テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「よく効く薬草は、急斜面に生えていることが多いんです。慣れている山だから、私も登れていますけど」


まだ目的地まで遠いが、休憩することにした。

荷物は小野寺さんが持ってくれたため、一人で行く薬草摂りに比べて苦ではなかった。


「これ、疲れが取れるお茶です。皆さんどうぞ」


朝、家で作ってきたお茶と茶菓子を全員に渡す。


「甘いものが苦手な方がいたらすみません」


疲れた時に食べる甘味が私は好きだった。


「ありがとう。なんか、旅行に来ているみたいで楽しいね」


美味しいと言いながら食べてくれる小野寺さん、私から見ても楽しそうだった。


「あんまり詳しいこと話せないんだけど、いつもは重役さんの護衛とか、罪悪人を追ってたり、訓練ばっかりだから、休日みたいで気が楽だよ」


「大変なお仕事ですね」


「うーん。まあ、その分お金には困らないけどね」




休憩が終わり、薬草が生えている場所へ向かう。


薬草や山菜などの特徴を伝えると

「誰が一番摂れるか勝負しよう」

そう言うと彼は、軽々と身をこなしながら、斜面を散策し始めた。


しばらく個人で散策をし、最終的に全員で収穫したものを確認する。


「やっぱり、小夜ちゃん一番だね。俺、二番」

残念だ、と言うが小野寺さんはどこか嬉しそうだ。


「皆さんのおかげでこんなに摂れました。ありがとうございます」

一人で行くより、倍いや、それ以上の薬草が採れた。しばらくは山に登らなくても大丈夫そう。


「帰りましょう」


下山を始めてからしばらくして、一番後ろの隊士を見ると顔色が悪いように感じられた。


「あの、具合が悪いんですか?顔色が悪いように見えるんですが」


「実は、途中で蜂に刺されてしまいまして。刺されたところが痛むんです」


見せてもらうと、手の甲が真っ赤に腫れていた。

とりあえず応急処置をする。


「蜂の毒は人によっては拒絶反応がかなり出てしまい、命の危険性が出てきてしまう人もいます」


「そうなんだ!蜂って恐いんだね」


小野寺さんは、私の話を聞いて驚いていた。


隊士は顔色が悪くなってきており、冷や汗だろう、かなり具合が悪そうに見えた。早く家に戻って、解毒剤を飲ませてあげなければ。


今にも歩けなくなりそうな隊士を、どう下山させるか悩んでいると

「解毒剤って小夜ちゃんの家にあるの?」

小野寺さんが尋ねてきた。


「はい、調合したものがすでにあります。早く飲ませてあげたいんですが」


「そっか。うん、でも、歩けなさそうだしね」

隊士の様子を見て、どうしようかと悩む彼。


「わかった。じゃあ、俺がおぶって連れて行くよ。それで、小夜ちゃんは抱っこしていく。これが一番早いんじゃない?」


「へっ?」

私を含め、その場にいた全員が言葉に詰まった。


「よし、命令。俺、こいつと小夜ちゃんと先に帰ってるから、お前たちは小夜ちゃんの荷物を持って後から無事に下山すること」


「副隊長、我々は土地勘がありません。迷ってしまう可能性も」

一人の隊士が口を挟む。


「自分で考えなよ。ちゃんと見ればこの山道、同線が確保されているだろ?それ辿って来ればわかるし、難なら、自分の鳥を遣えばいい」


ある程度の階級以上になると、青龍のような鳥が一人に一羽付くようである。


「それくらいの判断力がないと、いつまで経っても上の階級になれないよ」


いつもと違う小野寺さんの雰囲気に私は戸惑ったが、言っていることは間違ってはいない。


「申し訳ありません。では、私たちは自分たちで下山します。なので先に行って下さい」


「よし、決定」


そう言うと小野寺さんは、蜂に刺された隊士を背負い、私を両腕で抱えた。


「えっ、小野寺さん。私は歩けます。重いですし、それじゃあ、両腕が塞がってしまいます」

小野寺さんに降ろしてくださいと頼む。


「これが一番速いから。小夜ちゃん、俺を信じて。これでも副隊長だよ?ちょっと飛ばすから、恐かったら目を閉じててね」


そう言うと彼は、信じられない速さで山道を走り始めた。もちろん斜面は、段差や岩、倒木、枝などの障害物だらけだ。それを次々と超えていく。


「うぁぁぁ!!」


体験したことのない速さと振動に思わず声が出てしまう。


「小夜ちゃん、舌を噛まないように気を付けてね」


しばらく怖くて目を瞑ってしまっていたのだが、一瞬目を開け小野寺さんを見ると、見たことのないような真剣な顔をしていた。いつもは穏やかな彼、愛嬌のある彼だけれど、本来はこちらの姿を隠すための演技なのではないかと感じた。


「はい、着きました」


小野寺さんの声を聞き、目を開けてみると、もう家の前に来ていた。


小野寺さんに彼を部屋まで運んでもらう。


「今、解毒剤とお水持ってきます」

薬を飲ませて、しばらくは横になってもらった。


あんなに走った小野寺さんは、顔色一つ変わっていないし、息も上がっていない。


「すごい、ですね」

ついそう伝えてしまった。


「何がすごいの?」

不思議そうな顔をする小野寺さん。


「二人、人間を抱えてあんな速さで走って来たのに、汗もかいていないし、息も上がっていないじゃないですか?」


「小夜ちゃん、褒めてくれるの?嬉しいな!ありがとう」

先ほどの彼とは違い、愛嬌のある表情。


「これくらいのことできなくちゃ、副隊長ではいられないんだよ」


「でもやっぱり、ちょっと疲れちゃったかな」


嘘なのか本当なのかわからなかったが、家にあったお茶とお茶菓子を出すと上機嫌になった。


「俺、甘い物好きなんだよ」

美味しいと言っている彼、その言葉に嘘はないようだ。


「良かったら、こっちは桜の花びらを使った和菓子なんですけど。ちょっと癖があるので、口に合うかどうか」


「おいしい!変わった味だね。でも、俺は好きだよ。小夜ちゃん作ったの?すごいね」


彼はパクっと勢いよく食べてくれた。


お茶のお代わりを淹れていると

「小夜ちゃんって、本当に気を遣える子だね。なかなかいないよ。こんな子」


「普通ですよ、これくらい」


うーんと考えながら、小野寺さんの言葉が続いた。

「もしかしたら隊長も言っていたかもしれないけれど、俺たちの周りの女性ってなんか損得勘定で動く子が多くてさ。俺たちがお知り合いになる女性ってどこかの令嬢だったり、上官の娘だったりするんだけど。一緒にいても息が詰まるって言うかさ、楽しくないんだよね。自然体でいられないっていうか。小夜ちゃんは、そんなこと考えていなさそうだし、ご飯も美味しいし、家事もできるし。こういう子がいいよなって思うわけ」


「この甘味すごく美味しいよ、また作ってね」


「はい、もちろんです」


そんな話をしていると、後から下山予定の隊員たちが戻ってきた。


「お、戻って来れたじゃん」


「只今戻って参りました」


そういう隊士たちは疲れているようで、顔つきも厳しい。


「あの、お茶を淹れますので休んでください。蜂に刺されてしまった隊士さんも無事なので」


「ありがとうございます。一条様」

loading

この作品はいかがでしたか?

36

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