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テヒョンside
結局ジミナは、そのまま入院することになってしまった。心機能が落ちているので絶対安静を言い渡され、ベッドから起き上がることも禁止されて、トイレにも行かせてもらえないみたい。繊細なジミナにとって、ベッドの上で排泄をするなんて、どれ程辛いことだろう。
ジミナは僕の双子の片割れで、何よりも大切な存在。小さい頃から沢山の病気と戦っていて、ジミナが泣いたり苦しんだりするのを近くで見てきた。色が白くて華奢で、笑うとかわいい、天使みたいなジミナ。
双子なのに、なぜかジミナは未熟児で先天性の心疾患があって、自分だけが丈夫で健康で…。物心ついた時から、いつでも僕はそのことに居心地の悪さを感じてきた。僕がオンマのお腹の中で栄養を独り占めしたせいで、ジミナは病気になっちゃったのかなぁ。ジミナの苦しみのうちのどれか1つでも、僕が代わってやれたらいいのに。
今日も学校帰りに、病院へ面会に行く。今はあまりごはんも食べられないみたいで、このままだと鼻にチューブを入れて栄養を直接入れることになるとジン先生が言っていた。僕は少しでもジミナに食べて欲しくて、ジミナが好きそうなプリンや菓子パンなんかを買って行く。
「ジミナー。調子はどう?」
聞く必要もないぐらいに、調子が良くないことは見て分かった。熱があるみたいでぐったりして汗をかいているし、息も少し苦しそう。一重瞼が腫れていて、頬には涙の跡がある…。僕が来るまで、泣いていたのかもしれないな。
ジミナの左腕は病気の影響であまり動かない。だから右腕に比べて細くて、それに曲がってる。そんなジミナの白い腕に点滴の針が刺さっているのは、とても痛々しかった。
「テヒョン…おしっこしたい…。」
「あ、わかった。ナースコール呼ぶ?」
「いや、そこのサイドテーブルにある容器取って…」
「あ、これね?OK〜。カーテン閉めようね。ズボン下げるよ」
僕は、仰向けに寝ている状態で膝を立てたジミナの股間に尿瓶を当ててやる。
「全部出た?」
「う、うん…。」
「これは、中身トイレに捨てて洗ってくればいいの?」
「ありがとう。看護師さんは殆ど女の人だから頼み辛くて、つい我慢しちゃうんだよね…。自分でやれるかと思ったけどこぼれちゃったりしないか不安で…。テヒョンが来なかったらお漏らししちゃうとこだったよ…」
「我慢はダメだよ。漏らしたら1番恥ずかしいじゃん?ちゃんと言わないと!これで更に膀胱炎にでもなったらどうするの?」
僕はいつでもジミナのことが心配で心配で、つい口を出して過保護になってしまうんだ。
「あ、そうだ!ジミナが好きそうなチョコのパン買って来たよ。食べてみない?」
「うん……食べれるかな…」
「ほら、パンが白くてモチッとしてて、ジミナのほっぺみたい(笑)中にチョコクリームが入ってるんだよ。ちょっとだけでも食べてみようよー」
「うん!」
僕はパンをちぎってジミナの口に入れてあげた。口を開けるジミナは、ヒヨコみたいでなんかかわいい。
「わー美味しいねこれ!久しぶりに食欲がわいたかも」
良かった…。ジミナが何口か食べてくれただけで僕は安堵して泣きそうになったけど、ジミナに気づかれないようにそれを笑って誤魔化した。
「ジミナ、今入浴もできないんだよね?身体気持ち悪くない?拭いてあげよっか?」
「え、いいの?実はちょっと身体ベトベトしてる気がして…汗もかいちゃったし。でも看護師さん達いつも忙しそうだから言いづらかったんだ。」
「俺、家からタオル持ってきたから、お湯もってくる。ちょっと待ってて」
