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「ねぇゼノ。今のリアムの状況は?まだ牢から出られてない?」
「はい。届いてる報告によりますと、そのようです。ラシェット様が王に懇願しておりますが、良い返事がもらえてない状況です」
「そう…」
僕は俯き、膝の上の自分の手を見つめた。
ゼノとジルも黙り込み、ラズールだけがテキパキと動いている。
「フィル様、しっかりと食べてください。食べないと体力がつきませんからね」
「わかったよ」
宿の者に運んでもらった料理と水を机の上に並べて、ラズールが僕の隣に座る。そして「ではいただきましょうか」と僕の手にフォークを握らせた。
僕とラズール、ゼノとジルは、宿に着く直前にバイロン軍に合流できた。
隊列の最後尾について行きながら、遅れた僕達のことを怪しむ者がいるのではないかと心配したけど、ゼノとジルが大丈夫だと言う。
「クルト王子の様子がおかしいので、王子に気を取られて、遅れる者がいても誰も気にしません」
「それに王都に戻る途中で家に戻りたい者は戻っても良いと通達が出てますし。家に帰りたくて人のことなど気にする者はいませんよ」
「そうなんだ…。戦を仕掛けようとしてたのに、ずいぶんと呑気だね」
ゼノとジルの言葉に、僕は驚いて目を丸くする。
イヴァル帝国にすぐにでも攻め込む勢いで来てたのに、そんなに急に士気が下がるものなの?
僕は背後のラズールの顔を見上げた。
ラズールは、片手で器用に手綱をさばきながら、僕の腰を抱く。
「フィル様、いきなり後ろを向かれては危ないですよ。俺が絶対に落としはしませんが、気をつけて」
「大丈夫だよ。ところでクルト王子はどうしたんだろうね?軍を撤退すると言った時から様子がおかしかったけど」
「さあ?第一王子の考えてることなどわかりませんし興味もありません。でもフィル様が考えてることはわかります」
「あ、僕がなんでもすぐ表情に出して威厳がないとか言いたいんだろ」
「ふっ、違いますよ。素直なことはよろしいことです。俺はあなたが生まれてからずっとお傍にいるのですから、もうあなたの一部みたいなものです。だからわかるのです」
「またそんなことを言う。おまえはおまえだよ」
僕は顔を前に戻して、目の前の馬の首を撫でた。
そんな僕が全てみたいなこと言わないでよ。僕はいなくなるんだから、僕のことを忘れる努力をしてよ。
僕がいなくなると、ラズールはどうなるんだろう。仲が悪いけど、トラビスが支えてくれるかな。レナードやネロも、支えてくれるかな。
鼻の奥がツンと痛くなり、慌てて目を瞬かせる。
「宿が見えてきましたよ」
ゼノの言葉に顔を上げると、前方に大きな街が現れた。
僕とラズール、ゼノとジルは同じ部屋だ。
ラズールが部屋を分けろと抗議していたが、ゼノが同室の方が安全だと説き伏せていた。
僕もラズールと二人より、周りがバイロン国の兵に囲まれている宿の中では、ゼノとジルがいる方が心強い。そうラズールに言うと、渋々頷いていた。
黙々と食事を終え食器類を下げてもらい、これからのことを相談しようとしたその時、誰かが扉を叩いた。
僕は緊張して身体を固くし、ラズールが警戒して腰に差した剣の柄を掴む。
ゼノがそんな僕達を手で制すると、ジルが扉に近づき「来たのか」と聞いた。
「ユフィとテラです。入ってもよろしいですか」
「ああ、入れ」
ジルが扉を開ける。
細く開いた隙間から、二人の騎士がするりと入ってきた。
「ジル様、ゼノ様、お姿が見えないので心配していました。無事に合流できてよかったです」
「本当に…ドキドキしましたよ?」
凛々しい顔つきの騎士が丁寧に話し、少し幼い雰囲気の騎士が明るく喋る。
二人はゼノとジルに声をかけて、僕とラズールを見て動きを止めた。
「あなたは確か、隣国の」
凛々しい顔つきの騎士が僕に向かって膝を折る。
もう一人の騎士が「え?」と不思議そうに隣の騎士と僕を見比べている。
「君もリアムの部下なの?名前は?」
「はい。ユフィと申します。以前にお会いしたことがあります」
「僕がゼノの奴隷としてバイロン国にいた時だね。確かリアムの軍にいたね」
「そうです。覚えていてくださって嬉しいです」
「隣の君もいたよね」
「え?俺?ってか君は誰?」
「おい」とラズールが、ユフィの隣で戸惑っている騎士を睨む。
僕は今にも怒鳴りつけそうなラズールの腕を引いて止めると、ゼノに聞いた。
「彼らも味方だね?僕のことを話してもいい?」
「はい、大丈夫です。彼らは信用できます」
「そう。こうやって面と向かって挨拶をするのは初めてだね。僕はイヴァル帝国の王、フィルと言います。リアムを助けに来たんだ。君達にも協力してほしい」
「もちろんです」
ユフィが頭を下げる。僕のことを知っていたようだ。
隣の騎士は「えっ!」と叫ぶと、慌てて膝を折り頭を下げた。
「無礼をお許しください!俺はテラと言います。リアム様をお助けできるのなら、何でもします!」
「テラだね。よろしく」
「はい!…あの」
「どうしたの?」
テラがゆっくりと顔を上げ、僕と目が合うと慌てて伏せる。
「とりあえず二人とも立って。ここにいる皆は仲間だから。僕を特別扱いしないでほしいな」
「はあ…」
テラが間の抜けた返事をしながら立ち上がろうとする。
それをユフィが止めたので、僕はもう一度言う。
「ユフィも立って。そんなに堅苦しくしてたら気軽に相談もできないじゃないか」
「…わかりました。そちらの方もよろしいですか?」
ユフィがラズールに向かって聞く。
僕の隣に立つラズールを見上げると、とても不服そうな顔をしていた。