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레몬인
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そあち♡໒꒱
88
なんたろ
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「……月収三百万? ふざけんな、お前それ、来年の予定納税額わかってて言ってんのか!?」
VTuber界の口喧嘩コロシアム、『V-Breaking』の決勝戦。
俺の対戦相手は、オーディションで「表へ出ろ」と煽ってきたヤンキー系VTuber、『狂犬のレオン』だった。
同接二十万人を超える大観衆が見守る中、俺は三万円のゲーミングチェアから身を乗り出し、マイクに向かって絶叫していた。
『あぁ!? 予定納税!? なんだよそれ、知らねえよ! 俺は今月もキャバクラで豪遊して、高級時計も一括で買ったんだよ! 俺が最強の勝者なんだよ!!』
画面の向こうで、レオンが勝ち誇ったように笑う。
だが、その言葉は、四十歳の底辺個人事業主である俺の『逆鱗』に完全に触れていた。
「このバカが!! 高級時計!? それ、経費で落とせると思ってんのか! 業務との関連性を税務署にどう説明する気だ!!」
『……えっ? いや、配信の小道具として……』
「通るかそんなもん!! もし否認されたら、重加算税が上乗せされて一発アウトだ!!」
俺はコルセットで固めた腰の痛みを忘れ、血走った目で狂犬を睨みつけた。
「しかもお前、さっきから『暗号資産(仮想通貨)で儲かった』って自慢してたな? 暗号資産の利益は【雑所得】だ! 最高税率は住民税と合わせて55%だぞ!!」
『ご、ごじゅうご……ぱーせんと……?』
レオンのアバターが、ピクリと硬直した。
「そうだ! お前がキャバクラで散財したその金、実は『半分以上が国に納めるべき税金』だったんだよ!!」
俺の放った言葉の刃が、レオンのヤンキーというメッキを無残に剥がしていく。
「お前、確定申告の準備のために現金残してないのか!? 払えなかったらどうなるか教えてやろうか!」
「税務署の徴収官が、お前の銀行口座を強制差し押さえに来るんだよ!!」
「ある日突然、口座残高が『ゼロ』になる恐怖! キャッシュカードがただのプラスチックの板になる絶望!! お前に耐えられるのかァァァ!!」
『ピピーッ!! そこまで!!』
神崎Pの笛が鳴り響き、俺の1分間のターンが終了した。
「はぁっ……はぁっ……! どうだ、これが『大人』だ……ッ!!」
画面の向こうのレオンは、どうなったか。
『うぅ……っ、ぐすっ……。いやだ、いやだぁぁ……っ』
先ほどまで「俺が最強だ」と吠えていた狂犬は、バーチャルの闘技場の中心で、両手で顔を覆って泣きじゃくっていた。
『税金こわい……っ! なんで半分も取られるんだよぉ……! 仮想通貨の税金、そんなに高いなんて知らなかった……っ!』
「おいおい、泣くなよ。自己責任だろ……」
『キャバクラなんか行かなきゃよかった……! 時計、明日メルカリで売る……っ! 怖い、税務署怖いよぉぉ!!』
完全に、ヤンキーのキャラが崩壊していた。
ただの、確定申告の恐ろしさを知らずに調子に乗ってしまった若者が、大人のリアルな言葉の暴力に耐えきれず、幼児退行してしまったのだ。
『wwwwwwww』
『狂犬がチワワになっちゃったww』
『和尚の税金パンチ、メンタル貫通しすぎだろww』
『これはトラウマになるわ』
『子供をいじめるな和尚ww』
『スパチャ:10,000円(レオンくん、これで税理士雇いなさい……)』
チャット欄は、圧倒的な大爆笑と、レオンに対する哀れみのコメントで埋め尽くされた。
『し、勝負あり!! 狂犬レオン選手、戦意喪失により、勝者はルシフェル和尚!!』
神崎Pの絶叫と共に、画面にデカデカと【WINNER ルシフェル】の文字が躍る。
『うおおおおお!!!』
『和尚おめでとう!!』
『最強の論破王(税金)の誕生だ!!』
鳴り止まないファンファーレと、降り注ぐ極彩色のスーパーチャット。
