夜。
東京の空は雲に覆われ、時折車のライトが濡れたアスファルトに滲んでいた。
道端の街灯が静かに足元を照らし、風がコートの裾をそっと揺らす。
MORRIEはフードを目深にかぶり、SHOOTのマンションの前に立っていた。
エントランスを抜け、廊下の突き当たり。
その一室から、ほのかな明かりが漏れていた。
ノックもせず、声だけをかける。
「……入っていい?」
少し間があって、かすれた返事が返ってくる。
「……別に。」
扉を開けると、部屋の中は異様な静けさに包まれていた。
照明は落とされ、デスクライトだけが静かに辺りを照らしている。
カーテンの隙間から街のネオンが細く差し込む。
SHOOTはベッドに腰掛け、開かれたノートのページを見つめていた。
MORRIEがゆっくりと歩み寄ると、その紙面には数字がびっしりと並んでいた。
「……何、それ?」
「ん、ちょっとしたメモ。」
「……カロリー、数えてるのか?」
その言葉に、SHOOTの手が止まる。
反応は否定よりも先に、固まった。
「……別に、健康管理。アイドルだし。」
言葉は空に浮いて消えていくようだった。
MORRIEは静かにしゃがみこみ、弟の視線と高さを合わせる。
「……お前、痩せたよな。」
SHOOTはまた笑おうとした。
だがその顔は、もう“笑い”にはなっていなかった。
表情がひきつり、喉が震えるだけ。
「大丈夫だよ、ひで。俺、ちゃんとやってるから。」
「それ、誰に向けて言ってる?」
静寂が落ちたその瞬間、SHOOTの肩が小さく震え、ノートにぽつりと涙が落ちた。
「…みんなが、俺のこと“いらない”って言ってる気がして…。SNSでさ、『SHOOTだけ浮いてる』とか、『歌もダンスもそろってない』とか、『最近太った』とか……。俺、頑張ってるのに……なんでこんなに苦しいのか、分かんなくて……」
震える声に、MORRIEはただ黙って寄り添った。
弟の肩に、そっと手を置く。
その手は強くもなく、弱くもない。
ただ、そこにあるだけで充分だった。
「いらないなんて、誰も思ってねぇよ。お前がいなきゃ、BUDDiiSじゃねぇんだ。」
そして、SHOOTは堰を切ったように泣いた。
MORRIEは、そのすべてを受け止めた。
コメント
3件
希望通りすぎてびっくりしてます笑 これからが楽しみです!