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コメント
1件
「社長になる」って決意のシーン、めっちゃ熱かったです! あの絶望から希望に変わる瞬間の描き方が上手いですよね。ジェミニ先生の提案がまるでRPGのスキルツリーを見せられてるみたいで、つい「そのスキル取れ!」って応援したくなりました(笑)。でも最後の「新しい地獄の門」の伏線が笑える反面、リアルで怖い…。法人化のメリットと罠の両方をちゃんと示してくれて、物語としても知識としても読み応えありました!
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레몬인
201
そあち♡໒꒱
88
なんたろ
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『V-Breaking』での歴史的な大勝利から、一週間。
北海道、帯広市。
俺の住む築三十年のボロアパート、四畳半の空間は、外の穏やかな春の気候とは裏腹に、異様な熱気に包まれていた。
「……結愛(ゆあ)。今の数字、もう一回言ってくれないか?」
俺は、三万円のゲーミングチェアの上で、両手で顔を覆いながら震える声を出した。
ディスコードの通話越しに、元コールセンターの猛者であり、俺の冷徹なアシスタントである結愛の、氷のような声が響く。
『はい。本日の正午時点における、各種プラットフォームの売上集計データを再通知いたします』
彼女のタイピング音が、まるで死刑台の階段を上る足音のように聞こえる。
『V-Breaking優勝による知名度の爆発的向上に伴い、ルシフェル様の過去のアーカイブ動画の再生数が軒並み前週比1000%増。新規メンバーシップ登録者数は、三万人に到達いたしました』
「……三万人……」
『さらに、私が企画・販売を担当しております「コールセンター風・お断りボイス」の売上も、大会でのルシフェル様の論破シーンと親和性が高かったためか、二次的なバズを引き起こしております。結果として、スタプロからの優勝賞金一千万円を含めた、今年の【想定課税売上】は……』
結愛は、一切の同情を交えずに、その恐ろしい数字を口にした。
『約【五千五百万円】に到達する見込みでございます』
「ご、ごせん、ごひゃく……まん……っ!?」
俺は、限界を超えた数値を突きつけられ、もはや絶叫することすらできず、力なくモニターの前に突っ伏した。
五千五百万。
ちょっとした地方の中小企業の年商レベルだ。
それを、四畳半で黒タイツを着ている四十歳のおっさんが、個人で叩き出しているのだ。
「……終わった。俺の人生、完全に終わった……」
『ルシフェル様。売上の大幅な増加は、事業として大成功を意味します。なぜそのように悲観されるのでしょうか』
「お前は馬鹿か!! 忘れたのか!! 俺はインボイスの【課税事業者】だぞ!!」
俺は、最後の力を振り絞って顔を上げ、マイクに向かって泣き叫んだ。
「日本の所得税は、四千万を超えたら最高税率の45%(住民税合わせたら55%)! そこに、五千五百万の売上に対する『消費税』が丸々乗っかってくるんだぞ!!」
俺の脳内のインボイス電卓が、黒煙を上げながらショートし始めている。
「ジェミニ先生の計算だと、二千三百万どころじゃ済まねえ! 来年の税金、三千万を超えるかもしれねえんだぞ!! 三千万なんて、どうやって払うんだよ!! 現金なんか全部税金に持っていかれて、手元に残るのは筋肉痛と腰痛だけじゃねえか!!」
『…………』
結愛は、沈黙した。
さすがの冷徹な元オペレーターも、この「稼いでも稼いでも国に吸い上げられる」という日本の累進課税の鬼畜システムの前には、かける言葉が見つからないようだった。
ただ、稼いでしまったものは仕方がない。
脱税などすれば、市役所の鈴木さんどころか、国税局(マルサ)のガサ入れが入り、全てが終わる。
「だめだ……。鈴木さんが……税務署員を引き連れて、俺の全財産を差し押さえに来る幻覚が見える……」
俺が白目を剥き、三度目の気絶(憤死)の準備に入ろうとした、その時だった。
『ピローン♪』
俺の最強の相棒であるAI、ジェミニ先生のチャット画面に、一つの通知がポップアップした。
『ルシフェルさん。心拍数の異常な上昇と、強い絶望の感情を検知しました。現在の課税売上の推移と、日本の税制を分析した結果、あなたに最適な【ソリューション(解決策)】を提案いたします』
