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 ――平日、快晴の午前。
半休で午前仕事を終えたみことは、久しぶりに街中をぶらぶら歩いていた。なんとなく寄ったファッションビルの2階、ふと目に入ったショップに吸い寄せられるように入る。
 「……いらっしゃいませー!って、あれ、みこと?」
 明るい声に顔を向けると、そこには笑顔のいるまが立っていた。アパレルに就職したと聞いてはいたが、実際に接客中の姿を見るのは初めてだった。
 「えっ、いるまくん!? ここで働いてるの?」
 「おう、たまたま今日午前上がりなんだよな。なつとどっか行こうぜ」
 そこへ、「ごめん、お待たせ」と現れたのは、いるまの恋人・ひまなつ。
3人での再会に「奇跡じゃん!」と笑いながら、近くのベンチへ移動する。
 みことはぽつりと話し始めた。
 「最近、すちにいろいろもらってばかりでさ……なんか、俺からもプレゼントしたいなって思って……」
 「ええ、めっちゃえらいじゃん!」とひまなつが小さく拍手しながら微笑む。
 いるまは、ふむ、と考え込んだあと、
 「みことさ、すちとお揃いとか好き?」
 「うん……俺は嬉しい。すちも、結構そういうの大事にしてくれるし」
 「じゃあさ、キーケースとかどう?さりげなくお揃いできるし、いつも持ち歩くものだから、実用性もある」
 「服もいいかもね。いるまの店のアイテムなら、似合いそうなのたくさんあるし」
 「ペアルックまではいかなくても、色味とかリンクさせるだけでも可愛いよ」とひまなつが続ける。
 みことは小さく頷きながら、だんだんと表情がほころんでいく。
 「……うん、いいかも。キーケースと、服。セットでプレゼントしたら喜んでくれるかな」
 「絶対喜ぶって!」
「ていうか、そういう“してあげたい”って思ってる時点でもう愛じゃんね」と、いるまとひまなつが頷き合う。
 みことは少し照れながら笑って、
 「ありがとう。……今日はいい日だなあ」
 そう言って、キラキラした目で再びショップへ戻っていった。
大切な人への“贈りたい気持ち”を胸に抱いて。
 
 
 ショップに戻った3人。
みことは少し緊張した面持ちで並ぶアイテムを眺める。
 「すちって、どんな色が好き?」
いるまがラックにかかる服を見ながら問いかけると、みことは「んー……落ち着いた色?黒とかネイビー、ベージュも着るかも」と答える。
 「じゃあ、これどう?」と、いるまが差し出したのは、シンプルだけどシルエットの綺麗なリネンシャツ。みことが手にとって広げてみると、色違いでペアっぽくもできそうなデザインだった。
 「みことはアイボリーとか似合いそう」とひまなつが言うと、みことは頬を染めながら「そ、そうかな……」と口ごもる。
 いるまは微笑みながら、「んで、こっちがペアになりそうなシャツ。生地が柔らかくて涼しいし、夏にもぴったりじゃん」とすすめる。
 「ほんとだ……あ、袖のボタンとか、さりげないけど同じデザインだ……!」
 
 シャツが決まると、次はキーケース売り場へ。
シンプルなレザーのケースが並ぶコーナーで、3人はそれぞれ手に取って試す。
 「みことはどっちのタイプが好き?2つ折りのキーケースと、ファスナー付きのキーリング型」
「んー、すちは実用派だからキーリング型の方が使いやすいかなぁ……俺はこっちの方が見た目好きだけど……」
 すると、ひまなつが「あっ、これ見て。色違いで揃えられるし、裏側にイニシャル刻印もできるって!」とカードを手に取る。
 「……イニシャルかぁ……」
みことは、少し照れくさそうに微笑んで、「じゃあ、“M”と“S”にしてもらおうかな」とぽつり。
 「決まりだな!」と2人が声を揃える。
 
 レジで会計を済ませた後、紙袋を抱えたみことは幸せそうに笑う。
 「……なんか、自分からプレゼント選ぶのって照れるけど、楽しいんだね」
「だろ!あとは渡す時のリアクションが楽しみだよな〜」と、ひまなつ。
 いるまは「すち、絶対喜ぶよ。良い夏になるな、みこと」と言った。
 その言葉に、みことはほんの少し胸を張って、
「……うん、俺も、すちに喜んでもらえるように頑張る」と、静かに決意をにじませた。
 
