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#ふかこじ
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その日の夜。
康二が仕事を終えて帰宅すると、スマホが震えた。
翔太:今日、ありがとう
康二:こちらこそ。撮影お疲れさま
少しして、翔太から返信が来る。
翔太:ねえ
康二:ん?
翔太:今から電話していい?
康二は画面を見つめた。
電話。
メッセージとは違う。
声を直接聞く。
それだけなのに、少し緊張する。
康二:ええよ
送った直後、着信が鳴った。
「……もしもし?」
『もしもし』
翔太の声。
テレビで聞く声より、ずっと近く感じる。
「なんか変な感じやな」
『俺も』
「何話す?」
『……何でもいい』
「何でもって一番困るやつやん笑」
『じゃあ、今日何してた?』
「ずっと仕事」
『それは知ってる笑』
二人で笑う。
それから、本当にどうでもいい話をした。
最近見た映画。
コンビニで買った新作スイーツ。
翔太の仕事の話。
康二の仕事の話。
気づけば、一時間以上経っていた。
『……もうこんな時間か』
「ほんまや」
『早いな』
「うん」
少し沈黙。
電話を切るタイミングを探しているのに、どちらも「じゃあね」と言わない。
『……康二』
「ん?」
『俺さ』
翔太の声が少しだけ低くなる。
『康二と話すの、好きかも』
心臓が跳ねた。
「……急に何なん笑」
『いや、なんとなく』
「……俺も、好きやで」
言ってから、康二は固まった。
(……今の、言い方……)
『……え?』
「いや、違っ……」
『康二、今なんて言った?』
「聞こえてたやろ!」
『もう一回聞きたい』
「嫌や笑」
『お願い』
「絶対嫌!」
電話の向こうから、翔太の笑い声が聞こえる。
『……かわいいな』
「……っ」
一瞬、言葉が出なくなった。
『あ、ごめん』
「……ほんま、そういうのずるい」
『何が?』
「知らん」
康二は顔を隠した。
電話なのに。
翔太には見えていないはずなのに。
それでも、恥ずかしかった。
*
数日後。
二人はまた会うことになった。
今度は、翔太が見つけた小さな本屋だった。
「ここ、好きなん?」
「うん。静かだから」
二人で店内を歩く。
並んで本を見ていると、翔太が一冊の本を手に取った。
「康二、これ好きそう」
「なんで分かるん?」
「なんとなく」
「なんとなくって笑」
康二が本を受け取ろうとした、そのとき。
翔太の手と、康二の手が重なった。
二人とも止まる。
ほんの一瞬。
でも、離れるタイミングを失った。
「……」
「……」
先に翔が手を引いた。
「ごめん」
「ううん……」
少し気まずい。
でも、嫌ではなかった。
むしろ――
もう少し、そのままでもよかった。
そんなことを考えてしまった自分に、康二は驚いた。
店を出る。
夕方の街を二人で歩く。
しばらく無言だったが、翔太がぽつりと言った。
「……俺たちってさ」
「うん?」
「今、どういう関係なんだろうな」
康二は答えられなかった。
友達。
それだけではない気がする。
でも、恋人でもない。
翔太も同じことを考えているのだろうか。
「……分からへんな」
康二がそう言うと、
翔太は少し笑った。
「そっか」
そして、康二の歩く速度に合わせるように、少しだけ歩幅を緩めた。
二人の距離は、肩が触れそうなくらい近かった。
それでも、どちらも離れなかった。
――まだ、告白はない。
でも。
もう「ただの友達」ではいられないところまで、二人の距離は近づいていた。