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鉄扉の前に輝く五つの星。
残りは二つ。だが、理沙の胸は重く沈んでいた。
最後に現れるのは――わかっていた。
――コツ、コツ。
靴音が二つ、同時に響く。
光に浮かび上がったのは、小柳菜乃花と深沢真綾。
理沙にとって最初に手を取り合った友と、最後まで共に歩んだ仲間だった。
「理沙……私たちを助けてよ」
菜乃花の影が、寂しげに微笑む。
「ちがう、理沙。ここで終わらせて。あなたが犠牲になれば、みんな楽になる」
真綾の影が、冷たくささやく。
二人は互いに逆の言葉を放ちながら、理沙を挟むように近づいてくる。
心臓が締めつけられる。
最初に声をかけ、孤独を救ってくれた菜乃花。
犠牲を決意したとき、最後まで涙を流してくれた真綾。
どちらも大切で、裏切るなんてできない存在だった。
「……選べない……」
理沙の声は震えていた。
すると、影の菜乃花が囁く。
「私を選んで。真綾を捨てて」
影の真綾が重ねるように囁く。
「違うよ。菜乃花を忘れて、私と一緒に沈んで」
二つの影が同時に手を伸ばす。
もし片方を掴めば――もう片方は消える。
それはつまり、大切な誰かを“切り捨てる”選択だった。
理沙の脳裏に、かつての夜が蘇る。
菜乃花と一緒に笑い合った放課後。
真綾と肩を並べて走り抜けた暗い廊下。
どちらも失いたくない。
だから――理沙は両手を広げ、叫んだ。
「私は誰も選ばない! どちらも大切だから!幻が私に強いる選択なんて、受け入れない!」
その瞬間、懐中電灯の光が強くなり、二人の影を同時に照らした。
「うああああああっ!!」
影の菜乃花と真綾は苦悶の声を上げ、闇に溶けて消えていく。
扉には六つ目と七つ目の星が同時に輝き、円が完全に満ちた。
仕掛けが回転し、重々しい音を立てて扉が開いていく。
だが――その先に広がっていたのは、出口ではなく、黒い虚無の空間だった。
「……まだ終わらないの?」
理沙の声は震えた。
虚無の奥から響く声があった。
『よくぞ七つの影を超えた。だが最後の試練は――“本当の犠牲”』
闇がうねり、理沙の足元を飲み込もうと迫る。
理沙は拳を握りしめた。
「……いいわ。最後の試練でも、私は負けない」