 ___
 
 
 キーケースと服を買い終えたあと、カフェに立ち寄った3人。
みことが選んだペアアイテムを袋の中からチラッと見つめていると、正面に座っていたひまなつがニヤリと笑って、
 「ていうかさ〜、渡すときに『おれのこと、食べて?』って言ってみたら?」
 と突然、爆弾発言。
みことは耳まで真っ赤になり、テーブルを思わずトンッと叩いた。
 「な、なに言ってんの!?言えるわけないでしょ!?!?」
 「えー、絶対かわいいと思うけどな〜!なぁ、いるま?」
 
 「……なつがそれ言ったら、すぐ食べるけどな」
 不敵に笑いながらいるまがそう呟き、隣のひまなつの顎を軽く持ち上げる。
「ちょ、ちょっと!?今ここ──」と言いかけたひまなつの言葉ごと、柔らかく唇を重ねた。
 みことは、目をまんまるにして固まる。
 目の前で繰り広げられる堂々とした愛情表現に、ただでさえ赤かった顔がさらに赤く染まり、思わず両手で自分の頬を隠す。
 「い、いるまくん!?なっちゃん!?ひ、人前だよっ……!」
 ひまなつはキスの後、ぽかぽかといるまの肩を叩いて抗議していたが、当の本人はどこ吹く風。
「見せつけたかったんだから仕方ない」
「ば、ばか……!」
 その様子を横目に、みことはおずおずとすちとのことを思い返す。
 
 ひまなつは肩をすくめながら、
「でもさ、甘えたみことなら、ちょっとくらい大胆でもいいと思うんだけどな」
 「む、無理……!そ、それなら普通に渡すし……!」
「普通ってどんな感じで渡すの?」
「え……『いつもありがとう。使ってくれたら嬉しいな』とか……」
 「それ、顔真っ赤で言うでしょ?」
「……言うかも……」
 からかわれっぱなしのみことだったけれど、プレゼントのことを思い出すと自然と笑顔になる。
 (“おれのこと食べて?”なんて、ぜったい言えない……けど──)
 すちの笑う顔を想像したら、ちょっとだけ勇気が湧いてきた。
「……いつか、タイミングがあれば……」と、小さな声で呟いたことは、
ふたりには聞こえていなかった──たぶん。
 
 
 みことが口元にストローを当てながら、さっきのキスシーンの衝撃をまだ引きずっていると──
今度はいるまが興味深そうに身を乗り出して聞いてきた。
 「でさ、すちって──みことの前だとどうなんの?あいつ、俺らの前じゃ感情の起伏がないけど」
 その言葉に、みことの手がぴたりと止まり、ストローの音がふっと消える。
思わず目線を泳がせながら、
 「えっ……ど、どうって……」
 みことの頬がじわりと赤くなっていく。
いるまは肘をテーブルにつきながら口角を上げて、
 「めっちゃ甘くなったり?赤ちゃん言葉になったり?」
 「ならないよ!?ならないけど……」
 「じゃあ、どんな感じなん?」
 思いきり茶化すような口調のいるま。でもどこか、本当で気になってる様子だった。
 みことは一瞬迷ったあと、テーブルに視線を落としたまま、
小さな声でぽつりとつぶやいた。
 「……なんでもしてくれる、かな。たぶん、全部……叶えてくれようとしてるっていうか……」
 その言葉に、一瞬だけ、からかいの空気がぴたりと止まった。
ひまなつが「……それ、すちガチじゃん」とぽつり。
いるまも「……まじのやつだ」と頷く。
 照れて俯いたままのみことに、ひまなつがにやにやしながら、
「……良いじゃん」と素直に漏らすと、
 「そういうすちが“みことの前でだけ”ってのが、またいいよな」
 と、いるまも優しい目で呟いた。
 みことはまだ顔を赤くしたまま、だけど──
どこか誇らしげに、ふっと笑っていた。
 
 
 
