コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
明日から違う任務、環境も変わるはずなのに、迷惑をかけてしまった罪悪感が残る。いろんなことが頭の中で回る。
天井を見ながら、瞬きをしていると
「まだ起きているのか?」
月城さんがお風呂から戻ってきた。私が寝ていると思って、静かに部屋に入って来てくれたため、声をかけられるまで気付かなかった。
「月城さんを待ってて。謝り足りなくて」
「謝るな。迷惑を被ったなど、全く思わない」
もう休みなさいと言葉は続いた。
「どうしたら許してくれますか?」
ふぅとため息をつき
「そんなに罰を受けたいのか?」
「はい、何かお詫びをしないと気が済みません」
しばらく無言が続いた。
「そうだな……。では、今日は俺の隣で寝てくれるか?」
その言葉を聞いて、ドクンと鼓動が脈打つのがわかった。
「そんなことでいいんですか?」
「あぁ」
月城さんからそんな言葉が出てくるとは思っていなかった。
「それは、布団は一つと言うことでしょうか?」
恐る恐る聞いてみる。
「お詫びをしてくれるんだろう?」
月城さんは意地悪そうに笑った。
「はい、わかりました。狭いのですが、どうぞ」
「お邪魔する」
私と一緒に寝ることで、何か利益はあるのだろうか。隣を見ると、すぐ近くに月城さんがいる。腕と肩が彼に触れていた。
この夜は月が明るい日だったため、そのため、隣にいる彼がよく見える。
「俺の顔に何かついているか?」
私の視線に気づいたのか、月城さんと目が合う。
「いえ。とても綺麗だなって」
綺麗?と聞き返したあと
「それは男として喜んでいいのか?」
不服そうだった。
「はい、褒め言葉です。綺麗でかっこ良くて」
少し髪の毛に触れてみる。
「私、月城さんの髪の毛好きなんです」
「小夜……」
その瞬間、抱きしめられた。
鼓動が早くなる。
でも、やっぱり心地良い。
月城さんの胸の鼓動も聞こえてきた。
「あれ、月城さんもドキドキしているんですか?」
「当たり前だろう」
そのあと、会話をすることはなかった。
ずっとこのままでいれたらいいのに。
そう思いながら目を閉じた――。
・・・・・・・・・・
「ねぇねぇ、今日は何して遊ぶ?」
私はまた夢の中にいた。昨日の続きを見ているようだ。男の子に話しかけている。
「小夜ちゃんの好きなことでいいよ」
「じゃあ、お花で冠を作りたい」
二人は手を繋いで歩きだした。
気づいたら、花畑の中で花を摘んでいる。
「ほら、できた」
二人で作った花冠。
「小夜ちゃん、似合うよ」
男の子も笑顔だ。
「……くんの番だよ」
次は男の子の頭に花冠をのせる。
「やっぱり、小夜ちゃんの方が似合うよ」
「でも、せっかく二人で作ったのに。一人だけもらうってダメだよ。そうだ!!」
私は、自分の髪の毛を結っていた結紐を解いた。
「……くんに私のあげる」
「そんなのダメだよ」
「あげるの!」
そう言って私は、少し長い男の子の髪の毛を結った。
「……くんの髪の毛サラサラしてて綺麗。髪の毛まだ短いから結びにくいけど、大人になったら使ってね」
男の子の顔は真っ赤だ。
「髪の毛が長い男なんて、馬鹿にされるよ」
「……くんの髪の毛は綺麗だからいいの。大丈夫」
一向に引かない私に観念したのか
「ありがとう。大切にする」
ポツリ、男の子は呟いた。
「うん!」
・・・・・・・・
ここで夢から目覚めた。
いや、夢ではない。昔の記憶。
夢の内容を思い出す。
男の子にあげた結紐、見たことがある。
あの色と形、おそらく間違いがないだろう。
なぜ、気付かなかったの?
二日前、自分で直した時に。
彼は「大切なもの」と言っていた。
あれは、私が男の子にあげた結紐だった。
どうして今まで教えてくれなかったのだろう?
あの男の子は、幼い頃の月城さんだ。
私たちは三日前に初めて会ったわけではなかったんだ、彼は気付いていた。
横を見ると、隣で寝ていたはずの月城さんがいない。
「月城さん!」
家中を探し回る。
居間、台所を見てもいない。
しかし私の分の朝食の準備だけはされていた。
着物も着替えず、外まで探しに行った。
すると
「おはよう、小夜ちゃん」
そこには、小野寺さんの姿があった。
「月城さんは?」
走り回っていたせいか息が上がってしまっている。
「隊長はね、もう任務に出ちゃったんだ。出て行く前に挨拶くらいすればって俺も言ったんだけどさ、起こしたくないって。昨日、小夜ちゃんあれから具合が悪くなっちゃったんだって?だから、隊長なりに気を遣ったんだと思うよ」
家の周りを見ると、隊服を着た人たちがあと五人ほどいた。目が合うと、頭を下げられる。
「ああ、あのね、酷い話でしょ。俺だけじゃ危ないからって五人もあと警備につけたんだよ。信用されてないの。俺」
「もう出かけてしまったんですね」
一週間ほどで帰って来ると言っていたが、この一週間がどれほど長く感じることになるだろう。
そんな私の様子を見ていた小野寺さんは、私に手紙を渡してくれた。
「これ、隊長からだよ。挨拶できなかったからって言って、今朝書いたみたいだけど」
朝食を一人で済ませて、着物に着替える。
月城さんとは違って、基本的には小野寺さんたちは家の中には入ってこないらしい。
「俺も小夜ちゃんとご飯とか食べたいのに、隊長に止められているんだ」
小野寺さんは不満を漏らしていた。
一人になった部屋で、月城さんからの手紙を読む。
「小夜へ。挨拶もせずに出て行くことを許してくれ。任務が終わったら必ず帰ってくるからそれまで待っていてほしい。昨日の夜は、俺の我儘に付き合ってくれてありがとう。何かあったら青龍に伝えてくれ、近くにいるはずだ。会える日を楽しみにしている」
短くも長くもない手紙を抱きしめる。
絶対、月城さんが帰ってくるまで無事で居ようと思った。
そして帰って来たら、私たちの過去について思い出したことを伝えよう。
また謝らなきゃいけない、大切なことを忘れてしまっていたのだから。
今日は往診もないため、薬を作る材料を調達する日にした。
薬草を摂りに山に入らないとならないため、小野寺さんに相談をする。
「え!そうやって薬を作ってるんだね。もちろんいいよ。俺も一緒に行くし。楽しそう」
遊びだと勘違いをしているみたいだったが、許可が得られたので安心をした。小野寺さんと数名の隊士とともに山に入る。
「へえ。こんな急な斜面をいつも一人で登っているの?女の子一人じゃ危ないよ」
そういう彼はとても楽しそうだった。慣れていない山道なのに、他の隊士に比べて足取りがとても軽い。遅れている隊士もいる中で、軽々と山道を登って行く。さすがは副隊長といったところだ。