ここは西洋、森に囲まれた木造の豪邸
僕と母、そして父の三人で暮らしていた
「フリア〜、早く寝なさ〜い!」
「まだ眠くないよ…」
「そーんなこと言って夜更かししてたら、吸血鬼にがぶぅ!って血を吸われちゃうぞぉ!」
「そんなのいないもん!」
「そんなこと言って、ほんとは怖がってるくせに〜」
「そんなことないし!」
母と暮らす日々は楽しかった
くだらないことで笑い、怒り、喧嘩し、また教わり、考え、共に悩む
辛い時はいつも僕と母で支え合っていた
一方、父はあまり僕とは関わらず、仕事から帰って寝てくるだけのほぼ「同居人」みたいな存在だった
休みの日も顔を合わせず、部屋に篭りっきり
何かこちら側から関わろうとしてもそれが続くことはなく、結局接点がないままだった
母と僕の二人暮らしのように感じられるこの生活は幸せだった
でもそれ以上に…
静寂に包まれた空間のなか、遠くの方から、壁の向こうから女性の泣く声が聞こえる
「またか…」
フリアはため息と共にその声の元へ向かう
「母さん…」
灯ひとつ付けずただ一人、母は泣いていた
「大丈夫…大丈夫…」
フリアは啜り泣く母を腕いっぱいに抱きしめ、ただただ声をかけ続けていた
数十年前からだそうだ
母は心に病を負っていた
結婚当初の父親の不貞行為をきっかけに発症し、その症状は年々悪化しているそうだ
以前の幼い僕にはそのことがわからなかった
いかに父が母に酷いことをしたかを
しかし年齢が上がるにつれて
僕は「理解」してしまった
とても辛かった 年齢を増すことを恨んだ
理解しなければ、もう少し自分の頭があっぱらぱーでもっとアイマイでぼやけた世界に生きたかった
「世界が変われば…」
ある程度の年齢になった時、僕の家庭はほぼ壊滅状態にあった
相変わらず僕らに関心を持たない父
父の言い分は「金を稼げば子育ての上で父親としての役目は終えている」だそうだ
ふざけるな もっと話して、もっと遊んで、喧嘩して、学んで、そして
あんたの背中を「憧れ」として見たかった
母の精神面での介助は今は全部私がやっている
精神とはとても難しい 不安定なときにはちょっとしたことで崩れる
何もなく泣いて、母であることも忘れるかのように暴れ…
全部、お前のせいなのにな 父さん
少年は常に疑問に思っていた
なぜ自分が彼の尻拭いをしなければならないのか
母を救えぬまま、日々は過ぎ、日に日に過去を理解していく
彼にとって日が進むことが苦痛でしかなかった
腹の底で渦を巻き、一生消えることのない底なしの怒り、憎しみ、恨み…
それさえも彼にとっては苦痛だった
そしてとうとう限界を迎えた彼は
「もう終わらそう」
ナイフを力強く握りしめケツイした
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