 「でさ……」
ひまなつが唐突に言った。
 「──ぶっちゃけ、どこまでいってんの?」
 その言葉に、みことはむせそうになってカップを置きかけ、咳き込んだ。
「えっ……っな……なにを……」
 「なにをって、そりゃ“すちと”に決まってんじゃん」
 にやにや笑いながら、ひまなつはストローをくるくると指で回す。
「なんかもう、ぜったい一線超えてそうな空気なんだもん、みことってば」
 いるまも興味ありげにみことを見やる。
「ていうか、甘やかされてんのに何もないってほうが無理じゃね?」
 みことは両手で頬を覆いながら、耐えきれないように小声で、
 「……っもう、なんでそういうこと聞くの……」
 「やっぱしてるんだー」
「してるだろ、あれでしてないほうが逆に怖い」
 「ちょ、してるとか言ってないっ……!」
「言ってないけど、否定もしてない〜」
 ひまなつといるまが、まるでからかう兄のように笑いながら突っ込んでくる。
 「でもさ、なんか……みことって、恋してるって顔してるよね」
と、ふと真顔で言ったひまなつに、場の空気がやわらかくなる。
 「ね、それに、すちのことになるとちゃんと目が本気っぽい」
いるまも同意するように頷く。
 みことはうつむいたまま、小さな声でつぶやいた。
 「……そんなに顔に出てる……?」
 「出まくってる」
「デレデレだわ」
 言われれば言われるほど顔が熱くなる。
それでも、そんな風に自分とすちの関係が見えてるのは──
 悪くない気もしていた。
 
 
 「で、具体的にどんな風にされてるの?」
じっとみことの表情を待ちながら、ちょっとからかうような声で問いかける。
 みことは一瞬ためらいながらも、ぽっと頬を赤らめて小声で答える。
 「えっと……すちは、すごく優しくて……でも時々、すごく激しくて……」
少し言葉を選びながら続ける。
 「抱きしめられたり、キスされたり……それから、甘やかしてくれる…」
小さな吐息が漏れる。
 ひまなつはニヤリと笑い、さらに突っ込む。
 「激しくって、どんな感じ?」
声に少し挑発的なニュアンスを込めて。
 みことは視線を伏せて、照れくさそうに答える。
 「うーん……その……たくさんキスされて、体の中まで熱くされる感じ……」
「…すちのことばっかり考えちゃう」
 いるまも興味深そうに首をかしげて、笑いながら言う。
 「みこと、完全にメロメロじゃん。」
 みことは小さく笑いながら、二人の視線を避けていた。
 
 「そんで、みことはどうなっちゃうの?」
 ひまなつの鋭い質問にみことは一瞬言葉を詰まらせる。頬がさらに赤く染まり、目をそらしながらも小さな声で答える。
 「わかんないけど…なんだか、すちに触れられると、体が勝手に反応しちゃって…自分でもどうしたらいいのか分からなくなるんだ」
 ひまなつはニヤリと笑いながら、からかうように続ける。
 「つまり、みこちゃんはすちの前じゃもう自分じゃいられないってこと?完全にメロメロになってるってわけだ」
 みことは小さくうなずきながらも、恥ずかしそうに目を伏せる。
 「そうかも…でも、それが嫌じゃない。むしろ…すちのことをもっと知りたくなるし、離れたくなくなっちゃう」
 いるまも優しく言った。
 「それって、すごくいいことだな。好きな奴の前で素直になれるって、一番幸せなことだよ」
 みことは少し安心したように、二人の言葉を受け止めていた。
 
 ___
 
 
 「なっちゃんはいるまくんと、する、時…どんな感じなの…?」
 みことの純粋な質問に、ひまなつは少し顔を赤らめながら俯く。
 「いるまとする時…どうなっちゃうかって?」
 照れ隠しに笑いながら、手で髪をかき上げ、
 「べ、別に…俺のことはいいんだよ、みことには言わなくて…」
 と言いながらも、どこか嬉しそうな表情を見せる。
 いるまはそれを見てにやりと笑い、
 「なつ、照れてんの?そういうとこも可愛いよな」
 と、軽くからかう。
 みことはそんな2人のやり取りに微笑みつつも、
 「でも、なんだか楽しそうでいいなぁ…」
 と少し羨ましそうに思った。
 
 
 
 夕暮れ時、駅前で軽く手を振りながら、みことはにこっと笑ってふたりにお礼を伝えた。
 「今日はほんとありがとう。選ぶの手伝ってもらえて助かった」
 「いいってことよ〜!お揃い、絶対喜ぶって!」
ひまなつはサムズアップをしながら笑い、いるまも隣で穏やかに頷いた。
 「また近いうちに集まろうよ。次はこさめとらんも一緒に。6人で」
 「いいね、賑やかになりそう」
「楽しみにしてる!」
 笑顔で別れを告げ、それぞれの帰路へ。
 みことは紙袋を抱えながら、帰り道の足取りがどこか軽かった。
今日選んだ服とキーケース――それを旅行中に渡そうと、そっと心に決める。
“喜んでくれるかな…”
そんな想像だけで胸が少し熱くなる。
 沖縄の青空の下で、すちの驚いた顔を見るのが、今から待ち遠しかった。
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