとした瞬間…
ギィ……
と箪笥の扉が音を立てて一人でに開いた
中村奈々子
ダッ!ダダッ!!
奈々子は反射的に後退りし、廊下へと廊下へと逃げ出した
ぎぃ、ぎし…
ぎし…ぎし…
ぎし、ぎし…
中村奈々子
中村奈々子
ぎしぎしという明らかな人の歩く音だったが、廊下のどこにも誰の姿も見えない
ただ、音は奈々子のいる方へゆっくりと近づいてくる
奈々子は恐怖に駆られ、襖を開けて翔太を起こ−
中村奈々子
中村翔太
翔太?は奈々子の呼びかけに応じ、ゆっくりと振り返った
翔太?
中村奈々子
その表情はどこか歪んでおり、目の中には奈々子の知っている彼ではない何かが宿っているようだった
中村翔太
奈々子は背中に冷たい汗を感じた
ガシッ
中村翔太
中村奈々子
十二 す ㇾ十 テ
翔太?に手首を強く掴まれ、身動きがとれない
指先は不自然に長く、骨ばっていた
ギ…ギギギ…
中村奈々子
中村翔太
翔太−もしくはそれに成り代わった何かは不気味に笑みを浮かべた
恐怖で足がすくむ奈々子の背後に、寝室の入り口の隙間から黒い影が伸びてきて・・
その影は次第に形をとり、髪が乱れた女の姿となっていった
ギゾゾゾゾゾゾゾゾ
1年後
ササッ ザサ サッサ
KENTA
心霊スポット探索系Youtuberの「KENTA」は、新しい動画の撮影地を求めて郊外に足を運んでいた
噂で耳にした、幽霊屋敷と恐れられる廃墟に目をつけて、この地までやってきた
かつてこの家で奇妙な失踪事件があったという話を聞き、心霊スポットとしての格好のネタになると考えていた
KENTA
KENTA
KENTA
KENTA
家の外観は風雨にさらされて荒れ果て、草木が半ば埋もれていた
しかし、KENTAには、むしろそれが魅力的に映った。動画の再生数が一気に跳ね上がるだろう
家に入った瞬間、彼は不気味な空気を感じとった
KENTA
湿った木の匂い、無数の虫の声、床のギシギシ音、カメラ越しの光が埃を浮かび上がらせる
KENTA
KENTA
KENTA
KENTA
彼はカメラをリビングを映し出した。
そこには古い箪笥が今も変わらず鎮座していた
KENTA
KENTA
KENTAは無造作に箪笥に近づいた
KENTA
KENTA
KENTA
KENTA
KENTA
ギィイイ
KENTA
KENTA
KENTA
KENTA
KENTA
そう言い終えると、カメラが異様な音を拾った
ぎし…ぎし…
KENTA
彼の耳には明確に聞こえた。何かが確実にこちらに向かって歩いている音だ
KENTA
何かに掴まれ、視界が急に暗転した
翌日
KENTAのチャンネルの視聴者たちは昨日の、突然落ちた生放送のことで話題がいっぱいだった
「演出だろ」「これはやばい」といった感想が飛び交っていたが
何より奇妙だったのは、それ以降KENTA本人が一切SNSに現れなくなったことだった
地元の警察が捜索を始めたが、未だ見つかっていない
た す け て
ぐ る じ い
両脇には見知らぬ男女
狭く暗い場所に身動きがとれない空間にいた
KENTA
お なか す い た
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