「先生……」
ひしひしと伝わってくる悲哀の深さに、思わず呼びかける。
「……昔から、ずっとそうだったんです……。……私の家では、母も、そして既に亡くなった祖父までもが、医師の家系を継ぐために、いずれは医学部へ進むことを強要するばかりで、
代々医者であった祖先に報いるよう、政宗家の名前に傷を付けないようにと、私はそればかりを言い聞かされて……挙句には、
将来の邪魔にならないようにと、交友関係までも、祖父や母から、ことごとく制限をされて……」
彼はメガネを外すと、耐えがたい悲しみに歪んだ顔を両手で覆い隠した。
「……家では得られなかった愛情を、私に与えようとしてくれたのが、父ただ一人だったんです……」
顔を覆う手の間からは、喋る彼の口元だけが見えていた。
「……外から婿養子として入った父だけが、私に優しく接してくれて、家の厳しさから護ろうとしてくれていました……。
……だから、いつも何かことあるごとに、私は父に頼って、そうして導いてもらってきたんです……なのに、その父が突然に……」
覆われた彼の手の隙間から、涙が頬をつたい流れ落ちた。
「……あの父がいなくなることなど、私には、到底信じられない……」
日常の業務で、被り直していたはずの医師の仮面が、剥がれ落ちていくのを感じた。
「先生……」
もう一度呼びかけ、そのそばへ寄り添う。ただ放っておくようなこともできなくてという、その一心だった。
「泣かないで……」
顔を覆っている手に、そっと自分の手の平を当てがうと、彼はビクンと肩を打ち震わせた。
コメント
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辛い幼少期を過ごして来たんですね。友達まで制限されるなんて人生つまらないよね。 守ってくれていたお父様が亡くなってしまったら、彼の心が壊れちゃわないか心配💧