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・【15 スーパーの近くで】
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スーパーに着き、僕はすぐに店員さんへ話し掛けた。
「この近くで最近大きなホイッスルの音をよく聞きませんか?」
すると店員さんはうんうん頷きながら、
「それはありますよ! 最近多いですねぇ! 近くで工事しているんですかね! どうですっ?」
と逆に質問されてしまったが、
「工事は見ないですね」
と答えておいた。
僕は念のため、他の店員さんや地元っぽいお客さんにも何人か話し掛けた。
結果は全員聞いたことあるということだった。
それを黙ってついて見ていた真澄が、僕と二人っきりになったところで、
「何の確認なんだ? あんな大きな音ならみんな聞こえているだろ」
「とはいえ、何かをしていたら集中していて聞こえないということもあるじゃん」
「まあアタシは割とそういうほうだからな」
「その自覚はあるんだ。まあそのことはともかく、このスーパーの周りにいる人や店員さんは必ず聞いている。ということはこの近くで鳴っているんじゃないかなと思うんだ」
「ここの地下にサッカー場がっ?」
「いや裏の賭けサッカーじゃぁないんだよ、そういうことじゃない」
僕がそう言うと真澄は小首を傾げながら、
「じゃあ何なんだよ」
「とにかく早く、何かを伝えたい人がいるんだよ。つまりこのホイッスルの音は合図なんだ」
「合図?」
「そう、スマホとかで知らせる手間さえ省きたい。何よりも早く仕事をしたい人の合図だ」
「せっかちだな、時間に追われてる人なのかな?」
僕は真澄に小声でこう言った。
「追われているのは時間じゃなくて警察官からかもしれないよ」
「どういうことだよ!」
目を丸くしてそう言った真澄に、しっと人差し指を立ててから、
「空き巣の犯人グループかもしれない」
「えっ、どっ、何で」
「狙っている客がスーパーに入ったところでホイッスルを吹いて知らせる。スーパーに入ったら確実に十五分くらいは帰ってこないでしょ?」
「そうか、そういうことかっ」
「方法がホイッスルという原始的な方法を使っているところから犯人は若者じゃないと推測できる。そして犯人はきっとこの近くにいる。何か手違いでターゲットがすぐスーパーから出てきた時に備えて、きっとターゲットがスーパーにいる間はこの近くで待機しているはずだ」
「じゃっ、じゃあ、それを今捕まればっ」
「そういうことだね」
さて、ホイッスルを使って空き巣をしているということは分かった。
あとはどうやって捕まえるかだ。
ターゲットが誰だか分かれば、すぐにスーパーから出てきてもらって、ホイッスルが鳴ったほうへ向かえばいいんだけども。
ホイッスルはどこで鳴らしているのか、店の前で吹いていれば当然怪しまれる。
ホイッスルを吹いていても怪しまれない場所、かつ、このスーパーの出入り口が見える場所。
あとはターゲットをどうやって絞っているのかから逆算して考える。土地勘がある犯人? ということはこの近くに住んでいる?
僕は近くにある家の二階を見た。窓からスーパーの入り口を見ている人が……いた!
堂々と身を乗り出してスーパーを眺めている老人がいた。
でも勘で突撃することも良くない。今は待ちの時間だ。
その老人と出入り口を交互に見て、買い物を終えたおばあさんが出てきたタイミングでその老人は窓から引っ込んだ。
ということはこのおばあさんがターゲットだったのか、もしこのおばあさんが家へ帰って空き巣に遭っていれば確信を持てる。
そのことを真澄に伝えると、真澄は悲しそうな顔をしてから、でもすぐに切り替えて、
「じゃああのおばあさんの荷物を代わりに持ってあげよう。そうしたら空き巣にあったかどうかの話まですぐにいけるはずだ」
僕もその案に乗っかり、僕と真澄はおばあさんの荷物を持ってあげることにした。
日常会話をしながら、家へ戻ったら、案の定というか残念なことに空き巣に遭っていた。
でもこれで確証を持てた。
空き巣の知らせを受けた警察官がやって来た。
二人組で、そのうち一人は僕と真澄のことをバカにしていた警察官だった。
真澄は警察官が来るなり、すぐに僕の予想を伝えると、あのバカにしていた警察官が鼻で笑ってから、
「そういう遊びじゃないからな、これは」
と言ったんだけども、すぐさま僕は、
「じゃあ何で僕たちは空き巣に遭っていたおばあさんと一緒にいることができたんですか?」
と言うとその警察官は、
「偶然だろ!」
と一喝した。
でもすぐにもう一人の警察官がその鼻笑い警察官の肩をポンポンと叩きながら、
「そんな偶然ありえないだろ、とにかく何か気になったことがあったら調べる。高校生諸君、ありがとう。ここからは応援の警察に任せていくぞっ」
と言った。もう一人のほうは物分かりが良い警察官で良かったとホッとしていると、その警察官がこちらを見て、
「入る家を間違えてはいけない。君たちも来てくれ」
と言ったので、僕と真澄もついていった。
怪しい老人がいた家を指差すと、警察官の二人はその家を訪ねていった。
遠目から見ていると、その老人は、玄関で警察官と出くわすなり、
「ひぃ!」
と声を上げてから、すぐさま家の中に引っ込んだ。
すると鼻笑い警察官のほうが勢いよく家の中に入っていった。
どうやら予想が当たったみたいだ、と思って胸をなで下ろした。
間違いだったら鼻で笑われ案件だったから。
その後の話によると、空き巣をした実行犯もこの家へやって来ていて、山分けをしていたらしい。
あのおばあさんの盗まれたお金などは使われず回収できて良かったみたいだ。
最後に二人組の警察官からお礼を言われた。
鼻笑い警察官のほうがやけに「信じてたぞ!」「やっぱりそうだと思ったんだ!」とか言っていて、最悪だった。
こういう調子の良い人間ってずっとそうなんだな、と思いつつも、その言葉に真澄は心を躍らせて喜んでいたので、もっと最悪だった。
もう一人の警察官からは、
「私の部下が失礼な態度をとって申し訳無かった。まあ今もだが。さがしもの探偵と言ったな。私は黒岩由梨、何かあったら連絡してほしい。個人的なSNSアカウントはこれ、ゆりっぺだ。まあ本当は何も無ければいいのだがな」
僕は黒岩さんと握手をして、この事件は終わった。
まあ依頼主の観点から言えば、またゆっくり昼寝ができるようになって良かったというところだろうか。いや昼寝て。