翌日。
朝の教室に入ると、すでに佐倉が自分の席に座っていた。
(昨日、ちょっとからかいすぎたかな……。)
胡々は彼の横顔をちらっと見たが、佐倉は何事もなかったかのように窓の外を眺めている。
(気まずくなったり……してないよね?)
少し不安になったけど、話しかけるタイミングがつかめず、胡々はそのまま自分の席に着いた。
すると、授業が始まる直前――
「おい。」
低めの声が聞こえ、胡々が顔を上げると、佐倉が小さな紙パックのレモンティーを机の上に置いた。
「え……?」
「昨日のやつ。冷たいののほうがいいだろ。」
佐倉は視線を合わせず、ぶっきらぼうにそう言った。
胡々の胸がキュンと跳ねる。
(なんだろう、この感じ……。)
「ありがとう。」
素直に礼を言うと、佐倉は「別に」とそっけなく返し、そのまま前を向いた。
だけど、その耳がほんのり赤いことに、胡々は気づいてしまった。
* * *
放課後。
部活のない日だったので、胡々は早めに帰ることにした。
昇降口で靴を履き替えていると、ちょうど佐倉もやってきた。
「あ、佐倉くんも帰るの?」
「ん。お前も?」
「うん。一緒に帰る?」
思わず口に出した瞬間、佐倉の動きが止まる。
(あ……今、私、誘っちゃった?)
「……まぁ、別にいいけど。」
彼はそう言って、先に歩き出した。
胡々はその背中を追いかけながら、ちょっと嬉しくなる。
学校を出て並んで歩く二人。
春の夕暮れ、少しひんやりした風が頬をかすめる。
「ねぇ、佐倉くんって、いつも放課後なにしてるの?」
「ん? まぁ、適当にぶらついてるか、コンビニ寄るくらい。」
「へぇー、意外と普通なんだね。」
「何が意外だよ。」
「なんか、もっと遊んでそうなイメージ。」
「俺、そんなチャラそうか?」
「うーん……ちょっと?」
「おい。」
佐倉が不満そうに胡々を見る。その表情がなんだかおかしくて、胡々はつい笑ってしまった。
「冗談だよ。でもさ、たまにはこうやって一緒に帰るのも悪くないよね。」
そう言うと、佐倉は一瞬目をそらし、ぽつりとつぶやいた。
「……まあな。」
短いけど、それは彼なりの「同意」だったのかもしれない。
(佐倉くんと過ごす時間、なんか心地いいな。)
そんなことを思いながら、胡々は彼の横顔をこっそり眺めた。
もう少しだけ、この時間が続けばいいのに――。
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