最近、眠れない夜が増えた。
考えるのは、刹那のことばかり。
カフェでの会話、笑顔、何気ない仕草。思い出せば思い出すほど、胸が締め付けられる。
「……僕、どうしちまったんだろうな」
呟くように言うと、拓海が「ほらな」と笑った。
「やっぱお前、好きなんじゃん」
「……違う」
「何が違うんだよ。お前、気づいてないのか?」
否定しようとしたが、言葉が出なかった。
──本当に違うのか?
心の中で問いかける。
刹那のことを考えない日はない。会いたいと思う。いつものカフェに行けば、もしかしたら今日もあの席に座っているかもしれないと、どこか期待してしまう。でも、それは本当に「好き」という感情なのか?
「……わからない」
拓海は小さくため息をついた。
「お前、鈍感すぎる」
「……そうかもしれない」
カップの中のコーヒーをかき混ぜる。ぬるくなった液体が、ゆっくりと波打つ。
「じゃあさ、逆に聞くけど、お前にとって“好き”ってどんな感じなんだよ」
「……そんなの、わかるわけないだろ」
「うわ、終わってんな」
拓海が呆れたように言う。
「例えばさ、その人のことを考えるだけで胸がざわついたり、気づいたら目で追っちゃったり、他の誰かといるのを見て、なんかモヤモヤしたり……。そういうの、ある?」
──全部、当てはまる。
「……そんなんじゃないと思う」
「お前、ほんと素直じゃねぇな」
拓海は苦笑しながら、ポテトを一つ口に放り込んだ。
「でも、もしさ──その人が突然いなくなったらどうする?」
いなくなる?
その言葉に、なぜか胸がひどくざわついた。
「……考えたくない」
「ほら、それが答えじゃね?」
僕は、黙り込んだ。
拓海はそれ以上何も言わず、スマホをいじり始める。
窓の外を見ると、街はすっかり冬の気配を纏っていた。
──もう、刹那には会えない。
その現実を、受け入れなければならないのだと、静かに悟った。
カフェのテーブルに広げた手をぎゅっと握りしめる。
「……遅すぎたな」
誰に向けたのでもない呟きが、かき消されるように、冬の風が窓を揺らした。
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