俺は、十万人の歓声の中心で、静かに目を閉じた。
勝った。
四十歳で、帯広の四畳半から配信している底辺のおっさんが、若くてイキのいいVTuberたちを全員なぎ倒し、頂点に立ったのだ。
『ルシフェル様! おめでとうございます! 見事な優勝です!』
神崎Pが、興奮冷めやらぬ声で俺を讃える。
『優勝賞金の【一千万円】は、後日スタプロからルシフェル様の口座へ、ドカンとお振り込みさせていただきます!!』
「……ありがとうございます」
俺は、静かに答えた。
一千万円。
これで、ジェミニ先生が弾き出した「来年の税金一千万円」を、まるまる支払うことができる。
俺のインボイス地獄も、これでようやく一息つける。
そう思っていた、その時だった。
『ルシフェル様。大変申し上げにくいのですが、ただいまの優勝により、経理上の重大な変更が発生いたしました』
ディスコードの裏回線から、アシスタント・結愛(ゆあ)の、氷点下のように冷たい声が響いた。
「ん? なんだ結愛。今、勝利の余韻に浸ってるところなんだけど」
『この優勝賞金の一千万円ですが。当然のことながら、今年の【事業所得】として、ルシフェル様の売上に全額加算されます』
「……えっ?」
『すでに私のグッズ売上で爆増していた売上に、さらに一千万円が乗る形となります。これに伴い、ルシフェル様の今年の課税所得は、確実に最高税率の45%へ到達いたします』
「ま、待て……」
『賞金ですので消費税はかかりませんが、所得税の最高税率適用、および予定納税の激増を加味してジェミニさんの演算モデルを再構築した結果……』
結愛は、一切の感情を交えず、死刑宣告を読み上げるように数値を告げた。
『来年、ルシフェル様が国に納めるべき税金の総額は、約【二千三百万〜二千五百万円】に上方修正されました』
「…………は?」
俺の口から、魂の抜けたような音が漏れた。
『つまり、今回の優勝賞金一千万円を全額納税に回したとしても、まだ【一千五百万】の資金が不足する計算となります。おめでとうございます。事業規模が、また一つ上のステージへ上がりましたね』
「あ……あ、あああ……」
俺は、三万円のゲーミングチェアの上で、ゆっくりと頭を抱えた。
おかしい。
俺は勝ったはずだ。
一千万円を手に入れて、税金の恐怖から解放されるはずだった。
なのに、どうして。
勝てば勝つほど。稼げば稼ぐほど。
俺の首を絞めるロープ(税金)は、太く、頑丈になっていくのだ。
『ルシフェル様? 配信中ですが、フリーズされておられます。コメントへの反応をお願いいたします』
結愛の冷静な声も、もはや俺の耳には届いていなかった。
「払えるかァァァァッ!! 二千五百万なんて、マンション買えるだろォォォ!!」
帯広の四畳半に、優勝者の絶叫が響き渡る。
「なんで俺が勝ったのに! 相手のガキより俺の方が絶望してんだよ!! 所得税の悪魔ぁぁぁ!!」
『wwwwwwww』
『和尚が発狂したwwww』
『賞金もらって税金増えて絶望する優勝者ww』
『これが資本主義のリアル』
『泣きたいのは和尚の方だったww』
VTuber界の口喧嘩コロシアム。
その頂点に立った男は、栄光のスポットライトを浴びながら、来年の確定申告という名の『真のラスボス』の巨大すぎる影に怯え、本気で涙を流していた。
若者の涙を踏み台にして手に入れた、哀しき勝利。
四十歳のおっさんの終わらない税金ランニングマシンは、時速をさらに上げ、絶望の未来へと爆走を続けるのであった。
コメント
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あああっ、第88話読み終えたよ〜!!😭💦 税金パンチで狂犬レオンがチワワになっちゃったシーン、笑いすぎてお腹痛いんだけどwww「税務署怖いよぉ」って幼児退行するレオン君、ある意味かわいそうだけど面白すぎた😂 でも最後のどんでん返しがヤバい!!優勝賞金もらったのに「払えるかァ!」って和尚が絶叫するの、切なすぎる……勝てば勝つほど税金地獄が深くなるの、本当に資本主義のリアルだよね😭💸 「若者の涙と哀しき勝利」ってタイトル回収もエモかった!次回も楽しみにしてるよ〜!!🌸