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来世待月

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来世待月

1 - 来世では。

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2025年08月11日

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来世待月。《 赤×水・水さん女性設定 》





















――西暦1915年。







俺は、役所勤めの役人だった。







隊服に、赤の羽織を重ねるのが日課で、







左腰には常に刀を差していた。







亡き父上が生前、好んで着ていた紅の羽織。







亡き母上が好きだった市松模様の羽織。







二つを半羽織に縫い合わせて、俺は毎朝袖を通していた。







髪は赤い。







家系の遺伝だ。







髷を結わず、ざんぎり頭でもなく、







異国で過ごした事のある祖父譲りの、







自由な髪型。







周囲からは奇異の目を向けられる事もあったが、







俺は自分の生き方を疑った事はない。










__そんなある朝だった。







赫「壱、弐、参……此れで総てか」







役所の戸を出て、馴染みのある茶店へ向かおうとした刹那、







目の前が真っ白になった。







風も音もなく、ただ光だけが、







俺の足元から天頂へと吸い上げていくような感覚。











気が付いた時には、世界が変わっていた。







いや、”時代”が変わっていたと言う方が正しい。







目の前にそびえる建物は、







全て鉄やガラスでできているように見えた。







空に走る線の上には、







見た事もない金属の箱が走っている。







人々は、役人のような隊服ではなく、







様々な色と形の服を身に纏い、







手元には不思議な板を持って歩いていた。







赫「……これは……」







俺は思わずその場に膝をついた。







俺の容姿は何一つ変わっていない。







両親の形見を縫い合わせた半羽織に、







左腰はいつも通りの刀。







混乱と恐怖。







何が起きたのか、理解が追いつかなかった。







『 大丈夫ですか…? 』







その声に俺は顔を上げる。







そこにいたのは、一人の女性だった。







髪は黒く、目は涼しげ。







けれど何処か温かみのある光を宿していた。







着ているのは、俺の知るどの衣装にも当てはまらない。







だが不思議と、嫌悪感や恐れも感じない。







『 貴方、ちょっと変わった服着てますね。でも、かっこいいと思います…‼︎ 』







……その瞬間、俺の中で何かが解けた気がした。











彼女の名は、稲荷水と言うらしい。







俺を助け、住まう場所を与えてくれた。







それだけではない。







食べ物の買い方、街の歩き方、







“スマホ”という道具の使い方。







全てを、一から教えてくれた。







彼女の前で、何度失態を晒した事か。







初めての自動ドアに驚いて構えを取った時。







彼女が変な輩に絡まれていたところを、







刀を抜いて助けに入ってしまった時。







今の日本では、腰に刀を差す事がないらしい。







それでも、水は、いつも笑ってこう言った。







水「赫さんは強いけど、可愛い人ですね」







……可愛い? 俺が?







俺が可愛い筈がない。







普通、俺みたいな者は除け者にされるべきだった。







そんな俺を救ってくれた貴方の方が、







誰よりも愛おしくて、何よりも尊い者なのではないのだろうか。







そんな尊い貴方に、一つだけ俺に誓わせて下さい。







“如何なる時も側にいて、時間の許す限り貴方を守ります”







と。











一年という期限を知ったのは、







それから二ヶ月程経った頃だった。







如何やら、俺はこの時代に『 間違って 』飛ばされた存在で、







元いた時代に戻る運命にあるらしい。







未来から来た人間の話は良く聞く。







だが、過去から来た者など、俺が初めてだという。







……つまり、この時代に俺の記録はない。







“赫”はもう、この世からいない事になっている。







元いた時代に戻れると聞いて、俺は清々した。







けれど、何処かで、”何か”が恐かった。







誰にも思い出されず、誰にも語られず、







ただ時代の狭間に落ちた、







“無かった命”になってしまう気がして。







一年間共に過ごした、







最愛の貴方に忘れられる様な気がして。







だからせめて――







赫「来世で、また人として生まれ変われたなら」







赫「――俺と、夫婦“めおと”になってくれませんか」







とだけ貴方に伝えたかった。







手を握って、目を逸らさずに。







刀も何も持っていなかった。







ただ、俺の心そのものを差し出す様に。







水は、涙を浮かべて微笑んでいた。







『 はい勿論です 』







それだけを、ぽつりと呟いて。











結局、口約束だけで何一つ成す事が出来なかったんだ。







貴方に伝えた守ると言う誓いも、







心の内に秘めていた幸せにすると言う願いも。











そしてその夜、俺は後悔しながら眠りについた。







翌朝、目を覚ました場所は、







元いた時代の俺の部屋だった。







――あの一年が、夢だったのか。







今でも分からない。







けれど俺の左手には、







あの夜水が握ってくれた温もりが、今も確かに残っている。







そして机の上には、未来で渡された小さな写真が一枚。







俺と水が、肩を並べて笑っている姿。







写真を見る度に、







あの一年が現実だった事を何度も思い知らされた。







俺はそれを懐にしまって外へ出る。







もう二度と逢えないとしても、俺は一生、この事を忘れはしない。







水。







貴方に出逢えて良かった。







どうか、夫婦めおとになる約束をした男の事を、







忘れないでいてください。







俺は、貴方を何処迄も探し続けます。







――来世でまた、貴方に逢えたなら。







今度こそ、ちゃんと手を繋いで歩く事は可能でしょうか。













































体調不良でも一つくらい出しておきたかったので、




前々に書いていた物の続きを書かせていただきました…‼︎




リクエストちょっと待ってな。





















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