洗面器に熱いお湯を入れ、病室まで持って来る。タオルをお湯につけて、固く絞った。
「最初は顔から拭いていくね」
熱で赤くなったジミナの小さな顔を、優しく拭いていく。涙が渇いた跡をタオルで消しながら、僕はどうか一緒にジミナの悲しみも消してくださいとこっそり神様にお願いをした。
耳と耳の後ろも丁寧に拭いてから、タオルを熱いお湯で絞り直して、今度は首の後ろにあてた。
「わぁ〜。首の後ろ、あったかくて、すごく気持ちい〜。」
それから僕は、ジミナの入院着の結び目をほどき上半身を脱がせ、まずは手や指の間から丁寧に拭いていった。ジミナの手は白くて小さくて、子どもの手みたいだ。人より短い小指だってかわいい。僕の角張った手とは全然違うな…。ジミナが気にして、いつも隠そうとしている曲がった左腕ですら、僕にとっては愛しいものだった。その左腕には点滴が刺さっているから、触らないように気をつけて…。
次は胸とお腹を拭いていく。まだ入院して数日だけど、更に痩せちゃったみたい…。お腹には幼い頃受けた手術の跡がいくつもある。
やっぱり身体がすごく熱い。熱、辛そうだな…。
「ジミナ、寒くない?」
「大丈夫。タオルあったかいもん。」
「前は終わったから横向きにするよー。次は背中を拭くね。入院着は汗で濡れちゃってるから新しいのに替えよう」
「うん、そこの引き出しに替えが入ってる筈〜。」
僕はジミナに新しい入院着を着せて、紐を結んであげた。ジミナは片手しか使えないから、紐を結んだりするのは苦手なんだよね。
「上半身は終わったから、次下脱ごうねー」
「え?下はいいよ。恥ずかしいじゃん」
「何言ってんの?僕たち双子だよ?オンマのお腹の中から一緒にいたんだから今更恥ずかしいとかないでしょ。しかもジミナの下半身ならさっきもう見たし!」
「た、確かにそうだけど…」
入院着のズボンと下着を全部脱がし、足先から順に拭いていく。最近は車椅子で殆ど歩くこともない、細い足…。
「ジミナ、次お尻拭くから横向きになってね」
「う、うん…」
ジミナの白くて小さなお尻を奥まで丁寧に拭いた。
「ここは特に清潔にしておかないとねー。前も拭くよ。」
ジミナの大事な部分もそっと優しく拭いた。
「ひゃあ…くすぐったい…」
「ちょっと我慢してね。はい、終わったよー。下着も新しいのにしようね。少しはサッパリした?」
「うん、テヒョンなかなか上手いよ。看護師さんになれるかも!」
ジミナに新しい下着と入院着のズボンを履かせる。ジミナが少しでも笑顔になってくれたことが、僕は嬉しかった。
「テヒョン、あのさ…この間はひどいこと言ってごめんね…。テヒョンが僕の世話してくれるの、本当は嫌じゃないよ。でもさ、テヒョン毎日病院来るの大変じゃない?部活とか、友達と約束とか、彼女とデートとかないの?」
「は?彼女なんていないし!部活は休部にしてるし、友達とは学校で会ってるからいいんだよ。俺が来たくて来てるんだから、ジミナはそんなこと気にしなくていいの!オンマもジミナの面会来たがってるけど、ジミナは俺が来た方が色々頼みやすいでしょ?」
「確かに…。僕、オンマにおしっこしたいなんて頼めない…」
「でしょ?(笑)」
ジミナに話したことは、僕の本当の気持ちだった。僕にとって、自分の片割れのジミナの世話をするのは、息をするぐらい自然なこと。苦労に思ったことなんて一度もない。むしろジミナがいないと困るのは僕の方なのかもしれないな…。
だからこそ、あの日ジミナが学校で走り出して倒れた時は本当に本当に怖くて、僕は体が震えたんだ。もしもジミナを失ったらと思ったら…。