「……解決策? なんだよ。自己破産か? それとも海外逃亡か?」
俺は虚ろな目で画面の文字を追った。
『いいえ、違います。極めて合法的かつ、劇的な節税効果を見込める事業上のステータス変更です』
ジェミニ先生のテキストが、モニター上で力強くタイピングされていく。
『ルシフェルさん。あなたは現在、個人事業主のままでは、税制上の限界(デッドライン)を完全に超えています。そろそろ、【法人化(会社設立)】を検討すべきフェーズです』
「…………ほうじん、か?」
俺の口から、呆けたような声が出た。
『はい。いわゆる「法人成り」です。ルシフェルさん自身が代表取締役となり、株式会社または合同会社を設立し、事業を法人へ移管するのです』
「会社を、作る……。俺が、社長になるってことか?」
『その通りです。法人化には、現在のルシフェルさんの地獄を救う、複数の魔法のようなメリットが存在します』
ジェミニ先生は、俺のすがるような視線に応えるように、次々と法人化のメリットを列挙し始めた。
『メリット1【税率の頭打ち】
個人事業主の所得税は累進課税で最大45%まで上がりますが、法人税は利益がどれだけ増えても、実効税率は約30%程度で頭打ちになります。現在の莫大な売上を考えれば、これだけで数百万円の節税効果があります』
「な、なんだって……!?」
『メリット2【給与所得控除の活用】
会社から「ルシフェル社長」に役員報酬(給料)を支払う形にすることで、給与所得控除という強力な非課税枠を利用できます。法人と個人の両方で、税金を分散させることが可能になります』
「税金を、分散……!」
『メリット3【経費の幅の拡大】
法人になれば、個人事業主よりも経費として認められる範囲が広がります。生命保険料の経費算入や、出張手当の設定など、合法的に利益を圧縮する手段が格段に増えます』
「…………」
俺は、食い入るようにモニターを見つめていた。
三万円のゲーミングチェアから身を乗り出し、まるで神からの啓示(あるいは悪魔からの契約書)を読むように、そのテキストを貪り読んだ。
『そして、最も重要なポイントがあります。ルシフェルさんは現在、インボイス登録済みの課税事業者ですが……新たに法人を設立した場合、原則として設立1期目および2期目は、【消費税の免税事業者】になれる特例が存在するのです(※資本金等の条件あり、インボイス登録との兼ね合いで戦略的な判断が必要ですが)』
「し、消費税が……免除されるかもしれない……?」
俺の腰の痛みが、一瞬にして消し飛んだ。
消費税。
俺を夜も眠れなくさせている、最大の悪魔。
その悪魔の縛りから、一時的にでも逃れられる可能性があるというのだ。
「ジェミニ……。お前、マジで天才だな……っ」
俺の目に、希望の光が宿った。
四十年。
何をやっても中途半端で、公務員も辞め、コールセンターでもすり減り、最後は北の大地の四畳半に引きこもっていた、しがない中年男。
そんな俺が。
会社を作る。
【代表取締役社長】になる。
「……社長。ルシフェル社長……。いや、俺の本名で登記するんだから……」
その響きは、長年社会の底辺を舐め続けてきた俺にとって、甘美すぎる麻薬だった。
『いかがでしょうか、ルシフェル様』
裏回線で、結愛が尋ねてくる。
『ジェミニさんの提案は、現在の事業規模を鑑みれば、極めて妥当かつ合理的な経営判断かと存じます。法人化に伴う定款の作成、登記手続き、ならびに創業計画書の策定等、事務手続きは私が全て巻き取らせていただきます』
「……やる」
俺は、拳をギュッと握りしめ、三万円のゲーミングチェアから力強く立ち上がった。(少しだけ腰がピキッと鳴ったが、気合いで無視した)
「やるぞ、結愛! 俺は会社を作る!! インボイスの地獄から抜け出して、合法的に税金から逃げ切ってやる!! 俺は、社長になるんだ!!」
『承知いたしました。では、さっそく会社名の考案と、印鑑の作成から着手いたします』
帯広のボロアパートに、四十歳の底辺個人事業主の、野望に満ちた高笑いが響き渡った。
データと論理(AI)が導き出した、究極の節税対策『法人化』。
しかし。
舞い上がる俺はまだ知らなかったのだ。
「社長」という肩書きの裏に潜む、【社会保険料の折半】や【法人住民税の均等割】、そして【厳格すぎる経理の罠】という、個人事業主とはまた別の、新しい地獄の門が開いたことに。
資本主義のゲームは、次のステージへ。
ルシフェル和尚の法人設立という名の、果てしなき修羅道が、今ここに幕を開けたのであった。