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Love Potion

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Love Potion

1 - プロローグ ~魔法のカクテル~

♥

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2024年06月04日

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住宅街から少し離れた、築数十年は経過していると見られる木造の二階建てアパート。部屋数は六戸。

私は慣れた様子で二階へと続く階段を登り、202号室のインターホンを鳴らす。


<ピンポーン>


インターホンの音だけが響き、中の住人の声は聞こえて来ない。


<トントントン>


ノックをする。


「居るんでしょ。開けて」


私がそう声をかけると、ゆっくりとドアが開いた。

「お疲れ様」

一言だけ発し、彼は部屋の中へ戻って行く。私も彼の後を追う。

六畳一間のワンルームには似合わない大きなベッド。

部屋の中は相変わらず物が散乱していた。


汚い。

でも私には関係ないと割り切ることにしている。


私は

「さぁ、始めましょう?」

平然を装い、そう彼に伝えた。


本当はドキドキしてるなんて口が裂けても言えない。

自分からブラウスのボタンを外し、その場にポスっとブラウスを置く。

次にスカートを脱いだ。


「どうした?今日は積極的だな」


下着姿の私を嘲笑うかのように彼はフッと笑った。

ライトブラウンの少し長めの髪の毛、大きな瞳なのにどこか鋭い目、鼻筋はスーと通っている。いわゆる容姿端麗。

ベッドの上で胡坐をかいている彼に私は目を向ける。


「勘違いしないで。早く終わらせたいだけだから」


そう伝え、彼に近づき、自分から唇を重ねた。

部屋の中にリップ音が響く。

「んっ……」

舌を入れられて、思わず吐息が漏れてしまった。


どうしていつもこうなっちゃうんだろう。

この人に屈したくはないのに。


ベッドに押し倒され、キスされながら下着を脱がされる。

抵抗はできない。

「んん……あ……」

耳朶をカプっと噛まれ、感じたくはないのに身体が反応している。


こんな自分が恥ずかしく、悔しい。


「身体は素直だな。《《美月》》?」

私を上から見下し、そう言って彼は笑う。


「そんなことない!」

悔しくて言い返したが、彼が私の身体に触れる度に自分じゃなくなっていく。


あぁ。こんなことならあの日、出かけなきゃ良かった。

そうしたらこの人と出逢うこともなく、こんな契約も結ばなくて良かったのに――。





私、九条美月くじょうみつき は、周りの人間から見ると幸せで羨ましいと疎まれる環境で生活をしている。

私は専業主婦で、夫である九条孝介くじょうこうすけは三つ年上の三十一歳。

次期、大手電気メーカーの社長に就任予定だ。


なぜその若さで何千人もの社員がいる企業の社長になれるのか……。

それは簡単な理由で、夫の父親が現在の社長だから。

付き合った当初は<親の敷いたレールだから。自分じゃ何も出来ていないから恥ずかしいよ>なんて謙遜したことを言っていたけれど。

今じゃその親の敷いたレールを上手く利用して、何不自由ない生活を送っている。


結婚してニ年が過ぎ<そろそろ孫の顔が見たい……>なんて姑に会うたびにせがまれる。だけど「子どもができる」そんな気配は全くない。

それは既に私たちが仮面夫婦だから。


「今日から二泊三日の出張に行ってくる。ご飯はこれで食べて」

玄関先まで見送った時、唐突に孝介から言われた。

「えっ?今日から?急だね」

昨日帰ってきた時は何も言っていなかったのに。

そしてご飯代として渡されたお金が千円札一枚だった。


「忙しいんだよ。帰ってくるのも遅くなるから。三日後の夕ご飯もいらない」


三日間、朝昼晩の食事を千円で過ごせと言うの。

自分は出張という名の接待か何かで、豪遊してくるくせに。


金銭管理は孝介が全て行っている。

冷蔵庫もほとんど何も入っていない。

それは食材については、孝介が雇った家政婦さんが全て管理しているから。


千円でも贅沢ができるかもしれない。

けれど、自分孝介は贅沢しているクセに、思いやりが全く感じられない金額に心の中で苛立ちを覚えた。


「三日分の洋服とかは?大丈夫なの?」


二泊三日の出張であるのに、荷物が少ない。

彼は、薄めのビジネスバッグ一つしか持っていなかった。


「ああ。母さんに用意してもらってる。出張前、父さんに挨拶してから行くから。そのついでに荷物を持って行くつもり」


実家に帰らなくても、孝介の着替えとかたくさんあるのに。キャリーバッグだって。

自分で準備をするのが面倒だったら、私に言ってくれれば良いのに。

わざわざ実家に寄って行くって、出張がお義父さんと一緒ならわかるけど……。


不自然な感覚を覚えながら追究はしなかった。


結婚する前はあんなに優しかった孝介。

結婚してから数カ月で変わってしまった。

というか、もともとこんな性格だったのかもしれない。

思い通りにいかないと怒りっぽいし、自分が一番みたいなところがあることを結婚後に知った。


「わかりました。気を付けて。行ってらっしゃい。お義父さんやお義母さんにもよろしくお伝えください」


私の声かけには全く反応なし。無言でドアを締められた。

いつまで続くんだろう、この生活。


孝介が出かけた後、洗濯をして、掃除をする。

孝介が帰ってくる時は、家政婦さんを雇っている。

「私がやるよ?専業主婦だし」

結婚当初、そう彼に伝えても

「いいよ。ずっとお世話になっている家政婦さんだから。美月がこの家に馴染めるまで、彼女にやってもらう」

言い切られてしまった。


孝介がいない時は家政婦さんも来ないから、家事全般は自分でやるしかない。やるしかない……。というか、家事ができて嬉しい。

本当は料理を作るのが好きだし、洗濯や掃除も小さい頃から手伝っていたせいか、苦だと感じたことはない。


洗濯をしようと、昨日孝介が着ていたワイシャツを手にする。

あれっ?なにこのキツイ匂い。香水の匂いがする。

はぁと溜め息をつき、私はスーツのポケットに手を入れた。


「やっぱり……」

思わず口に出してしまったのは、キャバクラの名刺が出てきたからだ。


これは一度や二度ではない。

だから、ワイシャツの匂いが違った時点で予測できた。

新婚の頃も同じように名刺が出てきて……。


孝介に詰め寄ったら

「男は付き合いで行かなきゃいけない時があるんだよ。理解しろよ」

そう怒鳴られた。


今更驚かないけど、こんなに頻繁に行くんだ。

何万円もするお酒を飲んで、綺麗な女の子と楽しくお話をして……。チヤホヤされて……。

気分転換って言うのかな。羨ましいよ。

私だってたまには外食くらいしたい。


孝介と結婚してから、理想の妻になるべくいろんなことを制限された。


五枚ほどあったキャバクラの名刺を握りつぶし、ゴミ箱へ捨てた。



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