白石 類
(結局、会社へ行くことに……)
帝
では類さん、車を出しますよ
白石 類
あ、はい
白石 類
(会社は昨日行ったビーチの、すぐ隣なんだよね)
白石 類
(この寮からも近いはず)
白石 類
(海沿いの景色はきれいなんだけどな)
白石 類
(やっぱり、会社へ行くのは気が重い……)
白石 類
(“White Bear Cream”……)
白石 類
(おじいちゃんの会社の看板だ)
白石 類
(レトロで爽やかで、ちょっと甘い雰囲気で……)
白石 類
(海辺の景色とも、よく合ってるよね!)
白石 類
(おじいちゃん……)
白石 類
(ぼくは小さい頃からできそこないだったけど、家族の中で、おじいちゃんだけはやさしかったな)
帝
会社に到着しました。中へ行きましょう
帝にうながされ、類は車を降りた。
白石 類
…………
帝
怖がらなくても大丈夫ですよ
帝
今日は各部門に挨拶して回るだけなので
白石 類
挨拶……ですか
白石 類
各部門って?
帝
ホワイトベアークリーム社の組織は大まかに、開発、営業、生産管理、総務の4部門に分かれています
話しながら、会社のエントランスをくぐる。
帝
ああ、ちょうどいい。あそこにいるのは工場長の隈田さん
帝
部門でいえば、工場は生産管理部の管轄です
帝
工場長、こちらは社長のお孫さん、類さんです
白石 類
ど、どうも
白熊型獣人の工場長が、巨体の首をすくめるようにしてうなずいてみせた。
帝
営業部は……
営業部員
おー、なになに? 可愛いコいるー!
犬型獣人の営業部員に匂いをかがれた。
帝
やめなさい! 社長のお孫さんですよ
営業部員
えー、匂いぐらいかいでもいいだろー
帝
ダメです! あっちへ行きなさい!
営業部員
はーい……
白石 類
(なんていうか、自由だなあ……)
白石 類
(獣人の働く会社だからか)
帝
また彼に絡まれても面倒なので、営業部は飛ばして……
帝
開発部へ行きましょう!
帝
開発部の責任者は、虎牙部長ですが……
帝
いないみたいですね
白石 類
(ほっとしたような、残念なような……)
白石 類
(でも虎牙さんって開発部なんだ? ちょっと意外)
白石 類
あれ? どうして開発部長がホワイトベアーマンのコスプレしてるんですか?
帝
市場調査のためらしいです
白石 類
市場調査?
帝
ホワイトベアーマンにふんして子どもたちと話をするのが、アイスの開発の役に立っているとかいないとか
白石 類
(なるほど! よくわからない)
白石 類
(でも、自由だな……)
帝
ああ。向こうのビーチに、ベアマンバーのラッピングカーが出ているみたいですね
帝
おそらく彼はあそこでしょう
白石 類
あ、ところで帝さんはどこの部門なんですか?
帝
私は総務部所属で、社長室を取り仕切っています
帝
前に名刺をお渡ししましたよね?
白石 類
えーと……
白石 類
(興味なかったからよく見てなかった)
帝
その社長室はこちらです
階段を上がり、2階奥の部屋へ入った。
白石 類
あれ、誰もいない?
帝
社長は多くても月に1、2度しかこちらへは来られません
帝
社長に代わって、会社の細々としたことは私が
白石 類
(実質、帝さんが社長なんじゃ?)
白石 類
(社長のデスク、大きいなあ……)
帝
いずれ社長に代わって、類さんにはこの椅子に座っていただくことになります
白石 類
ぼ、ぼくには社長なんて
白石 類
社会人経験すらないのに
帝
しかしアナタは経営者の一族に生まれて、会社というものをご存知でしょう?
白石 類
(まあ、勉強はさせられたんだよね)
白石 類
(財務や経理のことを中心に)
白石 類
そうだ。この会社って、ちゃんとその……儲かってるんですか?
帝
類さんには、そのうち財務資料をお見せしなければと思っておりましたが……
帝
端的に言ってしまいますと、我が社の経営状態はあまり思わしくありません
帝
主力商品であるベアマンバーの出荷量は安定していますが、子ども向け商品での値上げは難しく、原料の値上がりがじわじわと経営を圧迫しています
帝
それにあれにはライセンス料がかかりますしね。いずれ赤字に転落するでしょう
帝
そうなる前に、ベアマンバーの売り上げ幅をアップさせるか、他の商品をヒットさせなければ……
白石 類
なるほど~……
白石 類
(あれっ。これってもしかして、会社を立て直せって話!?)