「……会えない?」
拓海の言葉が、胸の奥に重く沈む。
そんなはずない。刹那は、いつもあのカフェにいた。笑って、話して、僕の名前を呼んで――。
けれど、いくら探しても、どこにもいない。
「本当に、どこにいるんだよ……」
僕は、またカフェへ向かった。もしかしたら今日こそ、いつもの席に座って、気まぐれな笑みを浮かべながら待っているかもしれない。
だが、そこには誰もいなかった。
「……あの、すみません」
思わず、店員に話しかける。
「このカフェによく来てた人、知りませんか? 僕と同じくらいの年齢で、茶髪の、よくここで……」
「あの……どなたのことでしょう?」
「柊刹那って人です」
店員は困ったように首を傾げた。
「申し訳ありません、その名前のお客様は存じ上げません……」
「そんなはず、ないんです」
声が震える。何度も、ここで話した。コーヒーを飲んだ。注文をした。それなのに、まるで最初から存在しなかったかのような反応だった。
「本当に、いないんですか?」
「少なくとも、私が働いている間には……」
店員の言葉が、現実を突きつけてくる。
(そんな、こと……)
足元が揺らぐような感覚に襲われた。
そのとき、不意にポケットの中で何かに触れた。
――小さな紙切れ。
それは、刹那が最後に会ったとき、そっと僕のポケットに入れていたものだった。
震える指で開くと、そこにはたった一言だけ書かれていた。
「さよなら」
目の奥が熱くなる。
「……嫌だ」
言葉にした瞬間、駆け出していた。
まだ終わりたくない。
まだ伝えていない。
たとえ、刹那がもうこの世界にいないとしても――。
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