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#現代ドラマ
ゆうき あきや
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259
#心理描写重視
第104話:物理と財力とモフモフによる完全鎮圧
ドバイの石油王から送りつけられた『純金製の超精密浄水プラント』が、プールに透き通るような絶対純水と極上の涼しさを供給し続けている、夏の昼下がり。
俺は古民家の庭の境界線にしゃがみ込み、ホームセンターで買ってきた麻縄と農業用ネットを慎重に編み込んでいた。
陸上自衛隊『需品科』が担う後方支援において、陣地の保安と維持は絶対条件である。
武器を持たない俺たちが、大自然の地形とあり合わせの資材だけで、いかにして敵対勢力の侵攻を無力化するか。
過酷なブラック企業で摩耗しきった俺の脳内に、現役時代に叩き込まれたロジスティクスと陣地防衛のノウハウが鮮やかに蘇っていた。
「……よし。第一防衛線『偽装泥沼(マッド・ピット)』および、第二防衛線『連動式散水トリガー』、敷設完了だ」
「お兄さん、なんか庭の入り口付近がガチの野戦陣地みたいになってるんですけど……」
麦茶の入ったグラスを持った小春ちゃんが、少し引いた顔で俺の作業を見下ろしている。
「安心しろ小春ちゃん。これはあくまでイノシシやシカの獣害対策だ。人間を傷つけるような野蛮な罠じゃない。物理的ダメージはゼロだが、精神的ダメージを最大化する仕様になっている」
ちょうどその頃。
午前中にシマエナガ空挺部隊によって撃退された金髪の迷惑系配信者は、懲りずに古民家へ通じる林道を歩きながら、スマホに向かって息巻いていた。
『あいつらマジで許さねぇ! 今度こそヤラセの証拠をバッチリ撮って、あの生意気な管理人ごと炎上させてやるからな!』
だが、彼はまだ気づいていなかった。
彼自身の配信のコメント欄が、とてつもない速度で『ある事実』によって埋め尽くされていることに。
『おい、お前の所属事務所、さっき倒産発表したぞ』
『親会社の株が中東とスイスの謎のファンドに100%買収されて、即時解散だってよww』
『お前のチャンネルも全動画収益化停止されてるぞwww』
そう、一千万人のリスナーと、世界を牛耳るVIPたちは、主である俺が物理的に動く前に、すでに『完膚なきまでの経済的報復(ざまぁ)』を完了させていたのだ。
ジンバルに固定された俺のiPhone miniの画面には、規格外の財力を持つ共犯者たちからの勝利宣言が滝のように流れていた。
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Target’s corporate network has been completely neutralized. It took exactly 45 minutes.“(標的の企業ネットワークは完全に無力化した。きっかり45分かかったな。)』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Hahaha! I bought his sponsor companies and made them all withdraw! He has nothing left!“(ハハハ! 奴のスポンサー企業を買い占めてすべて撤退させたぞ! もう奴には何も残っていない!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×10連発)=”I had my lawyers permanently freeze his SNS accounts! Serves him right!“(私の弁護士団に連絡して彼のSNSアカウントを永久凍結させておいたわ! いい気味ね!)』
自身の社会的・経済的な完全なる死に全く気づかないまま、男は再び俺の古民家の庭先へと無断侵入を果たした。
「よーし、今度こそあのヤラセ猫の首根っこを掴んで……うおっ!?」
男が庭に足を踏み入れた瞬間、そのスニーカーのつま先が、俺が地面スレスレに張っていた極細の麻縄(トリガー)に引っかかった。
需品科の技術を応用した、完全な物理トラップ。
パァンッ!!
