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週の半ば、水曜日。
昼休み、胡々は購買でパンを買って教室に戻ると、佐倉がいつものように窓際の席でくつろいでいた。
(最近、佐倉くんと話すのが当たり前になってきたな……。)
それが嬉しいような、でも少し意識してしまうような、複雑な気持ちだった。
「佐倉くん、今日もパン?」
「ん。」
彼は紙袋から焼きそばパンを取り出してかじる。
「それ、好きだよね。」
「まあな。……お前も、それ好きだろ?」
佐倉の視線の先には、胡々が手にしたチョココロネ。
「えっ、なんで知ってるの?」
「前からよく食ってただろ。」
何気ない返事に、胡々の胸がトクンと鳴る。
(そんなとこ、見てたんだ……。)
「ふふ、やっぱり佐倉くんって意外と観察力あるよね。」
「別に。たまたま目に入っただけ。」
照れくさそうに目をそらす佐倉を見て、胡々は思わずくすっと笑った。
すると――
「なあ、お前さ……俺のこと、 ‘佐倉くん’ って呼ぶのやめね?」
「え?」
突然の提案に、胡々は目を瞬かせた。
「俺、お前のこと ‘胡々’ って呼んでるだろ?」
「う、うん……。」
「だから、呼び方、そろそろ変えろよ。」
「ええっ!? でも……」
名前で呼ぶって、なんだか特別な気がして恥ずかしい。
「ほら、言ってみろよ。」
佐倉がじっと胡々を見つめる。
「え、えっと……み、湊……くん?」
「くん付けなし。」
「えぇっ!? そ、それは無理だって!」
「なんで?」
「だ、だって、なんか恥ずかしいし……!」
顔を真っ赤にしながら慌てる胡々を見て、佐倉は小さく笑った。
「じゃあ、特訓だな。」
「特訓?」
「これから俺を名前で呼ぶまで、お前が ‘佐倉くん’ って言うたびに、一回腕立て伏せするってルールな。」
「ええええ!? なにそれ理不尽!」
「いいから、ほら。」
「え、えっと……さ、さ……」
胡々は顔を真っ赤にしながら、口を開こうとする。
「さ、さ……」
「さ?」
「さ、さくらんぼ!!」
「……は?」
佐倉が呆れた顔をする。
胡々は両手で顔を覆いながら、悶絶した。
「やっぱり無理ーーー!!」
そんな彼女を見て、佐倉はくすっと笑いながら、
「ま、ゆっくりでいいけどさ。」
そうつぶやいた。
胡々はその優しい声に、ますます心臓の音がうるさくなった。
(いつか、自然に呼べるようになるのかな……。)
まだまだ、二人の距離は縮まりそうで縮まらない。