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偉猫伝~Shooting Star

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偉猫伝~Shooting Star

30 - 第30話 キャッツオブフォーエバー④

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2025年06月05日

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――オレは屯所を脱け出すその前に、そっと彼等に別れを告げる。



女神に妹よ……。彼女達の寝顔を眺めながら、オレは物思いに暫し浸る。



決意が鈍った訳ではない。



朝目覚めてオレの姿が見えなかったら、二人の心境は如何に?



やはり悲しむのだろうか?



特に泣き虫であるアカネは、きっとヒステリックに泣き叫ぶに違いない。



それを思うと……な。中々踵を返し難いというもの。



死に不安や恐怖も、ましてや生に未練も無い。全てを受け入れる覚悟は、この世に産まれ落ちた瞬間とうに出来ている。



だが彼女達を絶つのは悔いは残る。



「……済まんな」



オレは全てを振り切って、既に内臓をやられたよたつく足取りで、彼女等の元から立ち去った。



途中はずれ者の寝顔を素通りしたが、まあコイツには特に感慨に耽る間も無いだろう。



コイツが居れば二人は大丈夫だ。



そう確信しているからこそ、掛ける言葉は要らない信頼の証なのだ。



一言――『世話になった』と、心の中で言っておいた。コイツにはこれで充分。



冥王やミーノスにも立ち寄ろうかと思ったが、下手に歩き回って起き出されたら堪らない。



特に断腸の思いでもないが、残った未練を振り切って屯所の裏口から、そっと外へと出ていった。



************



外へ一歩脚を踏み出すと、心地好い夜風が頬を撫でた。



見上げた夜空には満天の星々。



良いシチュエーションだ……。



星を眺めながら眠るのも悪くない。



オレはロマンチックでセンチメンタルエボリューションな猫だからな。



最期でも決して悲観せず、華のある最期を飾らんとするのが、オレ様ほし様の雄猫道。



そうと決まれば善は急げ。



今生の別れは既に済ませた。最早振り返るまい。



最期に目指すは命尽きる前に山頂へ。



まあ山頂という程大袈裟な山でもないが、屯所は山のふもとに位置するからな。



山頂まで歩いてほんの十分少々。この状態では倍は見積もらねばならんのが玉に傷。



まあいい……。



死出への旅路と思えばそれも一興か。



今は滅多に車も通らぬ、街灯も一切無いアスファルトで舗装された山道を、オレはがむしゃらに頂きへと目指して突き進んだ。



************



――貴公等はもう気付いたであろう?



……その通りだ。オレの肉体は既に、この世には存在せぬ。



貴公等が今まさに目にしている、この優雅な毛並みを持つ高貴な猫の姿は、オレのアストラルボディ――即ち“星幽体”なのだ。



オレの全盛期をイメージしておる。傷処か染み一つなかろう?



『ほし様は幽霊だったのですね……』――近いが少し違う。これはオレの念体。精神体と云っていい。



だが、それも現世で維持するには時間が迫っておる。



そう――夜明けまでだ。



ヴァンパイアではないが、星幽体として活動出来るのは夜のみと決まっておるのだ。



ホレ、昼間に幽霊とか聞かんだろ?



だからこそ貴公等に遺しておきたかったのだ。この偉大なる猫の生き様を、存在が消える夜明けまでにな……。



オレの遺体は見晴らしの良い山頂で、既に土に還っておる。



だが、どうしても後世に伝えたくてな。波長が合う者を此処に呼び寄せたという訳だ。



今更ながらよく来てくれた。礼は言わぬが、ここは素直に喜んでおこう。



これまで貴公等が見て、感じてきたのは、オレの念導力が産み出した“ホログラフィー”によるもの。



――どうだ? 現実と見違えた程であろう?



分かっておる。そう褒めずとも崇めなくとも、オレに不可能は無い。



『こんなのって無いよ!』



『ほし様は無敵だと――永遠だと信じてたのに!』



まあそう言うな。貴公等の言いたい事も分からんではない。それ程までに貴公等がオレに抱く印象が鮮烈、かつ崇高だったという事なのだからな……。



だが生きとし生ける者、すべからくそれは訪れるのだ。オレとて例外ではない。



必ず終わりは迎える。だが決して変わらぬものがある。



『それって何ですか?』



『死んだら……全て終わりじゃないですか!』



そう慌てるでない。貴公等もまだまだ青いな……。



確かにそうだ。死は全ての綺麗事を濁流に押し流し、呑み込む。死の前では命等、本当にちっぽけな花火のようだと気付かされる。



だが死して尚、変わらぬもの――



それは確かにオレは『ほし』として、この世界を生きる証として存在していたという事。



女神――彼等はそのかけがえのないものをオレに与えてくれた。



肉体は滅びても、その魂は決して朽ちる事はない――って感じか?



死は全ての終わりではなく、新たなる始まりなのだ。



――ここでほし様御得意の『急遽御話脱線』といこう。



着いて来れぬ者は去れ――と何時もなら言う所だが、最早抜き差しならぬ所まできたのだ。強制的に着いてきて貰おうか。



さて……貴公等は『虹の橋』を知っているかね?



そうレインボーだ。マン・オン・ザ・シルバーマウンテン。即ち“銀嶺の覇者”――とまあ、今はそんな事はどうでもいい。



どうでもいいが、ブラックモアは良いぞ。これもはずれ者からの影響か……。



全く奴の“洋モノ”好きには参る……。この期に及んでまでオレを影響させたのだからな。



――とまあ、雨上がりに空に架かるアレだ。



これこそ正に自然が生んだ芸術。オレは虹を見るのがとかく好きでな。



雨上がりはよく外へ飛び出し、その後消えるまで虹を眺めていたものだ……。



まあ虹の橋は虹の橋でも、オレが言いたいのは現世の虹の橋ではない。



そう……死後の代物の事だ。



主人が死を迎えると真っ白な道を通り、其処を抜けると虹の架け橋が在る。



その前には生前のペット達が主人を待っているのだ。



そして主人と共に虹の架け橋を渡り、死出への旅路を案内する。



――とまあ、これは人間特有の創作だがね。



人間にとってペットとはスピリチュアルパートナーだからな。



人間同士の結婚といった、生活や種の存続といった類いではなく、ペットの存在は精神の拠り所的な節が大きい。



失ったペット達への哀しみを和らげる為、何時かまた必ず逢えるという死後の希望的逸話――。










……オレは論理的主義猫だ。そんなもん実際在る訳なかろう。



死んで実際行ったら在りました――ならまだしも、実際死んだらそれで終わりで伝える術は無く、死んだ先は死んだ者にしか分からん。



オレも星幽体として現世に留まってはおるが、その先は分からんのだ。伝えようがない。



天国でも地獄でもなく――



“死んだら無に還る”



本当の意味ではそれが正しいのだろう。



だがな……実はこの虹の橋の逸話、オレは嫌いではないのだ。


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