トリガーと連動していた農業用のスプリンクラーが、最大水圧で一気に暴発した。
「ぶあっ!? な、なんだこれ! 前が見え……っ!」
顔面に冷たい井戸水の直撃を受けた男は、パニックを起こして後ずさり――俺がスコップで精密に掘り下げ、枯れ葉で完璧にカモフラージュしていた『特製泥沼(深さ三十センチ)』へと、見事に後頭部から落下した。
「ぎゃあああああっ!? 泥がっ! 俺のグッチのTシャツがぁぁぁ!!」
水と泥にまみれ、完全に戦意を喪失して泥沼の中でもがく男。
その無様な姿を、プールサイドからモフモフたちが見下ろしていた。
『ミャウ……(哀れな生き物ね)』
シロが水面に浮いたまま、まるで汚物をゴミ箱に捨てるような冷ややかな眼差しで、その神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を細めて男を見下ろす。
「コンコンッ!(ばーかばーか!)」
コン吉とコン次郎が、安全圏から泥だらけの男に向かって尻尾を振って煽り散らかしている。
その一部始終は、庭に設置された俺のスマホを通じて、世界中へと鮮明に配信されていた。
『経済的にも物理的にも完全に詰んでて草』
『石油王と銀行家の連携プレイ、国家を一つ滅ぼせるレベルww』
『そして主のトラップ、殺傷能力ゼロなのに精神的ダメージがエグすぎるww』
『需品科のロジスティクスをこんな嫌がらせに使うなwww』
俺は泥だらけになって無様な悲鳴を上げながら逃げ帰っていく男の背中を見送り、カメラに向かって真顔で語りかけた。
「皆さま。先ほどの男の奇行と、彼の所属事務所が突如消滅した件についてですが。これは決して、俺たちの報復ではありません」
『出たww主の限界言い訳タイム・社会抹殺編!』
『さあどう言い逃れする気だww』
俺はキリッとした表情を作り、淀みない口調で言葉を紡いだ。
「彼の会社が買収されたのは、現代のグローバル経済における自然な『資本の流動性』による偶然の産物です。そして彼が泥沼に落ちたのは、最近この辺りに出没する大型のモグラが掘った穴に、彼が勝手につまずいただけの話。ええ、すべては『自由市場経済の波』と『大自然の地形変化』が引き起こした、ただの悲しい事故ですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、俺の背中に愛あるスリッパ・スマッシュを見舞った。
「株の買収は思いっきり石油王さんたちがチャット欄で自白してるし! モグラの穴って、お兄さんがさっき汗だくになってスコップで掘ってたやつじゃないですか! いい加減、自分たちの報復のえげつなさを素直に認めなさい!!」
『小春ちゃんのキレキレ正論スリッパww』
『自由市場経済の波(オイルマネーによる強制買収)』
『大型のモグラ(元・自衛隊需品科お兄さん)』
『言い訳がグローバルすぎて腹痛いwww』
一千万人のリスナーが大爆笑の渦に包まれる中、俺は「痛ぇな」と頭を掻きながら縁側に腰を下ろした。
「まぁ、結果的に平和が守られたなら手段はどうでもいい。それよりも、そろそろ飯にしようか」
本日の俺の昼食は、どれだけ周囲の状況がカオスになろうとも決してブレることのない『玄米』と、地元野菜をふんだんに添えた『大豆ミートのジンギスカン風炒め』だ。
ジンギスカン風に味付けされた大豆ミートは、本物の羊肉に負けないパンチのある旨味と、大豆特有のヘルシーさを両立させた奇跡の代替肉である。
それを、完璧な水加減で炊き上げた玄米の上にワンバウンドさせて一気に掻き込む。
プチプチとした玄米の甘みと、濃厚なタレの絡んだ大豆ミートが、夏バテ気味の胃袋に極上の多幸感をもたらしてくれる。
どんなに世界規模の株価が動こうが、悪人が社会的に消滅しようが、俺のミニマリストとしてのストイックな食生活は一ミリも揺らぐことはない。
香ばしい玄米を咀嚼しながら、俺はシロの放つ冷感マイナスイオンを全身に浴びた。
最強の財力と、最強の兵站術、そして最強のモフモフたち。
この鉄壁すぎる防衛網がある限り、俺たちの限界スローライフは、今日も明日も、圧倒的に平和でバグったまま続いていくのだ。
コメント
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第104話、読み終わりました……もう、何というか、やりすぎでしょ(笑)。まず配信者の社会的抹殺、物理トラップでの泥沼ダイブ、そしてシロのオッドアイで見下す冷ややかさ! いやもう完全に詰んでて笑っちゃいました。でも一番ぐっときたのは、そんな大騒動の後に「まあ結果的に平和が守られたなら」って涼しい顔で玄米と大豆ミートを食べてる主人公のミニマリスト精神ですよ。何が起きても食生活はブレないってカッコよすぎません? 小春ちゃんのスリッパ正論も毎回最高です! 今回も大満足の一話でした🌷