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虚無の空間は底もなく、果てもしれず、ただ黒い波が揺らめいていた。
理沙の立つ床さえも消えかけ、宙に浮かんでいるようだった。
『七つの影を超えし者よ……最後の問いに答えよ』
声はどこからともなく響き、空気を震わせる。
『自らを犠牲にし、他の六人を救うか――』
『六人を差し出し、己だけ生き延びるか――』
理沙の胸が締めつけられる。
仲間の名が次々に頭に浮かんだ。
菜乃花、穂乃果、里奈、香里、真綾、瑞希……。
泣き、笑い、恐れ、支え合った六人。
彼女たちを見捨てるなんてできない。
だが、声は甘く囁く。
『思い出せ……彼女たちはもう影。存在しない。犠牲を恐れる必要はない……』
「違う……! みんな“影”になったけど……私にとっては確かに一緒に生きた友達なんだ!」
虚無がざわめいた。
理沙の足元から黒い手が伸び、彼女の足首をつかもうとする。
「きゃっ……!」
とっさに避けるが、次々と闇の腕が生えてくる。
『犠牲を選ばぬ者は、全てを失う……』
『迷えば、お前自身も六人も、共に消える……』
声が重なり合い、理沙の心を抉る。
選ばなければ全員消える――そんな残酷なルール。
理沙の手が震える。
「……私が消えれば、みんなは救われる……。でも……私は……」
その瞬間、理沙の耳に懐かしい声が響いた。
――「理沙、あんたは一人で抱え込まないで」
それは菜乃花の声。
――「最後まで一緒に行こうよ」
真綾の声も続く。
影となったはずの彼女たちの声が、確かに心に届いた。
理沙は目を見開き、叫んだ。
「……私は誰も犠牲にしない! 私自身も、みんなも!たとえ虚無が飲み込もうとしても、私は抗う!」
闇の腕が理沙に絡みつく。
しかし理沙は懐中電灯を高く掲げ、光を放った。
「みんなの記憶と絆がある限り、私は選ばない!」
光が爆発のように広がり、虚無を押し返していく。
声は怒りに震えた。
『愚か者め……選ばぬとは……!』
だが理沙は一歩も引かない。
「愚かでもいい! 私は、みんなと共に生きる!」
虚無が裂け、奥に“出口の扉”らしき光が現れ始めた――。