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ゆゆゆゆ
店の裏口。
薄暗い路地裏。
まだ営業中の店内の音が、遠くに聞こえる。
そのすぐ外で――
エリオットは、マフィオソとキスしていた。
制服のまま。
エプロンの紐が、少し歪んでいる。
唇が、ゆっくり離れる。
けれど――
エリオットは動かない。
顔を伏せたまま、
距離も取らない。
まるで、
“余韻の中に居続けようとしている”みたいに。
「どうした」
静かな声。
エリオットは、少しだけ息を吐いて――
「……このままじゃ、良くないってわかってるけど」
言葉が途切れる。
視線は落ちたまま。
「どうしたらいいか、わからない」
正直すぎる声。
逃げてもない。
でも、
進むこともできてない。
完全に――
揺れている。
マフィオソは、しばらく何も言わなかった。
ただ、
その様子を観察する。
「簡単なことだ」
やがて、静かに言う。
「選ばなければいい」
一瞬、
意味がわからない。
「……は?」
「どちらかに決める必要はない」
ゆっくりと、手を伸ばす。
エリオットの顎に触れ、
ほんの少しだけ上を向かせる。
「君は、両方を知ればいい」
視線が、合う。
逃げられない距離。
「違いを、確かめ続けろ」
指が、唇に触れる。
さっきまで重なっていた場所。
「そのうち」
少しだけ、笑う。
「区別が意味を失う」
その言葉に、
ぞく、とする。
怖い。
でも――
(……楽だ)
選ばなくていい。
苦しまなくていい。
曖昧なままでいられる。
「……それでいいのか」
自分に言うみたいに、呟く。
マフィオソは、すぐに答えない。
代わりに、
もう一度だけ距離を詰める。
「君はもう」
耳元で、低く。
「彼だけでは、満たされない」
否定できない。
その事実が、
何より重い。
「……俺」
言葉が、うまく出てこない。
チャンスの顔が浮かぶ。
昨日のキス。
“混ざらなかった”感覚。
安心と、
足りなさ。
「……あいつは」
そこで止まる。
“何なのか”を言おうとして、
言えない。
マフィオソは、それを見て――
「彼は彼だ」
あっさりと言う。
「そして私は、私だ」
指先が、エリオットの胸元に触れる。
「問題は」
軽く、押す。
「君が、どちらを見ているかだ」
心臓が、跳ねる。
「……わからない」
正直に、落ちる。
マフィオソは、
それを聞いて、
満足そうに、目を細めた。
「それでいい」
逃げ場を、
完全に塞ぐ言葉。
「わからないまま、続けろ」
エリオットが、真っ直ぐにマフィオソを見上げる。
不安そうに。
縋るように。
わずかに、マフィオソの口が歪む。
チャンスが見ていたもの。
チャンスが見ていた景色。
(手に入れた)
エリオットは、
その場から離れない。
離れられない。
(……戻れない)
頭のどこかで、理解している。
でも、
足は動かない。
もう一度、
自分から距離を詰めた。
確かめるように。
逃げないように。
“選ばない”まま。
唇が、再び近づく。
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