「…イジられるの、疲れちゃった」
今までは馬鹿にされる程度。でももう限界なんだ。
毎日続くギャグ、それが面白くなければ食事は無し。
どうせ死ぬんだからこんな感情抱いても意味ないんだ。そう、どうせ死んだら感情なんて消え去るんだから。こんなの持ってても意味なんで微塵もない。
なかなか寝付けず、硬く磨かれた石の上で自分を抱え込む。
静かで、誰も来なくて。安心する。
今は誰もきてほしくない。何もしたくない。
何もしなくてもいい時間に浸かっていたい。
そんな願いも虚しく、1人の人影が薄く灯るランタンに照らされた。その声が呼ぶ者は?
「おい、しんどうじ。まだ起きてるか?」
俺だ。
何か問題でも起こしただろうか?それとも、連帯責任と言って何か罰を受けるのだろうか?
「…起きてますけど…」
少し冷たく、いつもとは違うような声色で声を返す。看守にするべき対応ではないだろうけど、今は1人になりたいんだ。
「ちょっときてくれないか。」
「…はぁ…わかりました。」
一つため息をこぼし、仕方なく返事をした。
目を軽く擦りながら看守についていく。
看守棟に着くと、小さな部屋に連れてかれた。
机に向かい合った椅子がしまってある。
看守に座るように言われ、腰を下ろす。
看守も向かい合わせで座ると、口を開いた。
なんだ?何を言われる?
「お前、最近おかしいぞ。」
「…えっ? 」
バレているのか?俺が最近疲れている事に?
いいや。もしかしたら、怪しい行動が多いことかもしれない。
「それは、何か怪しい行動が多いからとかですか?」
「いいや、脱獄とかではないんだ。最近、お前がおかしいんだよ。腕、見せてくれるか?」
「っ…なんでですか?別に何もないんで見なくてもいいじゃないですか。」
「何もないなら、見せられるんじゃないのか。」
「…」
黙り込む俺の腕を掴み、袖を捲る。
袖の下は包帯が巻かれている。
「これ、なんだ?」
看守が聞いてくる。まだこれを見られただけだ。誤魔化して仕舞えばこちらのもんだ。
「この前怪我しちゃって…医務室の人に直してもらいました。」
「医務官、こんな汚く巻かないぞ。」
「…ちょっと、外しちゃって。」
「嘘つくな。」
「っ…」
通じなかった。これ以上できる抵抗は…
「…っ!」
「あっ!?おいっ!」
部屋を飛び出し、刑務所中を駆け回る。
普段から探索に刑務作業だってしてるんだ。体力には自信がある。
「おいっ!!」
「っ!」
足がもつれて体が前に倒れ込んだ。
看守は馬乗りになって逃げることが出来ない。
「別に、何もないなら見せられるだろう?」
「…見せられません。」
「なんでだ?」
「言えません。」
「じゃあ無理矢理見るしかないなっ!」
包帯がぐしゃぐしゃに解かれる。
包帯から見えるのは、無数の切り傷と赤黒く固まった血の跡だった。
「やっぱりか。」
看守は見透かしていたかのような言葉をこぼす。バレていたのか。
「刃物はどこだ?」
「…ポケットの中です。」
「これは没収だ。お前は少しの間、あの部屋で過ごしてもらう事にする。」
「…なんでですか。これ以外何もないんですけど。」
「お前は一度休め。な?大丈夫だ。そんなお前が休んでる間に2人を処刑するなんて事ないから。」
看守は少し冗談混じりに笑う。
「…わかりました。」
仕方なく頷き、部屋へ戻る。
独房よりはマシだ。
「それじゃあ、しっかり眠るんだぞ。」
「はい、おやすみなさい。」
電気を消し、ベットに入る。
天井を見つめながら思考を巡らせる。
看守は気づいていたのか。でも、俺が何に苦しんでるのかはわからないだろうな。
でも、優しくしてもらうの…嬉しかったな。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!