テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
#Paycheck
ゆゆゆゆ
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
店の裏口。
薄暗い路地裏。
まだ営業中の店内の音が、遠くに聞こえる。
そのすぐ外で――
エリオットは、マフィオソとキスしていた。
制服のまま。
エプロンの紐が、少し歪んでいる。
唇が、ゆっくり離れる。
けれど――
エリオットは動かない。
顔を伏せたまま、
距離も取らない。
まるで、
“余韻の中に居続けようとしている”みたいに。
「どうした」
静かな声。
エリオットは、少しだけ息を吐いて――
「……このままじゃ、良くないってわかってるけど」
言葉が途切れる。
視線は落ちたまま。
「どうしたらいいか、わからない」
正直すぎる声。
逃げてもない。
でも、
進むこともできてない。
完全に――
揺れている。
マフィオソは、しばらく何も言わなかった。
ただ、
その様子を観察する。
「簡単なことだ」
やがて、静かに言う。
「選ばなければいい」
一瞬、
意味がわからない。
「……は?」
「どちらかに決める必要はない」
ゆっくりと、手を伸ばす。
エリオットの顎に触れ、
ほんの少しだけ上を向かせる。
「君は、両方を知ればいい」
視線が、合う。
逃げられない距離。
「違いを、確かめ続けろ」
指が、唇に触れる。
さっきまで重なっていた場所。
「そのうち」
少しだけ、笑う。
「区別が意味を失う」
その言葉に、
ぞく、とする。
怖い。
でも――
(……楽だ)
選ばなくていい。
苦しまなくていい。
曖昧なままでいられる。
「……それでいいのか」
自分に言うみたいに、呟く。
マフィオソは、すぐに答えない。
代わりに、
もう一度だけ距離を詰める。
「君はもう」
耳元で、低く。
「彼だけでは、満たされない」
否定できない。
その事実が、
何より重い。
「……俺」
言葉が、うまく出てこない。
チャンスの顔が浮かぶ。
昨日のキス。
“混ざらなかった”感覚。
安心と、
足りなさ。
「……あいつは」
そこで止まる。
“何なのか”を言おうとして、
言えない。
マフィオソは、それを見て――
「彼は彼だ」
あっさりと言う。
「そして私は、私だ」
指先が、エリオットの胸元に触れる。
「問題は」
軽く、押す。
「君が、どちらを見ているかだ」
心臓が、跳ねる。
「……わからない」
正直に、落ちる。
マフィオソは、
それを聞いて、
満足そうに、目を細めた。
「それでいい」
逃げ場を、
完全に塞ぐ言葉。
「わからないまま、続けろ」
エリオットが、真っ直ぐにマフィオソを見上げる。
不安そうに。
縋るように。
わずかに、マフィオソの口が歪む。
チャンスが見ていたもの。
チャンスが見ていた景色。
(手に入れた)
エリオットは、
その場から離れない。
離れられない。
(……戻れない)
頭のどこかで、理解している。
でも、
足は動かない。
もう一度、
自分から距離を詰めた。
確かめるように。
逃げないように。
“選ばない”まま。
唇が、再び近づく。